アフターワールド   作:プラモプール

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更新遅れました!!(すみません)


暴君再来

「ギリギリセーフってか!!」

 

 パルク・メーティスは矛先をアーシャに向けて堂々と言い放った。

 アーシャは最初は何故パルクに気付けなかったのかがわからなかった。だが、すぐに単純な答えに辿り着いた。

 

 魔力を一時的にオフにして移動していたのだ。

 

 鍛錬を積めば、魔力の放出のオンオフを自由自在に設定できる。パルクはそれを常時オフにしてここに移動してきたのだ。

 しかし、アーシャが真に驚いたのは、ここまで自前の身体能力だけで自立型の精霊である"エイリ"に不意打ちできたことだった。

 

「エイリの探知より早く動いたってこと…?」

 

 精霊が物や人を認知する際は、魔力の波で判断する。人や物に魔力がぶつかることによって発生する波で、周りの物体や気象、人が通常では見ることができないものも察知することができる。その為、事実上精霊は他の生命体より反応速度が高い存在とされている。

 だからこそ、それよりも速く槍を振り下ろし、エイリの腕を切り離したことが()()なのだ。

 

「おい!生きてるか?」

 

 パルクは倒れているミシェルに声を掛けた。ミシェルは身体を上げ、ゆらゆらと立ち上がった。

 

「けほっ…だ、大丈夫です」

「どう見ても大丈夫じゃ…!」

 

 会話をする暇を与えずに影の精霊のエイリはミシェルを叩き潰そうと一撃を放つ。

 パルクは急いで槍を伸ばし、ロープのようにミシェルを縛った後、力を入れて引っ張ったと同時にエイリの一撃が地面に激突した。

 

「どーして邪魔するんですかー」

 

 アーシャが面倒くさそうにパルクに問いかけた。

 

「普通人が殺されそうになってたら止めるだろ!それに…」

「『お前を人殺しにはさせたくない』…って言いたいんですか?」

 

 パルクは言おうとした言葉を当てられてしまい、つい言葉が詰まってしまった。アーシャは未だに面倒臭そうな表情で、二人を見下ろした。

 

「前科を持たせたくないって考えですかぁ?さっすが()()()()()()()()ですね…」

「なんでお前がそんなことを…」

 

 なんとか立て直したミシェルは、パルクの焦った顔を見た。酒場での話を聞いた限り、パルクが冒険者ではないということはなんとく察していたが、そんなに人に言えないほどの仕事場なのかとミシェルは困惑していた。

 アーシャは二人に近づきながら、喋り始めた。

 

「安心してください。私…悪い子ですから」

「何言ってる!?窃盗と暴力だけならまだ余地は…」

「ないですよ。だって…」

 

「私、()()()ですから」

「…!?」

 

 アーシャはポケットから一つの髪飾りを取り出した。それを見たミシェルは慌てて身体の至る所のポッケに手を入れたが何もなかった。

 

(影との接触の時に取られたのか…!?)

「この宝石の持ち主、可愛い子でしたよ」

 

 慌てているミシェルを無視してアーシャは語り続ける。

 

「親からも可愛がられてて、親友も沢山いて、お金持ちで…特に興味はありませんでしたけど…」

「リリス様があの子が着けてる髪飾りが必要って言ってたので…」

 

「殺して盗っちゃいました!

「親子が探してたときはちょっと可哀想に思いましたけど…」

 

 パルクは絶句した。今までのか弱そうな声から放たれたのは、人の気持ちなど微塵もわからない化け物が発した言葉のようだった。

 考えたくはなかった。もし、言っていることが本当ならば、それは許されないことだ。冗談だとしても、彼女が安全である保証にはならない。

 固まってしまったパルクを見て、ふとアーシャはある事を思いついた。

 

「信じられないみたいな顔してますね…ええっと…」

 

 そう言いながら、アーシャはエイリの背中に手を突っ込み、何かを探るような仕草を見せる。そうしていると、中からある物を取り出した。

 暗いせいでよく見えなかった。段々とはっきりして二人の目には鮮明にそれが見えていた。

 

 

 

 

 

 ()()()

 

 女の子の、二十歳にすら成ってない子供の頭部だった。

 

 両者、声が出なかった。この精霊使いが言っていることが本当のことだとわかり、わかってしまったからこそ、目の前にある本当を信じたくはなかった。

 特に、パルク・メーティスはこの状況を飲み込むことができなかった。

 人の顔だ。パルクの脳内に様々な記憶がフラッシュバックする。その中でふと、()()()()()()()との記憶が、脳内にこびりついた記憶が流れる。

 そして、最悪にもその人物の最後の姿と、今の背景が重なってしまった。

 

「…心が痛まなかったのか」

「…え?」

 

 パルクは前へ一歩踏み出し、槍をより強く握り締めた。

 後ろのミシェルがその時見えたのは、溢れ出るほどの殺気。あらゆる優しさを捨て、これから人を殺す人の殺気を感じ取っていた。

 

「別に私はリリス様の願いを叶えただけで…」

「そうか…」

 

 これ以上、パルクは力を出し惜しみする必要は無くなった。相手が人殺しである以上、それ相応の対応をしなくてはならない。ましてや、願いを叶える為に容易く人の命を奪える人間には、優しさは必要ない。

 

「もう…お前の好きにはさせない」

 

 次の瞬間、パルクの身体から魔力が溢れ出した。路地裏の時よりも大きな魔力が溢れ出している。

 ミシェルはその様子を見て、改めて路地裏でのパルクが本気を出していなかったことを確信した。これがパルクの全力なのだろう。だが、何故彼をそうさせたのかの原因がミシェルにはわからなかった。

 

 パルクが力強く地面を蹴り上げる。姿が見えなくなった。だが、パルクはすぐにアーシャの背後に姿を現した。

 咄嗟に影の"エイリ"がアーシャを包み込む。だが、それよりも数秒早くパルクの矛先がアーシャの身体に到達した。

 パルクの槍を振り下ろした瞬間、振り下ろした先の地面に一直線のヒビが入った。そして、影が振り下ろした際の風圧に押し負け、アーシャ諸共吹き飛ばされた。影はすぐさま体勢を整え、アーシャを地面に下ろした。

 アーシャ右腕から、血が滴り落ちていた。それを見たアーシャの息が段々と荒くなっていく。

 

「もう手加減はしないぞ」

 

 アーシャの様子を全く気にせずに、パルクはゆっくりと歩き始める。

 そう思考している内に、既にパルクはアーシャの目の前にいた。パルクは槍を横に薙ぎ払う。エイリがもう一度アーシャを包もうとするが、またもや矛先がアーシャの身体に直撃した。そして風圧でまたもや吹き飛ばされる。

 そこから更に、パルクの連撃が始まる。

 すかさずパルクが近づき、上からの振り下ろし。エイリ、ガードが間に合うが力に耐えきれずに腕を切り裂かれ、すぐに再生。

 エイリは地面に自身の影を行き渡らせる。パルクは連撃を止めずにもう一度槍を振り下ろす。それよりも先に、エイリは地面に拳を叩きつけた。

 

「あれは…」

 

 ミシェルは、あの技が路地裏の時に直撃しかけた技だと気づく。ミシェルはパルクに声を掛けようとするが、その時気づく。

 

 パルクは既に気付いている。それを踏まえて無視しているのだ。

 

 パルクは上から振り下ろした槍を地面に勢いよく当てる。勢いを利用して飛び上がり、地面から迫り来る拳を見ずに避けた。槍が軸となってパルクがエイリの上を飛び越え、背後に着地。そのままアーシャに向けて槍を横に振る。影の背中を切り裂き、アーシャの背中の肉が切り裂かれる。そこから血が勢いよく飛び出た。

 そのままアーシャは地面に倒れ込んだ。

 

 トドメを刺そうとするパルクの前にエイリが立ち塞がった。

 

「厄介な奴だな…」

 

 エイリは身体から黒い粒の様な物を放出した。そして、それと同時に粒が破裂し黒い針が飛び出した。

 パルクは真正面からの針を後ろに下がりながら避け、続いて斜め上と斜め下からの針も槍を振り粉砕。さらに死角から針を飛び出した瞬間に掴み取り、エイリに投げ飛ばした。

 エイリは防御の姿勢をとるが鋭い針が功をなし、腕ごと腹を貫いた。そして、それも直ぐに再生してしまう。だが、何か回復速度が下がっている様にパルクは感じた。

 

 ミシェルはパルクを見つめる。冷徹に言葉を吐き捨てるパルクには、あの時の様な元気な姿は見られない。ただ、仕事をこなす機械を見ているかの様だった。

 ミシェルは心配していた。だが、ミシェルにはそれよりも、あの精霊がまだ何か力を隠している様に見えた。最悪を避ける為にも、アーシャの精霊に対する対策をする為に立ち上がった。

 

 アーシャはパルクを前に後退り、恐怖の表情を浮かべていた。

 アーシャは影に守られていた。その為アーシャが傷を負うことはあり得ない。だが、その幻想は一人の男によって壊された。

 パルクは槍を振り、付いた血を振り払う。段々とアーシャとの距離を狭めていく。

 

「あ…あぁ…」

 

 アーシャは震え、その場で蹲る。

 

 なんでこんなことに。なんで私が。

 何も悪い事してないのに。リリス様の意思に従っただけなのに。

 

 突然、震えが止まった。不気味なほどにピタッと。

 パルクはその様子が不自然に感じ、歩みを止めた。

 

「…ひどい」

 

 アーシャが小さく呟く。その様子は普通の男なら、情けをかけてしまうほどの可愛らしさがあった。

 しかし、パルクにはその感情が全く湧いてこなかった。アーシャが人殺しな以上、人の命を弄ぶことに躊躇いのない人間な以上、このまま生かしておく理由はないのだから。

 

「泣いたって無駄だぞ。恨むなら人を殺した自分を」

「…ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどい」

 

 アーシャが叫び始めた。パルクは若干の驚きを感じると共に、今まで感じたことのない感覚に襲われる。

 金色の魔力。この世界に僅か数人しかいない人材。見たこともない魔力の昂りにパルクは目が離せなかった。

 

 

 しかし、パルクは直ぐに我に帰った。確かに金色の魔力だ。とても美しく見える。けど、その反応をパルクの全細胞が否定した。あれは美しくなんかない。表面だけを取り繕った禍々しい物だと。

 直ぐにパルクはアーシャの首に狙いを定めた。ここで息の根を止めなければ、大変なことが起こると予知した。

 

 

しかし、その行動は無意味だった。パルクが歩みを止めてしまった時点で、間に合う可能性は消えていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなひどい。いつもいつも私を苦しめて、笑っている。味方はエイリ一人だけ。エイリがいつも守ってくれる。

 けど、このお兄さんはエイリも傷つけて、私も傷つけてた。私を苦しめようとした。

 

 許せない

 

 エイリは痛がっていたのに表情を変えずに痛みつけてた。許さない。

 私とエイリの攻撃を簡単に避けた。許さない。

 そして、私を痛めつけて嘲笑った。絶対そうだ。許さない、絶対に。

 

 私とエイリに酷いことする奴は

 

「死んじゃえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果てしない衝撃が都市を襲った。家が崩れ、大地がひび割れた。

 原因は分かりやすくも、衝撃波の中心にいた。人の形をした巨大な何か。いや、影。影が下の街を見下ろしていた。

 影は笑った。声は聞こえない。口のようなものは開いてはいるが、そこからの音は何も聞こえない。そして、影は最終的には背中に歪な翼を生やした。

 影の胸の中には一人の女性が座っていた。その身体は傷だらけ、だが不思議と血は流れていなかった。女性は顔を赤らめながら、自ら影に触った。影なのに、何もない空虚な物なのに、かけがえのない温もりを女性は影から感じていた。

 

「これからも…一緒に、一緒に、いようね…」

 

 影はコクリと頷く。そして、崩れた街並みを見下ろす。そこには、瓦礫の山、そして、その中で力無く横たわる金髪の男性がいた。頭と足から血を流し、気を失っているようだった。その男性を見た影は拳を握り締め、それに中の女性も呼応した。

 

「いいよ。やっちゃって」

 

 満足そうな声で彼女は言った。影は元気に手を広げ、ハエを叩くように倒れている男性に振り下ろした。それはとてつもない速度で男性に向かってくる。

 

 そのまま、手は男性に到達。地面が抉れると同時に激しい轟音が鳴り響いた。

 男性は潰されて死んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思ったが

 

「…?」

 

 女性、アーシャと影の"エイリ"は違和感を感じた。

 何かがつっかえていた。何もないはずの場所に何かが引っかかって、ギリギリ男性、パルクに届いていなかった。

 影が力を強めようとしたその瞬間、

 

 一瞬の打撃音と共に、振り下ろした腕がぶっ飛んだ。

 

 あまりの衝撃に、エイリは体勢を崩す。男性槍の威力の比じゃない。中にいるアーシャは予想外の出来事に驚愕していた。

 音が鳴った場所を見る。そこには瓦礫、金髪の男性。そして、もう一人いた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。生地の薄いヘソの出た服装の上にジャケットを着け、ショートパンツを履いた女性が、拳を上へ突き上げていた。

 

「おいてめぇ」

 

 女性の猛々しい声が、響き渡った。アーシャはそれに驚き身体を一瞬震えた。幸福感に包まれていたアーシャの表情が、一瞬で焦りへと変わった。

 

「そんなに暴れたいならなぁ…私が相手をしてやるよ!

 

 高揚を隠せない表情を見せつけ、白髪の女性、フィーネ・アリアスは構えを取る。その瞬間、フィーネの身体から魔力が溢れ出す。

 パルクは微かに残っていた意識で、その姿を見た。荒々しく、ムラのある魔力だ。だが、その中には精密に練られた魔力も混じっていた。そして、名も知らないその女性には、なぜだか信頼感があった。この人ならなんとかできるかもしれない、アーシャをボコボコに出来るかもという信頼感が確かにあったのだ。

 

「…やっちま…え…」

 

 絞るような声を出し、パルクは完全に意識を失った。




頑張れフィーネ

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