アフターワールド   作:プラモプール

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吹き荒れる吹雪

「みーっけ」

 

 リリスの目が地上に佇む男を捉える。それと同時に、その男もリリスを捉えた。

 

「どういうつもりだ!」

 

 男の低くも重みのある声が、響き渡る。その声量は、空中にいる三人にも十分聞こえる大きさだった。

 リリスは静かに地上に降りる。アーシャとミリエラも地上に降りようとするが、リリスに手で止められた。

 そのままリリスはその男に向かって歩いていく。

 

「どういうって、ただの広告活動だよ?私がどれだけ力を持っているかっていうね」

「貴様、選別とやらはもう少し先ではなかったのか?」

 

 男は手を握り締めながら、冷静に受け答えている。

 対してリリスはちっとも真剣ではなく、むしろこの状況を楽しむかのように、少し口角が上がっていた。

 

「その日まで何もしないなんて一言も言ってないよ〜?文脈読めてるぅ?」

 

 声を高くし、手を動かしながら、男を煽るように話すリリス。

 だが、その煽りを男には全く効果がなかった。

 

「貴様らが何をしようと、敵対勢力である事には変わりない。今ここで処理する」

 

 男が勢いよくマントを脱ぎ捨てる。マントの中に隠れていた両腕がみえるようになり、手首から肘にかけて、光沢と重厚感のある黒い装甲に覆われている。

 

「へぇ!君ガントレット使うんだね」

「それがどうした?苦手か?」

「いーや別に」

 

 リリスの態度は変わらず、あくびや身体をゆっくりと伸ばすなど、男の話など真面目に聞く気がないようだった。

 

「つまんないってだけ。殴ってる側が勝手に熱くなっちゃうし」

「そうか。なら……」

 

 男が拳を握ると、何かのスイッチが入るような機械音が鳴る。その瞬間、ガントレットの一部装甲が上から順番に展開していく。その展開された部分からは、白い冷気が溢れる。

 

「熱いのが嫌なら……冷たいのはどうかな?」

 

 男は右の拳を地面に叩きつける。そこから無数の氷の針が生え、リリスへと向かっていく。

 リリスは余裕そうに手を広げ、障壁を発動。氷の針はその障壁に衝突し、最も容易く砕け散る。

 間髪入れずに男は左の拳を振り上げる。それに連動するように、氷柱が波のようにリリスに迫る。

 だが、障壁は未だ展開されている。その障壁に氷柱が衝突し、これも砕け散ってしまう。

 

「じゃっ……私もそろそろ動こうかな?」

 

 リリスの背後に二つの魔法陣が現れる。その魔法陣に段々と魔力が集まっていき、一気に男に向かって放たれた。

 男は瞬時に反応し、掌を地面に付け氷壁を生成する。二つの光線が氷壁に衝突するが、表面が少し削れた程度で、その氷壁はびくともしない。

 

「この程度の攻撃!」

 

 男が反撃に出ようとする。だが、その時すでにリリスは氷壁の前にいた。

 そのままリリスは氷壁に向かって指を弾く。

 

「なに…!?」

 

 氷壁が簡単に砕け散り、破片が宙を舞う。

 その破片の間で、男はリリスの背後の魔法陣が、既に魔力を貯めている事に気づいていた。

 男は地面に拳を叩きつけた。一見同じ技を出そうとしているように見えるが、そうではない。

 男の叩きつけた地面の周辺が、あっという間に凍結した。氷柱が先程の比ではないほどの速さで発生し、リリスは飛び上がり後方へ下がる。

 時間差で発射された魔力の光線も、その氷柱が壁の代わりになり、貫かれることはなかった。

 

「落ち着いてるねぇ。少し気に入ったかも!」

 

 笑顔で楽しそうに飛び跳ねているリリスを、男は睨みつけ眉間にシワを寄せる。

 リリスの目が黄金色に輝き始め、再度攻撃を始めようとする男を観察する。

 

「君、バロックって名前なんだね?」

「!?」

 

 男、バロックは驚愕する。

 この戦いで、バロックは一度も自身の情報を出した覚えはない。それなのに、リリスは一目見ただけで男の本名「バロック」を知ってしまった。

 バロックは何故本名がバレたのかを考える。そして、先程リリスの目が黄金色に輝いていたことに気がついた。

 

「貴様……何を見た」

 

 バロックにはリリスの存在が気色悪く見えた。

 見た目はただの少女だ。だが、中身は違う。子供らしい純粋さと、察知できないほどの悪意が入り混じっている。

 今まで見た中でも危険な存在だということを、バロックは感知する。

 

「バロック……"歪んだ真珠"かぁ。人の名前に付けるようなものじゃないはずだけど……」

「あぁ、そうか!」

 

 リリスはクスクスと口角を上げながら、何か納得するように掌を叩き、バロックの方を指差した。

 

「君の親はよっぽど君が嫌いなんだね!」

 

 バロックは沈黙を貫く。

 手が震え、握った拳からから肉が軋むような音が聞こえ、顔の血管が浮き出ていた。

 

「貴様がその名を……」

 

「呼ぶな!!」

 

 バロックは腕を横に振り、無数の氷の針をリリスに向けて飛ばす。

 リリスの障壁がすぐさま展開され、氷の針を防ぐ。すると、砕かれた氷の針から真っ白な煙が広がる。

 リリスは自身の周りに竜巻を発生させ、煙を吹き飛ばした。

 

「へぇ、面白い小細工するんだね」

 

 そこには既にバロックの姿はなかった。

 たが、リリスはバロックがまだこの場にいることを確信している。周りを見渡した後、リリスは目を瞑り、それと同時に障壁が消滅した。

 

 瞬間、リリスの死角からバロックが飛び出してきた。

 

(やっぱりね!)

 

 バロックが至近距離に近づいたのを確認した後、りりはすぐに障壁を再生成した。

 これにより、バロックは障壁によって閉じ込められた状態になる。

 

「自分から罠に引っ掛かってくれるなんて!」

 

 リリスから溢れんばかりの笑みが溢れる。それは先程の優しいものとは裏腹に、邪悪な感情が溢れているような笑み。

 障壁に魔法陣が数々と展開されていく。リリスはこのまま勝負を決めるつもりなのだ。

 だが、バロックは考えなしに罠に嵌ったのではなかった。

 

(待っていた……この時を)

 

 バロックが両手を組み、力を入れた。

 ガントレットからは途轍もないほどの冷気が炎のように溢れ出し、その冷気がバロックの腕を包んでいく。

 そのまま冷気は形を作り、氷となり、最終的にドリルの様な形状となった。

 

(貴様がこうして隙を晒すこの時を!)

 

 バロックの腕を包んだ氷のドリルが回転する。その回転に釣られ、周りの冷気も腕の周りを回転し始めた。

 

「……っ」

 

 バロックの攻撃を察知し、リリスはその場から抜け出そうとした。だが、足が凍っており、それに気づかなかったリリスは、無理矢理動かそうとした反動でバランスを崩した。

 

 バロックはこの状況になるのを予想していた。リリスの態度、口調、性格、戦法、これらを元にしてバロックが導き出した答え。

 それはリリスに調子を乗らせること。リリスは自分以外を軽視している。その為、どこかで隙を狙う人物がいても、その重要性を甘んじ、わざと防御を緩めることをバロックはわかっていた。

 しかし、その行動をするのはリリスが絶対的な自信を持っているからこそ。単純に突っ込めば、そのままやられるに違いない。隙を突けば必ず倒せる何らかの方法が必要だ。

 

 その方法を、バロックは既に習得している。

 

「魔力特性……一部解放!」

 

 それは、バロックの持つ魔力特性。それを使うことにより、バロックは更に繊細に冷気を扱うことができる。

 

 そしてこの瞬間、魔力特性を解放したバロックは既に、リリスの持つ速度を超えるほどの一撃を放っていた。

 

 

 

 

 

"氷結武装・反動氷弾"

 

 

 

 

 

 

 組んだ両手から、氷の弾が発射される。体勢を崩していたリリスの胸に容易く直撃し、物を削る音を出しながら、そのまま向こう側に吹き飛ばされた。

 発射された弾の反動でバロックは後ろに吹き飛ばされかけるが、足に力を入れ堪えることで、地面に跡を付けながら力を逃し、勢いを殺した。

 バロックの周りを囲っていた魔法陣が消え去り、障壁も消滅した。

 

「……どうだ。これが貴様が舐めていた人間の力だ!」

 

 バロックの持つ必殺の一撃。"反動氷弾"

 魔力特性の応用によって、腕に魔力と冷気を込めた鋭い弾丸を放つ技。バロックの魔力特性は、通常はそのまま扱うと、強すぎる出力故に魔力が漏れ、上手く力を抑えられなくなる。

 だが、今したように一部分にのみ魔力特性を発動させ、そこに出力を集中させることによって、魔力を漏らすことなく活用が可能になった。

 だからこそ、この"反動氷弾"は超強力な必殺の一撃となっている。どんな者でも、この技を喰らえばひとたまりもない。

 

 

 

 

「……んー」

 

 

 

 

 ひとたまりもない……

 

 

「こーれは効いたねぇ。効いた効いた」

 

 

 ……はずだった。

 

 

「ふふ……」

 

「あははははははははは!!」

 

 バロックの攻撃はリリスには届いていた。証拠に、リリスは今身体の胸から血が溢れている。口から血を吐いたような跡もあり、五体満足ではない。

 だが、それを気にしないかのように、リリスはバロックに向かって歩いている。

 

「すっごーーい!ほんっとに凄いよ!」

 

 見た目の状態に反し、リリスは声を高くしながら目を輝かせている。

 

「君の言う通り私は君達の事を甘く見ていたよ!!まさか私が眠っている間にこんなに強くなってたなんて……いやー作った甲斐があったなぁ!!」

 

 バロックは言葉が出ず、その場で固まってしまう。

 必殺の一撃を受け、血塗れになりながらも、元気に振る舞う姿は、とても人間の姿とは思えなかった。

 

「……化け物め」

 

 バロックは再度拳を握る。

 まだ、体力は残っている。身体に傷があると言うことは、効いているということ。このまま攻撃を続ければ、勝機はある。

 戦闘を続けようとするバロックに対し、リリスは背を向けて歩き出した。

 

「何をしている……?」

「君は誇るべきだよ。私の子供にしてあげたいくらい」

 

「でーも」

 

 リリスは振り返り、再び笑顔を見せた。少し前に見せた優しさのある笑顔。

 

「あの子がもう抑えられないんだって。だからね……」

 

「選手こうたーい!」

 

 笑顔を見せるリリスの上空から、黒い服に身を包んだアーシャが降りてきた。

 アーシャの周りに纏わりつく"エイリ"が、霧状になりアーシャの身を包んでいく。

 

「まさか……貴様!?」

 

 エイリが成していく形が何か、バロックはすぐさま気付く。

 

「……貴方の力、とても良さそうだから……」

 

 

「使わせてもらうね?」

 

 

 エイリがアーシャの両腕に、足に、腰に、胸に、そして頭に、鎧となって身に付いていく。

 アーシャは小さな声でくすくすと笑い、身体に付けられた鎧を軽く触り、ゆっくりと地面に降り立った。

 

「貴方の力の名称を借りるなら……」

 

 

"精霊武装"

 

 

「ってところかな?」

 

 バロックの魔力特性を真似たアーシャの"精霊武装"。

 模倣とは思えないほど、細かく繊細な力を手に入れたアーシャを前に、バロックはアーシャの持つ力を警戒し、静かに構えを取った。

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