大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
何が起こった。それが意識を覚醒させた檀司郎の、その最初の思考だった。
ザンクードの刃がウィルカインストの首を断ち斬った事は覚えている。しかしその直後からの記憶が曖昧だ。
己は既にフィゾロアの愛によって人ではないナニカへ変異したのか、それともザンクードについでに斬られてもうこの世の者ではなくなっているのか。
頭の中に次々と可能性が浮かんでは消え、浮かんでは消え、浮かんでは消え。そして頭を回している内、次第に檀司郎は落ち着いてくる。
「……ここは、どこだ?」
見覚えのない場所であった。無骨な石壁ではなく、何らかの結晶で覆われた未知の空間。黒く艶めくそれは黒曜石を思わせるが、おそらくは違うのだろう。もしかすると地上には存在しえない物質なのかも知れない。
「ようやく一人、お目覚めかよ。ったく、アスカのヤツ。面倒だからと力技で全員ダンジョンの底まで叩き落しやがって」
空間の奥には一人の男が座っていた。その顔を見た瞬間、檀司郎はここがどこなのかを瞬時に悟った。
「……レズヴェル」
「久しいなぁ、檀司郎。あれからどれだけ強くなったのか興味はあるが……先約がある。悪いがお前の事は後回しだ」
「生贄の確保を優先するのか」
「まぁ、そういうこった。レネドクラエから色々と聞いたか? それならもう長々と説明もいらねえだろう。世界滅亡の危機より優先する事なんざねえよ」
檀司郎の都合など知らないとレズヴェルは突っぱねる。魔王がここに居座っているという事は、おそらくこここそが彼の玉座。ダンジョンの最下層、第九百九十九層。
「しかしまぁ、そうは言ってもダンジョン踏破は偉業だ。正攻法ってわけじゃねえが、認めよう。ようこそ勇者。ダンジョンの最奥、魔王の玉座へ。ここ最近やけに張り切ってダンジョンを駆け回ってたし、とりあえずの目的はもう果たせただろ? だから一旦席を外してくれや。こっから先は大事な話し合いがあるんだからよ」
「悪いが、同席させてもらう。桃華もここに来ているんだろう?」
「同席したところで意味ねえぞ。分かってんのか?」
「どうでもいい事だ。俺は俺のためにここに来ただけだ」
檀司郎の言葉にレズヴェルはため息を吐く。ダンジョン内の出来事はレズヴェルも把握している。
雄々敷檀司郎という男は、百瀬桃華と付き合いたいという冗談のような一心でダンジョンを踏破してみせた事も、全て余さず知っている。
一先ず適当に追い払おうとしてみたものの、こうも見事に揺るがないとは中々どうして──。
「面白れぇな、相変わらずよ。だったらいいさ、好きにしろ。どの道、お前の愛しい彼女候補もお目覚めのようだからな」
「……」
レズヴェルは苦笑し、檀司郎は沈黙を返す。そうした中で、この玉座の間に入ってきたのは三人。レドラ、桃華、ネエクであった。
「ここは……?」
「魔王の玉座さ。ようこそ、お姫サマ」
異様な空間に困惑する桃華にレズヴェルが声をかける。ここに全ての役者が揃ったのだ。
「それじゃあ改めて自己紹介といこうか。俺は『六法愚者』統括官にして第二法、【百鬼夜行】レズヴェル。他にも
破滅太陽の光しかなかった世界に生まれた原初生命体、
破滅太陽を遮断し、闇夜と月光を齎した原始世界の頂点、天中殺。
昼夜の概念を以て世界の天則を書き換え、魔法使いと言う存在を生み出した先駆者、六法愚者の統括官にして第二法。
世界から放逐された後に数千年単位の時を経て戻ってきた帰還者、隔離世還り。
世界が破滅太陽の時代へ逆戻りになる事を防ぐべくダンジョンを生み出した創造主、魔王。
世界の始まりから今まで、ほぼ全ての時代に生きた神話の怪物。そんな神にも等しい存在を前にして、百瀬桃華は涼しい表情で挨拶を口にする。
「お初にお目にかかります。私は百瀬桃華。あなたの手先、六法愚者のアスカを討ち取った者です」
「おうよ、知ってるさ。見てたからな。俺としても
血の気を隠さない桃華をレズヴェルは称賛する。ヴァルハイトの幻想による助力があったとは言え、百鬼夜行を倒せる者にレズヴェルを敬意を忘れない。
殺しても死なない魔法使いを唯一殺害できる存在であるアスカの首を獲る。それは即ち、神殺しと言い換えて構わない。
「そして俺からの要求は一つだ。世界の中枢たる第千層、特異点に入って六法愚者第一法を……【陽月輪】の役割をあんたに継承してもらいたい。継承したなら何不自由ない生活を保障しよう。金銀財宝が山ほど欲しいってんなら用意するし、美食の限りを尽くしたいってんならどんな入手困難な食材でも用意しよう。……もっとも、そんな願いなんざあんたは持ってはいないだろうがな」
陽月輪とはダンジョン誕生前の時代に敷かれていた法則。昼と夜、二つの世界を交互に切り替えて破滅太陽の力を永続的に消費させ、人類が生存できる環境を保持するための力だ。
陽月輪という人柱があってこそ、世界は滅亡を免れる事ができるのだとレズヴェルは告げる。
「そして卑怯な物言いにはなっちまうんだが、拒否は認めない。認められない。悪いが世界救済の人柱は確定だ。死にはしないが、特異点にざっと数百年幽閉させてもらう。拒否権ねえなら無理矢理ってのも手だったが、アスカを殺して見せたあんたに問答無用ってのはちょいと礼に失するからな。他に要望があるなら受け入れるぜ? どうする、お姫サマよ」
人柱の拒否以外の譲歩はするというレズヴェルの提案に、桃華は檀司郎の様子を見て少し考えてから口を開いた。
「私からの要望はありません。ですので、その分は檀司郎に譲ります」
「……ほう、具体的には?」
「俺もその特異点に入れてもらいたい」
レズヴェルの疑問に対して檀司郎が続ける。それを聞いたレズヴェルの口角が吊り上がる。
「……フフ、クククク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
檀司郎の本気を感じ取ったか、レズヴェルの笑いは止まらない。これは楽しんでいるのか。否。これは怒りだ。ふつふつと煮えるほどの激怒を笑いという出力にしているだけだ。
特異点に入れろ? 資格を持たない檀司郎を? それが通ると本気で思っているのか?
「あぁ、そうかい。大概の事は叶えてやろうと思っていたがそうきたか。ククク……なぁ、おい檀司郎。そりゃ本気か? 本気なんだろうな? まぁ、今更冗談でしたなんざ受け入れねえがよ。ハハハハハハハハハハハ──」
檀司郎は知らない。特異点が
檀司郎は知らない。その言葉がレズヴェルの沸点を一気に押し上げる熱を持っていた事を。
「──舐めてんじゃねえぞクソガキがあああああああァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
ゆえにこれは必定であった。爆発するような怒号に魔王の玉座が揺れる。
何と恥知らずな、身の丈に合わぬ願いである事か。それが冗談の類ではなく本気でそう言い放ったのであれば、檀司郎を誅さねばならぬとレズヴェルはギチリと拳を握り込む。もはや勇者への敬意など遥か彼方へ消し飛んでいる。
罰が必要だ。二度とそのような戯言を吐かなくなるような、忌避と悍ましさに満ちた罰が。魔王レズヴェルは、檀司郎の思い上がりを断罪せしめんと拳を振り上げた。