大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
「さて、こっちの用事は片付いたが……レネドクラエ。お前はどういう用件だ? ただの付き添いで百瀬桃華と仲良く
膨大な熱エネルギーが火柱となって荒々しく燃える光景を、レズヴェルは一瞥してレドラへ問う。
六法愚者第一法の役割を継承できる候補者の付き添いやら護衛やらで動くほど情に篤いわけでもあるまい。そう言外に告げている。
「六法愚者統括官の業務を押し付けて何千年も勝手に失踪しておいて、知ったような口を利くではありませんかレズヴェル。隔離世から戻ってきたら今度はダンジョンの創造にかまけた上で、わたくしに第一法の継承者の探索と地上で活動する百鬼夜行のサポートを命じ、最低限の情報交換を済ませて別行動。私的な会話をしたのはいったいどれほど前でしょうね?」
対するレドラは遠慮のない物言いで返した。自らの創造主、言ってしまえば親に対する反抗の意志であった。己が創った
「仕方ねえだろ。あのウィルカインストとかいうアホが破滅太陽を弄くり回してたんだからよ。それに隔離世に関しちゃ不可抗力ってやつだ。特異点に異次元への入り口が開くなんざ、誰が予想できる? 第一法……俺の妃が呑み込まれて、諦めるなんざあり得ねえ。だからお前にこの世界を一時的に託したんだぜ? 妃を連れ戻して来てみりゃ、今度は世界がこの様だ。なぁ、おい。お前はいったい何をやってた?」
むざむざと世界をアホに良いようにされて、破滅太陽を活性化させ、挙句の果てに世界滅亡の危機だ。隔離世という異次元に落ちた第一法の救出と言う名目もあり、この世界から少し離れていただけでこれだ。
この有様で統括官代理の役目を果たしていたと、本気で言っているのかとレズヴェルは怒りを滲ませる。
「破滅太陽は闇の魔力がなければ封じきれない。それは分かり切っていた事でしょう? わたくしの土属性の魔力では現状維持が精々。ウィルカインストを使って破滅太陽の力を異次元へばら撒いて、ようやく時間稼ぎができる程度でしたね。あなたにして見れば世界を荒らした阿呆でしかないのでしょうが、要は使い方次第ですよ。……何でも一人でやってしまうあなたには無用なのかも知れませんがね」
そも、破滅太陽を封じる手段を有しておきながら勝手に世界から消えたレズヴェルに怒る権利などないとレドラは冷たく切り捨てる。
「昼夜の概念が生まれた瞬間から、第一法の力は既に世界に溶け込んでいた。世界の調停者という立場に置いて、隔離世という異次元に消えた彼女を追ったのは明確な悪手です」
「だとしても放っておけねえ。あいつは俺の全てだ」
「わたくしという娘よりも優先すると?」
「あぁ。クソだのバカだの言われようと、全てはあいつの──レイナの安全が第一だ。それは変わらねえし、覆らねえ」
六法愚者第一法にしてレズヴェルの妃、アザイレイナよりも優先する事など存在しない。極論として、レイナの安全さえ確保できれば世界が破滅しようとも構わない。
レドラへこの世界の様相について怒って見せたのは、この世界へ舞い戻ったレイナの身を想ってこその反応だが、レドラにしてみれば面白くない。
「……どうやら、何を言ったところで時間の無駄のようですね」
「お互い様だろうが。それで? こんなしょうもねえ言い合いをするためにわざわざ最下層まで降りて来たのかよ?」
「そんなわけがないでしょう。一種のけじめというやつですよ」
改めてレドラはレズヴェルを見据えて宣言する。
「六法愚者の第四法、及び統括官代理という職務を返上します。要するに辞表、というやつですね。今のわたくしは大和国立国際ダンジョン学園の保健医レドラですので」
レネドクラエという名はもう不要である。この先、もう六法愚者の肩書きも意味を成さない。なぜなら既に幻想を操る魔法使いはレズヴェルとレドラを除いてもういない。
今や魔法使いと言えば、ウィルカインストが齎した魔法式を利用する者を指す。本当の意味での、人類の進化系たる魔法使いは既に天に昇ったゆえに。
「ダンジョンは消えるぞ?」
「数百年後に、でしょう。長命種のタイムスケジュールでは一瞬ですが、人間にとっては長い年月になります。ダンジョン学園が廃校になるその日まで、わたくしは保険医を辞めるつもりはありません」
学園に在籍した期間は、それこそレドラのこれまでの人生を考えればほんの一瞬の出来事でしかない。しかし、保健医という視点から短命種と関わった日々はレドラの中に確と残っている。
充実していたのだ。ダンジョン学園を看取っても良いと思えるほどに。
「それに、六法愚者としての役割はもう果たしたでしょう? あなたは不満かも知れませんが、わたくしはもう疲れました。これからも永く生きるというのに、なぜ役にも立たない肩書きをいつまでも背負い続けなければならないのですか?」
だから、六法愚者はここで終わるのだ。レドラが最後に幕を引く。忘れ去られた化石が我が物顔でいつまでも世界にのさばるなどあり得ない。
「そうかよ。なら好きにすりゃあいい。俺も俺で勝手にやるさ。邪魔さえしなけりゃどうでもいい」
「えぇ、さようならレズヴェル。また会う時は、もう一度世界が滅びかける日になるでしょうね」
「ッハ、二度と会いたくねえもんだ」
そのやり取りを最後に、レドラは魔王の玉座から背を向ける。終始話に付いて行けずに困惑するネエクに対し、レドラは手を握る。
「大丈夫ですよ。檀司郎君と桃華さんであればまた会えますから」
「……分かり、ました」
そしてこの場に残されたのは桃華とレズヴェルのみ。桃華は一つ深呼吸を行い、レズヴェルへ向けて一歩進み出る。
「次は私の番ですね」
「あんたもあんたでちったぁ動揺しろよ。彼氏を焼いた仇だぜ?」
レズヴェルの言葉に桃華は首を傾げる。何を言っているのだろうという態度に、レズヴェルは怪訝な眼差しを向けた。
「檀司郎があの程度で死んだと思っているのですか?」
「……おいおいマジか。もしかしなくてもあんた、相当面白い女だな」
雄々敷檀司郎は死んでいない。百瀬桃華はそう信じている。未だ轟々と燃え続ける火柱を目にして尚、檀司郎が生きていると断言した。
レズヴェルは苦笑しつつ、第千層への道を創り出す。玉座が歪み、本来繋がらない空間への入り口が開放された。この先に未知の領域が、特異点がある。
「先に行きますね、檀司郎」
桃華は火柱に声をかけて堂々と特異点へと消えていく。それを見届けたレズヴェルは特異点の入り口を閉じずに、ため息を一つ。
「──聞いたか? 先に行くってよ! お前はどうするよ? なぁ!?」