大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
「ふーん。だったらこれならどうかなァ! アッッハハハハハハハハハァ!!!!」
広場という比較的開けた空間であるにも関わらず、桃華は閉塞感を感じていた。
怒りと狂喜に満ちた声と共に、アスカが桃華を逃がさんとばかりに跳び回る。空を蹴るという挙動で桃華の目と鼻の先を掠めながら、彼女の肉体を抉っていく。雷の魔法で自身の肉体性能の向上に加え、身体全体を雷撃が覆っている。当然、触れればたちまち雷の裁きを受ける。
桃華の回復は辛うじて間に合っているが、一瞬でも気を抜けば容易く四肢を持って行くだろう。
生きてさえいればいいのだ。たとえそれが、二度と動けぬ身体であったとしても。アスカはそう判断し、魔王の元へ運びやすいように加工しようとしていた。
「桃華お姉さ──」
「おっと、横槍は止めてもらおうかなー」
ネエクが咄嗟に魔法で援護を行おうとした瞬間、桃華へ向いていた殺意が一瞬でネエクを射抜く。
ビクリと身体を硬直させた瞬間、アスカの翼から電撃が放たれた。直撃すればネエクの身体を容赦なく焼き焦がすそれを、静観していたレドラが素手で握りつぶす。
「ネエク。アスカに生半可な攻撃は通用しません。今のあなたでは実力不足ですよ」
涼しい顔のままレドラはネエクへ忠告する。これが生前のアスカの雷撃であれば欠損していたであろうが、今の彼女は魔王の百鬼夜行。魔法の出力は生前とは比較にならぬ程に衰えている。レドラの肌を焦がせもしない時点で、その脅威は見る影もない。
しかしそれはレドラであるから言える事であって、ネエクや桃華からすれば必殺である事に変わりはない。
かつて魔法使い達から忌み嫌われた雷霆の残響が、そのまま桃華へ襲い掛かる。
「ッ! ……ですが」
雷を纏うアスカの身体に触れればただではすまない。逆に言えば、彼女の雷に耐えられるのであれば何のデメリットもないという事だ。
自身の魔力を全身へ回し、回復速度を極限にまで向上。その上で、桃華は常に焼かれる激痛を噛み殺しながら突撃してきたアスカの頭を掴み取る。
「私を侮り過ぎですよ。神秘的防御にかまけた、あなたの怠慢です」
急に掴まれた事に対して困惑するアスカの顔面に膝を叩き入れる。神秘的防御を貫いて、アスカの鼻から血が噴き出す。
「ぐ、ぶ!?」
べしゃりと地面にうつ伏せで落ちたアスカ。桃華は油断せず、無様に晒された細首に自身の踵を落とした。
空を切る轟音と共に振り落とされたそれは、罪人を裁くギロチンのごとく。斬首とまではいかずとも、アスカの細首を折るには充分過ぎる威力。
「ふざけんなよ!!」
荒々しいアスカの怒号と共に、桃華の踵が強制的に止められた。
「──なっ!?」
桃華の踵はアスカの首と接触していない。僅かに浮いているのだ。これはいったいどういう事かと桃華の身体が硬直する。
それはアスカの前では致命的な隙であった。
「吹っ飛べ三下ァッ!!!」
「かは……ッ!?」
桃華が狼狽から立ち直る前にアスカは立ち上がり、太い脚で桃華を蹴り飛ばす。
その威力は凄まじく、桃華の腹に風穴が空いている。自然治癒の回復速度を高めていなければ即死していただろう。
骨も臓も貫いて、ただただ赤い粘液がダンジョンの床に流れ落ちている。
「……ぁ、ぐ……」
「もー怒った。こっからは一方的にボコボコにするよ」
アスカが翼を翻すと桃華の身体がアスカの元へと引き寄せられる。雷の魔法によって肉体を強制的に磁化させられたのだろう。机上の空論でもありえない出鱈目が、魔法という名の幻想によって実現している。
「そらそらそらそらそらそらそらあああああァァァァ!!!!」
桃華の肉体をすり潰す勢いで蹴脚を浴びせ続ける。たとえ桃華の手足が千切れても磁化している為、アスカの魔法で引き合い治る。ゆえに加減や容赦は一切ない。首さえ繋がっていればどうとでもなるのだから、多少手荒に扱ったところで何一つ問題などない。
「ちょ~~~~っと調子に乗り過ぎたねぇ!! 即死じゃなきゃくっつくしぃ!? このまま半殺しにして魔王の前に突き出してやるよォ!! さっさとおねんねしちゃいなよ! なぁ!!?」
桃華の腹に空いた風穴は既に塞がりつつある。しかし新たに身体が損壊しながら治っていくという地獄が幕を開けている。
桃華の身体が壊れる度に呼吸すらできぬほどの激痛が襲う。しかし桃華は苦悶の声一つ上げない。
「こ、の……程度、でぇ……!」
「は? なに? 聞こえないんだけどッ!」
諦めの悪い桃華の態度がアスカを一層苛立たせる。一方的な暴力を振るい続けても、命乞い一つ聞こえてこない。何だこいつは、イカれているのか。アスカの頭に過ぎったのはあまりにも不気味な桃華に対する疑念であった。
なぜ諦めない。何を狙っている。そもそも、魔法使いに勝てるとでも思い上がっているのか。
「……ハァ、魔法使いだ何だと、言われておきながら、小娘一人に手こずって。……ッグ、よくも、まぁ、魔王の手先を……名乗れたものですね。恥ってものを、知らないんでしょうか? 知らない、のでしょうね」
「ッハ! このままボコられてる情けないヤツが、何かをピーピー喚いたところでボクにはなぁーんにも響かないよ! それはそれとしてもうちょっとズタズタにしとくね」
ギチリと脚に力が籠められ、桃華の腕を抉り切ろうとした瞬間、アスカの意識が桃華からほんの僅かの間逸れた。
それは自身の脚部へ力を入れた瞬間であり、アスカの目をじっと見つめていた桃華は意識が逸れた際に生じた目線のブレに気が付いた。
「そんなだから、あなたは鳥頭なんですよ」
いくら肉体が磁化しているとはいえ、引き合うか反発させるかはアスカによって操作されている。逆に言えば、アスカが操作できないタイミングであれば磁化の影響など無いに等しい。
意識を逸らしたアスカの頭に磁力の操作の事など抜けている。それはつまり、アスカはこの手の小手先の技術に慣れていないという事で。
「さようなら、骨董品のハーピーさん」
アスカの頭を再び両手で掴み、磁力操作が行われる前にゴキリと首の骨を捩じり折った。