パルクはミシェルとフィーネとは別の部屋のベッドで身体を休めていた。
あの時、最初に来た時はかなり不味い雰囲気だったが、口喧嘩が始まってからはあの二人からの嫌な雰囲気はなくなっていた。口喧嘩に巻き込まれるのを予想し、パルクはその部屋を後にした。
そして、現在はベッドに大の字で寝転がり、天井を見つめていた。
「……よくよく考えたら、俺の休日ほぼパーじゃんか」
パルクは顔を手で覆い、自分の休日が丸一日潰れたことを嘆く。
パルクの職は、休める時間が多くない。その為、久しぶりのこの休日で疲れを取り払おうとしたのだが……
アーシャという人間との遭遇。そして、そのアーシャに自身の職が見破られた。
逆に休みをとっている場合じゃない状況になってしまった。
パルクの職は、基本的に一般人には知られてはいけない職業だ。一部の冒険者とは情報を分けたりしているが、まず仲間達以外には自身の内情を教えることはない。
だが、アーシャという精霊使いはパルクの職を知っていた。
パルクは、今にも駆け出したいところだったが、今は戦闘での負傷もあり、あまり身体を動かせない。精々歩きが限界である。
「どうするか、これから」
アーシャが見せたあの生首が、再度パルクの脳内に思い浮かぶ。思い出したくなかったが、パルクのある記憶と結びつく。
パルクが職に就く前の少年期。彼には一人の女友達がいた。活発だったが、人に優しい友達だった。パルクはその友達と気が合い、色々な場所へ行って時間を過ごすと共に、次第に好意を寄せていた。
パルクは思い出すのをやめた。二度と戻らない輝かしい日々だった。だが、そんな日々はある一つの出来事で壊れた。その出来事をあまり思い返したくなかった。
「あーあ、にしても暇だぜ。本国には連絡は行ってるはずだし、誰か……」
お見舞いに来ても良いのに。そんなことを言おうとした時、扉の向こうから機械的な鳴き声が聞こえた。その音は、パルクにとっては嫌な程聞き覚えのある音だった。
「病院での休日はいかがかしら?」
可愛らしくも、凛々しい声が聞こえ、扉がガラッと開いた。そこから現れたのは黒い軍服姿の赤髪の女性だった。低身長だが、そんな事を考えさせないほどの雰囲気を纏っている。
赤髪の女性はそのまま歩き出し、パルクの真正面で立ち止まった。
「せ…先輩、任務でしばらく顔見せられないって」
「ついさっき終わらせた。やっと帰れると思ったら、このナイツ・エンパイアであなたが負傷したって聞いたもんだから」
パルクの表情に、緊張が走る。この赤髪の女性はパルクの上司にあたる。魔力の扱い方も、体術も、全てこの女性から教わったのだ。だからこそ、女性が出す威圧感にはいつになっても慣れない。どんな時でも、女性はパルクに厳しく接し、常に表情を変えなかった。冷静に言動を聞けば、何を考えているか、何を伝えたいかはわかる。
そして、今の女性の言動を聞き、お見舞いで来た訳ではない事をパルクは知っていた。
「いやー……まさか先輩がお見舞いに来てくれるなんて……嬉しいなぁ……」
「足元を掬われたわね。それに……
話題を逸らそうとしたパルクを無視し、話題を出す女性。そこから、彼女の威圧的な雰囲気が更に重くなった。
「教えてちょうだい」
その部屋一帯に、彼女の雰囲気が一瞬染み付き渡る。
「いつ」
「どこで」
「漏れたの?」
パルクは恐怖心を押し殺し、震えている口を動かした。
「……わからない」
「聞き間違いかしら、あなたがそんなヘマする訳ないでしょ?」
「本当にわからないんだ!……今までの記憶の中で、あのアーシャって奴と会った覚えがない」
女性の黒い機械型のマスクの中から、不快そうに舌を打つ音が聞こえた。
「じゃあ質問を変えるわ。その時同伴してたのは誰?」
「……一人はミシェル。少年みたいな見た目だけど、成人してて冒険者だ。あの
「歯車狙いの冒険者ねぇ、珍しい訳じゃないけど」
「あと……俺を助けてくれた白髪の女性…」
女性はパルクの前から動かない。目元は黒い機械型のバイザーで隠れているが、パルクが見えているかのように目を見つめていた。
「でも、あいつらは多分俺の職に気づいてない。だから見逃してやってくれ」
「ふーん」
女性の身体からまた機械的な鳴き声が聞こえる。すると、女性の背後から尻尾が出てきた。その尻尾は意志を持っているかのようにウネウネと動き続ける。まるで獲物に狙いを定めるかのように。
そして、女性はパルクから目を逸らし、扉の方へと向かっていった。そこで、ようやく緊迫した空気が消え去った。
「1週間後にはここを出るわよ」
「えっ?俺まだ完治出来てないんですけど……」
女性は呆れたようにため息を吐く。
「本来ならここであなたは用済みなのよ。首を貫かれなかっただけありがたいと思いなさい」
そう言い、女性は部屋から立ち去った。パルクは一息つき、机の方を見た。すると、そこにはなかったはずの果物の詰め合わせがあった。
今ここに入ってきたのは
「……素直じゃない人だなぁ」
黒い軍部を着た女性は病院の中を歩いていた。パルクの容体を確かめ、病院側にパルクを1週間後に退院させる事を通告したところだった。
「あの子が言ってたミシェルって奴……見にいってみようかしら」
女性は進路を変え、向こう側にある別の棟へと足を運ぶ。そこに、何やら声を荒げている部屋があることに気がつく。
女性はそこへ向かい、部屋には入らずに外で中の会話を聞いた。外からゆっくりと中を覗く。そこには、金髪の少年と思わしき人物と、白髪の強気な女性が言い争っていた。
「あれがミシェル……」
見た目は完全に少年だ。だが、パルクの話だと彼は既に成人済みらしい。不思議なものだ。何か特殊な体質でもあるのだろうか。
そんな事を思いながら話を聞いていると、次第に会話のスピードが遅くなっていき、そして完全に止まった。
(止まったわね。折角だし顔でも……)
その時、耳元で小さく電子音が鳴った。女性はその耳に指を当て、小声で話し出した。
「何?」
『あ、
耳元からは、男のものらしき声が聞こえる。
「ナイツ・エンパイアが誇る騎士がどうしたの?そんなに慌てて……」
「それが……」
「容疑者と思われるアーシャが……消えました……!!」
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2週間後、
「ふっかーつ!!」
フィーネは太陽が照る外で、自身の身体が回復したことに喜び、飛び上がっていた。一方ミシェルは、いつものように冷静な表情をしている。
二人ともいつもと変わらない。だが、一つだけ変わっていることがある。
それは、二人が共に並んで歩いているということだ。
「さーて、どうするよ?」
早速、フィーネが話題を吹っ掛ける。それに応えるように、ミシェルは一つの紙を取り出す。
「それは?」
「手紙……というより
フィーネはその手紙を手に取り、中身を確認する。
『親愛なる冒険者へ
貴方は数少ない冒険者から選ばれた優秀なお方です。ぜひ、カラクリの王国で開催されるパーティにご参加ください。最高のサービスを提供しましょう。もちろん、貴方の同胞もたくさん来ます。連れのフィーネ様も連れてきても構いません。貴方が来てくれることを心から願ってます。
byドールズホテル社長』
全文を読んだフィーネは、難しい顔をする。
「何これ?」
フィーネから手紙を取り上げ、再びポケットの中へ仕舞う。
「カラクリの王国、ギアフィールド。まぁ簡単に言えば、機械の発展が一番進んでいる国です。風の噂ですけど、国中に歯車がびっしりついてるんだとか」
「へー、行くのか?そこに」
「……本当はここで騎士団長の話も聞きたかったんですが……」
ミシェルは辺り一帯が瓦礫だらけになった街を見渡した。無事な部分はあるが、被害がかなり大きい。
「今の状態じゃ難しそうです」
「じゃあ、そのギアフィールドってとこに行くわけか」
「はい。そこで新しく歯車の情報を集めることにします」
そのまま二人は、ナイツ・エンパイアの外へ出て、段々と先程いた国を離れていく。
すると、フィーネが何かを思いついたような顔をする。
「このまま次の国までダッシュで行こうぜ!」
ミシェルはそれを聞いた瞬間、面倒臭そうな顔を一瞬するが、仕方ないと言うような表情に切り替わる。
「魔力は使ってもいいですか?」
「もちろん!」
フィーネはいち早く足を踏み出し、速度を一瞬で速めた。そこにミシェルも、魔力による身体の強化を行い、フィーネに追いつく。
そして、そのままフィーネとミシェルはナイツ・エンパイアの反対側……
カラクリの王国ギアフィールドへと道を進めるのであった。