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体験入部
体験入部。
特定の部活動や組織に所属する前に、その活動を一定期間、実際に体験するための制度だ。
手紙に書かれていたスケジュールを要約すると、三日ごとに体験できる部活動が切り替わる、という仕組みらしい。
──6月4日、救護騎士団。
──6月7日、正義実現委員会。
──6月10日、シスターフッド。
etc...
キヴォトスでも有数のマンモス校。
流石というべきか、スケジュール表には数多くの部活動の名前が隙間なく並んでいた。
そして、その中でも特に目を引いたのが──
"(正義実現委員会、救護騎士団、そしてシスターフッドは確定で特注の制服と...結構見た目はかっこいいな)"
理由は、それだけだった。
理念でも、活動内容でもない。
ただ、目に留まったからというだけ。
とりあえずと言った所で、それぞれの説明文に目を通す。
正義実現委員会。
トリニティ総合学園の主要組織の一つ。
学園内外を問わず、トリニティ自治区における違反行為を取り締まる、治安維持組織。
名前が少し長いので、以降は正実と呼ぶことにする。
救護騎士団。
正実と同様、トリニティ総合学園の主要組織の一つ。
治安維持活動を行う点は共通しているが、こちらの役割は負傷者の救護と治療にある。
正実の生徒や、戦闘に巻き込まれた一般生徒の治療。
場合によっては、他自治区の人間であっても、仲間と判断されれば救護対象になるらしい。
...トリニティには、様々な思想の生徒がいる。
ゲヘナを
俺は、そのどちらでもなかった。
関わりがない以上、好きも嫌いもない。
正実にも言えることだが、この二つの組織に求められるのは──
人並み以上の臨機応変さ。
柔軟な思考と姿勢。
価値観の切り替え。
そして、戦闘力。
最後の項目が本当に必須なのかは疑問だが、少なくともそれ以外に関しては、この二つの部活で得られる
"(...あとは、シスターフ──!?)"
思考が、唐突に途切れた。
視界に飛び込んできた情報の処理が、明らかに優先されたからだ。
「カイトくん、だよね...?」
息を切らし、教室のドアを開け放った少女。
──聖園ミカが、そこに立っていた。
*
お互いが、言葉を失ったまま見つめ合う。
ミカは、俺の瞳を。
俺は、彼女の周囲に漂う
「え、えっと...その...」
ミカはたじろぎながら、何か用意していた言葉を引き出そうとする。
「こ、この三日間でさ...なにかあったの? 欠席の連絡もなくて...ナギちゃん達も心配してたよ?」
三日間。
その言葉を理解した瞬間、口が勝手に開きかけて──すぐに閉じた。
喋るな。
口を開くな。
そう言い聞かせるように、息を整える。
落ち着け。慌てるな。
ポケットから、メモ帳を取り出した。
───────────
覚えてない 分からない
でも 何か
─────
書き進めていた文字が突然途切れ、頭の奥に鈍い痛みが走る。
激痛ではない。
不気味で、不快な、説明のつかない痛み。
それが引いた頃には──
───────────────
トリニティ郊外で 襲撃に遭った
犯人は三人
─────
内容が、確信を越えていた。
俺の筆跡なのに、まるで書いた記憶が消しゴムで消されているような感覚。
襲撃?
いつ書いた?
いつ消した?
そして──
何だ、この内容は。
俺の消しゴムで雑に擦られ、上書きされた最初の単語。
「か、カイト君? もし体調が悪いなら、無理に...」
ミカが心配そうに、ゆっくりと距離を詰めてくる。
そして覗き込むように、メモの中身を見た、その瞬間──
*
──閉じていた瞼がゆっくりと開き、思考が息を吹き返す。
"...は?"
自分が思った以上に腑抜けた声を出してしまう。
それも、その声は少し低く、乾いていた。
"..."
やがて落ち着きを取り戻し、起き上がって周囲の状況に目を配る。
消毒液の匂い、白い壁に医療用のベッド。
真隣には、自死の腕に繋がる点滴を吊るした金属の滑車があった。
そのことから、この部屋は恐らくそれなりに設備の整った病院だ。
窓を覆うカーテンの隙間から、陽の光が漏れ込んでいる。
俺が毎日通っているトリニティ自治区の景色を、かなりの高度から見下ろせる高度がある。
朝日に照らされる道路、登校のために歩む多くの生徒たちの姿。
"(...いや、なんでこの距離で見えてるんだ?)"
通行人一人ひとりの足先から頭までの動きが、妙にゆっくりと、しかし正確な速度で追える。
視線をさらに凝らすと、生徒の身体を薄く覆う白いオーラのような膜が浮かび上がった。
"(...何だあれ)"
普通に目を向けるだけでは半透明の薄膜だが、よく見れば黒服が言っていた
今までは見えなかったはずのものが、今は当たり前のように視界へ入り込んでくる。
"...そうだ、スマホは..."
俺はまだ力の入らない腕で、ベッド横のテーブルへ手を伸ばし、スマホを掴む。
"充電...あるな、助かった"
電源ボタンを押し込む。
──5月1日 8:52
日付を軽く流し見し、パスワード入力画面を開く。
だが、そこで小さな違和感が胸にひっかかった。
"?"
言葉が途切れ、スマホを落としそうになる。
何かが、確実に
理解しきれない感覚が背筋を凍らせた。
電源ボタンを二度押し、画面を再表示する。
──5月1日 8:53
その一分の違いが、俺の思考を一段階上の現実へと引き上げた。
ただ、現実に引き戻されたことだけでは分からないこともある。
"...人も居ないしな...うん、呼ぼう"
至極簡単に言うと、記憶がとても曖昧だ。
だが、物事は焦っていてもどうしようもない。
なんなら、状況悪化という大きな風船を破裂させる可能性もあるだろう。
俺は躊躇いもなく、ナースコールを押していた。
─────────
早く元気になってね
ずっと待ってる
───────
そう書かれた
真っ直ぐ、見つめながら。
*
──約、三ヶ月前。
トリニティスクエア、その中央で脈打つ噴水の縁に、腰掛ける人影があった。
「やぁ、ミカ。パテル分派の首長に選びぬかれたそうじゃないか」
「あっ、もしかしてセイアちゃんも?」
「あぁ、体調も最近は安定しているのでね。君のその小躍りした表情を見る限り、ナギサもかい?」
「うん! ナギちゃんったら首長に選ばれた時、いつものお淑やかなお顔が大崩壊してたんだよ? 面白くない?」
「...ミカ。首長になったからには、悪ふざけも程々に留めるのだよ」
「えぇ~? あのセイアちゃんがお母さんみたいなこと言ってる! おかしなものでも食べちゃったのかな?」
「...それが本当に噛み切れる未来なら、私はとっくに飲み込んでいる」
──君が今のように笑うところまでを含めてね、ミカ。
タイトル詐欺のようになってしまい申し訳ないです。
簡単な流れを後書きに置いておきます。
カイト、10話の終了後に倒れるが、通行人に発見され、通報される。
↓
カイト、のちに消して軽くない銃創や血痕、怪我の具合から襲撃に遭ったと判断される。
↓
その時、ティーパーティーは例の条約の締結も控えていたため、ゲヘナに対する過激派の騒ぎを鎮圧&カイトの証拠隠滅。
↓
カイト、呪言の反動が到来しており瀕死&昏睡、長い夢を見始め、即座の治療は不可となる。
↓
ティーパーティーに入ってたカイトの友人であるミカ、ナギサ、セイア、医者、それぞれが呪言反動を正体の解析すらできずに軽く混乱&絶望。
↓
翌年の2~3月らへんにて、ミカ、ナギサ、セイアが進級と同時に、ティーパーティーの代表にそれぞれ選ばれる。
↓
カイト、生死の狭間を彷徨っている時に、突然誰かさんに匿われる。
↓
同年の5月1日にカイトが起き上がり、ナースコールをポチる。
↑
今ここ。
※「ゲヘナに対する過激派の騒ぎ」というのは「珍しい男子生徒が突然クラスから消えた&ニュースでトリニティの郊外に謎の弾痕があると報道された&ゲヘナ過激派の勝手な妄想」という流れで発生しました。記載不足で申し訳ございません。
※ティーパーティーの代表選抜、一部の建物、登場していた郊外などは完全な独自設定です。
ティーパーティーの代表選抜について、
原作について言及されている事を知っている方がいましたら感想にてお教え頂きたいです。
作者の方でも調べ尽くしたつもりなのですが、特には言われてなかったという覚えがあります。
主人公の所属部のアンケートです 作者の力が及ばず、二つしか選択肢を作れませんでした
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ティーパーティー(フィリウス分派)
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正義実現委員会