塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.12 「珠緒ちゃんRTA」

 

【ミドルサム】《meddlesome》

 よけいな世話をやく、お節介。

 干渉好きな、小うるさい。

 

 

 * * *

 

 

 喫茶ジェンラバに、和歩(かずほ)ちゃんと一緒に向かっていた時だった。

 並んで歩いていたはずが、いつの間にか和歩ちゃんが遅れている。

 

「ちょっ、ちょっと待って空ちゃん」

 

 私は11歳の小学六年生、和歩ちゃんは12歳の中学一年生。

 でも私の方が2cmぐらい高いから、厚底ブーツで身長を(かさ)まししている和歩ちゃんは移動速度が少し遅い。……そこまでして、お姉さんぶらなくてもいいのに。

 

「ハイ、和歩ちゃん」

 

 私は立ち止まってから、手を伸ばす。

 和歩ちゃんは少し頬を染めながら、私の手を見る。

 

「……握手?」

「お手々繋いで、ってやつ」

 

 仲の良い友人同士なら、手を繋ぐぐらいは普通だと思う。

 思いのほか和歩ちゃんは緊張したのか、恐る恐る私の手を握った。

 でも一度握った後は、機嫌良さそうに鼻歌交じりで歩きはじめた。

 

 和歩ちゃんも孤立しがちな性格だから、なんだかんだでぼっちなんだろうか。

 スタンド使いじゃないけど、ぼっちは引かれ合う?

 待って、ラブラバも孤立系だったような……?

 

 雄英1-A女子、リア充軍団。

 雄英1-B女子、リア充軍団。

 プロヒーロー系女子もリア充軍団。

 サポート科の発目明は交流ガン無視だから別枠。

 波動ねじれは孤立系に見せかけてミスコングランプリのリア充。

 トガヒミコは個性の関係で孤立しがちだけど本質はリア充。

 

「あーっ! ポップ☆ステップ!」

 

 考え込みながら歩いていると、突然声をかけられた、

 左目の眼帯を隠すようなオレンジブラウンのショートボブ、パーカーを羽織った女子高生。

 その後ろには、友人と思われる女子高生も二人いる。

 

「わー本物だ! かわいー! 超ラッキー♪」

 

 眼帯の女子高生は、嬉しそうに笑った。

 和歩ちゃんは『ポップ☆ステップ』の芸名(?)で通している。

 私服の路上ライブにしろ、家で撮影したポップ☆ステップ衣装動画も「ポップ☆ステップです!」と挨拶してから歌うようにしてる。

 和歩ちゃんは私服だろうとポップ衣装だろうとなんだろうと可愛い、異論は認めない。

 でもエッチな方面で攻める必要は無いから、衣装はアニメ版準拠にしてほしい。

 

「ポップちゃん、今日はイベントとかじゃないよね? 過激な衣装はネット限定なんだ」

 

 突然話しかけられて、和歩ちゃんがわたわたしている。

 眼帯の女子高生は、ケータイを片手に積極的にぐいぐい押してくる。

 

「ねね、一緒に写真いい?」

「あっ、はいぃ……」

 

 私は鞄のスパイカメラをONにしながら、彼女のケータイを受け取る。

 和歩ちゃんと女子高生が並んでポーズをとるところを、代理で撮影してあげた。

 

「写真ありがとね! 応援してるよ~」

 

 眼帯の女子高生は、そう言って笑顔で手を振って去って行った。

 和歩ちゃんは、恥ずかしそうに胸を押さえている。

 

「はぁー、びっくりしたぁー!」

 

 私はスパイカメラをOFFにしながら、予定を変更する。

 

「和歩ちゃん、ちょっとつきあって」

「つっ、つきあっ!? ……あー、うん、おっけー」

 

 顔を真っ赤にした和歩ちゃんは、喜んでから……がっくり肩を落とした。

 私は和歩ちゃんの対応がよくわからなかったので、首を傾げた。

 

 それはそれとして、スパイカメラのデータと現在位置をラブラバに転送する。

 追えるだけ追って欲しい、とメッセージを添えて。

 

 

 * * *

 

 

「フマキラー・ハチ駆除殺虫剤スプレー・バズーカジェット?」

「これ、ハチを行動停止させる成分が入ってるの。最近蜂をよく見かけるし、念のために」

 

 薬局に寄って、殺虫剤のスプレーを買った。

 文明の利器が効く相手かどうかはわからないけれど、持っていて損は無いと思う。

 天下のフマキラー様だから、効いてくれるはず。多分。

 

 私の会計時に、隣りでケータイを眺めていた和歩ちゃんが、突然驚いて大声をあげた。

 

「ヤダ、鳴羽田(なるはた)(ヴィラン)がいっぱい出てるんだって、10体以上……!」

 

 私もケータイを取り出し、LINEを見る。

 ラブラバに「追えた?」と尋ねる。

 彼女からの返事は「蜂の散布まではばっちりなのよ! 住宅街付近でカメラが無くて追跡中断」だった。

 

「これだけの大事件だと、沢山ヒーローが来そう」

 

 そう言いながら和歩ちゃんと薬局の外に出ると。

 大量に逃げ出していく市民達とは逆方向に、これまた大勢のヒーロー達が全力疾走で通り抜けていった。

 

「インゲニウム、エアジェット、エンデヴァー、ベストジーニスト、プレゼントマイク、デステゴロ、イレイザーヘッド、ミッドナイト、スナイプ、13号……」

「空ちゃん詳しい、詳しすぎない?」

「……そして、オールマイト」

 

 青空の彼方に、光点が見えた。

 その光点は、物凄い勢いで鳴羽田に飛んでくるや否や、即席(ヴィラン)達に手加減の一撃をかました。

 

 SMAAAASH!

 

 10名以上のプロヒーローという過剰戦力によって、鳴羽田(なるはた)(ヴィラン)祭りが次々に鎮圧されていく。

 次々にパトカーが駆けつけてくる。

 陣頭指揮を執っているトレンチコート姿のお父さんも見える。

 

 私は私で、買ったばかりのスプレーのビニールを破って、空に向けて噴射した。

 唐突な行動だったので、和歩ちゃんが驚く。

 

「わっ! ……びっくりした、蜂かぁ」

「ふふっ。早速役に立ったね」

 

 お尻の部分が注射器のようになっている蜂が一匹、地面に落ちて痙攣している。

 念には念を入れて蜂にスプレーを再度吹きかけ、トドメをさした。

 ……念のため、蜂の死骸を確保しておいた方がいいかな。

 

 そう思って蜂の死骸に近づいた瞬間、大きな手が横から出てきて、蜂の死骸を掴み取った。

 ナックルダスターは私に蜂の死骸を見せつけながら、私の胸ぐらを掴む。

 

「小僧! この辺りに怪しい奴がいただろう! 『蜂使い』だ!」

「服が伸びちゃうから離して、ナックルおじさん」

「空ちゃんを離せ、この変態エロジジイ!」

 

 和歩ちゃんが、ナックルダスターの足に何度も蹴りを入れる。

 全然びくともしてないけど。

 

「ナックルおじさん、商談があります」

「……商談だとォ~!?」

「成功報酬でいいです。私が用意するのは『蜂使いとナックルおじさんの二人きりの時間』」

 

 ギリギリギリギリ……

 私の胸ぐらを掴むナックルダスターの力が、一層強くなる。

 

「小僧。冗談では済まさんぞ」

「服が伸びたら弁償してくださいね」

「……チッ」

 

 ナックルダスターが、私の胸ぐらから手を離す。

 

「どこまで調べた」

「ナックルおじさんが私を尾行した程度には」

 

 ナックルダスターは真剣に、じっと私の目を見つめてくる。

 あまりの真剣さに、蹴る足を止めて和歩ちゃんすら息を飲む。

 

「……俺は何をすればいい」

 

 だから私も、真剣に答えてあげた。

 

「パパ活」

「「はァ!?」」

 

 ナックルダスターと和歩ちゃんが、素っ頓狂な声を一緒に挙げた。

 

 

 * * *

 

 

「制服から該当する私立高を調べたけど、映ってた生徒は存在しないのよ」

「ありがとね、ミス・ラブラバ」

「どういたしましてなの!」

 

 電話連絡を終えてから、ケータイを鞄にしまいこんだ。

 

 私は臭気測定器を片手に、住宅街を歩いている。

 小学生が一人で出歩くのは危ないと主張して、和歩ちゃんも一緒についてきている。

 

「『蜂使い』ってなんなの?」

 

 口を尖らせ、不満そうに和歩ちゃんが尋ねてくる。

 

「ナックルおじさんが追ってる(ヴィラン)。今日の鳴羽田(なるはた)(ヴィラン)祭りの犯人」

「ええっ!? それ、警察に連絡したほうがいいんじゃ!?」

「証拠が足りない。あとお父さんには悪いけど、警察でなんとかなる相手じゃない」

 

 イヤそうな顔をする和歩ちゃん。

 

「……もしかして、私達が首を突っ込んだらいけないやつ?」

「何人か、もう死人が出てると思う。馬鹿正直に目的を大人に言ったら200%怒られる」

「それ駄目なやつじゃん!?」

 

 私はふふっと笑いながら、反応が強まった臭気測定器を和歩ちゃんに見せた。

 

「だから善意の第三者を装うの」

「なにこれ?」

「臭気測定器。不動産業や病院、介護施設なんかで使われてるやつ」

 

 お値段約15万円の機械と言ったら、和歩ちゃんがひっくり返りそう。

 

「ふーん。病院はともかく、不動産屋が匂いとか気にするんだ」

 

 和歩ちゃんが首を傾げる。

 そりゃ、気にしますとも。

 孤独死の現場って、本当に酷いんだから。

 

 私はケータイをとりだし、電話をかける。

 スピーカーモードのままだったので、電話相手の音声が周囲に響く。

 

「はい、110番警察です。事件ですか、事故ですか?」

 

 私の携帯から警察という単語が聞こえたので、和歩ちゃんが驚く。

 

「事件か、事故かはわからないんですけど。お葬式や火葬場に漂ってるような、変な匂いがする家があるんです。インターホンをピンポンするのも怖いし、警察の人に連絡したほうが早いかなって……はい、電柱に住所が書いてあるのでわかります。表札に書いてある名前は……」

 

 そう時間を置かず、パトカーに乗った二名の警察官が駆けつけてきてくれた。

 

「連絡をくれたのは、お嬢ちゃんだね?」

「はい。家はここです。もう行っても大丈夫ですか?」

「おい、この匂い……」

 

 漂ってくる微かな匂いに、警察官が真顔になる。

 

「念のため、お嬢ちゃんの名前を確認させてもらっていいかな?」

「はい。塚内空です。お父さんは刑事です」

「……ああ、塚内警部の娘さんですか」

「連絡ありがとう、塚内空さん。ここは危ないかもしれないから、もう帰った方がいい」

「はい、後はよろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げ、和歩ちゃんの手を引いて素直に立ち去る。

 パトカーで無線のやりとりをする声が、後ろから聞こえてくる。

 

「こちら鳴羽田イチマルゴ、現着。対象家屋より異臭を確認。呼びかけに応答なく、ドア・窓は全て施錠。ポストには大量の郵便物。事件性の有無は現時点で不明。警職法に伴う緊急立ち入りを行う、どうぞ」

 

 和歩ちゃんは、暗くなってきた空を見上げる。

 

「流石にもう、帰らないと……空ちゃんも、だよ?」

「うん、わかってる。あとはナックルおじさんだけで大丈夫だと思う」

 

 小学生にも中学生にも、門限があるから仕方が無い。

 今の私にできるのは、残念だけどここまで。

 

 今日の夕飯はなんにしよう、焼き魚にしようかな?

 お父さんのためにも、気合いを入れたお味噌汁にしよう。

 

 せっかくなので、和歩ちゃんと一緒にスーパーに寄ってから帰った。

 

 

 * * *

 

 

 綺麗な月が浮かんでいる。

 バイトで(ヴィラン)をやっている女子高生こと蜂須賀九印(はちすかくいん)は、イヤフォンマイクを通じて連絡を取り合っていた。

 

「蜂須賀君、担当分の『トリガー』の運用は君の裁量に任されているとはいえ、あれは貴重な品だ。無差別にばらまくべきものではない」

「いいじゃん別に。データは取れてるんでしょ?」

「効率の問題だ。人間の身体機能は精神の影響を強く受ける。個性とて例外ではない。並外れた個性を発揮するためには、強烈な意思が不可欠なのだ」

「ヒーローみたいに?」

(ヴィラン)もまた然り」

「面倒くさいな~」

 

 蜂須賀は苦笑いをしながら通信を切ったが、帰宅場所に異変が起きていた。

 最近のお気に入りだった一軒家が、大量の黄色いテープと大勢の警官で封鎖されている。

 刑事達もうろうろしており、何台ものパトカーが止まっている。

 鑑識課だろうか、本格的な現場検証すらはじまっている。

 

「うげ」

 

 回れ右をした蜂須賀は、さてどうしたものかと考えた。

 あの家は寝泊まりに便利そうだったので、なんとなく夫婦ごと殺してあげた。

 旦那のクレカは手元にあるが、いま使うと面倒臭いことになるかもしれない。

 使おうと思っていた寝床も使えなくなったから、今夜はホテルに宿泊かな、と考えた。

 

「『大人ゴ有5無10、ワイルドな人希望♡ JKハニー』……と」

 

 どうせ抱かれはしないのだから、絶妙にそれっぽい価格設定で(おび)き寄せる。

 迂闊に安値を提示すると変な男が来てしまう。

 高値を提示することでこちらの外見への自信度をアピールし、優良顧客を捕まえる。

 優良顧客ならそれだけカードの限度額も高いから、より長く使える。

 

 あまり高額すぎると捕まえるのに時間がかかるが、今日はすぐに連絡が来た。

 

「『ワイルドには自信あり。この世のどこにも俺ほど素敵なパパはいない』……うっわ、何この謎のアピール」

 

 待ち合わせ場所として、鳴羽田駅前マクドナルドの二階を指定した。

 こういうワイルドさをアピールしてくるような男に対して、本当に身体を売るような生活をしていたら身が持たない。

 というかバイトで(ヴィラン)をしているはずなのに、金銭的対価を得ていないから小細工がめんどい。

 

 お金がないとやっぱり生きにく、っ、痛い、頭痛がする。

 イヤフォンを通じた指示に従わないといけないのだから、そうするだけ。

  

 蜂須賀はぼんやりとする頭を抱えながら、マックへと向かった。

 

 

 * * *

 

 

 マックでドリンクだけを注文し、二階のいつもの席に向かう。

 ストローを咥えて、ストロー袋を吹き飛ばして遊んでいた蜂須賀に、声をかける人物がいた。

 

「『JKハニー』?」

 

 180cmを越える巨体。

 プロレスラーか軍人のようなワイルドさを持つ、顔に大きな傷のある男。

 そんな男が、出会い系アプリの画面を見せてきた。

 画面には、自分を買う事に対する返事を出してきたハンドルネーム『素敵なパパ』だという証拠があった。

 

「お~、おじさんガタイいいっすねぇ~」

 

 そう言いながら、蜂須賀は相手の服装をチェックする。

 ラフな格好ではあるがよれていないし、皺も少ない。

 筋トレ好きな経営者だろうかとあたりをつけた。

 

「幾らでも応援しよう。今はたまたま道に迷っているだけだ」

「オセッキョーとかキライなんですケド~」

「もっともだ。まあ好きな奴はいないだろうな」

「……そういう前置きはいいんで♪」

 

 面倒臭くなってきたから、蜂須賀はとっととホテルに連れ込んで身ぐるみ剥がそうと考えた。

 蜂須賀は立ち上がって、ワイルドなおじさんの手を握った。

 

「えへへ、おじさんのワイルドなトコ、見てみたいんだよね~♪」

 

 ワイルドなおじさんは一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、すぐに笑みを見せた。

 

「俺は理解がある方だ。なるべく手短に済ませよう」

 

 二人の姿は、ラブホテルがある裏道の方へと消えていった。

 

 

 * * *

 

 

「……き……さま……ッ!」

「喋っている余裕はあるのか『蜂使い』? ほら、おまけのキャンドルサービスだ」

 

 ラブホテルの一室が、突然爆発した。

 夜だというのに消防車と救急車とパトカーが大忙しな、いつもの鳴羽田だった。

 不思議なことに、ホテルの部屋には女王蜂や大量の蜂が焼け死んだ痕跡が残っていた。

 壁や床からは蜂に対する集合フェロモンが検出され、なんの推理小説かと警察は首を傾げることになる。

 

 

 * * *

 

 

 ラブホテルから少し離れたビルの屋上。

 ヴィジランテ・ナックルダスターとヴィラン・蜂須賀九印の激戦が終わりを告げていた。

 

 雄黒(いわお)という、妻や娘に辛くあたった過去を反省している父親と。

 左目を失い、心臓が止まりかけ、死にかけて倒れている雄黒珠緒(たまお)という娘がそこにいた。

 

「……帰るぞ、珠緒。母さんが待っている」

 

 人工呼吸、スタンガン改造AED、心臓マッサージ、人工呼吸、心臓マッサージ。

 

 この世で一番素敵なパパは、娘の為に必死に尽くし続けた。

 

 

 * * *

 

 

 病院のベッドで眠り続ける珠緒のそばで、塚内空はリンゴを剝いていた。

 リンゴの兎さんを数匹作ると、皿に載せる。

 

 雄黒巌の妻は、娘が(ヴィラン)化した際に蜂に襲われたことで重傷を負った。

 妻は生死をさまよう瀕死の状態で生き延びていたが、原作では娘に会えないまま亡くなった。

 

 だが、塚内空が『珠緒ちゃんRTA』をしたことにより、雄黒巌の妻は存命中に娘に会うことができた。短い期間ではあるが、親子三人の貴重な時間を過ごすことは出来るはずだ。

 

 蜂須賀九印の友人役だった女子高生は、原作では生死不明だった。

 だが、ヴィジランテのアニメ版で彼女のその後の情報が足されていた。

 おかげでいま、テレビではその女子高生が謎の重傷を負ったニュースが流れている。

 いわゆるトカゲの尻尾切りだが、それでも生きているだけまだマシだ。

 

 トカゲの尻尾切りといえば、蜂須賀九印の扱いは雑すぎると思う。

 AFOがちゃんとバイト代を払っていないのが悪い、と空は鼻で笑う。

 女と金の流れを追えばいいと攻殻機動隊の偉い人が言っていた。

 放っておいても、いずれは時間の問題で捕まっていただろう。

 

「……誰?」

 

 気がつけば、珠緒が空の顔をじっと見つめていた。

 空はベッド脇にリンゴの兎さん皿を置いてから、質問に答える。

 

「珠緒さんのお父さんの知り合い」

「……手、動かない……あたまイタい……お父さん……」

 

 ぼんやりとした顔で、珠緒は窓から外を眺める。

 そんな時に、娘の為にヨーグルトを買ってきた雄黒巌が現れた。

 

「おう、起きたか珠緒」

「じゃあ私は行くね、おじさん」

 

 塚内空は微笑を浮かべる。

 父娘の時間を邪魔したくない。

 母親と話せる可能性がある今は、特に。

 

 塚内空はGet Wildの音楽を脳内で流しながら、アスファルトをタイヤで切りつけるように病室を出て行った。

 

 

 * * *

 

 

 ナックルダスター、今は休業中だから雄黒(いわお)、それとも偽名の黒岩武司(たけし)、まあ何でもいいんだけど、ナックルおじさんから私にLINEメッセージが届いた。

 

「成功報酬と言っていたが、何が欲しいんだ?」

「ブローカーの義爛(ぎらん)を紹介してください」

「正気か?」

「多分」

 

 ブローカー・義爛(ぎらん)

 

 ヒロアカの本編では、(ヴィラン)連合の人材斡旋やサポートアイテム提供など、後方支援をする裏のブローカーをしていた。

 異能解放軍に捕まり拷問を受け、指を削がれても、情報を漏らさずうめき声一つ上げなかった凄い人。ナックルダスターをお得意さんと呼び、薬や装備などを提供している人でもある。

 

 『珠緒ちゃんRTA』の報酬として、私はコネを要求した。

 それ以上でも、以下でもない。

 

 (ヴィラン)だろうと使える相手は使うから、私はヒーローになれない。

 

 

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