アフターワールド   作:プラモプール

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テイルの力

「そうですかそうですか……」

 

 ミリエラは厳しい目で、三人のいる方向を向いた。ミリエラは指を何かを操作する様に、巧みに動かす。

 

「私の糸は少し特殊な、どうやっても見えない不思議な魔力の糸。それで観客を外に出してミシェルさんと二人きりになるつもりでしたが……どうやって私の魔力特性を回避したのでしょうか?」

 

 その口から放たれた厳格な声は、テイル1人を除いて、聞いたものを震え上がらせるほどのものだった。ミリエラは手を前に出し、腕を交差してその糸を見せる様に動く。だが、三人にはその糸が見えていなかった。

 テイルはミリエラのいる方向へ歩きながら、堂々と答える。

 

「私とパルクの軍服も少し特殊なのよ。他人からの干渉を遮断する軍服だから」

 

「それとあんた、さっき魔力特性って言ったわね。大方あんたの言う糸っていうのがあんたの魔力特性なのね。わざわざ教えてくれてありがとう」

 

 テイルの応答を聞きミリエラは一瞬首を傾げるが、突然性格が変わったかの様に転げ回りながら笑い出した。ミリエラの表情が明るくなり、先程の真面目な雰囲気とは一転して、陽気な声に切り替わる。

 パルクとフィーネは困惑したが、テイルは歩みを止めない。

 

「あっちゃー!私としたことが能力を自ら明かしてしまいましたぁ!しかし、だからと言って私が負けるわけないのですがねぇ!」

「よく喋るわね……」

 

 テイルの顔に装着してある機械型の口のマスクとアイマスクが変形する。

 テイルが装着しているマスクとアイマスクは、彼女の身体能力を強化する物であると同時に、戦闘でのサポートアイテムとしての役割も持つ。

 一つは口に付いているマスク。呼吸を自動的に調整し、身体に効率よく酸素を供給できるアイテム。戦闘中は変形し、露出したラインから外部からの魔力をろ過し、半自動的に自身の魔力として活用できる。

 もう一つは目に付いているアイマスク。普段はバイザーとして頭に被り、戦闘中はアイマスク型に変形する。アイマスク状態の場合、自身の視力が強化され、数秒単位で僅かな変化が起こった場合、本人にそれを伝える機能がある。こちらも変形時にラインが露出し、そこから半自動的に外の魔力を自身の魔力に変換する。

 ミリエラはその装備を興味深そうに見て、口を開いた。

 

「なんてカッコいいデザイン!()()()()()()()()()()()のに、ここまで似合うとは思いませんでしたよ」

「こんな物、私は1秒でも早く外したいの……」

 

「よっ!!」

 

 テイルが地面を蹴り上げ、勢いよくミリエラに飛びかかる。

 それを見て、ミリエラは指を動かし腕を前に出した。その瞬間に二つの人形が現れ、飛びかかってきたテイルを弾き返した。

 

「これが私のパートナー……"ドールズ1""ドールズ2"!」

 

 "ドールズ1"は煌びやかなドレスを着た人形で、両手にはチェーンソーとミサイルが装備してある。"ドールズ2"はタキシードを身につけた人形で、ドールズ1とは違い、両手には指5本分の銃口が装備してある。

 テイルはその人形を見た後に、また姿勢を低くし突撃の構えに入る。

 

「……おやぁ?ただ突撃するだけじゃこのドールズ達を止めることは出来ませんよぉ!!」

 

 テイルの前にドールズ1とドールズ2が立ち塞がる。テイルは未だに突撃の体勢をやめない。

 

「……3割解放」

 

 テイルが小さく呟いた瞬間、勢いよくミリエラに向かって突撃する。

 ミリエラはそれを待っていたかの様に指を動かした。ドールズ1がチェーンソーを前に出してテイルの頭部を狙い、ドールズ2が後方から銃弾を発射する。

 テイルはドールズ1のチェーンソーを避けながら前に出る。しかし、避けた後にドールズ2の放った銃弾が襲いかかる。テイルは身体の向きを変え、後ろへ下がりながら銃弾を回避する。

 

「俊敏ですねぇ……しかし、あなたの背中には壁だけ。このまま私とドールズ達が袋の鼠にして……」

 

 ミリエラは突如違和感を感じ、ドールズ達のいる方向を見た。いつの間にか、ドールズ達とミリエラが()()()に並んでいた。それに加え、ミリエラの後方は観客がいた会場。大きなスペースが空いている。

 

(まさか……)

 

 

「"鉄の尾(アイアン・テイル)"」

 

 

 テイルの腰の付け根から鉄で出来た尻尾が現れた。しかし、その姿はパルクが病院で見た物とは違った。その時よりも、太く巨大になっている。

 テイルはその尻尾で、横一列になったミリエラとドールズ達を一気に薙ぎ払った。

 

「ぐっ!?」

 

 ミリエラは尻尾に吹き飛ばされながらも、地面に着地し、指を操作しドールズ達を再び動かした。

 ミリエラは先程の油断を悔いた。今ステージ上にいるのはテイル。その後方にはパルクとフィーネ、そしてミシェルはフィーネに抱き抱えられている。

 

「これが私の力、"鉄の尾(アイアン・テイル)"。魔力の使用力によって形を変化させ、あらゆる事象に対応出来るマルチツールよ」

 

 能力の開示をしたテイルにミリエラは困惑する。

 

「なーにやってんですかあなたは!私に能力の開示の危険性を教えたのに自分からその教えを破ってるじゃないですかぁ?」

 

 呆れたような顔をしたミリエラを見たテイルは、思わず笑ってしまいそうになり、口を抑える。

 「はぁ?」とミリエラが困惑していると、ミリエラが口を開いた。

 

「本当になんもわかってないわね……」

 

「これで()()、でしょ?」

 

 テイルの煽るような口調に、ミリエラに若干苛立ちが芽生える。

 

「……ずいっぶん仲間思いですねぇ。あなたも人間らしいところがあるんですねぇ!やっさしー!」

 

 テイルはミリエラの言葉を無視し、後方のパルクとフィーネ、ミシェルの方を片目で見る。

 

「フィーネ!ミシェルはどうだ?」

「おいミシェル!返事しろ!」

 

 フィーネがミシェルの身体を揺らすが、ミシェルは虚な目のまま返事をしない。その様子を見たテイルは、まだミリエラの魔力によって操られている状態だろうと判断する。

 

(今ミシェルさんは私の糸で繋がっている状態。上手く隙を突いてミシェルさんをこっちに……)

 

 ミリエラが指を動かすよりも先に、テイルが真っ先に近づき、攻撃を仕掛けてきた。

 テイルはミリエラの至近距離まで近づき、上段前蹴りを仕掛ける。ミリエラは間一髪でそれを避け、ドールズ1を前へ出す。テイルはドールズ1に対して飛び蹴りを仕掛け、ドールズ1は足を狙い、チェーンソーでテイルの足を狙う。

 テイルの装甲を装着した足と、ドールズ1のチェーンソーが鍔迫り合い、火花を散らす。その隙をドールズ2が銃撃で狙うが、テイルは尻尾を伸ばし、銃弾を防ぐ。

 そのままテイルは尻尾で地面を叩き、その反動で宙を舞う。ドールズ2と同じ高さへ飛んだテイルは、ドールズ2を掴みミリエラに投げ飛ばす。ミリエラは投げ飛ばされこちらに飛んでくるドールズ2を左手に接続した糸で横に省き、右手に接続した糸を使い、ドールズ1のチェーンソーで空中にいるテイルを切り裂こうとする。

 テイルは空中にいながらも、足を向かってくるチェーンソーに直撃させ、弾かれた勢いで地面に着地し、ミリエラとの近い距離を保つ。

 

(この人…強いなぁ!折角ミシェルさんを糸で接続出来たのにこれじゃあ操る暇がない……。……最初に魔力特性言ったのが不味かったかな……)

 

 ミリエラは「まっいっか!」とでも言いそうな顔で構えを取り、再度ミシェルを操る機会を見定める。対するテイルは、ミシェルを操作する時間を与えまいと、ミリエラに間髪入れずに攻撃を入れ込む。

 そんな中で、ミシェルを抱え込んでいたフィーネが、どの様にミシェルを助けるか迷っていた。

 

「ダメだ……魔力探知でも糸が見えない!一体どうゆう仕組みだ!?」

 

 パルクが魔力探知でミシェルの身体を調べるが、洗脳の原因である糸はどこにも見当たらなかった。フィーネはどうすれば良いのか分からず、ミシェルを抱えたままじっとしていた。

 

「フィーネ!」

 

 ステージ下の会場からのテイルの声を聞き、フィーネはテイルの方に顔を向けた。

 

「あなたがやった方法を使いなさい!」

「……わかんねぇんだ……いきなりだったからどうやったかもわかんねぇよ!」

 

 フィーネが洗脳を回避できたのは、操られ寸前で起こった異常が原因なのは、フィーネ自身がよく分かっている。

 だが、分からない。分からないのだ。突然の身体の異常で、経験したことのない感覚に襲われた。その感覚をどの様にして再現するかが、フィーネには分からなかった。

 

「こういう時はよ!」

「ぐちゃぐちゃ複雑に考えないで、感じた事を整理して身体でやってみれば良い!そうすれば出来るはずよ!」

 

 テイルはミリエラとドールズ達を抑えながら、フィーネに助言した。

 

 感じた事を、身体でやってみる。

 

 フィーネは僅かに焦っている自身の心を落ち着かせ、洗脳を回避した際に起こった事を整理する。

 

「……()()()()()()()()()()。あの時は目の前の物を見ている感じじゃなかった!」

 

 フィーネは魔力を目に込め、ミシェルの身体を見つめた。

 奥深く、奥深く、その言葉を頭の中で繰り返し、それを再現しようとする。

 

 後は勘だ。自分の感覚を信じるだけ。

 

 そう思っていたフィーネは、自身のある事を思い出した。

 魔力が覚醒した時も、魔力をコントロールした時も、"極拳"を作り出し時も、頭ではなく、身体の感覚という勘でそれらを実現させていた。

 

 そう思えば、見えない糸を見つける事は、フィーネにとって難しいことではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見えた!」

 

 ミシェルの頭上に刺さっている紫色で黒い粒子が溢れ出ている糸。フィーネが見た糸と同じ物だ。

 そのままフィーネは勢いに身を任せ糸を掴み、ミシェルの頭から引っこ抜いた。

 

「………はっ!?」

 

 ミシェルの目に光が戻り、思いっきり上半身を持ち上げた。が、すぐ近くにフィーネの頭があったため、そのままミシェルの頭とフィーネの頭が衝突してしまった。

 

「いぃてぇ!?」

「うぅぅぅ……」

 

 お互い痛みで悶絶するが、それは僅か数秒で終わり、ミシェルとフィーネが顔を合わせる。

 状況が分からないミシェルは、今何が起こっているかをフィーネに問いかけた。

 

「僕は今まで何を……一体何が起こったんですか?」

 

 フィーネは無言で横を指差した。ミシェルはフィーネが指差した方向へ顔を向けた。そこに映ったのは、パーティ会場にいた赤髪の少女がミリエラと戦っている様子だった。

 

「ミリエラがパーティの参加者を操ってたんだよ。でも何故かミリエラはお前だけ残して、その場で操って歯車を触らせようとしてたって訳だ」

 

 ミシェルは背後にある歯車を見る。

 目的がすぐ目の前にあるが、何故か冷静になっていた。理由は分からないが、洗脳から解けてからは頭がスッキリした感じがする。

 

「どうすんだ?」

 

 フィーネからの問いかけ。ミシェルはステージ下で戦っている様子とフィーネの話を整理し、誰が敵なのかを理解した。

 

「僕が……戦います」

 

 ミシェルの感情からは焦りは消えていた。だが、それの代わりとでも言うかのように苛立ちが芽生えた。

 歯車を手に入れるためならなんだってする。それは変わらない。だが、それは自分の意思で動いた時に限っての話だ。ミリエラが自身にした事を、歯車の接触を意思に関係なく強制させようとしたこと。

 

 ミシェルにとってそれは、目的を侮辱されるよりも遥かに許されない事だ。

 

「僕の意思は……僕の物だ……!」

 

 ミシェルの怒りの籠った目が、ミリエラの姿をはっきりと映し出していた。

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