アフターワールド   作:プラモプール

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お待たせしすぎました


作戦成功!

 

 

"極拳"

 

 フィーネが編み出した身体に宿る全ての力を、拳に込め相手に叩き込む一撃必殺を体現した技。その技の効果はエイリとその主アーシャに大きく現れていた。

 

「ぐっ!?」

 

 エイリの腕がもげ、彼方に吹き飛ばされると同時に、アーシャの右腕が痛々しい音を立てて折れる。         

 しかし、アーシャは歯を食いしばりながら、折れた右腕を振り回す。それに呼応し、エイリはもげた右腕から、嵐のように荒れ狂う影を生やした。その腕が地面に触れると、抉れ、破片を飛び散らしていく。

 フィーネは、それから逃げる様に反対方向へ走る。だが、エイリは左腕も右腕と同じものに変え、フィーネが走る方向へ叩き付ける。

 挟み撃ち。止まれば八つ裂きに、止まらなくても八つ裂きになる。そこでフィーネが取った行動は上空へのジャンプだ。エイリの右腕と左腕がぶつかり、衝撃波が発せられる。エイリが身体のバランスのを見たフィーネは、即座に右腕に力と魔力を込め、アーシャが篭っているエイリの胸部に拳を打ち込んだ。

 ブチっと、エイリから何かが千切れるような音が聞こえ、そのまま地面へ倒れてしまった。

 

「どうだ!」

 

 フィーネが地面に着地する。倒れたエイリから、体制を崩し、咳をしているアーシャが現れた。そして、アーシャの口から温かい物が出てきた。

 フィーネはその様子を見て、口を押さえた。恐らくエイリが巨大化したことによって、アーシャと感覚を共有することになったのだろう。戦い方が単調になったのも、アーシャの思考が主軸になって、エイリの身体を動かしていたからだ。

 フィーネはアーシャにトドメを刺そうと近づいていく。

 

「……もういい」

 

 アーシャが小さく呟くと、さっきまで倒れていたエイリが、形を歪めていく。そのままエイリだった影はアーシャの周りを巡り、その影が勢いよく解き放たれた。

 フィーネは防御の姿勢に入るが、影は身体をそのまま通り抜けていった。

 

「ハッタリか?…あれっ?」

 

 気づけば地面一帯に影が広まっていた。いや、地面だけではない。建物、空、すべての空間が影になっていた。先程とは比べ物にならない程、周りが真っ暗になっていた。アーシャがいた場所をフィーネは見るが、そこにはただ影が広がっていただけだった。

 

「あなたも邪魔」

 

 いないはずのアーシャの声が反響するように聞こえた。

 

「あなたも嫌い。人を殴っているのにずっと笑顔。怖がる私を笑ってるんでしょ?」

 

 フィーネは周りを見るが、アーシャはどこにも見当たらない。フィーネは露骨に怒り、怒声を上げる。

 

「おい、影に隠れてねぇでとっとと出てこいよ!あと、あの金髪潰そうとしてたお前は人のこと言えんのか!?」

 

 声を荒げるが、空間に変化はなく、暗闇が続く。どこからか、アーシャの声がまたもや反響する。

 

「あいつが…悪いの。あいつが、私を嘲笑ってくる。あなたも一緒だから」

 

「死んで」

 

 その瞬間、暗闇から何かが飛び出してきた。フィーネは咄嗟に避けるが、腰に掠る。フィーネは周囲を見る。飛び出してきた物は目視できなかった。魔力を探して攻撃方法を見極めようとするが、魔力はどこにもない。

 

 正体不明の攻撃、魔力での探知も行えず、目視も不可能。苦戦を強いられるとは正にこのことだった。

 

 フィーネは必死に不可視の攻撃を避けるが、全てを避け切ることはできない。動きと共に疲労が溜まっていき、その隙を突かれ、段々と傷を増やしてしまう。

 

「ふふ…可哀想…」

 

 嘲笑うようなアーシャの声が響き、フィーネは苛立っていた。だが、その苛立ちが隙になってしまう。

 

「しまっ…」

 

 全方位への警戒が緩んでしまった。死角からの攻撃が直撃する。それと同時に暗闇に包まれた空間が解除される。

 膝を付いたフィーネの前に、くすくすと笑いながらアーシャが現れる。

 

「へぇ…あんた、結構やるじゃん」

「この状況でまだ強気なんだねぇ」

 

 後に続いてエイリが地面から現れる。エイリはフィーネとの距離を一歩一歩詰めていく。その様子をエイリの背後にいたアーシャはニヤニヤしながら見ていた。

 ここでフィーネは、息を吐き、グッとアーシャを睨みつけた。

 

「そういや、あんたは何が目的でこんなことしてんだよ」

 

 その言葉に、アーシャは目を輝かせた。明らかに気分が上がっており、エイリを止めてステップをしながら、フィーネに近づいた。

 アーシャは、口をフィーネの耳元に近づける。

 

 

 

「私達はね、リリス様の命令で動いてるの。リリス様はね、私達のお母さんで、恩人で、すっごい良い人なのっ」

 

「私達の言うことを全てを受け入れてくれる。否定をしない人なんだよ?ただそれだけでリリス様について行くの。親の命令を聞かない子供はいないでしょ?」

 

 気分良く、自身の主であるリリス様について話しているアーシャを見ていたフィーネは、あまり良い気分とは言えない表情だった。

 

 

 

「…あのさ、一ついいか?」

 

「えっ、何?」

 

 

 

「…何一つ良さがわからない」

 

 

 

 アーシャはフィーネの反応の後、目が点になった後、少し驚いたような表情を見せた。

 フィーネは立ち上がり、腰に手をつけて堂々と立つ。

 

「えぇ…?何で?」

「あんたがそのリリス様とやらを尊敬してることはよーくわかったよ。でもさ、あんたが言ってるのは"優しい"ってだけだろ?母親ならもっと…」

「ちょっと待ってよ!」

 

 アーシャは震える身体から必死に声を出した。アーシャ自身のことを言われてるわけではないのに、声が出た。

 何故か、自分にも今の言葉が刺さっている気がした。それで良いのに。そのはずなのに。

 そんな思いに蓋をしようと、アーシャはフィーネに反論した。

 

「優しいだけって…それで良いじゃん!何でそれ以外を求める訳!?叱られたら、悲しくなったり、辛い思いもするじゃん!そんな物いらないでしょ!?」

「いや、いるよ…」

 

 

 

「少なくとも、私の親同然だった人は褒めるだけの人間じゃなかったからな。だから、あんたの言う"良さ"を私は良いとは思えない!」

 

 

 

 フィーネは、腕を組み、堂々とした姿ではっきりと言う。

 優しくしてくれると同時に、叱ってくれる人がいた。だからこそ、行方を暗ました時のフィーネは、自身の行動が正しいとは思わなかった。実際、久しぶりに戻った際に、その親同然の人にかなり叱られた。叱られるのは辛かったが、それと同時に、この人がいるから、今の自分がある事にフィーネは気づいたのだ。

 アーシャの言っていたことは間違いではない。だが、辛い事があるからこそ成長できると言う考えがアーシャにはない。だからフィーネはアーシャの考えが分からなかったのだ。

 

 

 

 

「…じゃあいいよ!殺すのは可哀想だから…リリス様の仲間にしてあげようと思ってたのに…!」

 

 アーシャはフィーネを許せなかった。自身の考えを否定され、それに反論できなかった自身に怒ると同時に、主を否定したフィーネへの怒りが入り混じっていた。

 アーシャは怒りの表情を露わにし、金色の魔力を大量に放出する。禍々しくも美しい魔力が、アーシャの周りに纏わりつく。

 

「そんなに死にたいなら…望み通り殺してあげる!」

 

「…悪いけど、私は死なない。それにさ…」

 

「私に気を取られて、本命忘れちゃってないか?」

 

 

 

 

 その時、上空から一つの小さな球体が落ちてきた。それと同時にフィーネは目を瞑り、腕で目を隠した。

 そのまま球体は、光を帯びて、

 

 

 

 激しい光を放った。

 

 

 

「っ!?」

 

 アーシャは影で全身を包むが、光によって影がチリになって消え去ってしまう。そして、それはエイリも例外ではなかった。エイリは後退り、身体から焼けるような音が聞こえると、巨体が段々と小さくなっていく。

 

「…まさか、この時のために!?」

 

 アーシャを守る影が消えた瞬間、少年のような容姿をした男が、アーシャの目の前に現れる。

 その少年の手には、雷を纏った剣が握られていた。光で視界が遮られたアーシャが一瞬目にしたのは、今まさにその剣を振り下ろそうとしている男の顔、その顔はあのミシェルだった。

 

 そのまま、男は剣を振り下ろした。光の中に、更にまた一つ光が瞬いた。

 激しい轟音とが鳴り響き、光が消えると同時に、その轟音も消え去った。雷によって発生した煙が晴れる。そこには、全身の至る所に傷が付き、特に胸には剣によって斬られた傷がくっきりとあった。

 

「ま…まだ…」

 

 雷を直接叩き込まれながらも、アーシャは影を呼び出そうとする。

 

 だが、

 

「遅いですよ」

 

 ミシェルは、身体を屈める。ミシェルの後ろには拳を握り締めたフィーネが走り出していた。

 そのまま、一気に距離が縮まり、

 

 フィーネの必殺が、アーシャの顔面に叩き込まれる。

 

 

 

「"極拳"ッ!!」

 

 

 

 拳がアーシャの顔面にめり込み、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。そのまま、奥の瓦礫の山に大きな音を立てて衝突する。

 

 瓦礫が崩れる音の方向を、フィーネとミシェルは見つめた。

 そこには、地面に倒れたアーシャがいた。

 

 

 

 

「あの感じは……やったか?」

「そうでしょうね。酷くめり込んでましたから」

 

 その様子を二人が見た後、ミシェルは一息ため息を吐き、フィーネの方を向いた。

 ミシェル自身、フィーネがあの巨体とやり合えるとは思ってもいなかったので、たった一人であの精霊使いを圧倒していたフィーネには少し引いたような顔をしてしまっていた。

 対して、フィーネはそれを自慢するように胸を張って、口角を上げていた。

 

 

「どうだ!これが私の力だ!」

「あの時、助け入らなかったらあなた死んでたでしょ」

「んなっ…全然大丈夫だったしー!私一人でも全然やれたしー!!」

「はいはい…けどまぁ、取り敢えず……」

 

 

 

「お疲れ様です」

「……おうよっ」

 

 

 

 その後、ナイツ・エンパイアを覆っていた影は消え去り、長い長い夜が終わった。そして、壊れた都市の中心に立つ二人を、太陽が照らしていた。

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