アフターワールド   作:プラモプール

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ナイツ・エンパイア編開幕


忍び寄ってきた影

 とある草原、見渡す限りの緑の中をガラガラと車輪を回しながら、ミシェルの乗る馬車が走っていた。

 ミシェルが目指している場所は、"騎士の国"の中心にして核となる場所、ナイツ・エンパイアである。中心部であるが故に、技術、人口、賑わい、全てが他の町とは比べ物にならない程である。何より注目するべきは、騎士の存在だろう。この国には騎士という兵士が存在しており、戦闘に長けているのは勿論のこと、国の自治すらも騎士が行なっている。この国の住民にとっては憧れの存在なのだ。

 その中でも、広く名が知れ渡っているのは騎士団長の存在である。実力は、女性でありながらも今現在存在している騎士の中でもトップクラス、それに加えてどんな人にも優しく、国一二を争う美貌を持っているとされている。この国の象徴であると言っても過言ではない人物だ。

 ミシェルが風を受けながら外を見つめていると、馬車が徐々に速度を落とし、停止した。馬車の運転手は後方に振り返り、ミシェルに言った。

 

「すみません、これ以上先に進めないので歩きで行ってもらっても構わないでしょうか?」

 

 ミシェルは不思議に思い、日差しでよく見えなかった前の景色を見ようと、運転手の近くに行った。

 そこから見えたのは、辺りいっぺんが人だらけの景色だった。

 

「ま…まさかここまで多いとは…」

 

 噂話以外でのナイツ・エンパイアの様子をミシェルは知らなかった。実際はその話よりも強大な場所だったのだ。

 ミシェルは、運転手にお礼と料金を支払い馬車から降りた。そしてこの場所の予想以上の賑わい具合に圧巻されていた。その様子に、ミシェルは興奮が隠せなかった。

 

(おお…おおおおおおおおお!!)

 

 賑わいだけでなく、ハナ町のような普通の町では見かけない物まで売られている。ミシェルは心の中で、普段の冷静さを忘れてしまうほどに、沢山の未知の物に惹かれていた。

 

(見たことないものが沢山ある…これが都心部!)

 

 興味が湧く物が多すぎて、あらゆる物を衝動買いしそうになる心をミシェルは一度落ち着かせた。

 ミシェルは一度この場所ですることを整理した。まず一つは情報共有だ。歯車を狙っているのはミシェルだけではない。それ故に様々な情報が入り混じっている。人がわんさかいるナイツ・エンパイアならば、優秀な冒険者が多い。その人達から聞き出せば、より正確な情報が聞けるはずだ。

 二つ目は物資の調達。都心なだけあってほとんどの物が最上級の品質だ。値段が張る物

もあるが、必要になるなら購入する選択肢もなくはないだろう。それにしても、ここは気になる物があり過ぎるのが問題だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳内を整理し終え、再び人集りの道を歩こうとした時、何やら暗い路地から何かが光るのが見えた。ミシェルは気になり、その裏路地へと向かった。奥に向かうごとに賑わい声が段々と遠ざかっていく。かなり奥に進んだ後、そこには先程の光の源があった。

 それは、大きな赤色の宝石が嵌めてあった髪飾りだった。ミシェルはその髪飾りを手に取った。かなり上質な髪飾りだ。どこも綺麗に仕上がっている。何よりも、赤い宝石はとても綺麗に輝いており、引き込まれそうな存在感を示している。

 

「こんな物落とすなんて。どこの金持ちなんだろうか…」

 

 ミシェルは髪飾りをポケットにしまった。生憎、これを盗む気はない。ここなら、近くの騎士にこれを渡しに行こう。

 用が済んだミシェルは、路地裏から出ようと足を前へ踏み出した。

 

「あ、あの〜」

 

 突然後ろからか細い声をかけられた。

 振り返ると、そこには一人の女性がいた。黒い長髪で全体的に黒い服装で、帽子を被っており、それについてる薄いカーテンが口以外の顔の部位を完全に隠している。

 

「あっ、えと、その…」

「…?」

 

 何やら上手く喋れていない様子だ。あまり会話をしたことが無いのだろうか?黒髪の女性は、一度深呼吸をしてもう一度口を開いた。

 

「すみません…それ、私にくれませんか?」

 

 それ、とは恐らくこの髪飾りだろう。ミシェルは髪飾りの持ち主なのだろうと思ったが、少し違和感を感じた。

 

(なんか…普通ならこんな高そうな物落としたら結構取り乱すはずなのに、この人にはそんな様子が微塵もない)

 

 まるで誰かに頼まれてやっているような様子をしていた。

 いや、流石に考えすぎだ。ミシェルは疑念を抑えて髪飾りを女性に渡そうとした。

 

 その瞬間、上空から何かが二人を分断するようにズドッと突き刺さった。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 ミシェルはすぐに後ろに下った。しかし、女性は悲鳴を上げてヘナヘナと座り込んでしまった。

 突き刺さっていたのは槍だ。しかし、その槍はすぐに白色の粒子になって消えてしまった。

 

「少しは警戒しろよ。そいつ盗人だぜ?」

 

 男性の声が聞こえ、上からその声の主が降りてきた。

 背が高く、短髪の金髪を靡かせており、下は半ズボンで上はシャツ一枚の服装で、黒い槍を持っている。

 

「盗人って…」

 

 先程の発言が気になり、ミシェルは男性に声を掛けた。男性はミシェルを見ると、先程の真剣そうな表情から、途端に柔らかい笑顔を見せた。

 

「まぁ、こいつは最近ここでよく現れてんだ。それで路地裏に迷い込んだ人の荷物を盗んだり、暴力を振るったりしてる奴…とは聞いたんだけどな」

 

 金髪の男性が黒髪の女性の方を見ると、女性は縮こまって震えていた。今の話を聞くと、かなり凶暴な性格をイメージしそうになる。だが、今ここにいる女性はそれとは全く正反対。盗人に物を盗まれそうな姿をしていた。その様子は、ミシェルと金髪の男性が呆れてしまう程だった。

 

「おしまいですぅ…私このまま豚箱行きですぅ…そのまま私の()()な物を奪われてしまいますぅ……でもそれだと()()()にぃ〜」

 

 どちらの考えが一致した。とても盗人とは思えない。

 

「盗人の姿ですか…?これが…」

「ま、まぁ…これならスムーズに確保できるから…」

「うっ…お、お願いしますぅ〜。そ、それを、持っていかないと…」

 

 女性が震える口で何かを言っている。ミシェルと男性は、先程の女性のビビり具合もあり、静かに女性の話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()様に怒られてしまいますぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 耳が劈くほどの彼女の声がひびいた瞬間、空間が一瞬歪んだ。

異変に気づいたミシェルと男性はすぐさま身構える。涙で顔がびしょ濡れになっている女性の背後に突然黒い影が現れた。黒い影が足を踏み出した時、とてつもない重圧がミシェルと男性に襲いかかった。

 

 影がドスンと地面に拳を叩き込んだ。それと同時に二人の足元に丸い影が現れた。男性はいち早く気づいたが、ミシェルは一足遅く気づいた。

 

「危ない!」

「!?」

 

 男性がミシェルを担ぎ上げ、空中へ飛び上がった時、丸い影から勢いよく拳が飛び出していた。男性は地面に着地し、担ぎ上げていたミシェルを下ろした。

 

「大丈夫かい?」

「助かりました。加勢します」

「いーや、子供に助けられちゃ面目が立たない」

「子供…?」

「それに…」

 

 男性が手を前に出した瞬間に、白色の粒子が集まり先程の黒い槍に形を成した。

 

「人を相手にするのは慣れてるんでね!」

 

 金髪の男性は槍を回し、矛先を黒髪の女性に向けた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 女性の悲鳴に呼応するように、影が男性に向かって拳を振り下ろした。男性は冷静に拳を槍で受け流し、滑るように影の胴体を切り裂いた。

 しかし、影は切り裂かれた胴体を瞬時に繋げ、反撃の蹴りを放った。男性は身体を後ろに倒し、それと同時に右に身体を捻らせ、槍で影の溝内を狙う。

 

形態変形(メタモルフォーゼ)!!」

 

 だが、それは影を騙す為のブラフだった。男性の魔力に槍が発光し、一瞬で槍の全長が伸びた。伸びた矛先が影の後方で震えている女性を捉える。

 

(多少の傷は…許してくれよな!)

 

 直撃するかと思われたその時、影が突然姿を消し、女性の前に現れ、()()()()に抱き抱えた。矛先は女性ではなく影に直撃し、その傷も既に繋がっていた。

 

 男性は今の影の行動に少し違和感を覚えた。今、女性は錯乱状態である事を踏まえると、影に命令することは難しい。なら、何故影は女性を守ったのか。

 ()()という物がある。魔力を使うことで召喚することができる生き物と物体の狭間にある存在。それは基本的には主人からの命令がない限りは動かない。

 

 一つの例外を除いて

 

 男性の脳内に浮かんだ可能性は二つ。一つは命令型、これは先程の理由でありえない為除外される。

 

 ならば、残るは一つだけ。

 

 主人の命令に関係なく、意思を持って動く例外……

 

(()()()か!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後ろから見ていたミシェルは男性の戦闘能力に驚いていた。身体のしなやかさや武器の扱い方による魔力を全面的に使わない戦い方、言い換えれば補助に近い戦い方だ。

 このような戦い方ができるのは冒険者の人間の中でも限られている。しかし、男性には彼女が生み出した()()()()()影を突破できるほどの攻撃力を持っていない。影を突破するには、瞬間的かつ強力な攻撃が必要になる。

 

 そして、ミシェルはそれを持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 突然、男性の後方にいたミシェルが走り出した。ミシェルは魔力特性を発動し、雷鳴剣を生成した。ミシェルは雷鳴剣を影に投げ、瞬時に斬波の剣を生成する。

 

「下がって!」

 

 ミシェルには狙いがあった。魔力は性質が伝播する。例えば、魔力の粒子が炎に触れた場合、魔力の粒子も炎のように燃え上がる。雷鳴剣も同じ仕様だ。電気を魔力の粒子に触れさせることで、魔力の性質を電気のように変化させた後、武器と生成することで出来上がる武器だ。その性質をミシェルは利用した。

 ミシェルが、斬波の剣から魔力を持った飛ぶ斬撃を放った。その斬撃が雷鳴剣に直撃した瞬間、雷鳴剣が破壊されると同時に一瞬の光が辺りを覆い、轟音が鳴り響いた。破壊された雷鳴剣から雷が発生し、爆発するように連鎖して範囲を広げていく。影はその雷撃に耐えられず、煙となって消滅し、後ろ盾が無くなった女性は雷撃がそのまま直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんじゃこりゃ」

 

 ミシェルの声に気付き、すかさず影の前から下がっていた金髪の男性は、雷鳴剣が引き起こした雷に驚愕していた。今この道には、先程の雷で脆い木材などが破壊され、発生地点全てが黒く焦げており、とてつもない光景だった。ただの子供と思っていたが、こんな物を持っていたとは男性は思わなかったのだ。いや、そもそもただの子供がこんな物を作れる訳がない。

 

「ふぅ…」

「…あんた、ただの子供じゃないな?」

 

 ミシェルは額の汗を拭き、金髪の男性を見たあと、手を腰に当てて煙の向こうを見ていた。

 煙が晴れた場所には倒れている黒髪の女性。すると、黒髪は影に引き込まれるように地面に潜り、姿を消してしまった。

 




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