ちょっとモチベがね……
段々とミシェルの身体の中に入っていく歯車。だが、その途中で進行が止まり、カタカタと震えている。
そして、そのまま衝撃波と共にミシェルの体内から弾き出された。
「あれっ?あれれ?」
銀髪の少女は困惑している。飛ばされた歯車はキャッチし、歯車を直接持ちながら隅から隅まで観察する。
「うーん、歯車の内部機能は把握してるしこの子の魔力が活性化してる時に埋め込めば確実に入るはずなのになぁ。なんでだろう……」
少女は目を細め、プクーッと頬を膨らませる。が、その後すぐにハッとしたような表情をした後、静かに笑った。
「あぁ、あの
その直後、少女の背後に大きな衝突音が鳴り響いた。
少女はその音に気付き、ゆっくりと背後を見る。そこには、テイルが自身の尻尾を、その少女に振り下ろしていた。
(魔力障壁……?いや違う!)
その尻尾は、少女の周りを覆う青い障壁によって妨げられた。その障壁はただ魔力を周りに纏ったもので、決して防御の魔法ではない。いわば、魔力の塊だ。
だが、その防御ですらない障壁をテイルは破れていない。
「あー……いたんだ。君達」
少女が手を横に振ると、その障壁は一気に膨れ上がり、衝撃波となってテイルに襲いかかる。
その衝撃波に吹き飛ばされながらも、テイルは体勢を整え、地面に着地した。
「先輩。こいつは?」
「とんだイレギュラーが来たわね」
先程までステージ上で戦いを見ていたパルクが、ステージを降りテイルの横に立った。
突如現れたこの少女。防御ですらない魔力の塊で、テイルの一撃を軽々しく防いでしまった。その様子を見ていたパルクは、少女が途轍もない強者である事を確信すると同時に、何か既視感を感じていた。
その既視感は、少女が纏っている
「あれは……」
「その感じ……何か知ってるわね」
「はい。ナイツ・エンパイアで出会ったアーシャって奴と、同じ魔力の性質をしています」
パルクがナイツ・エンパイアでの旅行中に出会ったアーシャという名の精霊使い。その人物も金色の魔力を使用していたのだ。だが、その魔力はアーシャの持つ物よりも、より大きく、禍々しい物となっている。
「……パルク・メーティス」
少女は静かにパルクの名前を口ずさむ。パルクは少し驚くが、少女の魔力に臆さず、冷静に槍を構える。
「質問しよう。アンタはアーシャ・ミリエッタという人物を知っているか?」
パルクは少女に問いかけた。少女は少し考えた後、すぐにその問いに答えた。
「うん、知ってる。アーシャからも君の事はよーく聞いてるから」
「……なら、何故ここに来た」
「何故って?ふふ、ちょっとアーシャの失礼を詫びようと思ってね」
「詫びる?」
少女は少し浮いた後、何もない空中で座り足を組んだ。その様子は正確にはイベントを楽しむ子供の様で、まるで謝罪の意思を感じなかった。
「悪かったね。どうやら私のアーシャが君達に失礼な事をしてしまったらしい」
そのあまりにも謝罪とは思えない様子に、テイルは舌を打つ。
「それが人に詫びを入れる態度なのかしら?」
「あれ、違ったかな?君らと私の違いを見れば……この態度で良いはずだけど?」
少女にとってそれは挑発ではない。少女は自身の持つ力をあって当然の物として扱っている。自身が上の存在である事が絶対であると思っているだけだ。その存在が上下する事はないと考えているのだから。
その発言は、人によっては挑発と思われても仕方ないだろう。そして、テイルはそう取る人物だ。
「気に入らないわね。アンタのその態度」
テイルから殺気が溢れ出る。パルクが冷や汗をかく一方で、その少女は平然とその様子を見続けている。
「ごめんなさい……あなたがその気でも、今の私にその気は無いの」
その瞬間、少女がその場から消えた。テイルとパルクは咄嗟に周りを見渡し、倒れていたミリエラを抱えている少女を見つけた。
「この子は貰っていくわ。近いうちにまた会うかもね」
テイルはその場を動かなかった。少女は今は戦う気がない事がわかるからだ。それに戦ったとして、今の状態ではあの少女を相手取るのは極めて難しい。それを踏まえ、テイルは少女とミリエラをこの場から退散させようとしていた。
少女は笑顔のまま、後ろへ一歩下がる。
その瞬間だった。
「……逃すかぁ!!」
上空から猛々しい声と共に、フィーネが拳を構え少女の方へ飛び掛かる。想定外の出来事に、テイルは驚いてしまった。
「よしなさい!」
「うるさい!!」
フィーネは拳を握る。今持てる魔力を最大まで拳に溜め、少女に向かって叩き込んだ。
「"極拳"!」
フィーネの拳と少女の障壁がぶつかり、大きな衝突音が鳴り響く。衝撃による風圧で、少女以外のその場にいた人達が後ずさった。
「おおおおお………!!」
拳と魔力の障壁が拮抗するが、段々とフィーネの拳が押されていく。フィーネが力を込め、前へ押し出そうとするが、その障壁は止まらずに広がっていく。
少女が腕を払った瞬間、障壁はフィーネの腕を押し切った。
「ぐっ……まだ!」
「ざーんねん」
少女は既に、空中にいたフィーネの至近距離にいた。そのまま少女は腕を上げる。
「あなたはちょっと……」
腕をフィーネの顔の前に出し、デコピンをする指の形を作った。
「興味なーい」
たいして力の入っていないデコピンが、フィーネの頭部にトンッと直撃した。
それと同時に、とてつもない轟音が会場に鳴り響いた。
「がっ……」
考える暇もなく、フィーネの意識が途切れる。そのまま地面に顔面を擦り付けながら吹き飛ばされたところを、テイルが体を張って受け止めた。
「……だから言ったのよ!」
テイルが声を掛けるが、フィーネは白目を剥いたまま、意識を戻さない。
少女はその様子に興味を示さず、ノイズを身に纏いながら徐々に姿を消していく。
「あ、私の名前を言い忘れてたわ」
少女はテイルの方に顔を向け、ニッコリと笑顔の表情を見せた。その笑顔には、無邪気な雰囲気と謎の威圧感が混ざり合っていた。
「我が名はリリス。この子達の母……そしてこの世界の……」
「創造主」
少女、リリスはそのままノイズを完全に身体に包み、その場から消え去った。そこには、驚くほどに何の痕跡も残らなかった。
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ドールズホテルのロビー。そこのソファーでテイルとパルクは、倒れたミシェルとフィーネをそこに寝かせた。その後、テイルは別にある椅子にゆっくりと座り、パルクはもう一つのソファーにぐったりと力なく座り込んだ。
「……一応この国の警備隊に連絡はしました。しかし……」
「痕跡が驚くほど何もなかった。何なのよあのリリスって奴は……!」
テイルは珍しく、声の様子からもわかる様に苛立つ姿を見せており、足に置いた手に力が入っている。
「あいつは去り際、自身を創造主と言っていました……つまりあいつは……」
パルク自身も信じられなかった。旧人類総合歴史書に書いてある、旧人類を滅ぼした元凶の名を、あの少女は持っていた。
それに加え、少女はその名に相応しい力を持っていた。防御ですらない魔力の障壁、ただのデコピンでフィーネを速攻で倒す圧倒的な攻撃力。そして、あの全てを見透かす様な仕草。神様と言っても過言ではない雰囲気をあの少女は持っていた。
「あいつは歴史書の人物と同じ名を持っています。俺の予測が正しければ、あいつは本物の……」
「あんなの偶然よ」
「それに見合うほどの力があるのを見たでしょう?俺はそれが偶然とは思えない!」
「案外偶然って多いのよ。今回のだってその一つ……」
「誤魔化さないでください!!」
パルクは声を荒げるが、すぐに気を取り直し、冷静に口を開く。
「恐らく、アーシャとミリエラのリーダーな以上、何をするかわかりません。リリスが何かする前に、俺達で総力を上げて討伐するべきです」
「……えぇ、そうすべきね」
テイルの目線が、倒れているミシェルの方へ向く。その目線の移動を、パルクは見逃さなかった。
「……前から気になってたんですけど、何でそんなにミシェルの事を気にしているんですか?」
「私がこの子を?まさか……」
「パーティ会場で先輩は持ち場を離れて、わざわざミシェルに近づきましたよね」
ミリエラが本性を現す前、テイルとパルクはそれぞれ決められた場所で、歯車の周辺を監視していた。その途中、テイルが規定の待機場所から離れたところをパルクは見ていた。
テイルはかなり自由な為、そこまではしょうがない事だと思い見逃していたが、ミシェルの話していた場面を見た瞬間、パルクはその時のテイルの行動に、違和感を感じていた。
ただ何か酒を飲むつもりなら、周りの人物と話す必要がない。それにテイルは任務中は無駄な事はしない。そんな人が面識のない人物と話すという行動をする訳がない。
「どうしてミシェルと……」
その時、ミシェルが突如身体を起こした。
「うわっ!」
「目覚めたわね」
ミシェルは周りを見渡し、ここがドールズホテルのロビーだという事をすぐに理解した。
そして、ミシェルは座っていたテイルを見た。
「……」
テイルの目線がミシェルの目線と合う。目覚めたばかりのミシェルは、疲労を感じさせないような表情をしていた。無表情だが、かなり澄んだ顔だった。
だが、テイルの顔を見た後、ミシェルの表情に少し歪みが見えた。
「あなた……」
その歪みに気づき、テイルは立ち上がり、ミシェルの方へ歩いていく。そのまま歩いて行き、ミシェルの目の前で足を止めた。
「歯車を捻じ込まれた時、何を見たの?」
目線がキツくなる。同じ背丈の筈なのに、まるで何も言わずに訴えかけてくる大人のような威圧感に、ミシェルは襲われた。
だが、その威圧感を気にせずに、ミシェルはテイルを睨みつけた。
「あなたは……誰なんだ」
「何で……父さんと一緒にいるんだ」