不幸体質な少年の青春の物語 作:イルカはシャチ
僕とノノミはシロコとセリカを見つけ出し、ホシノとアヤネと合流した。アビドス校舎までの帰り道は特に危険もなく、すんなりと戻る事が出来た
「いやーどうなることかと思ったけど、これで一時休息だね〜」
そう口にするのはホシノ。彼女は最初に出会った時と比べて別人だと思える程に温厚な口調で話す。仲間意識が高いのと同時に部外者への敵意の表し方が尋常ではない
「見違えるくらいに温厚だね、ホシノ」
「うーん?おじさんはいつも通りだよ〜?」
のんびりとした話し方に加えて癖のある一人称、僕は今まで自分をおじさん呼びする女の子を見たことがない
僕はここまでホシノを知るために、あらゆる言動に注意してきたが本当の彼女がわからない。こののんびり温厚な性格が普段通りなのか、臨戦状態で外あたりの強い態度が本当の彼女なのか、僕はいつかそれを知る必要があると感じた
「長い間お邪魔するのも悪いし、僕はそろそろシャーレに戻ろうかな」
「先生のお陰で物資に困ることもありませんし、これでしばらくは安心してすごせます」
「ん、これで重大な問題に時間をあてられる」
「他にもなにか問題があるの?よければ手伝うよ」
重大な問題というのを聞き逃さなかった僕は、すぐに手助けの意思を示した
「問題はあるのですがすぐに解決できる問題でもないですし、わざわざ先生の手を煩わせて頂かなくても、、、」
そう答えるノノミ、しかしここまで来て引き下がる訳にもいかず、問題点についての話を待つことにした
「いいんじゃない?聞いてもらうだけでも、なにか解決策が見つかるかもしれないし」
「そうですね。先生にも一緒に考えてもらいましょう」
ホシノの助言もあり、重大な問題について話してもらえる流れが出来た。意外とホシノからの信頼があるんじゃないか?と思えてきた
そんなことを考えている内にホシノはこちらに向き直り、残る問題について話を始めた
「簡単に言うとこの学校は借金をかかえててねー。そんなありふれた話なんだけど、問題なのは金額で、、、9億円くらいあるんだよねー」
「9億かぁ、9億、、、9億?!」
9億ってシャーレの給料がたしかアレくらいだから、僕が一生働いてもまったく稼げない額なんですけど?!
「その返済を5人で?」
「はい、他の生徒達はみんなこの借金の額に諦めて去ってしまいました。学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです」
「この額の借金がある理由を聞いてもいい?」
「なぜこんなに借金があるかですか?それはですね、、、数十年前、この学区の郊外にある砂漠で砂嵐が起きたんです。この学区では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模でした」
「あの砂嵐か、あれのせいでここに来るのにかなり手こずったしなー」
「先生は運が悪いだけだと思うけど〜?」
「確かに最近の特に先生が来ていたであろう頃のタイミングは砂嵐がすごかった気がします」
やっぱり砂嵐の原因僕かー。そういうものだと思いたかったけど、出現頻度から考えて僕がいるタイミング"だけ"バッチリ被ってるらしい
「話を戻しますが、大量の砂が街を埋めてしまい、アビドスはその学区に対して多額の資金を投入せざる終えない状態でした。しかしこのような片田舎の学校に投資してくれる銀行はなかなか見つからず、、、」
「悪徳業者に頼るしかなかった」
「最初は簡単に返せる算段だったと思いますが、毎年のようにこの自然災害は続き、借金は次第に膨れ上がり学区は衰退の一途を辿りました」
「、、、まあ、そういうつまらない話だよ」
「つまらない話って言われてもね、、、聞いたからには僕にも手伝わせてもらうよ。対策委員会の顧問としてね」
借金問題か、あくまでも真っ当に稼いでいける額じゃない。かと言って道を踏み外してしまえばそれまでだ
「対策練らないとな」
僕は一人そう呟いた
一度解散となりそれぞれが対策委員会の部室から立ち去る中、僕はホシノに呼び止められた
「どうしたの、ホシノ」
「いやー先生を疑いたい訳じゃないんだけどさ、何か隠してない?」
一瞬思考が停止した。ホシノが何をもってそう感じたのかは分からないが、ここで疑いを晴らさなくてはならない
「実はシャーレの業務が──」
「嘘ついてるでしょ」
シャーレの業務量が多いのは本当だ、その上で何か見透かされてる
「ごめんホシノ、断言させて欲しい。僕は対策委員会の誰かに嘘をついたり君達の中の誰かを騙そうとはしない。それに先生という立場にいるからには生徒である君達の助けになるし助けたいと思う」
「ただホシノが感じた違和感は本当だよ」
その言葉を聞いたホシノの表情が若干険しくなるのがわかる
「僕はみんなに隠している。まだみんなには伝えるべきではないものを、僕は自分に嘘をつき続けてる」
「ホシノもそうでしょ?自分を隠してる。本当のホシノがどんな生徒かは僕にはわからないけど、本当の自分を出すには自分と向き合う膨大な時間が必要だと思う」
僕が一通り話し終わると、黙って僕の話を聞いていたホシノが口を開く
「わかった。今は先生を信じることにするよ」
「助かるよ。それと、、、」
「シャーレの業務が残ってるんだっけ?手伝うよ」
「ありがとうホシノ。書類系だけこっちに持ってきたんだけど、パソコン業務以外あまりしてなかったから手こずっててね」
「先生って結構不器用?」
「うーん。努力型の不器用?みたいな。やり続ければ何でも出来るようになるよ、バイクがいい例かな」
僕はホシノに協力してもらい書類仕事を片付けた。意外にもホシノは業務捌きが素早く、昼過ぎには終える事ができた
………
………
業務を終えて一息吐こうとホシノを教室に残して一人外に出る
辺り一面は砂漠で、その中に住宅や施設が建ち並ぶ、少し遠くに目をやると砂嵐で荒廃した街並みが見えてくる。改めて砂嵐がなければいいところだと感じる、空は澄んでいて空気はいい、喉の渇きは早いが不快な暑さじゃない
昔はもっと生徒も多く賑わっていたのだろうか、そんなことと考えながらアビドス校舎の門を出ると、見慣れない4人組の生徒達が目に入った
少し遅くなったが、ここキヴォトスには男子生徒及び大人がいないことが分かっている。大人がいないことはリン達が連邦生徒会で学園都市を回している時点で気がついた。男子生徒がいないのはたまたま女子校が固まったという説も残していたが、道行く生徒は全て女子生徒だったり、書類を見ても男子生徒のものと思われる記述が存在しないことから、僕の中でキヴォトスに男子生徒はいないという考えにまとまった
何が言いたいかと言うと、見慣れない生徒=不良生徒か他学園の生徒という考えが普通なのだ。そして少し失礼だが、わざわざ何もないアビドスに来る時点で前者が濃厚だ
僕は4人のうち1番手前を歩いていた生徒に声をかけることにした
「ちょっとお話いいかな?」
「ななな、何のようかしら?!私たちまだ何も怪しいことしてないわよ」
おー。すごい焦りようだ、自ら怪しいものですと名乗っていらっしゃる
「社長落ち着いて、、、」
「アルちゃん動揺し過ぎー」
「ああ、アル様!敵ですか?撃ちますか?!」
「あっ、ハルカ待って!今は偵察よ」
「思いっきり見つかってるけど、、、」
「、、、。」
とても賑やかな子達だ、前言撤回しよう。不良生徒ではない
「ねえねえお兄さん、私たちこれからアビドスの子達と戦うんだけどーそのこと秘密にしてくれない?」
「ちょっとムツキ、勝手にクライアントの依頼内容を喋っちゃダメでしょ!」
「えーでも見つかっちゃったじゃーん」
「やっぱり殺しましょうか?アル様の為に死んでください!」
「ハルカ、流石に依頼と関係ない人に手を出すのはマズイよ」
とても物騒な子達だ、前言撤回しよう。不良生徒だ
「えーっと、お話をまとめると、アビドスの生徒を追いしたくて偵察してたら見つかっちゃったー☆ってことかな?」
「ま、まあそういうことになるかしら」
どうしたことかと考えた末、大したことにはならないと判断し僕は見なかったことにした
──
「ねぇムツキ気づいた?」
「うん、さっきのお兄さんいい人だったね」
「はぁ、ムツキ、、、」
「うそうそ、シャーレの先生でしょ?」
「うん、依頼主がアビドスの攻撃ともう一つ、シャーレの先生を捕まえたら追加で報酬も出すって」
「先生私たちとあんまり歳の差がないように見えたけど、本当に合ってるのかな」
「ニュースで一度見たけど容姿も含めて間違いないはず。まああの名札で確信は持てたけど」
「ふーん。カヨコちゃん先生のことよく見てるね」
「言っとくけどこれも偵察の一貫だからね。それよりもどうする?社長にも伝える?」
「うーん、面白そうだしこのままでいいんじゃない」
………
………
見なかった事にするにしろ、来ることが分かっているのに何もしないのは変な気分だ
そろそろかと窓を覗くと再びあの4人と、傭兵なのか数人の生徒の姿があった
「先生!ホシノ先輩!」
慌ただしく対策委員会の部室へと飛びこんで来たのはアヤネだ
「行くか、、、」
僕は少し気まずさを感じながらアビドス校舎の門に向かった。その場には既にシロコ、ノノミ、セリカがあの4人と向かい合っていた
「あ!いたいた、やっほー先生」
「ちょっとムツキ室長、私たちは敵同士なのよ?!」
「今あの人のこと先生って言いましたか?」
「へ?ムツキ、あの人が先生だったの!?」
「社長、気づいてなかったの」
「アルちゃん鈍感」
「カヨコ課長もムツキ室長も気づいてたなら教えてくれてもよかったじゃない」
「あわわ、やっぱり私がさっき撃ち殺しておけば」
「ハルカ、先生は生け捕りなんだから殺しちゃダメよ!」
僕らは何を見せられているのか
「賑やかな人たちですねー」
「戦いの前に、まずは名乗って貰おうか」
「いいわよ、私たちは便利屋68!!私が社長、あっちが室長でこっちが課長よ」
そう言って自身満々にムツキとカヨコを紹介するアル。便利屋と聞くと何とも収入が安定しなさそうな企業だ。学園でどういう扱いかは知らないが
「ちょっとあんた達!さっきから先生とか社長がどうのこうのって何の話よ!」
「目的は何?いや聞くまでもない。力ずくで口を割らせる」
「ええ、いいわ。総員攻撃準備」
アルの指示を受けて武器を構える傭兵達
「ん、先生下がってて」
「ここはおじさん達の出番かな」
「アヤネちゃん支援よろしくね」
「はい!先生も出来る範囲で協力をお願いします」
アビドス対策委員会の顧問としては攻めてきた相手を向かい撃たなければならない、攻撃は控えて妨害に徹しよう
「いい、みんな行くわよ!」
アルの合図で両者銃撃戦がはじまった
僕は被弾してはいけないが、相手も被弾させないことを考えているのなら、僕の介入は本当に申し訳ない気持ちだ。いるだけで敵味方両方にプレッシャーを与える存在となっている
手始めに僕に容赦なく打つ可能性があるハルカから抑えたいが、、
「死んでください!死んでください!」
ダダアアン ダダアアン
とても近づける感じじゃない。カヨコだっけ?は場の状況を判断して射撃に加勢する戦術のようなので、まずはムツキとその周辺の傭兵生徒を狙いにしよう。アルは、、、他のみんなが戦ってるし大丈夫かな
因みに僕こ攻撃手段はスモークグレネードとスタングレネードのみだ、遠投とアンダースローで妨害を行う。味方がいる中で使うのはかなり難しいがそこはアロナがサポートしてくれている
………
………
人数差もあり戦況は殆ど膠着状態、何度かスモークグレネードと同時に突っ込もうかと考えたが、不幸体質な自分は突っ込んでる間にずっこける可能性があるのでそう簡単に動けない。実際一度スタングレネードで自滅して耳鳴りが治らない
しかしこの戦況は思わぬ形で変わることとなった
キーンコーンカーンコーン
戦いの場に響くのは5時を知らせるチャイムの音
「あっ定時だ」
「今日の日当だとここまでかな」
「終わったってー」
「帰りにどこかで食べる?」
便利屋を名乗る4人以外の傭兵達はそう口々にして去って行った。さっきまでの交戦音は一瞬にして静寂へと戻った
「「、、、。」」
「ちょ、ちょっと待って!まだ仕事は終わってないわよ!?」
「こりゃやばいね、まさかこの時間まで決着がつかないなんて、、、アルちゃん?どうする?逃げる?」
「あ、、、うう、、、こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!!」
「あはは、アルちゃん。完全に三流悪役のセリフじゃんそれ」
「うるさい!逃げ、、、じゃなくて、退却するわよ!」
そう口にして便利屋は去って行った
「待って!、、、あ、行っちゃいましたね」
「うへー逃げ足速いねあの子たち」
終始よくわからない子達だったが取り敢えず難は逃れたらしい
「一見落着!」
「うへー先生?」
「少しお話したいことがあるのですが、、、」
何故だろうか、すごーく嫌な予感が、、、
「お時間頂戴しますねー☆」
「まあまあ落ち着いて、明日でも──」
後退りする僕に詰め寄る対策委員会のメンバー
「あの子たちとの関係を教えるまで返さないよ〜」
「シロコ先輩、捕まえて!」
「ん、先生を拘束する」
「何でだあああああああ?!」
その後アビドスのみんなに今回の事情を話して解放された