大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
アラクネは許可なく糸を使ってはならない。
アラクネは許可なく言葉を発してはならない。
アラクネは攻撃以外で肉体を有してはならない。
アラクネは自身が殺した人類が女姓だった場合、上半身を入れ替えなければならない。
「問題だイレギュラー。この上半身を入れ替えたアラクネは果たして真にアラクネと言えるだろうか?」
元のモンスターとしての情報を参照するならばアラクネだ。探索者の上半身に変わったとて、ただ姿が違うだけなのだ。これはアラクネと言う他ない。
「ダンジョンは入れ替えた上半身をモンスターの一部と認めた。だから上半身がない死体が入り口に転がった。しかしあくまでも、
その口ぶりで桃華と檀司郎は理解した。目の前の
糸を使い、言葉を発し、攻撃していなくても幽霊化しない。不安定だと言っていたのはつまり、制御ができないという事だろう。
「だがまぁ、この場で暴れさせるだけならば問題はない。私も巻き添えをくらうというのは少々鬱陶しいがね」
ゴーレムを撲殺するほどの威力で殴ってなお砕けぬ鎧を、このアラクネ達であれば壊せるという自信に満ちている。
「さあ、やれ!!」
「面倒なッ!!」
殴り飛ばされたアラクネは、近くにいる檀司郎へ標的を変えた。手当たり次第に暴れる事しかできないらしい。強靭な糸を身に纏い、力任せに檀司郎へ攻撃をしかける。
その力はアラクネどころか、先程の
それが二体、三体と飛んでくる度、檀司郎を守る鎧が削れていく。
「グ、ゥ……ッ!」
五体、十体、十五、二十、三十、そして計四十六。百四十三層に潜る探索者程度であれば手も足も出るまい。鎧は砕かれ、血が噴き出し、苦悶に息が乱れてもグレートヘルムだけは壊させない。
「どう、する……か……ッ!」
もはや味方すらも攻撃に巻き込むほどの密度となったアラクネだが、攻撃の手は決して緩めない。少なくないダメージがお互いに入っている筈なのに、その表情は能面を貼り付けたように揺るがない。
攻撃に巻き込まれたアラクネの体液と、自身の血が檀司郎の身体を濡らす。鉄槌で反撃もしているが、アラクネの数は一体たりとも減っていない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」
目が霞もうとも、意識が途切れようとも、アラクネの攻撃を捌き続けるしか生きる道がない。地面には粘着性の強い横糸がぶちまけられ、逃げる事すらままならない。
一か八か、死を覚悟した正面突破のために両手の鉄槌を握り直した瞬間。
「【其は守護を尊ぶ支配の一翼──】」
「……は?」
それは彼女のピアスに刻まれた、魔法式をセットアップさせるための呪文。
「【
光属性の魔力を以て魔法が正常に発動する。それは
これは支配だけではなく庇護の一面もある魔法。対象者が負うダメージを全て請け負う代わりに、命令権を行使できる。
「バカな!? アラクネ達からは何の知らせもきていないぞ!!」
「私が全て倒しました。ご用の際はリスポーンをお待ちください。──蹴散らしなさい、檀司郎っ!!」
魔法の使用をアラクネに妨害されるのであれば、そのアラクネを鏖殺すれば問題ない。檀司郎が猛攻に耐えている間、桃華は上半身が入れ替わっていない素のアラクネを一時的に絶滅させた。
「おのれ桃華嬢!」
苛立つ
光属性の魔力は特別だ。モンスターへの特攻。呪詛を始めとした害意に対する耐性、及び効力の打ち消し。そして極めつけは魔法の強化。選ばれし者にしか宿らないとさえ言われる、生まれついての特権。その一端が檀司郎の背を押した。
「道を開けろ、木っ端共ォ!!!」
握り直した鉄槌を振るい、アラクネに直撃する。先程まではビクともしなかったアラクネの身体が吹き飛び、あろう事か泡と血を吐いて絶命していく。
その異常に
「呪詛だとッ! そのふざけた鉄槌に!?」
「ダンジョンに山と捨てられた魔剣、妖刀、呪いの武器。それらをたたらで溶かし固めたのが、この自慢の逸品だ」
呪詛の宿った武器はダンジョンで持ち主を蝕み殺す。地上では無力化される為、曰く付きの美術品として扱われているが、そこには当然美術品としての基準に満たないものも多く存在する。
それらを檀司郎は集め、知り合いの鍛冶師にどつかれながら溶かしたのだ。数多の悲鳴、悲嘆、怨嗟に憎悪。そして幾百、幾千もの曰くが混沌となったそれは、ダンジョン内で檀司郎以外が触ろうものなら問答無用で呪い殺す。まさに
「物理と呪詛の二段構えだ。安らかにとは決して言えないが、今すぐ楽にしてやるよ!!」
では対象者が命令に背く事がなければどうなるのか。むしろ率先して命令に従う場合はこの魔法はダメージを肩代わりするだけのものなのか。
否。その場合はボーナスとして対象者の行動に強化が施される。この強化幅も魔法発動者が肩代わりしたダメージ量によって上がる。
しかし今、
「まとめて吹っ飛べええェェッ!!!」
四十六体ものアラクネを殲滅すべく、檀司郎が吼え走る。振るわれる鉄槌の威力も、呪詛も、最初とは桁違いと言えるほどに強くなっている。
桃華は何らダメージを負っていない。檀司郎は桃華を傷つけさせない為に、強化されたアラクネの猛攻を搔い潜り掠らせもしない。にも関わらず、通常の
「光属性は呪詛とは正反対の力だ! 光属性の魔力を浴びれば、呪詛は瞬く間に失活する筈……なのに! なのに、なぜ!! 呪詛も強化されているんだ!!?」
「当然です。だって私は檀司郎を信頼していますから」
「そんなものが理由になるかッ!!!」
困惑する
なぜならそれが真実であると桃華の中で結論が出ているからだ。いくら理論を重ねたところで、現実は変わらない。光属性の魔力で呪詛の力を強化しているという現実は。
「呪詛と共存し、あまつさえ強化する光属性だと? ありえない。ありえないが、ありえているのが現実か。地上に呪詛が溢れていないという情報はやつらから聞いている。破滅太陽の予兆に変化はない筈だ。いや、いや、いや……待てよ、つまり……」
ぶつぶつと小声で自論の中に埋没する
鉄槌が当たっている箇所が腐ったかのように皮膚が変質するが、なぜか死には至らない。
「なるほど。あぁ、なるほど。桃華嬢よ、君は私達が求める姫君に間違いなかった! 認めよう、まさに奇跡の救世主だと!」
「ワケの分からない事をペラペラと──ッ!!」
「そしてイレギュラー。貴様の事も渋々ではあるが認めよう。貴様は強い。ここで始末するには戦力が足りない」
ギチギチと鉄槌を抑え込みながら、
「我が名はアルベルト。アルベルト・アルティソーラー! 姫君よ、またお会いしよう。イレギュラーよ、次は殺す!!」
次の瞬間には
アラクネの巣には再び静寂が訪れ、戦いが終わったのだとようやく実感がわいてくる。
「アルベルト・アルティソーラー……?」
しかしよりにもよって──。
「アルティソーラーというのは、確かアルティソール王国の……」
「正気か、狂気か、本気か。まさか外国の王族を騙るとはな」
──大和の遥か西に存在するアルティソール王国。その王族を騙るのは、いくら狂人といえど限度がある。もはや妄言だったでは済まされない。いつの時代でも、アルティソール王国は王族の名を汚した者を誅しているのだから。
しかし、それを踏まえても二人の心には奇妙な感覚があった。あの男とはまた会う事になるだろう。漠然と、桃華と檀司郎の中にその思いが沈み込んでいくのだった。