大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
◆
『檀司郎、これは俺からの報酬だ。遠い異次元でかつて最も人々から称賛を浴びた騎士の甲冑……そのレプリカだが、性能は保証するぜ』
火柱に己が身を焼かれ続ける中、檀司郎はふと過去に出会った欲龍の言葉が脳裏を支配していた。
『ウィザラヴァニエは自身が抱く想いに殉じた騎士だ。己が目的のために進み続ける檀司郎との相性もいいから、魔法効果が多少変わっても不利益になる効果にはならないだろう』
この甲冑は檀司郎の命を繋いできたのだ。防御性能、刻まれた魔法式、どれをとってもハイエンドであり、国宝として管理されるべきと主張されても文句は言えない。
至高、究極、頂点。あらゆる賛美が枕につく騎士甲冑であるが、同時にこれはどこまでいってもただの防具でしかない。装備者を守るもの以外にはなり得ない代物である事も事実であった。
だからこそ、今のこの状況は誰もが首を傾げざるを得ないだろう。世界を燃やす火と火炎旋風の熱エネルギーが融合し、凝縮された暴威の中でどうして檀司郎は死んでいないのか。
檀司郎は人間だ。身長二百を超える偉丈夫で頑丈さが取り柄であるとは言え、これは人としての耐久値を遥かに超えている。
実に奇妙ではないか。檀司郎の生存はあらゆる情報を鑑みても道理がない。理屈が通らない。ならばこれは奇跡の類か?
否。否。否。そんな甘い奇跡を許すほど魔王は、レズヴェルは耄碌していない。
『ウィザラヴァニエも結局は欲龍として龍玉座に君臨したんだ。つまりは自身の正義に則る事は、ヤツにとって何よりも優先したい欲望でしかなかったって事だしな。その辺り、二人は良く似ていると思うぜ?』
つまり。つまりだ。今ある情報を総浚いにしても檀司郎の生存に一縷の希望もないならば、認識が誤っているという事に他ならない。
それは何か。考えれば簡単な事だ。
◆
身を焼く業火は既になく。とうに炭化したであろう身体に異常はなく。死すら感じさせる激痛もない。あるのはただ生きているという事実のみ。
プレートアーマーは焼き焦げて、魔法式も損壊した。だが、生きている。雄々敷檀司郎は生きているのだ。
手は動く。足も動く。鉄槌には多少の熱があるくらいで支障はない。ならばやる事など一つだろう。
「レズヴェルッ!!」
立ち上がり、鉄槌を握りしめ、渾身を込めて魔王へ振り下ろす。なんと簡単な事だろう。迷っている時間などありはしない。疾く、迅速に、檀司郎はひたすらに突き進む。
世界? 使命? 救済? 魔王? だから何だ。だからどうした。だから諦めろとでも?
バカが。ふざけろ。とっとと退けよ。道を開けろ。目的を阻むならば強引に薙ぎ倒して進むだけだ。この程度で諦めるならば、雄々敷檀司郎は魔境になど入っていない。ダンジョン学園になど進学していない。
その程度の覚悟もなくダンジョンに潜る筈もないだろう。世界が雄々敷檀司郎を拒絶するというならば、それがどうしたと堂々と笑うだろう。
世界がどうあろうと。使命がどうなろうと。救済がどのような結果を齎そうと。魔王が立ち塞がろうと。
関係ない。そう、関係がないのだ──大和国立国際ダンジョン学園所属、雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたい。彼の願いはただそれのみなのだから。
世界が滅ぼうとも。ダンジョンがなくなろうとも。破滅太陽が空に輝いていようとも。檀司郎の渇望がぶれる事などあり得ない。
「ったく、しぶてぇ野郎だなァ!! 今度こそあの世に送ってやるぜェ!!!!」
対するレズヴェルは歓喜で答える。よく生き残った。今度こそ息の根を止めてやる。上位者からの褒美と称して死を贈ろうと、自身の幻想を再駆動させる。
「第五法──【
猛進する檀司郎の魂を身体より抜き出し、消滅させんと手を伸ばす。本来は彼岸を再現した結界を創り出し、渡守として魂魄を冥府へ連れ出すヴァルハイトの魔法だが、それは彼本人だからこその効果だ。
レズヴェルは違う。ヴァルハイトのように死を看取る事を自身に課していないのだ。だからこそ、魂を抜き出し、そして霧散させる。その後がどうなろうとレズヴェルの知った事では無い。あの世も地獄も何もない。この世から消えて、それまでだ。
「日和ったな、レズヴェル!!!!」
レズヴェルの魂を抜く魔手に晒されようとも、檀司郎は怯まない。即ちそれは脅威ではないと判断しているゆえに、恐怖もない。
世界火の業火から命を守った騎士甲冑に、檀司郎は自分の全てをベットした。
あの時、世界火の熱に焼かれた瞬間檀司郎は死んだのだ。生きていたのはウィザラヴァニエの騎士甲冑を身に着けていたから。
以前の防具ではここまで辿り着く事すら出来なかっただろう。だからこそ、檀司郎の頭にはグリム・グリムより賜ったこのプレートアーマーの性能を疑う
かの欲龍曰く、ウィザラヴァニエは自身が抱く想いに殉じた騎士であるという。檀司郎も同様に桃華への恋を胸に抱き、揺らぐ事なく魔王へ突き進んでいる。彼女と共に在りたいというそれは、檀司郎の誇りであるのだ。
そして今、彼はその誇りに
「【其は正義を成す至高の一撃──】」
グリーヴに刻まれた魔法式などとうに機能していない。檀司郎の呪文と、グリーヴに供給される闇の魔力は意味を成さない筈だ。しかし檀司郎の口から溢れる
相性がいいと、蒐集欲の権化が断言したのだ。異次元を知り尽くす龍の言葉こそ、檀司郎の背を押す言霊である。
そして檀司郎の祈りは結実する。魔法式と言う契約紋を抜きにした正義欲龍の権能を己が身におとす事に成功したのだ。
「【
レズヴェルの手が妖しく輝き、檀司郎の魂を簒奪せしめんと幻想の鎌が形を成す。霧のように揺らめくそれは第五法の力の具現。即ち魔手の権能である。魂奪いの鎌を振るい、その刃を檀司郎の身体へ埋没させる。
「……な、に?」
埋没した刃から感じるのは権能の失活。幻想が魂を奪うどころではなく、何の効力も発揮していないという事実にレズヴェルは戸惑う。檀司郎が魔法式なしで正義欲龍の権能、あらゆるダメージの持ち越しという魔法を発現させた事など、レズヴェルに知る由もない。
だからこそ。そう、だからこそレズヴェルは重大なミスを犯す事となる。
ほんの刹那にも満たない、それこそ虚空の間ではあるが己の百鬼夜行に疑念を抱いた。抱いてしまった。それは魔法使いにとってあってはならない禁忌である。
たとえ僅かであろうとも、己の幻想を信じられない魔法使いは自滅する。それは
「しまっ──!?」
「ようやく隙を晒したな!!」
レズヴェルの百鬼夜行が崩壊する。世界火、屍山血河と過去の残響が齎した被害すらも全てがロールバックとなるペナルティが魔王に課せられた。
檀司郎の騎士甲冑すらも修復され、檀司郎は溢れんばかりの活力と共に二振りの鉄槌をレズヴェルへ叩きつける。
「グゥ……ッ!? だが、なァ──隙を晒したのはお前も同じだッ!!」
鉄槌で殴打されながらレズヴェルの両肩と両膝からケルベロスの顔が出現し、檀司郎の身体へ牙を立てる。しかしその瞬間、ケルベロスの強靭な牙は見るも無残に砕け散る。
事ここに至り、レズヴェルはようやく理解する。己の幻想が、人間相手にすら砕ける程に脆弱化しているという事実に。
「不法侵入は気が引けるが……いや、どの道ダンジョンの階層を進める事を咎める法律も無かったか。ダンジョン第千層、特異点の景色を拝ませてもらうぞ」
「──ッハ、そうかよ。だがな、どうなっても知らねえぞ」
鉄槌によるダメージが抜けきらぬ内に、開かれている特異点への入り口へ檀司郎はレズヴェルごと押し入った。直後に入り口は消え去り、魔王の玉座には誰も残らなかった。