「あぁんもう!」
ミリエラが苦悶の表情を浮かべ、上空から振り下ろされるテイルの尻尾を避ける。
ミリエラは咄嗟に自身の指を確認する。その指から繋がっている糸が、一本だけ消えていた。
「……なんでこうも想定外の事ばっかり起きるんですかねぇ」
ミリエラが視線の先には、ミシェルがいた。ミシェルは歩きながらミリエラに向かっている。しかし、ミシェルのただの徒歩にはミリエラを圧倒するほどの重みがあった。
初めて体感する怒りによる威圧感によって、ミリエラに身体が震える。
「……い、糸一本で操られた人が……」
「私に抗えるとでもぉ!?」
ミリエラが操作するドールズ1とドールズ2が、ミシェルに突撃する。ドールズ1がチェーンソーをミシェルに振り下ろし、ドールズ2は突撃しながら銃弾を発射した。
ミシェルにドールズ達の攻撃が目前までに迫ったその時、
横から飛んできた何かが、ドールズ達の攻撃を弾いた。
チェーンソーの攻撃を弾かれたドールズは、衝撃によって地面に落ちる。
空を舞う回っているそれは、ミシェルの元に戻っていく。ミシェルがそれキャッチし、舞っていた物の全容が見えた。
鉄で出来た小さな剣。だが、その形は普通の剣とは全く違い、刀身が円弧型になっている。それに加え、青い線が刀身を沿って張り付いている。
ミシェルがその剣を左右に投げる。その剣は回転しながら、倒れているドールズ1へ向かっていく。
しかし、ミリエラが指を動かし、ドールズ1は素早く体勢を整え、剣を避ける。
「……これは!」
剣は円を作りながら大きく曲がり、再度ミリエラのいる方向へ向かっていく。それと同時にミシェルが斬波の剣、雷鳴剣を生成し、ミリエラの方へ走り出す。
ミシェルが斬波の剣を横に振り、斬波を放つ。ミリエラはドールズ達を引っ張り、迫ってきた剣と斬波をドールズを盾にして防ぐ。
更に、そこからテイルの尻尾が追い打ちをかけてきた。
「…!?」
テイルの尻尾とドールズ達が鍔迫り合っていたところを、ミシェルが強引に割り込み、雷鳴剣が地面に衝突した事で発生した雷で2人諸共吹き飛ばした。
ミシェルの強制突破に、テイルとミリエラの双方が冷や汗をかいた。
「何するのよ。危ないじゃない」
ミシェルの強引な行動をテイルは咎める。しかし、ミシェルはそれを聞いているようには見えなかった。
「テイルさん。この人の相手、僕がしてもいいですか?」
「はぁ?あなた何言って……」
ミシェルの発言にテイルは困惑する。合理的に考えれば、このまま二人で戦う方が有利だ。しかし、ミシェルはそのチャンスを蔑ろにしている。
だが、ミシェルの表情を見た時、テイルは今のミシェルの心情に気付く。
「……勝手にしなさい」
「すみません」
テイルは後ろへ飛び、ステージ上にいるパルクとフィーネの元へ戻る。
ミシェルが一人で向かってくる事がわかったミリエラは、ミシェルに対し途轍もない不快感が芽生えた。
「はぁ〜………」
「舐めてんのか?」
ミリエラに声調が、陽気なものから再び厳格な声に戻る。その声からは、元々ある厳格さに、怒りの感情が滲み出ている。
だが、その声はミシェルに対して全く効果がなかった。
「舐めてなんかいませんよ。これは僕自身の問題です」
「問題?あぁ、もしかしてミシェルさんもキレてるんですかそうですか。なんとも自己満足な問題ですね」
「なら私も」
ミリエラが腕を交差し、糸を交互に動かしていく。ドールズ1とドールズ2が浮かび上がり、音を立てながら形を変えていき、合体した。
全長は合体前と変わらず、上半身がドールズ1のチェーンソーの腕、下半身はドールズ2の機関銃、背中の十字型のスラスターは、ドールズ1と2の足が変形した物になっている。
「私の傑作。"ドールズC&G"!」
「後悔させてあげましょう。私に一対一を挑んだことを……!」
ミシェルは剣を構える。ブーメラン型の剣は、未だに空を舞っている。ミシェルの操作次第でミリエラをいつでも狙える状態だ。
突如、ミリエラが腕を広げる。それに呼応するように、ドールズC&Gが魔力を内側に素早く溜め、勢いよく外に解き放った。
ミシェルはその魔力に吹き飛ばされないように身体を屈める。ミシェル自身に対した被害はない。だが、魔力の波動を受けたブーメラン型の剣が、力無く地面に落ちてしまった。
(遠隔での操作を無効にしたのか)
ミシェルはミリエラの想定外の行動に驚きながらも、二つの剣を構え、ドールズC&Gへ突撃する。
斬波を斬波の剣自身に纏わせ、斜め上から振り下ろす。その剣はドールズC&Gに直撃した。だが、金属の衝突音が鳴っただけだった。
(……硬い)
それならと、ミシェルは雷鳴剣を地面に叩きつける。ミシェルとドールズの周辺に電撃が巻き起こる。ドールズは身体を震わせながら、両手のチェーンソーを全力で振り回した。
ミシェルは間一髪でそれを避けながら、ドールズの特徴を確認した。
(合体した事で攻撃に対して耐性を得たのか。でも、それだけじゃないはず)
ミシェルの読みは当たり、ドールズの足に付いているいくつもの砲門が開く。ドールズが身体を屈めた瞬間、素早く飛び上がり弾丸を発射した。弾丸を発射している間、ドールズは身体を空中で捻らせることによって、弾丸を辺りに満遍なくばら撒く。
流石の弾幕量に、ミシェルは冷や汗をかいた。向かってくる弾丸を避けながら、地面に落ちていた二つのブーメラン型の剣を拾う。そのままその二つの剣を接続し、勢いよく回した。向かってきた弾丸が、盾となった剣に直撃する。
その様子を見たミリエラは、怪しげな笑みを浮かべ、指を更に複雑に動かした。
「
盾に直撃した弾丸の一つが爆発した。その衝撃で、ミシェルは体勢を崩してしまう。
(爆発する弾丸か!)
ミシェルは即座にその場で斬波を放ち、その斬波に雷鳴剣の電を纏わせ、向かってくる弾丸に向かって放つ。雷を纏った斬波は弾丸を弾きながらドールズへと向かっていき、直撃した。だが……
「ざぁんねん」
強化された斬波の直撃を受けてなお、ドールズの身体には傷一つ付かなかった。それに加え、ミシェルに向かっていた弾丸は全て弾けていなかった。
向かってくる残りの弾丸を、ミシェルは身を捻らせ避けようとするが、一部の弾丸は避けれたが、残りの弾丸はミシェルの腕や足に命中した。
「ぐぅ…!」
弾丸の命中した箇所から、少量の血が流れる。幸いまだ身体を動かせるが、ミリエラの攻撃が先に命中したことにより、停滞していた戦況の均衡が崩れた。
「……やっぱり私が!」
ステージ上でその様子を見ていたフィーネが、ミシェルに助太刀しようと立ち上がる。しかし、テイルの手がフィーネを制した。
「まだこのままよ」
「なんで!このままじゃ負け……」
「あなたの仲間はあんなのに負けるくらい弱い訳?」
「それは違うっ!けど…!」
ミシェルが弱い訳がない。あの時、私を倒した時のミシェルは明らかな強者だった。だが、今の状況を見てしまうと、仲間として一緒に戦わなければと思ってしまう。
「あなたは少し……あの子の事を
「なっ……」
テイルは冷静に今の状況を見ている。そして見た上で確信した。
ミリエラが今所持している手札を全て発動した事。
ミリエラに迫るには、あのドールズを突破する必要がある事。
そして、もう一つ
ミシェルがその突破する手口を既に掴んでいるという事。
テイルは機械型のマスクの奥で、笑みを溢してしまっていた。テイル自身も何故笑みを溢しているのかがわからなかった。
(……いや、期待してるのね、私)
嘲笑でもなく、呆れでもなく、期待の笑み。テイルの目から見たミシェルは、テイルが昔見た小さい子供の姿とは全くの別物だった。その様子を見たテイルは思わず、期待の入った笑みを溢してしまった。
「よく見てなさいフィーネ。恐らく、これから動くあの子は……」
「少し
いつも無感情だったテイルの口調に、少し高揚を感じさせるものが混ざっていた。
「変わる……だって?」
フィーネはミシェルの方を見つめた。フィーネの目に映るミシェルの雰囲気には、確かに先程より何かが違う。
言葉で表せない違いがあった。