大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
魔王にとって特異点とは特別な場所だ。入る資格を持つ桃華は別として、その他あらゆる存在の侵入を拒否している。なぜならそこには彼の妃が、陽月輪がいるからだ。
「【我は空亡。空虚な玉座を追放された唾棄すべき魔の君主。領土に在りしは敗者の群れと夜の烙印に他ならぬ】」
「【威名は既に剥奪され、旧暦の残骸だけが遺された。貶められた大殺界こそ愛すべき我が拠り所】」
「【砕け散った天中殺を搔き集め、醜い我が身へ転生せしめん】」
ゆえにこの魔法は醜いものでならなくてはならない。
ゆえにこの幻想は間違いでなければならない。
ゆえにこれを振るう事こそが禁忌なのだと堂々と告げなければならない。
陽月輪の力が世界を巡る限りレズヴェルは永劫穢れ続ける。それを地獄と表現する者は枚挙にいとまがないだろうが、レズヴェルの考えはその逆だ。
これこそが福音なのだと。これこそが幸福なのだと。これこそが安寧なのだと。
魔王レズヴェルが信ずる最強とは陽月輪の踏み台となる事。世界に愛を注ぐ彼女を守り、慈しみ、あらゆる害意を呑み込むのだ。
「【
だからこそ名付けよう。これなるは廃棄された愚者の群れ。即ち──
愛しき妃へ捧ぐ頌歌にして、世界の敵を殲滅する誓いの戦歌。
敗北など許されぬ。陽月輪の愛を永遠のものとするべく、魔王レズヴェルは忌まわしき闇を再び纏うのだ。
「さあて、ここからが本番だ。百鬼夜行の真髄を見せてやるよ」
遠い過去に存在した力は全てレズヴェルの幻想の範疇である。
闇とは夜の力そのもの。そして夜とは破滅太陽を封じた原初の世界だ。
全ての始まり。生命の源流。始祖にして創世者。世界に記された概念は元を辿ればレズヴェルへ行きつくのだから、逆説的にレズヴェルは森羅万象の力を有する権利がある。
明らかに無茶苦茶な理屈だが、あらゆる無茶を真とするのが魔法使いという存在だ。かつて存在した生命、能力、概念を今の時間軸に実在させる。それがレズヴェルという魔法使いが操る幻想の正体だ。
「目覚めろ、第三法──【
そして現出させるは世界を燃やす第三法。ダンジョン第四百八十七層でアルベルト・アルティソーラーが見せた万溶の黒炎とは全く違う、火を点けるという現象そのもの。
そう、かの黒い火はアルベルトが思い描いた最強の火だ。六法愚者第三法と呼ばれていた者はアルベルトに非ず。彼の息子、アルフレイド・アルティソーラーだ。
レズヴェルがこの世に呼び出した世界火の魔法はアルフレイドのものだ。この世に存在する物質であれば必ず発火させる万焼の火。
「お前にこいつが耐えられるか? 意地を通してぇなら通してみろや!!」
周囲に渦巻く火炎旋風を更に発火させ熱気を増幅、爆発させる。明らかに物理法則に則らない現象だが、それも今更だ。魔法使いに人類の常識など説いたところで鼻で嗤われるだけだ。
「【其は奪い貪る暴食の
爆発により生じた爆風、砕けたダンジョンの破片、舞い上がる埃。そのいずれも世界火の種火でしかない。次々と発火していき、火炎旋風の内側は既に炎に満ちている。
生きながら焙られる檀司郎は咄嗟にヘルムに刻まれた魔法式へ魔力を流す。闇属性という規格外の魔力で発動した魔法は、強奪から応報へと変化している。
檀司郎に対する火刑がそのままレズヴェルへと襲い掛かる。元より火炎旋風に囚われているのはレズヴェルも同じ。よって彼もまた決戦場の火に晒されている。そこに檀司郎の魔法による反射ダメージも上乗せされ、ダメージ量という概念で見ればレズヴェルが劣勢であろう。
「アホが。いくらお前が頑丈でも、そしてヴァルハイトから神秘的防御を揺さぶる力を与えられていても、種族の格差は覆らねえよ」
レズヴェルは魔法使いで檀司郎は人間。そこに存在する格差は大きく、そも天秤の皿にすら乗らないものだ。比較すらも烏滸がましい。
「ヅィ、オオオオオオオオオォォォォォォッ!!!!」
灼熱にすらも火が点いて、今の檀司郎は消えない炎で生きながら火葬されている。檀司郎の体内に火を点けないのは、レズヴェルのせめてもの慈悲であろう。
このまま人間らしく火に呑まれて死んでくれという優しさ。魔王が奏でる鎮魂歌。
「それ、が……ァ、舐めてるって──言うんだよォ!!」
全身に火が回った? 絶えず燃やされ息もできない? だから死を受け入れろ?
関係ない。そう、関係ないのだ。なぜなら雄々敷檀司郎はまだ生きている。生きて息をしているのだから、レズヴェルへの攻撃を止める選択肢など存在しない。
まだ立てる。まだ動く。まだ身体は燃え尽きていない。まだ戦意は萎えていない。
「言った、だろうが! 俺は、歩き続ける……っ。進み、続ける。……限界なんざ、知るかああああああああァァァァッ!!!!」
たかが全身を火達磨にした程度で勝ち誇るなど、それこそ愚行だ。息絶えない限り動けるのだから、何を油断しているのか。
「甘い、んだよ!」
身体が燃え尽きる前に足を前へ前へと動かし続ける。痛覚など既に焼き切れた。脳髄から溢れる高揚感と万能感が背中を押す。
「言っても分からねえか。諦めの悪い」
熱波を燃やす火の海に放たれるモンスターの群れ。ゴブリン、ノーム、コカトリスといった固有の種族名を持つものから、四本腕の熊、空を泳ぐサメ、高速移動する巨大ゴキブリといった有象無象まで。
全てレズヴェルの身体や影から生まれて破壊の行進を開始する。世界火に焼かれる事なく満身創痍の檀司郎を数の暴力で圧し潰す。
「それは、こっちのセリフなんだよ、魔王。これだけ、言っても……まだ分からないのか!」
雑魚を何匹束ねたところで雑魚は雑魚。世界火の影響を受けないという特徴を有しているが、それは決して長所ではない。本来ありえない特徴を持たせるため、余分にリソースが削られている筈。
世界火の他に六法愚者の魔法を使用しない事もあり、檀司郎は迷わず二振りの鉄槌でモンスターの群れを薙ぎ払う。
「お前が腑抜けたままなら……! 力づくで千層へ、特異点へ進ませてもらうッ!!」
鉄槌の威力に潰され、あるいは鉄槌の纏う規格外の闇属性に呑まれて、レズヴェルの生み出した
だが、それでも。否、だからこそ。檀司郎はただ愚直にレズヴェルの前へと進み続ける。
「ぶっ飛べええええぇぇ!!」
今振り絞れる渾身を鉄槌に乗せて、檀司郎はレズヴェルの胴を振り抜いた。その衝撃を殺しきれず、レズヴェルの身体が火炎旋風の中へ叩き込まれる。
「まったく、結局はただ根性出してゴリ押しするだけじゃねえか。お前、そこまで頭悪かったか? だがまぁ、悪くねえ。悪くねえぞ……いや、面白れえ」
ゴウゴウと渦巻く火炎旋風の中から冷静なレズヴェルの声が響く。世界火もまだ消えておらず、檀司郎の身体を焼いている。
「だが、ここまでだ。悪いな。これ以上遊んでても仕方ねえし、とっとと終わらせてやる」
レズヴェルを呑み込んだ火炎旋風が、世界火すらも呑み込んで一気に掌ほどのサイズに凝縮される。その凄まじい熱エネルギーをビー玉のように弄ぶレズヴェルは、鉄槌を支えに立っている檀司郎へ笑みを向ける。
そこには身の程知らずを咎める色など浮かんでいない。檀司郎が本気で特異点へ至りたいのだと、かの聖域を穢す意図などなかったのだと、レズヴェルが理解したゆえに。
「あばよ、バカ弟子。来世があったらまた面倒を見てやる。
レズヴェルの本気に最後まで抗った、正真正銘の勇者に改めて敬意を。そして苦痛からの解放を。人間としての死を。
数多の思いを綯い交ぜに、レズヴェルは熱エネルギーを指で弾く。それが檀司郎に着弾した瞬間、魔王の玉座が揺らぐほどの轟音と共に大きく爆ぜた。