静寂に包まれた夜の村、そこに一つの大きな轟音が響いた。
ミシェルは左斜めから左手の鉄の剣を振り被り、フィーネはその剣は真っ向から拳で迎え撃った。剣は粉々に砕け散り、右手に持っている剣を振ろうとするが、フィーネにはすでに見切られていた。
「おっ…そい!」
右斜め下から来る斬撃をフィーネは身体を反って避け、その運動を利用し、身体を捻りかかと蹴りをミシェルの顔面に叩き込んだ。
「ぐっ…」
ミシェルはかかと蹴りによる衝撃で一瞬意識を失いかけたが、危うく意識を保った。
だが、体勢を整える時間をフィーネは与えてはくれなかった。
フィーネの拳が風を切りながらミシェルの腹部に直撃した。直撃した瞬間に、ミシェルの腹部の骨が折れるような音が微かに聞こえた。
「ぐふっ…!」
ミシェルは吹き飛ばされ、地べたを勢いよく転がりながらも体勢を整えるが、喉奥から何やら熱いものが込み上げてくる。
「カハッ…ハァ…ハァ…」
地面に落ちた液体をミシェルは見つめた。
赤い血だ。あの時の腹部の衝撃で骨が折れた。その時に運悪く内臓に刺さったのだろう。ミシェルは腹部を中心とした鋭い痛みに襲われていた。
フィーネが覚醒し、魔力の操作を覚えたことで、厄介だった力がより強力になっていた。
それに加えて、ついさっきの攻撃。鉄の剣が折れた後、右腕の剣で攻撃した。フィーネはあの時壊れた剣に意識を集中させていた。死角からの攻撃を、フィーネは目視せずに避けていた。
魔力による全身の感覚の強化。おそらくそれを無意識に成し遂げていたのだ。
(…今ここで使いたくなかったけど、使うのはここしか無いか…)
ミシェルは起き上がり、両手に持つ剣を捨てた。捨てた剣は地面に落ちた後、青い粒子になって消えた。
右手に魔力を集中させた。青い粒子が形を作っていく。
だが、鉄の剣を生成した際とは明らかに違っていた。フィーネは持ち前の勘でその違いを感じ取っていた。
(…魔力ってのを使えるようになったせいか、あいつの武器の作り方がわかってきたぞ。最初の武器は形だけを作ってそこに魔力を流し込んでただけだった…はず。けど、今こいつが作ろうとしているものは
ミシェルが生成しようとしているもの。それは先程の鉄の剣とは違い、内部までもが魔力によって構築されていた。塊ではなく、一つの機能が発動できる構成が組み上がっていく。
その武器は段々と形を成して行き、次第にには一つの片手剣の形が出来上がっていた。
フィーネは前へ踏み込み、ミシェルに近づく。フィーネが拳を握りしめ、ミシェルに叩きつけようとする。拳がミシェルの顔面の直撃しそうになるその瞬間、
"青い一閃"が暗闇に一瞬煌めいた。
「…いっ!」
フィーネの拳は直撃した。だが、直撃したのはミシェルの顔面ではなく、青く光る片手剣だった。それと同時にフィーネの腕から小さな痛みが襲った。
腕を見ると、手の甲に斜めの切り傷ができていた。そこからたらたらと血が流れている。
「へぇ…まだ隠してたな…?」
ミシェルの表情は暗闇でよく見えなかった。だが、その暗闇の中で一つの光が見えた。
目。
ミシェルの目からは
ミシェルが青い剣をフィーネに対して振った。その剣からは先端から青い光が弧を描き、"飛ぶ斬撃"となって、フィーネに猛スピードで襲いかかってきた。
遠距離からのの攻撃に驚きながらも、フィーネは斬撃の軌道を避け、斬撃はそのままスピードを緩めず、奥にあったゴミ箱に直解した。
衝突音と共に瓦礫が崩れる音がした。煙が消えると、そこには綺麗に一刀両断されたゴミ箱。そして、その後ろの壁には深い斬撃の跡ができていた。
「………まぁじで?」
「…"斬波の剣"。それがこの武器の名前です」
ミシェルはその右手に持つ青い剣をゆっくりとフィーネの方向に向け、睨め付けた。
「今私が持つ最高の武器を…今のあなたにぶつけます!」
ミシェルはフィーネに向かって走り出し、剣で下から弧を描き、さらに斬撃を飛ばした。
フィーネはそれを間一髪で避け、足を踏み出しミシェルに向かって走り出す。
ミシェルは斬撃を飛ばしながらフィーネに近づき、フィーネもミシェルの飛ばす斬撃を避け、避けれないものは魔力を拳に纏って弾きながらミシェルに向かって直進していく。
ミシェルの魔力を斬波の剣に込め始め、剣を両手持ちに切り替えて、持ち手を握りしめた。フィーネは、ただ真っ直ぐと直進していき、魔力を拳に込め、ありったけの力を叩き込もうとする。
「おらぁ!」
「はぁ!」
お互いが接触できる範囲に近づいた瞬間、ミシェルの剣とフィーネの拳が衝突した。
轟音が辺りに響き渡り、剣と拳は互いに拮抗し、
そして、遂に衝撃が最大になり、ミシェルとフィーネは反対方向に吹き飛ばされた。
フィーネは、足と手で吹き飛ばされた勢いを全力で殺し、反対側に吹き飛ばされたミシェルは、斬波の剣を地面に当て、足にも十分力を入れて勢いを殺した。
今現在、フィーネとミシェルは互いに警戒し合っていた。
まず、フィーネはミシェルの剣を警戒していた。手の甲を斬られたことにより、自分を簡単に斬ることができることがわかったのなら、なおさら。
対するミシェルは、フィーネの拳を警戒していた。なぜなら、あの威力の打撃をもう一度喰らえば、これ以上立っていられない、ということが既にわかっていたからだ。
ならばどうするか?
どちらも同じ考えだった。
そう、一発勝負。最後の一撃で全てを終わらす、互いの考えは変わらない。
互いに体勢を整え、じっと構えを取る。
空気は緊迫し、一瞬二人の間は静かになり、
同時に走り出した。
(今ここで…)
フィーネは今まで身体中に纏っていた魔力を全て右手に集中させた。ミシェルに当たれば、今度は骨折では済まない。
(決める!!)
ミシェルは今使える魔力を全て斬波の剣に込めた。これがフィーネに直撃すれば先程の浅い傷とは比べ物にならないくらい、とてつもない重傷になるだろう。
距離を近づけていき、遂に互いの攻撃範囲にどちらも足を踏み入れた。
衝突。
魔力と互いの武器による鍔迫り合いが始まる。
「うおおおおおおおお!!!!」
魔力は互角。だがしかし、
「…ぐっ!?」
その力は、微かにフィーネが勝っていた。
「く…た…ば…
れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
割れた。ミシェルの持つ武器"斬波の剣"が、遂に壊れた。
そしてそのまま拳は突き進み、ミシェルの顔面に直撃した。
鈍い音が響く。だが、
(なんだ…この感覚…!?)
殴る感覚に差がある。肉に当てた時の感覚ではなかった。
すると、拳がミシェルの顔面から…
ぐにゃり
滑った。
(はぁ!?)
フィーネは訳がわからなくなっていた。直撃したはずの拳が、なぜか滑ってしまったのだから、
(…滑らせられた!?)
その間に、ミシェルは壊れた"斬波の剣"を魔力の粒子に戻した。その粒子は身体を伝って左手に写っていく。
そして左手には、いつの間にか雷が纏わりついていた。
魔力がその雷に触れると、魔力もすかさず弾ける。他の粒子も連鎖して弾け始める。
弾ける魔力は雷と共に収縮していき、一つの剣を形作った。
「これが僕の…奥の手…」
斬波の剣に宿る魔力に加え、斬波の剣に込めて最大の魔力。極限まで強化された最大級の雷鳴。
「"雷鳴剣"!!」
フィーネの身体に雷鳴剣が直撃した瞬間、迸った雷が辺りを照らし、豪雷のような音が辺りに鳴り響いた。
「ガッ…!?」
斬られたはずなのに刃が当たった部分に傷はなかった。だが、フィーネの身体の内部から想像したことのない痛みが襲いかかってきた。
(
一部分だけなのに、全身を斬られたかのような痛みが継続的に伝わってくる。その痛みはどれも耐えきれない痛みだった。
「…はは…」
もうフィーネには身体を動かすことはできなかった。ただ、自分の全力を出し切って、その上で自分より強い相手に負けたことが、悔しかった。
だからこそ、フィーネは決心した。
「お前を…」
自分が負けた男ミシェルを、今より更に強くなって超えて見せることを、決心した。
そして、
「こ…え…」
「はぁ…はぁ…」
熾烈を極めた戦い、最後に立っていたのは、
「…勝ったのか…」
双剣、または二刀流使い、ミシェルだった。
武器解説
斬波の剣
ミシェルが生成した片手剣。ミシェルがイメージした「飛ぶ斬撃を更に最適に繰り出せる剣」を具現化した物。
普通の片手剣との違いは、この剣が繰り出す斬波にある。斬波とは、飛ぶ斬撃の10倍以上の威力、つまり飛ぶ斬撃を極限までに強化した物である。普通の冒険者がこの斬波に普通の飛ぶ斬撃で張り合うことは不可能に近い。それに加え、斬波の剣はそれに更に魔力を鋭利にする機能があり、それにより、通常の斬波より更に高威力を引き出せるようになっている。
また、斬波を剣の内部に留まらせることで、剣が更に鋭利になり、並大抵の剣なら簡単に切り裂くことができる。
いわば、この斬波の剣は、斬波を打つことに専念した武器であるのだ。
雷鳴剣
ミシェルが生成したもう一つの片手剣。ミシェルがイメージした「本物の雷のような鋭い一撃」を具現化した物。ただ、フィーネに使用した際はそれに加えて、「身体を傷つけない」を加えてイメージしている。
雷によって、破裂を繰り返すようになった魔力は、辺りを巻き込む爆発を繰り返し、とてつもない被害を引き起こすが、ミシェルは、それを強制的に剣として収縮させ、触れた瞬間に電気が放出される機能と魔力が連鎖して爆発する機能を持つ武器に変化させた。
普通なら持ち手を取った時点で、破裂する魔力で全身に痛みが走るが、ミシェルは「製造」の魔力特性で、掌に絶縁型の布を貼り付けて身体に影響が出ないようにしている。(長く持つと危険なのは変わらないが)
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