大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
「……しかしまぁ、今更だよな」
人として死ぬか、人外として死ぬかの二択を突き付けられている現状に、檀司郎は一つ息を吐く。
死に晒されているのは今更だ。ダンジョンに、魔境に挑戦すると決めた時から覚悟していた。
ゆえに今、檀司郎の頭にあるのは死への恐怖ではない。覚悟していたものなのだから、そこに恐怖を感じる事などあり得ない。
檀司郎が考えているのは、どう戦えば勝利できるかだ。フィゾロアの権能、ザンクードの特性、ウィルカインストの情報。全て拾い上げてパズルのように組み上げていく。
死に直面しているが死んでいない。それはつまり勝機があるという事だ。死んでいないのであれば負けていない。
ダンジョンにおける敗北とは死である。
時間はない。退路もない。しかし闘志だけは溢れんばかりにここにある。ならばまだ諦める理由などどこにもない。
【呵呵、さてそれは強がりか。それとも本気か】
どちらでも良い。ザンクードは油断せず
斬る。檀司郎を斬る。そこだ。そこが肝要なのだ。この戦いにおけるザンクードの勝利とは、檀司郎を完膚なきまでに斬る事にある。
檀司郎の肉体は既に血達磨である事、もちろんザンクードは承知している。欲龍としての感覚が檀司郎の血臭を嗅ぎ分け、死に近づいている事を余す事なく理解している。
けれど、あぁ、そうではない。そうではないのだ。人を斬るとはそんな単純な傷の多寡で語るほど野暮なものでは断じてない。
生き様なのだ。人として外れてしまったザンクードが持つ人斬りの欲。虐欲として龍と化した彼の全て。今までの罪業、矜持、それすなわち権能である。
人を斬る事に限り、他の追随を許さない。人を生かしながら斬り捨てる矛盾。その業こそがザンクードが虐欲龍として君臨できる所以である。
人を斬るという事はそんなものではないのだと、ザンクードが感じたならばそれが真実。他者がどうあれ、世界がどうあれ、法則がどうあれ、揺るがぬ事実として君臨する。
世界に真として顕現させる美学とでも言おうか。逆に言えばこれと決めてしまえば融通が利かないという欠点でもある。
それら欲龍の生態を踏まえた上で、檀司郎の選択は──。
「いるんだろう、フィゾロア」
姿が消えた、しかし変わらずこちらを見ているであろうフィゾロアへ檀司郎は問う。
見せて頂戴と彼女は言った。ならば姿が消えたとしてもこちらの様子は見ているだろう。己の欲に関する事に対しては、欲龍は嘘を吐けないのだから。
「変異の速度が遅い。もっと早めろ。俺を屈服させたいんだろうが!」
檀司郎の言葉は自殺行為以外の何物でもなかった。既に人として外れかけている檀司郎の肉体の変異が早まれば、瞬く間にデーモンとして存在を創り変えられてしまうだろう。
正気を疑うような檀司郎の挑発に、姿なきフィゾロアは喜色の声で以て答える。
【では、どうぞ】
檀司郎の変質が急速に始まった。プレートアーマーを突き破り、触手がウネウネと生えてくる。しかし、まだ完全には変異しきっていない。檀司郎はまだ辛うじて人間の部分を残している。
「オオオオオォォォォォッ!!!」
ザンクードの斬撃など知らぬとばかりに肉薄する。猛進する檀司郎はザンクードの目の前まで進み──それを無視して、ザンクードの後方で姿の安定しないウィルカインストの元へ突き進む。
それを許さず刀を振るうザンクード。プレートアーマーを貫いている変異した触手に斬撃が当たるが、薄皮一枚斬り裂かれる程度のダメージしかない。
【呵呵、なるほどのう。檀司郎、おぬしイカれておるわ】
既に変異した檀司郎は、人でなくなりつつある。ゆえに人斬りであるザンクードの一閃が鈍るのだ。名刀からなまくらへ。人でなくば斬るに値しないのだから、この結果は必然だ。
では檀司郎は完全に人外の存在と化したのかというと、そうではない。薄皮一枚とはいえ、人斬りの刃が効力を発揮したという事は、それはまだ檀司郎が人である証である。
つまり檀司郎は、ザンクードの刃を完全に無効化する身体へ変じる前にウィルカインストを倒さなければならない。
背水の陣どころではない破滅への疾走だが、もはやこれしか生きる道がないのだ。だから檀司郎は悩まない。生存率がコンマ以下の数値でも上がるなら、迷い事なくその手段を選ぶ。
「高みの見物だけで、俺を殺せると思うなァ!!」
借り物の力で殺す殺すと口にして、挙句に必殺の手段が欲龍の召喚。どこまでも我がなく、薄っぺらい。それが
殺すと口にしたのだ。ゆえに檀司郎はウィルカインストへの殺意を緩めない。油断もしない。一撃を当てる隙を強引に作り出す。
「げぇ、ぐっ……ぅ!?」
フィゾロアとザンクードという強力な欲龍を召喚し、後は弱った檀司郎を聖女の力で殺すだけ。勝ち確定の消化試合だと認識していたウィルカインストは、檀司郎を見ていなかった。
見ていたのは自身諸共権能の対象にした契約相手たる欲龍。言ってしまえば、檀司郎を脅威とすら認識していなかった。
つまり、この結末は必然だったのだ。勝利への努力を怠らなかった檀司郎が、順当に勝利を掴んだ。実にありふれた勝利であり、そしてウィルカインストの間抜けを晒す事になる結果である。
「くっそ、がぁ! だが、この程度の闇属性の魔力では僕を殺せない!」
魔法使いのような神秘的防御はないが、それでも人間を超越した生命体。多少の呪詛を流し込まれたところで、ウィルカインストの身体は崩壊しない。
「姿が固定化されているぞ
檀司郎の言葉通り、鉄槌を喰らってからウィルカインストの変化が停滞している。否、停滞せざるを得なくなっている。
死なないまでも、呪詛のダメージは予想以上に大きい。今のウィルカインストは、フィゾロアの愛に抵抗できない程に弱まっている。
そしてフィゾロアの愛に抵抗できずに屈した末路はどうなるか。それは語らずとも理解できるだろう。
【契約は成立よ。愛に屈したお馬鹿さんは、有象無象に成り果てなさい】
「ちょ、待っ──!」
ウィルカインストの制止も意味はなく、フィゾロアは淡々と権能を以てウィルカインストを変質させる。
【呵呵呵、随分と人らしくなられたな。契約者殿よ】
そして揶揄うような声と共に、ザンクードの虐刃がウィルカインストと檀司郎に落ちてくる。
フィゾロアの変異が戻っていない檀司郎には浅く傷を作るのみであったが、ウィルカインストは別だ。既にウィルカインストは
今ここにいるのは、フィゾロアに愛された哀れな生き物。自身の特性すら奪われ、人間に貶められた元異次元の超常生物。
「やめろオオオオォォォォォォォ!!!!」
情けない悲鳴が断末魔となり、ザンクードによってウィルカインストの首が刎ねられた。