トリニティ総合学園所属、隠れ呪言師です。   作:トチ

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「作者の文に誤字がないことを...祈るね」


登校初日を終えて

『...貴方の呪言は、解除ができなくとも──適応できる可能性があります』

 

"...詳しく聞かせてくれ"

 

俺は通信機を少しだけ握りしめた。

適応。

その言葉が、わずかな希望として胸の奥で光る。

 

『呪言の適応については──貴方の神秘と魂の定着が大きく関わっています』

 

神秘と魂の定着。

また新しい言葉と使い回しが出てきた。

 

"待て、その前に聞きたいことがある"

 

俺は黒服の言葉を遮り、疑問を口にする。

 

"前言ってた"崇高"とか、今言った"神秘"って、そもそも何なんだよ? ちゃんと説明してくれないと話についていけない"

 

『...そうですね。であれば、先に説明致しましょう』

 

黒服は少し考え込むような間を置いた後、続けた。

 

『では、話の本筋を逸らさないために──"神秘"、"恐怖"、"崇高"について、私の解釈で簡単に説明しましょう』

 

"頼む"

 

俺は通信機に耳を近づけた。

 

『まず、"神秘"について。これは生徒を構成する要素の一つであり、膜のように生徒を覆っているものでもあります』

 

"...バリア的な?"

 

『えぇ。貴方は体験してないでしょうが、ヘイローに守られているため──例外を除き、生徒達は滅多なことでは死なない。それらが、神秘の保護だと私は解釈しています』

 

なるほど。

つまり、俺が今生きていられるのも、この"神秘"のおかげってことか。

 

『神秘の濃さや質によって、生徒の元々の強さや性質が変わります。濃ければ濃いほど、強力な力を持つ傾向にありますね』

 

"ふむ..."

 

『次に、"恐怖"について。これは生徒が持つ特殊能力であり、神秘の"元ネタ"のようなものです』

 

"元ネタ...?"

 

『そうですね...仮にですが、"落下"という恐怖を持つ生徒がいたとすれば、その生徒は重力を操れる...といった所です』

 

つまり、恐怖っていうのは──特殊能力の"テーマ"みたいなものか。

 

"じゃあ、門廻カイトの恐怖は...?"

 

『"言葉の恐怖"、あるいは"命令の恐怖"...といったところでしょうか』

 

言葉の神、か。

確かに、呪言という能力を考えれば納得できる。

 

『そして最後に、"崇高"について。これは神秘を持つ"生徒"が恐怖を所持している状態を指します』

 

"...どういうことだ?"

 

『簡単に言うのであれば...恐怖という能力を、神秘という器──つまり肉体に逆輸入している。それが崇高です』

 

"神秘と恐怖が、セットになってるってことか"

 

『...その解釈で恐らく問題無いかと』

 

なんとなく、分かった気がする。

神秘が強化バフやバリアで、恐怖が特殊能力で、崇高がその二つが合わさった状態。

そして、俺もその崇高含まれていると。

 

"...まぁ、分かった。必要な時はもう一回詳しく説明してくれ"

 

『承知しました』

 

黒服は短く答えた後、本題に戻った。

 

『では、話を"呪言の適応"に戻しましょう』

 

"あぁ、頼む"

 

俺は再び集中して、黒服の言葉を聞いた。

 

『先ほど言った通り、貴方の呪言の適応には──神秘と魂の定着が関わっています。そして現在、門廻カイトの神秘は──貴方の魂と拒絶反応を起こしています』

 

"拒絶反応...?"

 

『えぇ。今までの話を踏まえると当然のことではありますが、元々門廻カイトの神秘は、門廻カイトの魂に結びついてしていました。しかし、貴方の魂は異なる存在。そのため、神秘が貴方を"異物"として認識し、反発しているのです』

 

"それが、呪言の反動が強い理由か...?"

 

『その通りです。神秘が魂に対する拒絶反応が強いほど、呪言の反動も大きくなります』

 

それなら──

 

"その拒絶反応を、どうにかすればいいってことか?"

 

『えぇ。これは予測ですが...拒絶反応は時間経過によって"ほんの少しずつ"ですが低減し、呪言を使うことでも少しずつ低減できる筈です』

 

"呪言を、使う...?"

 

思わず聞き返した。

呪言を使えば使うほど、反動が減るってことか?

 

『これはあくまでもイメージですが...時間経過が24時間で拒絶反応を"0.1%"減らせるとすれば、1回呪言を使うと"1%"減る。私が調べた結果だとそんな所感でした』

 

"...つまり、呪言を使った方が、圧倒的に早く適応できるってことか"

 

『その通りです。拒絶反応が減れば減るほど、呪言の反動は低下し、効力も増します』

 

効力も増す、か。

つまり、今よりもっと強力な呪言が使えるようになるってことだな。

 

"でも...それって、結局他人に危害を加えなきゃいけないってことじゃないか?"

 

俺は唸った。

呪言を使うってことは、何かしらに命令を下すってことだ。

 

「吹っ飛べ」とか「浮け」とか──そんな命令を使い、呪言の本来の姿に逆戻りするとしよう。

だとしたら、必ず問題が出てくる。

 

"それじゃ、元々の門廻カイトに戻るだけなんじゃ..."

 

俺は苦悩の声を漏らした。

門廻カイトは、呪言のせいで孤立していた。

誰かを傷つけるかもしれない力を、怖がっていた。

俺が一番反動で傷つくだけならともかく、自分自身が呪言の本来の性能を引き出せと言われても──

 

『...その懸念は理解できます』

 

黒服の声が、わずかに柔らかくなった気がした。

 

『ですが、その懸念自体を解決できる"策"があるのですよ』

 

"...何だ? その策って"

 

『神秘と魂の定着が完全に済んだら──私が、貴方の恐怖を取り除く手術を行うことができます』

 

"恐怖を、取り除く...?"

 

『えぇ。恐怖を取り除けば、呪言は消失します。つまり、貴方は普通に喋れるようになりますよ』

 

その言葉に、俺の心臓が跳ねた。

普通に喋れる。

呪言がなくなる。

 

"...嘘じゃないよな? それ"

 

『契約で全面的な支援をすると言ったでしょう。話を戻しますが、神秘と魂の定着が完全に済むまでは不可能です。中途半端な状態で手術を行えば、以前の門廻カイトのように魂のテクスチャが崩壊する危険性があります』

 

"...どれくらいかかる? 完全に定着するまで"

 

『それは──拒絶反応をどれだけ減らせるかによります。早ければ数ヶ月、遅ければ数年かそれ以上です』

 

数年以上...考えたくもないな。

でも──希望はある。

いつか、普通に喋れるようになる。

いつか、呪言から解放される。

 

"...分かった"

 

俺は深く息を吐いた。

 

"じゃあ、どうすればいい? 呪言を使うって言っても、誰に使えばいいんだ?"

 

『それは──貴方次第です』

 

黒服の声が、再び淡々としたものに戻った。

 

『戦闘やトラブルに巻き込まれた際に使うもよし。あるいは──日常的に小さな呪言を使い続けるのも一つの手です』

 

"...トラブルで使うのはともかく、日常的に...?"

 

『...そうですね。例えば、"浮け"や"動け"といった小さな命令を、あくまで消しゴムなどの"物体"に対して使う。反動も少ないかもしれませんが、確実にリスクは減るでしょう』

 

なるほど。

軽い物を浮かせるような、反動が小さな呪言を繰り返せばいいのか。

 

"...それなら、できそうではある。でも──"

 

『はい、勿論焦りは禁物です。無理に強い呪言を使えば、反動で貴方が先に倒れるでしょう。過度な行使はせずに、少しずつ進めてください』

 

"分かった"

 

今度は、違う意味で通信機を強く握りしめた。

道筋が見えてきた。

今はまだ、呪言に苦しめられているし、縛られている。

 

"...ありがとう、良いことを知った"

 

でも──いつか、それから解放される日が来るのだと、そう思わせてくれて。

 

「...礼には及びませんよ」

 

"黒服、一つ聞いていいか?"

 

『何でしょう』

 

"...元々の門廻カイトは、その手術をしようとしたんだろ? ならなんで失敗したんだ?"

 

その質問に、黒服は少しだけ沈黙した。

 

『...正直に言えば、分かりません』

 

"分からない? 実験をしたアンタがなんで知らないんだよ"

 

『私が直接施術をした訳ではないので。ただ──』

 

続きを喋ると思った黒服が、珍しく言葉を詰まらせた。

 

『...カイトさん』

 

"...どうした? 先に回答を──"

 

『申し訳ないですが、その質問にはお答えできません』

 

"は...?"

 

妙に引っかかる疑問があった。

ここまで言いかけて、普通急に止めるか?

逆に気になってしまう。

 

『アビドス砂漠には、何があっても近づかない方が良いでしょう。貴方にお伝えできる事はこれだけです』

 

アビドス砂漠。

底を重ねがけるように、疑問が深まった。

教材で見た限り...元々キヴォトスの歴史にて元々一番大きかったマンモス校の跡地、だった気がする。

 

"...分かった"

 

正直、肯定はしたが、共感が出来ない。

なぜそんなキヴォトスの辺境にわざわざ向かうのか、それが分からない。

 

『...では、今日はこの辺りで。また何かあれば、連絡してください』

 

"あぁ、ありがとう"

 

通信が切れた。

俺は通信機をポケットにしまい、空を見上げた。

いつの間にか訪れた夕焼けが、街を赤く染めている。

 

"(それにしても。呪言を使い続ける、か...)"

 

正直、痛みに耐えるのは嫌だし、気が重い。

でも、やるしかない。

普通に喋れるようになるために。

この世界で、門廻カイトの分もちゃんと生きていくために。

 

"(...足掻くしかないな)"

 

俺は歩き始めた。

ただ家へと、帰るために。

 

 

 

 

アパートに戻り、俺は机の前に座った。

 

"(さっそく、試してみるか)"

 

引き出しから消しゴムを取り出す。

黒服が言っていた通りであれば、小さな呪言を繰り返せば──拒絶反応は"ほんの少しずつ"減っていく筈だ。

 

"浮け"

 

消しゴムがふわりと浮き上がる。

喉に、軽い違和感。

数秒後、消しゴムが落ちる。

違和感も消える。

 

"(...よし)"

 

もう一度。

"浮け"

また浮き上がる。

また違和感。

これを繰り返す。

何度も、何度も。

 

"浮け"

 

"浮け"

 

"浮け"

 

十回ほど繰り返したところで──喉が少し痛くなってきた。

 

"(...今日はここまでにしておくか)"

 

無理は禁物だ。

焦って喉を潰したら、元も子もない。

俺は消しゴムを机にしまい、ベッドに横になった。

 

"(今日は...色々あったな)"

 

入学式。

...こんな俺に、優しく接してくれた生徒との出会い。

黒服との通話。

そして、希望が見えたこと。

 

"(いつか、普通に喋れるようになるんだよな)"

 

その日を、言葉を信じて──

 

 

 

 

 

──俺は、目を閉じた。




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