大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アスカに開けられた腹部の風穴は未だ完全に塞がっていないが、流血は止まっている。
身体強化の応用で自身の自然治癒を制御し、止血を優先させた結果であった。むろんこのような芸当は誰にでもできるものではない。
桃華が歩んできた人生の積み重ねの結果であり、これは光属性と言う恵まれた魔力に胡坐をかかずに努力を続けて来た証である。
「さて、これで一先ず──」
「──安心、とでも言うつもり? 本気でそう考えているのなら救いようがない大馬鹿だよ。魔法使いという存在を、何一つ理解していないね」
頭を百八十度後ろに回されたアスカが何事も無かったかのように立ち上がる。桃華に捩じり折られた首を元に戻しながら、嘲るように囀った。
「首が折れた。断ち斬られた。心臓を抜かれた。出血多量。窒息。猛毒。病気。その他色々。人類の死因はそれこそ無数にあるけどさ。それを魔法使いに当て嵌めるのは、人類の悪い癖だと思うんだよねー。さっきのレネドクラエの話を何も聞いてなかったんだね。そんなんで学校のテストとか大丈夫なの?」
かつて魔法使いは二つの事を恐れ、忌み嫌ったとレドラは言った。つまり、その二つ以外は魔法使いは恐れなかったという事だ。
「この程度は魔法使いの死因になり得ないって事だよ。ちょっと考えれば分かるでしょー? 今のボクは百鬼夜行で弱体化してるけどさ。だからと言ってこの程度で殺せるとは思ってほしくないんだよねー。心外ってやつだよ。そんなアホほど脆弱になってるワケないじゃん」
砕けた骨も、肉も、神経も、磁化させて復元すればいい。これはアスカの復元手段だが、他の属性を操る魔法使いも似たような手段を有している。
斬首されようと、心臓が潰れようと、そんなものは関係ない。元に戻せば死なないし、そもこの程度で死んでいては魔法使いは人類の一部として社会に組み込まれている。
格が違う。次元が違う。これはそういう生き物で、人類の進化形にして到達点。どんな環境であろうとも生存を
ゆえに魔法使いを殺せるのは寿命という自然の摂理と、アスカの雷霆という純粋な理不尽のみ。
「お勉強が済んだところで、半殺し続行かな。……と思ったけどー、もういいや。面倒だしサクっと
ろくに動けぬ桃華を見て、アスカは翼で空へと舞い上がる。桃華を見下ろすアスカの目は冷めており、情というものを感じさせない。
もう桃華には付き合わない。甘んじて一度好き勝手させたのだ。これ以上の情けはいるまいと、アスカは轟雷を自身の翼へ纏わせる。
「【六法が一つ、風の
これより始まるはかつて恐れられた雷霆の再臨。絶対的な死の象徴。その力の一端が今解き放たれようとしている。
この力を以てダンジョンを崩落させ、この場にいる者達全員を九百九十九層まで突き落そうというのだ。
「【我は雷霆。十悪五逆を誅すべく
人類。魔法使い。そしてありとあらゆる生物や、果てには破滅太陽まで。アスカが悪であると断じた全てに雷の裁きを下すのだ。
裁きの執行は絶対で、この力の前にはあらゆる防御、敏捷、幸運は意味を成さない。下れば死ぬ天罰であり、全ての魔法使いが恐れた力である。
「【罪ある者よ哭き叫べ。天網恢恢疎にして漏らさず、必ず邪悪を暴き出す。穢れし罪業一切を諸共穿ち焼き祓わん】」
アスカからは逃げられない。一度悪と定められれば必殺の万雷が降り注ぐ。それは神秘的防御すらも貫通する、天則すらも捻じ曲げかねない究極の幻想。あらゆる不死をも超克する破滅の光。
六法愚者が他国に対する抑止力であるならば、その第六法は自国も含めた魔法使いへの警告札だ。逆らえば処す。アスカがそこにいるだけで六法愚者へ、そしてアルティソール王国へ叛意を抱ける者など誰もいない。もしいるならば、その者は既に狂っているのだ。
「【
アスカの脚が雷化し、翼が肥大化。胸部から上は稲妻が迸るだけの虚無だけがあり、アスカの原形は完全に消し飛んでいる。アスカの百鬼夜行であっても、悪を滅し祓う裁きを振るうにはその肉体は脆弱に過ぎるから。
「だから、こそ──」
──そう、だからこそ。それこそが桃華の窮地を救う突破口となるのだと、アスカは終ぞ気付かなかったのだ。
「【其は守護を尊ぶ支配の一翼──
右耳のピアスに黄金の魔力光が輝き宿る。それは桃華が持つ魔法の装具。その効果は魔法の対象者が受けるダメージを肩代わりする代わりとして、自身の命令を遵守させる事。
しかし、この魔法の支配力はひどく弱い。洗脳するわけではないので、当然従わないという選択肢も出てくる。ゆえに、この魔法には他の支配魔法には無い特典がある。
「あなたの力を存分に振るいなさい、アスカ!!」
命令を自らが望んで遂行する際、その行動に対してボーナスが付与される。
「ギィ、ガァアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!??」
既にアスカは魔法を開放して振るおうとした。そして桃華はそれを止めるどころか自らの魔法で援護した。より威力が増した悪滅の雷は──ギリギリ耐えていた百鬼夜行の肉体を容赦なく崩壊させる。
負荷による自壊は自然の摂理であり、毒や病と同様にダメージ判定として認められない。
つまりこの瞬間、アスカの死は確定したのだ。その強大な雷の幻想が彼女を命を穿つ呪いと化した。その運命を覆す手段を、アスカは持っていない。
「けど! それでも!! ボクは与えられた役目を全うする!!!」
砕け逝く自らの身体を顧みもせず、アスカは堂々と宣言した。
「果てまで落ちろ!! ボクの雷が、お前を
その言葉を最期として、かつて魔法使いが恐れた裁きがダンジョンを貫いた。