トリニティ総合学園所属、隠れ呪言師です。   作:トチ

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初の三人称視点ですが、区切りが悪いので今回は短めです。



定期報告

夕日が沈みかける頃、外光が黒いカーテンに遮断された部屋の中で、コト...と弱く硬質的な音が響く。

コーヒーが入ったマグカップをデスクに置いた黒服は、口から溜息を零した。

 

「...お越し頂き感謝します。カイトさん」

 

呟くように言ったそれに、カイトは渋々といった具合で応じる。

 

"...まぁ、来なかったら契約解除だしな。それで、今回は一週間早めの定期報告って事だよな?"

 

「はい、タイミングは月の終わりに固定しておきたいので」

 

黒服は軽く咳払いをした後、椅子の背もたれから起き上がった。

 

「では早速始めましょう。まず、トリニティでの生活はどうですか?」

 

"まず問題は無い。呪言がある俺にも友達ができる程度にはな"

 

そう告げるカイトは、スマホの写真フォルダーにあるミカとナギサの写真を見せる。

黒服は一瞬、画面を凝視した。

 

「...クックック、それは興味深い。一体どの様に友人関係を築いたのか、教えて頂いても?」

 

くつくつと笑った後、驚愕と興味を含んだ表情で問う黒服に、カイトは"うーん..."と唸った後に続けた。

 

"それって笑うことか? まぁ、簡単に言えば相手が優しかったと言うか...メモを使って筆談で話しただけだ"

 

「なるほど。筆談...確かに、言葉を制限して喋るより、遥かに安全でしょうね」

 

黒服は少し考え込むような仕草をした後、続けた。

 

「ところでそのお二人は──聖園ミカと桐藤ナギサですね?」

 

"...なんで名前知ってんだよ"

 

カイトは少し警戒するように、黒服を睨んだ。

だが、黒服は淡々と答える。

 

「...お答えできる範囲で言うと、私は独自の情報網を持っているので。それに──彼女たちは、トリニティでも特に注目されている生徒です」

 

"注目?"

 

「えぇ。桐藤ナギサは新入生代表を務めたフィリウス分派所属の優等生。そして聖園ミカは──」

 

黒服が言葉を区切る。

 

「武力を象徴するパテル分派の期待の新人、と呼ばれているようですね。実際、私が分析した限りでは将来的にティーパーティーの中枢を担う可能性がある生徒です」

 

"武力を象徴...そうなのか"

 

カイトは少し驚いた表情で、スマホの画面を見た。

ミカの笑顔が、そこにある。

 

「ただし」

 

黒服が付け加えた。

 

「聖園ミカは、その圧倒的な力ゆえに他分派の生徒から距離を置かれている節もあります。つまり貴方が彼女と友人関係を築けたのは...彼女にとっては少なくとも幸運、と言えるかもしれませんね」

 

"...幸運、か"

 

カイトは少し複雑な表情で、呟いた。

黒服はコーヒーを一口飲んだ後、話題を変えた。

 

「...そういえば」

 

何かを思い出したかのように言葉を区切る。

 

「この二週間の間に、呪言を使いましたか?」

 

"家以外では使ってない。家では、消しゴムを浮かせる訓練を毎日十回ずつやってる"

 

「十回...予想はしていましたが、控えめですね」

 

"無理して喉を潰したくないからな"

 

「賢明な判断ですよ」

 

黒服は頷いた。

そして──カイトがふと思い出したように尋ねた。

 

"あと一つ聞きたいんだが...神秘の定着って、今の身体能力と関係あるのか?"

 

黒服はしばらく考え込んだ後、少し口を開いた。

 

「...えぇ、ありますよ。態々聞くということは、体力測定の結果に不満でしたか?」

 

"...それも、知ってるのか"

 

カイトは驚いた表情で、黒服を見た。

 

「クックック...不満かどうかは予測でしかありませんよ」

 

"...分かってるよ。でも頼むから、友達関係はこれ以上詮索しないでくれ"

 

カイトは深い溜息を零し黒服を見るが、黒服は動揺も笑いもせず、ただ不気味な目線を返す。

そんな状況が数秒間続いた後──カイトが再び口を開いた。

 

"で、神秘の定着が進めば身体能力も上がるのか?"

 

「えぇ。現在の貴方は、門廻カイト本来の身体能力を十分に発揮できていません。神秘と魂の拒絶反応が、身体のパフォーマンスを阻害しています」

 

"...つまり、定着が進めば──"

 

「貴方は、更に強くなるでしょう。聖園ミカにも劣らない──いえ、それ以上の力を得るでしょうね」

 

黒服の言葉に、カイトは息を呑んだ。

 

"...本当か?"

 

「えぇ。門廻カイトの神秘は非常に特殊です。その全容は、戦闘を行わなかった故に私にも測りきれませんが...少なくとも、キヴォトスでも指折りの強さを秘めていると推測しています」

 

"(そこまで...なのか?)"

 

カイトは自分の手を見た。

今はまだ、平凡な──若しくはそれ以下の力しか持たない手。

 

"(...強さ)"

 

その二文字が、心の中に染み渡る。

黒服はカイトの表情を見て、小さく頷いた。

 

「初回にしては上々でしょう...今月の定期報告はこれで終わりとします。何か聞きたいことは?」

 

カイトは、突然黒服が放った言葉に少し驚きつつも、返答をする。

 

"今は無いな"

 

「承知しました。それではまた一ヶ月後にお会いしましょう」

 

"..."

 

無言で振り返り、歩き始めるカイトを視界に据える黒服は手を振ることも、見送ることもしなかった。

扉が閉まる音が、静かに響く。

黒服は一人、部屋に残された。

 

「──」

 

黒服はコーヒーを飲み干し、マグカップを机に置いた。

そして──懐から、小型の通信機を取り出す。

ボタンを押す。

 

「もしもし。ええ、私です」

 

誰かと通話を始める黒服。

その声は、いつもより少しだけ──冷たかった。

 

「...タイミングは仕方なく合わせましたよ。カイトさんには悪いですが...貴方の気が済むまで試すと良いでしょう」

 

沈黙。

相手が何かを話しているのだろう。

 

「尤も、彼に秘められた権能を前に敗走せずに済めば...という話ですが」

 

黒服は静かに通信を切った。

そして──窓の外を見た。

夕日が、完全に沈んでいる。

長い夜が、訪れようとしていた。

 

「...さて」

 

黒服は椅子に座り直し、机の上の書類を手に取った。

 

「どうなることやら」

 

その言葉は、誰に向けたものでもなく──

ただ、静かに部屋に響いた。




恐らく次回は戦闘回です。
最近は特に忙しいせいで投稿が遅れてしまうかと思われますが...首を長くしてお待ち頂ければ嬉しいです。

主人公の所属部のアンケートです  作者の力が及ばず、二つしか選択肢を作れませんでした

  • ティーパーティー(フィリウス分派)
  • 正義実現委員会
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