アフターワールド   作:プラモプール

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暴君との出会い

 

 

 夕方、ミシェルは街路を歩いきながら、依頼書を見た。

 

『依頼内容:人物の捕獲

 最近、住民や冒険者が襲われ被害に遭っている。現場では被害者が重体の怪我を負わされており、人同士の喧嘩とはとは思えないほどのクレーターができていたと報告されている。治安悪化と被害拡大の危険性がある為、早急に確保を願いたい。』

 

 基本、冒険者の仕事は自由だ。草抜き、お留守番、子供の見守りなどの、それは別に冒険者である必要がないのでは?とツッコミたくなる様な依頼や、施設の警備、犯罪者の捕獲、偉い人の護衛といった、冒険者という実力のあるものにしかできない仕事もある。

 そして、たまに国直々に依頼される“国令"というものがある。これは応募定数があり、義務参加ではないが、他の依頼よりも段違いに報酬が多い。それ故に、国令が出ると必ず応募定数が必ず満員になってしまうという。だが、高額報酬だからこそ危険な依頼な為、その依頼の中で死者が出てしまう可能性だってある。

 ちなみに、ミシェルが渡された赤い紙の依頼書は"赤紙"と呼ばれる物であり、それは数年以上未解決状態の依頼にのみ適用され、通常の紙から赤い紙に再度書き記され、報酬も国令ほどではないが、通常の報酬よりもかなり上がる。

 ミシェルの赤紙の内容は人物の捕獲だった。そして、未解決期間は…

 

()()…?」

 

 五年。希少生物の捕獲ならそれ程の年数が掛かる可能性があるが…付属している人物の写真があるという事は、身元が既に割れているという事。それで五年掛かっているということは、それほど捕獲対象が強いのだろう。

 しかし、ミシェルはそんな事を気にしてはいられない理由がある。ミシェルは考える事をやめず、写真に写っていた女性の特徴を見た。長髪で白い髪、なんの変哲のない黒い目、少し目つきが悪い。服装は、下丈の長い白いスカート、上は黒いタンクトップを着ている。

 そして、被害報告にはある一つの共通点があった。それが深夜に現れるという点である。今は夕方、つまりこれから夜になり、この人物が現れる可能性があるということ。試しにミシェルは、深夜の人気の無い場所で待ち伏せてみることにした。だが、今持っている荷物は少し重い。荷物の整理をする為に、ミシェルは今一度酒場に向かった。

 

 

 

 ゲイルにバッグを預け、最小限の荷物のみを持ったミシェルは、周りの住民に話しかけていた。

 

「すみません。この人について何か知りませんか?」

 

 ミシェルは付属していた写真を、市場にいた女性に見せた。

 

「あ…この子あれね。フィーネちゃんよ」

「フィーネ…それがこの人の名前なんですか?」

「えぇ。昔は可愛かったんだけどね〜。こんなに目つきが悪くなっちゃって」

「…なるほど」

 

 どうやら、この人物はフィーネというらしい。小さい頃は周りから親しまれていたのだろうか?

 そうミシェルが考えていると、女性は口が止まらずに色々と喋りそうになっていた。ミシェルはそれを嫌がり、それらしい理由をつけてその場を後にした。

 

「あいつ一体なんなんだよ!」

 

 次にミシェルは、フィーネという女性の被害に遭った冒険者と話した。彼も赤紙の依頼と聞き、報酬欲しさに参加したらしいが…フィーネに完膚なきまでボコボコにされ、依頼を諦めたらしい。

 

「…どんな事をされたか一回聞いてもいいですか?」

「…そん時俺は絶好調でよ…依頼もいい感じにこなせる様になってきて、赤紙の依頼を選んだ時も大丈夫だろうと思って…夜の路地裏に行ったんだ…」

 

 話している途中で、その男性は大量の汗をかき始め、言葉も段々と震えていく。

 

「でも…ダメだったんだ!あの女、俺がどんだけ攻撃しても全然当たんねぇし、当てたとしても全然怯まねぇし、し…しかもあいつ…お…俺のた、()()を…」

「……嫌な事を思い出させてしまってすみません」

「いや…いいんだ。あんたも気をつけろよ…」

 

 ミシェルは、少し気の毒そうな顔をしながら、身体が震えている男性のもとを後にした。

 

 

「あまりいい情報がないな…」

 

 夕方、ミシェルは頭を悩ませていた。あれ以降、聞き込みを続けてみたが、有力そうな情報は見つからなかった。

 ただ、これだけではまだ足りない。5年間捕まらずに現在まで逃げ続けるという事はそれ程捕まえるのが至難の業だということだ。フィーネという女性が何故今現在まで逃げ続けることができているのかの手掛かりが必要なはずだ。

 

「…ちょっとあんた…」

 

 突然物陰から萎れた声が聞こえた。ミシェルが物陰に目を向けると、そこには杖で身体を支えている老婆がいた。顔中シワだらけになっており、足も震えており、立っているのがやっとなのがわかる状態だった。

 

「あなたは…」

「フィーネちゃんを探してるんだってね」

「あっ…はい」

 

 老婆は手招きをして、後ろの通路へと歩いていった。ミシェルはそれについていくと、老婆が家の玄関と思われる扉を開けていた。

 

「少し、時間をくれるかい」

 

 

───────────────────────

 

 

 ミシェルは老婆の家に入った。玄関の先には一般的な家具が置いてあり、棚の上には写真が置いてあった。

 その写真の一部には、フィーネの子供姿らしきものが見えていた。

 

「これは…?」

「あの子の写真さ」

 

 老婆は震えた手でお茶を机に置き、机に座り一息ついた。ミシェルは老婆の促され机に座り、対面する形が話は続いた。

 老婆は口を開いた。

 

「あの子はね、いっつも元気な子でねぇ、男の人にも負けないくらい力もあるのよ。けど、暴力はあんまり好まない子だったわ」

「関係者なんですか?」

「関係者っていうか…親戚なのよ。あの子は元々孤児だったのよ。それを私が引き取ったわけ」

「孤児…」

 

 老婆はお茶を口元に運び、もう一度一息ついた。ミシェルはその様子を少し心配そうに見ている。

 続けて老婆は喋った。

 

「あの子は元々、普通の家庭で暮らしてたの。両親と一緒にご飯を食べて、休日には一緒にお出かけをする。そんな日常だったのよ」

「じゃあ、なんで今のような人に?」

「事故よ…両親同時にね」

「……」

 

 和んでいた空気が一瞬凍りついた。ミシェルは、机に置いてあるお茶を手に取り、口元へ運び、一度で全て飲み干した。

 ミシェルのコップを替えようと、老婆はコップを手に取ろうとするが、ミシェルはそれを断った。

 

「少し休んでいてください。老体に傷をつけてほしくないので」

 

 ミシェルが淹れたお茶を老婆は一口飲み、満足そうに息を吐いた。

 

「それで、事故というのは…」

「…夫婦共々、森で魔力を扱う化け物に襲われて死んだのよ。その時あの子は家で留守番しててね、知らされたのはその次の日だったの」

 

 老婆は立ち上がり、棚に置いてある写真を手に取った。老婆の顔は悲しそうだった。

 

「そのまま、騎士団に保護されて、私が里親としてあの子を家に迎え入れたのよ。そこから成人して、受付嬢の仕事に就いたんだけど…どこかのバカが、こんなことを言ったらしいのよ」

 

『化け物如きに殺された両親の娘が仕事やっていけんのかよ』

 

「…ってね、その瞬間にあの子はそいつをボコボコにしちゃったの。護衛もついてたんだけど…その人をボコボコにしちゃったのよ。全員顔と身体の一部が変形してたって。でも、その人お偉いさんの息子さんだったらしくて…そのまま仕事を辞めさせられて、冒険者にも追われるようになっちゃって…それ以降家にも帰って来てないの」

「それで…今に至ると」

「そうよ」

 

 かなり酷い仕打ちを受けていたことに、ミシェルは少し引いていた。もし、親子が生きていれば、その息子が余計な一言を言わなければ、今のような人にはならなかったはず。そう思わざるを得なかった。

 それと同時に、ミシェルはフィーネの過去を知ったことで依頼を果たすことに対して、少し迷ってしまった。

 それを見た老婆はミシェルに対して優しく話しかけた。

 

「お願いしてもいいかしら」

「っ…はい」

「あの子を…家に連れて来て欲しいの」

 

 あまりにも単純な願い。だが、ミシェルにはそれが老婆の一生を賭けたような願いと感じられた。

 

「私も()()()()()()()()…一度でも良いからあの子に会いたいの…血は繋がってなくても…あの子は私の子供同然なんだから…だから…お願い…!」

 

 これまで、お願いをされることは幾つかあった。だが、

 

「…わかりました」

 

 これはそのお願いとはどれも一致しないもの。だからこそ、ミシェルは断れなかった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ミシェルは路地裏で立ち止まり、目を瞑っていた。外は既に暗くなっており、家の中でからの生活音も消えている。

 

「…いた」

 

 そう呟いたミシェルは走り出した。狭い通路をスムーズに走り抜き、暗闇に広がる路地裏を駆け抜けていく。次第に月の明かりが強くなっていき、最終的に広めの団地に到着した。所々に生えている雑草以外何も無い場所には…

 

 あの写真に写っていた白髪の女性がいた。

 

「…ん?」

 

 女性がミシェルに気付き、振り返った。

 青い目、長い丈のスカート、黒いタンクトップ、写真で見た姿と全く同じ姿だった。

 ミシェルは何も言わずに両手を後ろに隠し、ナイフを生成し始めた。

 

「何してんだ?ガキはさっさと家帰ってねんねしろ。」

 

 女性は、シッシッとハエを払う様な仕草をミシェルに向けて行った。どうやら女性はミシェルを子供と思っているようだ。ミシェルはそれを好都合に思い、不安そうな表情を作り、女性に歩み寄っていく。

 

「ごめんなさい…道を迷っちゃったんです。近道をしようとして路地裏に入ったら、そのまま迷ってしまって…」

 

 ミシェルは幼なげな声を発し、女性の反応を待った。女性は首を傾げた後、察したのかミシェルの方へ歩み寄る。

 

「おおそうかそうか。そしたら、外まで案内しなくちゃな。私はフィーネ。フィーネ・アリアス。お前は?」

 

「…ミシェル…です」

 

 二人の間の距離は近くなり、既に腕を伸ばさなくても体に触れる距離になった。身長はフィーネの方が高く、フィーネが見下ろし、ミシェルが見上げる構図になった。

 今なら…やれる。ミシェルは確信し、ナイフを持つ腕を強く握る。すると、フィーネが口を開き、話し始めた。

 

「お前、何処から来たの?」

 

 ミシェルは、演技を続けながら答える。

 

「田舎ですよ…森がたくさんあるところです…」

 

 フィーネは口を緩めず話す。

 

「ふーん、あの森抜けてきたのね。ふーん…この村は初めて?」

 

 少しの間、沈黙が続いた。そして、その沈黙はフィーネによって砕かれた。

 

 

 

 

「なんかお前…嘘くせぇな」

 

 

 

 

 瞬間、ミシェルが、生成したナイフをフィーネの腹部に突き刺そうとする。しかし、即座にフィーネも反応し、右腕をの肘と右足の膝でナイフを挟み込み、へし折った。

 ミシェルは上へ飛び、回転蹴りを放った。フィーネは顔を右手で覆い、蹴りを防ぎ、残った左手でアッパーを繰り出す。ミシェルは顎に向かうフィーネの左腕を間一髪で避け、後退した。

 ここで、フィーネがミシェルに話しかけてきた。

 

「ほーんこいつは予想外。今のは取れたと思ったんだけどな」

 

 フィーネは少し顔がにやけており、ミシェルはその表情から相手がかなり手慣れの存在だとわかった。

 ミシェルは会話に乗った。

 

「あなたこそ、随分戦い慣れてますね。少し侮ってました」

「…ムカつく顔してんじゃねぇよ。そういうプライドが高くて、自分が正しいと思ってる奴が一番嫌いなんだよ私は」

 

 ミシェルの軽い口調がフィーネの癇に障ったようで、少しフィーネはミシェルを睨みつけた。

 当の本人は全くその気はないようだが。

 

「そんなに僕の声が癪に障るんですか?」

「偉そうに……猫被んなよ。私はいつだって全力でやりたいんだ」

「…端からそういうつもりですよ」

 

 そうは言っているが、ミシェルは今少し嘘をついた。正確には本気を出すという言葉の意味に、武器は入っていないということだ。

 ミシェルは鉄の剣を生成し、両手に装備した。対してはフィーネは何も装備しない丸腰…いや、既に武器を持っている。身体という人の持つ最大の武器を。

 

「それに…あなたの()()()()からお願いされてますので!」

「知り合い………」

 

 フィーネはその知り合いが誰なのかを察し、骨が軋む音がなるほど、拳を握りしめていた。

 二人が同時に大地を蹴った。ミシェルは右手の剣を使いフィーネに斬り掛かる。フィーネは右足を使い蹴り掛かる。二人の攻撃が同時に起こり、衝突した。

 衝突時の衝撃が両者に伝わった時、何かがひび割れた音がした。その音の正体はミシェルの持つ鉄の剣から起こったものだった。

 

「折れた!?」

 

 驚愕したミシェルは後退し、再度右手に鉄の剣を生成した。

 今の一触を経て、ミシェルはフィーネの強さを理解した。その強さはフィーネ自身の身体が強靭であることだ。ナイフを折られた際の接触で大体察しはついていたが、今の鉄の剣と蹴りの接触でそれは確信に変わった。生半可な攻撃ではあの身体に傷をつけることはできないだろう。

 それに加えて…

 

「フンッ!」

 

 フィーネは少ない歩数で、一瞬でミシェルに近づき、上から拳を振り下ろした。

 ミシェルは左に避ける。フィーネの拳が地面に激突し、地面の破片があちこちに飛び散った。

 耐久性、スピード、パワー、フィーネは全てを兼ね揃えており、近接技を使う人にとって全てが揃っている状態だった。この様な相手ならば、居場所が割れていても捕獲できなかった理由に見当がつく。

 だが、ミシェルはフィーネの身体の動きを見て、欠点を見つけた。その欠点を突くために、ミシェルは魔力を使った。

 ミシェルは魔力を両手と両足に集中させた。人の身体に流れる魔力はコントールすることができ、身体の一部に魔力を集中させることによって、身体能力を上げることができる。

 ミシェルはいつもより強く大地を蹴り、フィーネに近づいた。

 

「はやっ!?」

 

 フィーネは驚き、腕を交差させて顔を覆うが、ミシェルはそれを先読みし、フィーネの後ろに回り込んだ。そして、蹴りを背中に叩き込み、フィーネを吹き飛ばした。

 フィーネは体勢を整え前を向くが、ミシェルの姿は見えなかった。

 

「消え…ッ!」

 

 ミシェルはフィーネの背後にいた。ミシェルは瞬時に近づき、鉄の剣を振るう。遅く気づいたフィーネは間一髪でその攻撃を避けるが、顔に少し傷がついてしまう。その傷から血が滴り落ちる。

 最初はフィーネが有利を取っていた。だが、ミシェルが魔力の強化によりフィーネの持つ優位性を超えて、圧倒している。このまま行けば、フィーネが負けるのも時間の問題であった。

 

「フフ…」

 

 突然、フィーネが小さく笑った。その笑いには、ただ高揚が混じっていた。

 彼女はまだ諦めていない。その上、何かを掴み始めていた。

 

「お前凄いよ…ここまで私を楽しませてくれるなんて…マジで感謝だよ」

「…そんな軽口を叩く暇は無いと思いますよ」

 

 フィーネは軽く小刻みにジャンプし、手をぶらんぶらんと振り、力を抜いた。

 

「お前が来る前にさ、お前と同じ戦い方をする奴がいたのよ」

 

 フィーネの周りの空気が変質していく。空気は歪み、次第にフィーネの身体にオーラの様なものが迸り始めた。

 

「そんときはなんとか勝てたけどさ…私は強くなりたい。だから、お前みたいな奴を陰から見て、見て、見続けた…」

 

 フィーネの周りの歪みが消え、完全にフィーネの周りを囲んだ。

 ミシェルはその様子を見て、冷や汗を流した。そして、瞬時に理解した。

 

 フィーネは初めからこの様に強くは無かったのだと。

 5年間という年数の中で成長を繰り返してきた人間…

 

 まさに、戦闘の才に恵まれた者とした言いようがなかった。

 

 フィーネを中心に圧倒的なプレッシャーが解き放たれた。そのプレッシャーは風になり、ミシェルの身体を打ちつけた。身体は痺れ、心拍数は上がる。今までに無い感覚に、ミシェルは動揺しつつも、その後に生まれた高揚の感覚が、全てを忘れさせた。

 

「…さぁ、仕切り直しだ!」

 

 迸るフィーネのオーラをミシェルが見る。

 この瞬間に、感覚で魔力を使っている。しかも直感で使い方を間違えることなく、身体に巡らせているのだと、ミシェルは考えた。

 

(こんな人に出会えるとは思わなかった…!)

 

 この経験は良い糧になる。それを理解したミシェルは、決断した。

 ここで出すつもりは無かったミシェルが生成した中でも()()()()()()。今出さなければ、フィーネの力に押し負ける。

 

 ならば、これを乗り越えて更に上へと登ろうではないか

 

 見て、強くなったフィーネ。そして、それすらも糧として、強くなろうとするミシェル。

 

 今、二人の戦いは次のレベルへと進もうとしていた。

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