ミシェルは、パーティ会場の隅で今自身の心に渦巻く疑問を整理していた。
何故歯車がここあるのか?
どうやってあの歯車を手に入れたのか?そのまま触れれば死ぬ可能性が高いのに。
そもそも、何故僕は……歯車がこのパーティ会場にあることに気が付かなかった…?
歯車には、常に高濃度の魔力が纏わりついている。ミシェルは二十四時間魔力探知を発動している。どのような時でも、歯車を見つけるために魔力探知を解除した事はない。今だって例外ではない。
なのに、ステージ上にあった歯車はミシェルの探知に引っ掛からなかった。
「何でだよ…」
ミシェルは目を瞑り、心を落ち着かせようとする。が、ずっと追い求めていた歯車を前に、いつまで経っても心に生まれた"焦り"は消える事はなかった。
「……ーい……かー……」
ステージに上がって一気に歯車を奪い取るか……いやダメだ。こんな公な場でそれはできない。
「ミシェ……ーい……」
当選した人から奪い取るか?それが一番簡単なはずだ……
『もちろん、貴方の同胞もたくさん来ます』
……クソ!!ここに居る大多数は冒険者だ。不意打ちはまず通用しない!!
「おーい?」
一体どうしたら……
「えいっ」
側で声を掛けていたフィーネが、軽くミシェルの頭を叩いた。痛みで一度我に帰ったミシェルは前を向き、フィーネの顔を見る。
そこで初めて、ミシェルはフィーネが自身に声を掛けていた事に気が付いた。
「何無視してんだよ」
「あ……」
フィーネは少々怒っていたが、声のトーンからミシェルを心配していることがよくわかる。
ミシェルは掌で目を覆い、大きな息を吐く。手に液体が当たる感覚で、ミシェルは自身が大量の汗が流していることを実感する。
「そういやさ。あれってお前が探してた奴だろ」
そう言い、フィーネはステージ上にある歯車を指差した。ミシェルはコクリとゆっくり頷く。
「……どうすんだ?」
「どうするもなにも、当選を願うしかないでしょう……」
「ハズレたら?」
フィーネは揶揄う様にミシェルに問いかける。
ミシェルは額の汗を拭きながら顔を上げ、歯車を見つめる。焦りは未だ消えていない。だが、ミシェルは焦りを半ば強制的に抑え込み、歯車を必ず手に入れるという"信念"を前に押し出した。
「……ハズレた場合は当選した人に譲ってもらえるか直談判しましょう。それでダメなら、強引に……って何やってるんですか」
フィーネはその場で、身体のあらゆる部分を伸ばし、軽い準備運動を始めていた。その様子を見たミシェルは、呆れながらフィーネの肩をポンと叩いた。
「あ、いや……ちょっと身体が硬いな〜って」
「……戦う訳じゃないんですよ……もしここで騒ぎなんて起こしたらあなたまた牢獄行きですよわかります!?」
「お、おう。悪かったって」
「絶対に僕の指示通りに動いてくださいよ本当に!!」
「わかった!わかったから!!その鬼の形相やめて!!」
いきなりミシェルの形相が変わり、流石のフィーネもそれに驚いてしまった。それと同時に、フィーネはミシェルが内側に秘めていた"焦り"を感じ取っていた。
(それはこっちの台詞だっての。騒ぎを起こしてお前が捕まったら困るのは私なんだぞ)
今のミシェルはその気になれば、歯車を手に入れる為に自分の身を問わない状態だ。ナイツ・エンパイアでの様子から、フィーネはミシェルがどれだけ歯車に執着しているかはなんとなくだがわかっている。ミシェルにとっての歯車はどの様な出来事よりも優先すべき物なのだと。
だが、フィーネは歯車に執着しているミシェルが心配だった。
(そういや、歯車を手で入れたら何するか言ってなかったな……)
明るかったフィーネの顔が少し曇る。
ミシェルが歯車を手に入れた後どうなるかがわからない。もし、歯車を手に入れてしまったら、ミシェルはその後どうするのだろうか。
そんな事を考えている間に、ミシェルが一度パーティ会場を出ていたことにフィーネは気が付く。それの後を追う様に、フィーネは人混みを避けながら、ミシェルが通った扉へと向かっていった。
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パーティ会場から抜けた後、ミシェルはホテルのロビーで椅子に座っていた。先程よりは表情は落ち着いており、汗も止まっていた。
突如、ミシェルが誰かに肩を叩かれる。振り返るが、そこには誰もいない。
「こっちですよ」
すると、正面から誰かの声が聞こえた。ミシェルが顔を正面に戻すと、そこには椅子に座ったミリエラがいた。
どこから現れたかを気にするミシェルを見て、ミリエラはにっこりと笑った。
「ミシェルさん、何かお困りごとで?」
「……質問いいですか?」
「いいですよぉ!ミシェルさんからの質問はなんでも答えられますので!!なんでもどうぞぉ!!」
陽気に声を発した後、すんと表情が落ち着く。ミリエラはミシェルの質問を待っているかの様に座り込んでいる。ミシェルは当然、あの歯車について質問した。
「あの歯車は一体どこで手に入れられたんですか?」
「あーあれはある人から送られた物でして、回収はしたが使い道がないらしく、流れで貰いました!」
「……そのある人って……」
「あぁごめんなさい!情報は極力出さないように言われてるんですよぉ……」
質問の答えに、ミシェルは思わず困惑する。
納得できない。何年も誰も手に入れられなかった歯車をこんなあっさりと、ぽっと出の誰かに取られてしまうだなんて。しかも、その人は何故かこの人に歯車を譲ってしまった。どういうことだ?
「あぁ!けどこれは伝えてもいいって言ってましたね!」
「回収した人は、歯車の制作者なんです!」
ミシェルは思わず目を見開いた。歯車は突如発生した異常現象でも、事故でもない。一人の人間がただ放り投げたものだということを、ミリエラは言ってしまった。
思わず、ミシェルはそのまま喋ろうとするミリエラを止めてしまった。
「いやいや!ちょっと待ってください!それが本当なら、今まで歯車が引き起こした異常現象も……その制作者が歯車を放置していた事が原因じゃないですか!?」
「いやいや、ミシェルさん。
ミシェルはミリエラが発した言葉によって、混乱していた。持ち主による入手の手口を聞いただけなのに、とてつもない情報の嵐で再度焦りが、表に出始めている。
ミリエラはミシェルの様子を見た後、ため息を吐きゆっくりと立ち上がった後、ミシェルに近づいた。
「安心してくださいミシェルさん。あなたが今日歯車を手に取れば、
意味深な言葉をミシェルに伝え、ミリエラは身体をマントで覆った後、すぐに姿を消してしまった。
ロビーに一人取り残されたミシェルには、ミリエラの最後に放った言葉の意味がわからなかった
「全てが……分かる?」
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そこから数分経ち……
遂に当選番号の発表時間を迎えた。
会場は熱気に包まれて………
「……これは一体……」
ミシェル以外、誰一人会場にはいなかった。異質な静寂がミシェルと会場を包み込んでいる。
そんな中スポットライトが光り、ステージ上に集中する。何もないところで爆発が起こり、そこからミリエラが現れた。
「レディース・アンド・ジェントルメェェェェェェぇぇぇ……ありゃ?」
現れたミリエラはあまりの静けさに首をカクッと落とし、ステージの下にいるミシェルを見つけた。
「アレマアレマ……これでは当選番号は一つだけですねぇ……」
「666番のミシェル様ぁ!!どうぞこちらに」
陽気な声と、落ち着きのある声を混ぜ合わせながら、目の前にいるミシェルに手を差し伸べる。
ミシェルは警戒しながら足を踏み出した。
だが、一歩踏み出した瞬間に、ミシェルは既にステージ上の立っていた。そして、目の前にはガラスの箱に包まれたあの"歯車"。ガラスの箱がミリエラによって取り除かれ、歯車が空気に触れた。膨大な魔力によって周りの空気が歪み始める。
「ではどうぞ……この歯車を!!」
ミリエラは頭を下げ、道を示すかのように手を歯車に向けた。
明らかな異常。普段のミシェルならすぐに警戒体制を取るだろう。
普段のミシェルなら。
今のミシェルの目には、歯車しか見えていない。ミシェルも、自身に起こっている異常に気付いていない。
今のミシェルには、焦りはなかった。あるのは、歯車を手にしたいという欲望の塊。
遂に手に入る。謎が分かる。全てが分かる。そうなれば何も後悔はない。
「これは……僕のだ」
ミシェルの手に、歯車が
接触する。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
その瞬間、ミシェルの手が歯車に触れようとしたその時、上空から大きな声が聞こえた。その声を聞き、ミリエラは上を見上げ目を見開いた。ミシェルはその声を聞き、手が止まる。
天井の色取り取りのガラスがひび割れ始める。衝突音を発し、段々とヒビが増えていく。
そして、遂に壊れる。
「ミシェル!!」
ガラスの向こうから、三人が現れた。
一人は白い長髪で少し目つきが悪く、光の灯った黒い瞳。生地の薄いヘソの出た服装の上にジャケットを着け、ショートパンツを履いた女性。
二人目は、黒い槍を持った背が高く、短髪の金髪の男。黒い軍服の様な服装をしている。
三人目は、赤髪の女性。だが、まるで少女の様な姿をしている。金髪の男と同じく黒い軍服の様な服装、顔には機械型のマスクとアイマスクが付いており、素顔が隠されている。
ミリエラは驚愕する。
全ての参加者には
「どうしてあなた達がここにいるんですか!!」
それに対して、赤髪の女性はマスクの奥から堂々と言い返す。
「私は優しいから教えてあげる」
「アンタの詰めが甘いから」
赤髪の人の本名はまだ言いません。お楽しみに