自己解釈まみれの日常回はまだ続くので、曇らせタグは"まだ"働きません。
あれから、更に五日が経過していた。
"(ミカやナギサとの食事、楽しかったなぁ)"
俺は教室の自分の席に座りながら、そんなことを考えていた。
毎日、尖塔で三人で昼食を取る。
ミカの明るい笑顔、ナギサの穏やかな微笑みを思い浮かべた。
"(何より、誘ってくれて嬉しかった)"
孤立を覚悟していた俺にとって──二人の存在は、本当にありがたい。
そして──あの日以来、公園であの不思議な少女には会えていない。
"(...名前も聞けなかったしな)"
少し残念に思いながら、俺は立ち上がる。
何故なら今日は、通常の授業ではない。
各クラス合同の体力測定だ。
"(もしかしたら、会えるかもしれないな)"
あの少女も、トリニティの生徒だった。
体力測定なら、他のクラスの生徒とも顔を合わせる。
"(...でも)"
俺は少しだけ、不安を覚えた。
体力測定。
つまり──身体を動かすことになる。
"(...呪言もあるし、慎重にいかないと)"
そう自分に言い聞かせて、俺は席を立った。
体育館へと向かう。
廊下を歩いていると──後ろから、声がかけられた。
「カイトさん」
振り返ると──ナギサが立っていた。
俺はメモ帳を取り出して、書き連ねる。
──────
どうしたの?
──────
するとナギサは少しだけ申し訳なさそうな表情で、口を開いた。
「あの...お願いがあるのですが」
"(お願い?)"
俺は首を傾げた。
ナギサは少し言いづらそうに、続ける。
「実は...ミカさんが、他のクラスの生徒とペアを組んで体力測定をするそうなのです」
"(...あぁ)"
つまり──ナギサが一人余ってしまう、ということか。
「お恥ずかしながら...私、余ってしまいまして。もし宜しければ、カイトさんとペアを組ませていただけないでしょうか?」
ナギサが小さく頭を下げる。
俺は即座にメモに───OK───とだけ書いて見せた。
ナギサは目を丸くして──そして、ほっとしたように微笑んだ。
「ありがとうございます...助かります」
その表情は、さっきまでの申し訳なさそうな顔とは違い──少しだけ、明るかった。
*
体育館に到着すると、既に多くの生徒が集まっていた。
クラスごとに整列し、教師からの説明を受ける。
「では、これからペアごとに各測定場所を回ってください。測定項目は──腹筋運動、ハンドボール投げ、反復横跳び、射撃精度、そして握力測定です」
射撃精度、か。
"(キヴォトスならではだな...)"
俺は少しだけ緊張しながら、ナギサの隣に並んだ。
「では、始めてください」
教師の合図で、測定が開始された。
*
腹筋運動
俺とナギサは、まず腹筋運動の場所へ向かった。
ナギサが先に測定を受ける。
「では、30秒間でお願いします」
教師がストップウォッチを構える。
ナギサが床に寝転び──腹筋を始めた。
"(...速い)"
ナギサの動きは、驚くほど正確で速い。
まるで機械のように、一定のリズムで腹筋を繰り返す。
30秒後──
「はい、終了。45回です」
"(は?? 45回...!?)"
俺は目を丸くした。
30秒で48回って、意味が分からな──
「カイトさん、次は貴方ですよ」
ナギサが微笑む。
俺は慌てて床に寝転び──腹筋を始めた。
だが──
"(きつい...!)"
元の世界では運動部に入っていたが、門廻カイトの肉体はそこまで鍛えられていない。
...というか、神秘の定着も関わっているのか?
そんな中、30秒後──
「22回です」
"(...半分以下か)"
俺は少しだけ落ち込んだ。
*
ハンドボール投げ
次はハンドボール投げ。
ナギサがボールを手に取り──投げた。
ボールは綺麗な放物線を描き、遠くに飛んでいく。
「32メートルです」
"(...すごいな)"
俺も投げたが──26メートルだった。
反復横跳び
ナギサが素早く左右に動く。
20秒間で──48回。
俺は──31回。
"(...完敗だな)"
*
射撃精度
これが、キヴォトス特有の的に向かって銃を撃つ測定だ。
ナギサが先に撃った。
イヤーマフ越しでも伝わる銃声、そして──
三発、殆どが中心に命中。
"(...この子、本当にすごいんだな)"
俺は銃を手に取った。
初めて触る、本物の銃。
"(...重い)"
引き金に指をかけ──撃つ。
パン──
的の端に当たった。
もう一度。
パン──
今度は的にすら当たらなかった。
最後の一発。
パン──
今度は中心に近い。
「三発中、一発が中心です」
"(...まぁ、初めてだしな)"
*
そして──最後の測定。
握力測定だ。
俺とナギサは、握力測定機の前に並んだ。
「では、桐藤ナギサさんからどうぞ」
ナギサが測定機を手に取る。
そして──力を入れようとした、その時。
"(...ん?)"
ナギサが動きを止めた。
まだ、力を入れていない。
"(どうしたんだ?)"
俺はメモに『握っていいですよ』と書こうとして──
ナギサの視線を追った。
そして──俺も、そちらを見た。
"(...え?)"
そこには──
握力測定機を粉々に壊してしまったミカの姿があった。
測定機の持ち手が、完全に砕け散っている。
ミカは呆然とした表情で、呟いた。
「やっちゃった...」
そして──ゆっくりと、粉々になった持ち手を地面に落とした。
"(は? は?? なんで、こうなって...はぁ???)"
俺の頭は、完全に混乱していた。
握力測定機を、素手で壊す?
そんなこと、可能なのか?
いや、待て。
キヴォトスの測定機は、生徒の力に耐えられるように頑丈に作られているはずだ。
それを壊すって──
"(...こんな例もあるのか)"
俺は黒服の言葉を思い出した。
───神秘の濃さや質によって、生徒の元々の強さや性質が変わります───
つまり──ミカは、それだけ強い神秘を持っているということか。
"(はぁ...ちょっと羨ましいな)"
内心でため息をつく。
ふと、側に影を感じて──俺は視線を横に向けた。
そこには──
"(...!)"
ふわふわとした尻尾に、キツネのような耳。
あの日の少女──百合園セイアがいた。
セイアは静かに、ミカの方を見ている。
そして──周りの生徒たちも、ミカを見ていた。
だが──誰も近づこうとしない。
引き気味に、距離を置いている。
"(...ん?)"
ミカは落ち込んだ表情で、俯いている。
対して周りの生徒たちは、ヒソヒソと囁き合っていた。
「やっぱり、聖園さんってさぁ...」
「怖っ...」
「あんな力、絶対普通じゃないよ」
"(...そういうことか)"
俺は理解した。
ミカは──怖がられている。
その圧倒的な力ゆえに。
"..."
俺は迷わず、ミカに近づいた。
周りの生徒たちが、驚いた表情で俺を見る。
だが──気にしない。
俺はミカの前に立ち、メモを見せた。
────
大丈夫?
────
ミカは顔を上げ──俺を見た。
「カイト君...」
ミカは少し力なく笑った。
「大丈夫だよ。でも...気持ち悪かったよね、女の子がこんな怪力で...」
"(...違う)"
俺はそう思った。
気持ち悪いなんて、思わない。
ただ──驚いただけだ。
俺はかなり迷った末に、もう一枚のメモをそっとミカに渡した。
ミカはメモを受け取り、目線を文に巡らす。
そして──
「...っ」
頬が、真っ赤に染まった。
「カイト君...ありがとう」
ミカが小さく、そう呟いた。
"(...良かった)"
俺は少しだけ、安心した。
──だけど、その時。
「...なるほど。君にとって“姫”と呼ぶに相応しい存在は、ミカなのだね。
ふふ、実に興味深い選択だ」
突然、側から声がかけられた。
"!?"
俺は驚いて、声の主を見た。
セイアだ。
セイアは微笑みながら、俺を見ている。
"(メモの内容、見られてた...!?)"
俺は慌てて周囲を確認する。
だが──他の生徒たちは、メモの内容を知らないような反応。
"(...セイアだけ?)"
なんでだ?
でも──
"(まぁ、いいか)"
あまり気にしないでおこう。
「あぁ、失礼。肝心なことを忘れていた」
セイアは続け様に、思い出したかのように俺に手招きをした。
「改めて名乗ろう。私は百合園セイアだ。この先、波風立てず穏やかに──いや、互いに退屈しない程度には、良き関係を築ければ嬉しい」
俺は軽くお辞儀をし、───よろしくね───とメモに書いて渡した。
セイアは微笑んで、メモを受け取ってくれた。
そして──俺は、未だに放心状態のナギサを連れて、その場を離れた。
*
全ての測定を終え、休憩時間になった。
俺とナギサは、体育館の隅で水分補給をしている。
「ふぅ...」
ナギサが小さく息を吐いた。
そして──ふと、独り言のように呟いた。
「ミカさんの怪力ぶりは、久しぶりに見ましたね...」
"(...久しぶり?)"
俺はナギサをバッと見た。
そして、メモに書く。
─────────────
ミカとは昔から仲が良いの?
─────────────
それを見せると、ナギサは少し悩んだ後──小さく頷いた。
「...はい。ミカさんと私は、幼馴染なのです」
"(幼馴染、か)"
俺は薄く微笑んだ。
ナギサは少し頬を赤らめて、視線を逸らす。
「あの、恥ずかしいので...こちらを見ないでいただけますか?」
だが、俺は微笑み続けた。
「...もう」
ナギサが困ったように眉を下げる。
そして──咳払いをして、話題を変えた。
「そういえば、カイトさんは結局...ティーパーティーには入られるのですか?」
俺はメモに───体験入部で決めようと思ってる───と書いて見せた。
ナギサは「確かに、そうですね...」と納得したように頷いた。
*
昼休み。
今日は掃除当番の関係で、尖塔に行けなかった。
代わりに──俺たち三人は、とある空き教室のベランダ。
トリニティ総合学園風で言うなら、テラスでお弁当を食べることにした。
青い空、心地よい風が頬を撫でる。
三人で黙々と、だが笑顔でお昼ご飯を食べる。
「ほふいえは」
ミカが口に食べ物を入れながら、話題を切り出した。
「ミカさん、お行儀が悪いですよ」
ナギサが優しく注意する。
だが、ミカは「あはは...耳が痛いなぁ」といった後、俺に尋ねた。
「カイト君って、何分派なの?」
何かと思えば、俺の分派か。
俺はメモに───フィリウス分派だよ───と書いて見せた。
ミカは目を丸くして、拍子抜けしたような表情の後に──
少しだけ、悲しそうな表情をした。
「そっか...」
ミカが小さく呟いた。
「私、パテル分派なんだよね。一応、期待の新人って言われてるんだけど...」
ミカの言葉はそこで途切れ、どこか寂しそうな表情をしていた。
"...?"
俺は首を傾げた。
分派が違うと、何か問題があるのだろうか。
だが──ミカはすぐに笑顔を作った。
「まぁ、大丈夫! 分派が違っても、私達はずーっと友達だもんね!」
その笑顔は──少しだけ、悲しさを取り繕っているように見えた。
評価、感想等をお寄せ頂きありがとうございます。
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主人公の所属部のアンケートです 作者の力が及ばず、二つしか選択肢を作れませんでした
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ティーパーティー(フィリウス分派)
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正義実現委員会