大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
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人を斬りたい。それはありふれた欲望の一つ。
人を斬りたい。それは誰もが持つべき原初の害意。
人を斬りたい。その飾り気のない想いが、ザンクードの中でどうしようもなく湧き上がる。
なぜ人を斬りたいのか。決まっている。人を斬りたいからだ。それ以外に理由などなく、ゆえにその衝動は果てしなく強い。
しかしザンクードは狂人ではない。なぜなら彼はただの一度も人を殺したいとは考えなかったのだから。
ただ本能的に、そして理性的に思考を巡らせ、人を斬りたいという想いに終始するだけなのだ。それは決して特別な事ではない。好きな事に対してなぜ好きなのかと理由を考えた時、好き以外の理由が出てこない。これはつまり、そういう話なのだ。
人を斬りたい。人を斬りたい。人を斬りたい。斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬り捨てたい。
ザンクードを焦がす欲はあくまでも人を斬る事に終始している。斬った先の事は、言ってしまえばどうでもよいのだ。
その結果命を失う事はあるだろう。しかしそれはあくまでも斬った後の副産物。人斬りは人の死を求めぬものだ。
あくまでもザンクードを突き動かすのは、人を斬りたいという想いのみ。ただ純粋に人を斬る事に意義を見出し、それこそが正義であると告げたのだ。
そんな純粋なザンクードは世間の悪意に喰われる事となる。彼は故郷の次元において犯罪者として投獄された。罪状は人を斬った事だ。
この非道な仕打ちに対してザンクードは異議を唱えた。
なぜ自分を投獄したのか。ただ人を斬っただけだろう。
決して殺したかったわけではないのだ。ただ人を斬りたい。斬りたい。斬りたいのだ。
ただそれだけなのに、どうして自分が獄に繋がれなければならぬのか。
これは不当な罰であるぞといくらザンクードが吼えたところで状況は好転しなかった。
むしろ、己の潔白を主張する度に周囲の者は批判した。その有様にザンクードは衝撃を受けた。
なぜだ。なぜ誰にも理解されない。なぜ他者はここまで痴れているのだ。
ザンクードに対して世間は死を望んだ。殺意なき人斬りが生きるには世界は狭量に過ぎるから。
【呵呵、呵呵呵呵呵呵! 呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵!!!】
なるほど。なるほど。なるほど。理解した。理解したのだ。ザンクードは理解した。
世界が自分を殺すなら。世間が自分に死ねと命じるなら。世俗が自分を棄てるなら。
あぁ、あぁ、いいだろう。ならば貴様ら、斬られる覚悟はできていような?
虐欲龍ザンクード。彼に虐という感情が生まれたのはまさにこの時。
投獄され、死刑執行の日。ザンクードは哄笑を響かせながら、全人類を斬り捨てた。
全ては欲のままに。全ては自衛のままに。──そして全ては、自分を捨てた人類を斬るために。
【呵ァッ呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵!!】
血染めの世界にただ一人、立っているのはザンクード。
人を斬り、人を殺さず、呻く血肉が
それが龍になる前の、人であった頃のザンクードに焼き付いた最後の記憶であった。
◆
鋼すらも容易く両断するザンクードの刃は、未だに檀司郎の鉄槌に傷一つ付けていない。
これは手加減をしているのか。答えは否。今ザンクードが握っているものが凡百の剣であったなら、とうに檀司郎ごと断ち斬っている。しかしそれはザンクードの理想たりえない結末なのだ。
ザンクードは人を斬りたい。しかしただ流れ作業のように斬るのでは、自身の欲に不純なものが混ざる。
それを証明したのがザンクードの化身。魔石喰いの
本来はそこで魔石喰いの
化身に欲龍としての権能は与えぬ。人斬りの欲と、人としての身体のみを与えよう。
化身を只人へ堕とすという提案を、グリムグリムは吞んで見逃す事とした。二度目はないという約定を交わして。──その約定は化身に連携される事はなかったが。
ゆえに化身はザンクードの過去を一切知らぬ。その上で、化身は人を斬るに困らぬ環境に召喚された。
その結果はザンクードのみならず、檀司郎も知る通り。人斬りの欲に殺意が混ざり、果てには斬り殺す事こそが己の道であるとほざいたのだ。
【屈辱よ。あぁ、屈辱であるとも。所詮は焦らされなければ人斬りの欲は龍に至る域にまで熟成する事が叶わなかったのだ。未熟。未熟。未熟よの。青いと、若いと言ってしまえばそれまでだが、己が身に苦みが残る事に変わりはない】
ゆえにザンクードは間違えない。斬り殺すのではなく、斬る事に重点を置く。ザンクードは人を斬りたいのだから、刃もまた人を斬るものでなくてはならない。
【屈辱ではあるが、
我装顕現、
殺意なき人斬りとは相性が悪いと思われがちだが、殺人に特化されたこの刀は人しか傷つけないという特性を有している。これはザンクードの理想なのだ。少し刀に渦巻く殺意が強いだけで、相性自体は悪くない。
すなわち、ザンクードの意によって殺人と言う特性さえ封じてしまえば単なる人斬り包丁へと成り下がる。道具を使い易くデチューンするのは使い手の嗜みであるゆえに。
【グリム・グリムとの交渉は難儀だったが、この世界で活動する間だけ振るう事が許されたのよ。ワシもそれ相応の代価は払ったがな】
しかしそれも、この素晴らしい刀を振るう事に比べれば些事である。
ザンクードには殺意がなく、純粋な斬撃で以て檀司郎に剣技が到達する。
袈裟、逆袈裟、一文字に唐竹割。どれもこれも剣術において基本の斬り方でしかないが、ザンクードのそれは一呼吸の内に全て為される神業であった。
ザンクードの一閃とは袈裟であり、逆袈裟であり、一文字であり、唐竹割である。それはザンクードの都合が良いように──人が最も斬れる事象を引き寄せる、もはや剣技、剣術と呼ぶ事すらできぬもの。
化身のような圧倒する手数とは正反対。一振りで全てを斬り裂く魔性の刃。人を斬りたいという欲を熟成させた果てに到達した、人の一切を斬り尽くす為の集大成。
いつ斬ったのか。今である。
どう斬ったのか。こうである。
なぜ斬れたのか。斬れるからである。
人知など追いつくものか。人が振るう事すら論外の御業は、常人の理解が及ばぬと知るがいい。
「どいつもこいつも、鎧を無視して攻撃を通してくるなよ!」
鉄槌で弾きそこなった斬撃はプレートアーマーを貫通して肉体へ。ウィルカインストの暴風で浅く傷ついていた身体に明確な裂傷が刻まれる。
「いや、その前にさぁ!! こっちにもお前の斬撃が飛んできてるんだけどさぁ!!?」
【人ではないのだから傷付かぬよ。ワシの欲は、
斬撃の範囲は極大で、契約者たるウィルカインストを慮る思考などザンクードにありはしない。
巻き込まれたとしても人でないウィルカインストは斬れぬのだから、考慮する必要はない。
人を斬る。ザンクードとの契約はそれのみだ。その過程で契約者を切り捨てようとも、契約違反になっていない。
人を斬る為ならば全てが許容範囲内。それを許さぬというならば、欲龍との契約など破棄してしまえばいい。欲龍の力にしがみつくならば、相応の覚悟を持たなければならないのだから。
「それでも契約者をこう、何ていうかさぁ!! もう少し尊重しない??」
フィゾロアの権能でウニョウニョと高速で変化を繰り返すウィルカインストが文句を口にするが、ザンクードは取り合わない。興味がないのだから。
欲龍にとって優先すべき事は己の欲望を満たす事だ。ザンクードにとっては人を斬る以外に優先する事などない。契約も相俟って、ウィルカインストの戯言に耳を傾ける価値もない。
「人質の価値も無いか」
【契約者が死のうと問題はない。そも契約の有無すらも興味がない。あれが龍玉座に侵入してきたのでな、古参の龍が面白がって契約などと宣ったのだよ】
ワシはただ巻き込まれただけだと不満気に鼻を鳴らす。雑談に興じてはいるが、刀の閃撃は止まらない。ダメージ覚悟で檀司郎が突撃するも、鉄槌の攻撃範囲に入る前にヒラリと踊って距離を取る。
近接戦闘が主であるはずの刀使いが檀司郎を近寄らせない。檀司郎が戦った化身と同じく、距離など関係なく人を斬れるのだ。反撃を喰らう可能性のある近距離で戦う意味はない。
プレートアーマーの中は既に血に満ちている。檀司郎の鼻は既に濃い鉄錆の匂いしか届けなくなって、完全に機能不全に陥っている。
更にはフィゾロアの
ザンクードに斬られて人として死ぬか、フィゾロアに犯されてデーモンとして討伐されるか。檀司郎の運命が決しようとしていた。