大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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6.法を超える存在

「オオオオオォォォォ!!」

「ナメるなよイレギュラー!」

 

 殴打、殴打、殴打の応酬。目にも止まらぬ速さで鉄槌を、そして拳を振るい合う。

 アラクネによる奇襲もあるが、全て檀司郎の鉄槌で潰されている。破落戸(ローグ)の拳も檀司郎の鎧に威力を殺されている。一見檀司郎が有利の状況だが、彼の頭に余裕など微塵もない。

 第一に檀司郎の鉄槌が破落戸(ローグ)に対して当たっていない。全て避けられているか、アラクネに横槍を入れさせている。

 そして第二に未だに沈黙している右手の指輪。支配法律制定(ナザレ=タスクラム)が刻まれていた左手の指輪同様、魔法式が刻まれた装具である可能性が高い。

 

「あいにくと、貴様には使わんよ。その厄介な魔法で跳ね返されても困るからな」

「そうか。なら手早く死ねよ」

 

 二つの鉄槌が雄叫びと間違うほどの風切り音と共に疾走する。しかし破落戸(ローグ)は難なくヒラリと躱す。

 その二人を視界に捉えながら、百瀬桃華は右耳のピアスに手を当て、そこに刻まれた魔法式へ魔力を流す。

 

「【其は】……ッ!?」

「おっと桃華嬢。余計な事はなしでお願いしたい」

 

 魔法の発動を破落戸(ローグ)は許さない。無数のアラクネが桃華に殴りかかり、魔法式のセットアップを妨害する。

 檀司郎との殴り合いに応じながら桃華の行動に目を光らせる。視野が広いというには違和感がある。

 何せ檀司郎の鉄槌は今も唸りをあげて破落戸(ローグ)に飛び掛かっている。少しでも意識を桃華に向けたなら、檀司郎はその機を逃さない。それだけ桃華は彼の強さを信頼している。

 

「一つ、アラクネは許可なく言葉を発してはならない。では、アラクネは普段どうやってコミュニケーションをとっていると思う?」

 

 言葉を話せないなら、純粋に筆談か、ハンドサイン等のジェスチャーや目線、あるいは光源の明滅や狼煙等による周囲の環境を利用した暗号だろうか。だが、そのいずれも今のアラクネには不可能な事だ。

 筆談に関しては論外だ。モンスターに文字を開発して扱うほどの知能はない。ジェスチャーや目線では、幽霊化しているアラクネは見えないので意思の伝達手段としては使えない。暗号にしても、アラクネの巣に言葉に変わるものなど転がっていない。

 

「難しく考え過ぎなのだよ。実際はもっとシンプルだ。この法は口で言葉を発する事を禁じているだけだ。テレパシーによる会話であれば問題ないのさ」

 

 テレパシーという技術に辿り着いたアラクネを見て、別のアラクネが習得方法を確立。その後、他のアラクネに伝播した。そうして成立したアラクネ達によるテレパシー網を破落戸(ローグ)が利用しているのだ。

 法の制定者は、被支配者の恩恵を無条件で享受できる。支配法律制定(ナザレ=タスクラム)は法を超える存在を生み出すための魔法であるが、その本質はあくまでも支配であるゆえに。

 

「それと、だ。拳に呪詛を纏わせて散々叩いてみたが、貴様の体質は本物だなイレギュラー。呪詛の無効化に上限があると思っていたのだが、まさか制限なしとは」

「無駄にペタペタ触っていた理由がそれか」

「ゴーレム程度なら一撃で撲殺できるほどの力は入っていたのだがね???」

 

 だというのに檀司郎の鎧は凹みすらしていない。魔石による強化にしても、いったいどれほどの量をつぎ込んだのか。垣間見える執念に破落戸(ローグ)はただ苦々しく顔を歪めるしかなかった。

 破落戸(ローグ)も、探索者も、程度の違いはあれど常軌を逸しているのは変わらない。狂人がお互いを指さして頭がおかしいと罵り合う構図と言えよう。

 

「こうなれば仕方がない。多少不安定ではあるが、とっておきをお見せしよう」

 

 そうして現れるのは通常よりも一回り大きいアラクネ達。しかし違うのは大きさだけではない。

 攻撃していないにも関わらず幽霊化していない事も奇妙であるが、決定的な違いはその上半身。

 前提としてモンスターの姿は判を押したかの如く同じである。個性などという概念が存在しない。だというのに現れたアラクネの上半身は全て別人であるかのような見た目であった。

 

「──ッ!!」

 

 桃華はその姿を見て息をのむ。別人であるかのよう? 否、正しく別人なのだ。その正体は桃華が瞬時に理解した。

 

「どう、して……先輩っ!?」

 

 現れたアラクネの内の一体、その上半身こそが桃華が入学時にお世話になっていた先輩のものだという。

 

「まだルールがあると言っていた筈だ。これはその最後の一つ。アラクネは自身が殺した人類が女姓だった場合、上半身を入れ替えなければならない」

「ダンジョンの入り口に転がっていた、上半身のない女子の死体は……」

「ダンジョンは入れ替わった探索者の上半身をモンスターの一部だと解釈した。ゆえに復元が不完全だった。謎というほどのものではない。ただそれだけの話だよ」

 

 檀司郎の声が侮蔑に茹る。これは死者の冒涜であろうが、破落戸(ローグ)にとっては関係がない。これは天才を生む土壌、その根幹の部分なのだから。

 

「モンスターには個性がない。姿も、思考も、習性も。モンスターは人類を殺すが捕食はしない。排泄もしない。眠りもしない。差異は生まれず、ただ機械のように動作する。これでは天才、秀才、凡才という区分が生まれる筈もないだろう」

「……理解したくはなかったが、まさか」

「見た目というのは差異が分かりやすいだろう? 差異を強制的に生み出せばしぐさが生まれ、嗜好が分かれ、個性を育む。それが未来の天才を生む種火となる。そう、これこそが大多数のアラクネに違いという概念を叩き込むための作品さ。実に素晴らしい仕事をしてくれたとも!」

 

 差異があるからこそ思考に違いが生まれ、天才という存在が法の土壌に発芽する。呪詛の縄やテレパシー網。その全ての始まりが、死者から上半身を奪う所業であった。

 死ねよ探索者。貴様らの死を礎として活用してやろう。不遜な破落戸(ローグ)は自身の優勢を疑わない。この場の支配者は己であると、心の底から信じている。

 

「常人ならばおよそ数千人ほど死に至る量の呪詛でも止まらぬというのなら、いいだろう。貴様と桃華嬢の事を笑えんな。どうも私も難しく考えていたようだ。もっとシンプルに。そう。ただ力でねじ伏せ、殺す。無様に踊れよイレギュラー。ここが貴様の終点だ!」

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