【サブスティチュート】《substitute》
代替、置換。
代理、替え、身代わり。
* * *
ニンジャとは、平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在である。
しかし彼らはキンカク・テンプルで謎のハラキリ儀式を行い、歴史から姿を消した。
歴史は改竄され、隠蔽され、ニンジャの真実は忘れ去られてしまった。
ではニンジャ達は、どこへ消えたというのか?
その謎は日本より遠く離れた地、アメリカに存在した。
ジ・アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ。
通称『UFC』の名を聞いたことはないだろうか。
金網に囲まれた八角形のリングの中で行われる、世界最大の総合格闘技団体。
そのUFCにおいて、ニンジャ選手が二人も登場していたことは紛れもない事実。
一人はアメリカン忍術の使い手で、もう一人は「Togakure-ryu Ninjitsu」の使い手だった。
『アメリカン・ニンジャ・ウォリアー』は大人気の長寿番組だ。
また、映画『アメリカン忍者』はシリーズが五作もある。
アニメの『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』は有名だ。
『バットマン』の主人公、ブルース・トマス・ウェインもニンジャである。
つまり日本から消えたニンジャ達の末裔は、アメリカで生き延びていたのだ。
嘘だと思うなら古事記を紐解くか、Google検索してみればいい。
ニンジャ真実はすぐそこにある。
キャプテン・セレブリティが来日し、キンカク・テンプルを訪れた際、異変は起きた。
不滅のニンジャソウルが、ニンジャ真実を世に知らしめよと訴えかけてきたのだ。
キャプテン・ニンジャ・セレブリティ。
それが新しい、彼の名である――。
* * *
「わーっ、また怪獣っぽい
「巨大化と飛行と回転と亀の複合個性!?」
「そんなのありえるのか!?」
突如登場し、
空中で高速回転しながら街を壊そうとするその姿に、市民達が怯える。
青空を一直線に切り裂くように、一人のヒーローが物凄い早さで
「キャプテン・ニンジャ・セレブリティ、推参! イヤーッ!」
キャプテン・ニンジャ・セレブリティのハラキリ・キックが、ガメラに炸裂した!
* * *
キャプテン・ニンジャ・セレブリティのスキヤキ・ゲイシャアタックが炸裂し、
早くも子供達に大人気で、グッズ化が決定したらしい。
「……ニンジャ路線の企画書、通っちゃったんだ」
「私が推した応援団路線は、本人がイヤだったみたいで……
キャプテン・ニンジャ・セレブリティ事務所のチーフマネージャーに昇格していた真さんが、テーブルに突っ伏していた。
事務所から、早めに撤退しておけば良かったのに。
「まあ、本人が納得してるんならいいんじゃないか?」
夕飯を食べていたお父さんが、適当極まりない返事をする。
私は前世で聞いたエピソードを、真さんに話す。
「アメリカの人と商談する際は、偽物の手裏剣を持って行くといいって聞いたよ。エレベーターの中で商談相手と一緒になった時に、わざと手裏剣を落として目の前で拾うんだって。商談相手がびっくりしている時に、人差し指を口元に当てて『内緒ですよ』って言うと、相手は大喜びして、商談が絶対に成功するとかなんとか」
「
にこにこ笑顔のお父さんが、私の頭を撫でてくれる。
一方で、真さんは半ギレだ。
「アメリカ人、忍者好きすぎでしょう! 何なの一体!」
「海外観光客の大半が、いまだに日本に侍と忍者がいると思ってるみたいだし」
「マルカネ百貨店なんて、怪獣騒ぎからの営業再開記念にキャプテン・ニンジャ・セレブリティの寸劇をしたいとか打診してきたし! 受けたけど! 承諾したけど!」
「あー。屋上のイベントスペースでやる、ヒーローショーみたいな」
「みたいな、じゃなくて、ヒーローショーそのものだから!」
つまり、百貨店主催のフリーライブはヒーローショーに置き換わった。
ってことは、発展系の『鳴羽田フェスティバル』は立ち消えになるのかな?
「どうせならミッドナイトとかプレゼントマイクとか、来てくれそうなヒーローに打診して盛り上げちゃえば?」
「それよ
あ、やるんだ、なるフェス。
真さんは意気揚々と、自室に戻っていった。
* * *
「……あのね、お父さん」
「なんだい、空?」
食後の、のんびりタイム。
私とお父さんは、なんとなくテレビのバラエティ番組を眺めていたところだった。
「法が大事なのは、わかる。生きて裁判にかけることがゴールなのも、わかる。でも、司法で裁く以前に殺すしかないような、人として完全に終わっているヴィランに対してすら、どうしようもなく対応が甘い気がする。殺さずに捕まえて
リモコンを手にしたお父さんは、テレビの電源を無言で消した。
「殺さなければ殺されてしまうようなヴィランに出会ったとしても、殺してはいけないの?」
私の問いに、お父さんは真顔になる。
「……非常に、難しい質問だね。警察官としてのお父さんの立場、そして一人の人間としての感情。その二つが今、空の問いかけに対して激しく喧嘩をしているよ」
お父さんは少し間を置いて、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「まず、警察官としての答えを言わせてもらうよ。答えは『YES』だ。いかなる理由があろうとも、空がそのヴィランを殺すことは許されない。日本の法律において、個性や武術は『身体の一部』だが、同時に『凶器』ともみなされる。もし相手を殺せば、それは正当防衛の範疇を超え、『過剰防衛』あるいは『殺人』として問われる可能性もある。それまで積み上げてきた日常、学校や仕事、社会的信用……その全てを失い、最悪の場合は自分自身が『ヴィラン』というレッテルを貼られてしまうことになる」
お父さんは、苦い顔で言葉を継ぐ。
「理不尽だと思うかい? ……ああ、私もそう思うよ。ナイフを突きつけられているのに『刺されるまでは刺し返すな』と言っているようなものだからね。だがね、この社会がなぜそこまで頑なに『
お父さんは、寂しそうに微笑む。
「……ここからは、一人の人間としての、ここだけの話だ。もし空が、本当に、本当に絶体絶命の状況に陥って……大切な人や自身の命が、理不尽な悪意によって奪われそうになって。逃げることも、助けを呼ぶこともできず、『相手を殺す以外に生き残る道がない』と確信したのなら」
右手を掲げたお父さんは、人差し指を曲げた。
「……引き金を、引きなさい。死んでしまえば、正しさも間違いも、そこで終わりだ。生きていれば、裁判で戦うこともできる。私が調書を取り、情状酌量の余地を探し回ることもできる。空がヴィランではなく、人間として生きたいと願った結果であることを証明するために、お父さんは全力を尽くす」
その人差し指で、今度は左胸をトントン、と叩く。
「だけど、覚えておいてほしい。だからこそ、警察やヒーローがいるのだということを。そんな残酷な
お父さんは、私をゆっくりと抱きしめた。
「……だから、どうか。最後の瞬間まで、その引き金を引くのを躊躇ってほしい。我々が間に合うという、その可能性や希望を捨てないでほしいんだ」
お父さんの手が、震えているのがわかる。
「次は……必ず、間に合ってみせる」
* * *
殺さなければ殺されてしまうようなヴィランに出会ったとしても、殺してはいけないのか。
同じ質問をオールマイトにLINEで送ったら、直電がかかってきた。
「……塚内少女。それはとても重く、そして避けては通れない問いだね」
私の問いに、真剣に答えようとしてくれている。
「『殺してはいけないのか』。法や倫理を説くならば、答えはもちろん『YES』だ。ヒーローは法を守り、命を救う存在だからね。だが、君が聞きたいのはそんな教科書通りの答えじゃないだろう? 現場は地獄だ。理屈では割り切れない悪意が、君の大切なものを踏みにじろうとする時がある。その時、塚内少女の心に『殺してでも止めたい』という炎が宿ることを、私は否定できない。……私自身、聖人君子ではないからね」
電話の向こうから、ギリィ、という音がした。
音がする程に強く、拳を握りしめたのだろうか。
「それでも私は、君にこう言いたい。『殺すな。その拳は、活かすために振るえ』と。それはなぜか。ヴィランのためじゃない。社会のためでもない。君自身が、君自身を許せるようにするためだ。一度でも『殺して解決する』という
オールマイトは、そこで呼吸を整えた。
「……もし、どうしても殺さなければ止められないような、強大な悪に出会ってしまったら。その時は、
それは、とても優しい声。
「君が手を汚す必要はない。君がその重荷を背負う必要もない。そのために私はここにいる。全ての
電話越しなのに、オールマイトが頭を撫でてくれている。
そんな気がする。
「大丈夫。私がいるうちは、そんな悲しい選択はさせない……いや、言い直そう。次はない……約束するよ」
* * *
航一さんには、部屋の片付けを手伝っている時に直接尋ねてみた。
窓ガラスの破片が酷かったので、ここ暫くの航一さんはホテル住まいだ。
「殺さなきゃ殺される時、か……。うん、あるよね。そういう、どうしても超えなきゃいけない壁みたいな瞬間」
箒を片手に掃除しながら、航一さんは何でも無いように答える。
「真面目にサイドキックをやってると、色んなヴィランに出会うよ。『殺さなきゃ殺される』って状況、俺も何度か経験したけど……。そんな時って、頭で考えてる余裕はなくて。『殺してやる』とか『殺さなきゃ』とか思う前に、身体が勝手に動いちゃうっていうか。ただ必死に、逃げたり、弾いたり、止めたり。師匠のおかげで、今の俺は結構な火力があるから、その気になれば殺せたかもしれないけど」
いつもはへにゃりとしている航一さんだけど、真面目な顔だった。
「でもね、殺さなかったよ。正確には、『殺して終わらせる』のは、なんか違うって思った」
ちりとりにガラス破片を集めながら、航一さんは続ける。
「殺し合いになっちゃったら、それはもうヒーロー活動じゃなくて、ただの喧嘩か戦争かなって。俺達がやってるのは、そういうのじゃなくてさ。どんなに相手が化け物でも、理不尽な暴力を振るってきても、こっちまで同じ土俵に降りてやる必要はない、と思う」
原作で『人殺しなら殴り殺していいみたいなリクツは、流石にダメでしょう』と言いながら、航一さんがNo.6を手加減パンチで圧倒していた事を思い出す。
「それにさ。殺しちゃったら、そこで『会話』が終わっちゃうじゃないか。どんな悪い奴にも、そうなっちゃった理由とか、止まれなかった事情があるかもしれない。殴り合って、ぶつかり合って、相手がもう動けなくなるまで粘って……そうやって初めて届く言葉がある。俺は、最後の最後まで、そっちの可能性を捨てたくない」
ガラスの破片を、ゴミ箱に捨てながら。
「だから、殺さなきゃいけない相手でも、殺さない。殺されそうになっても、殺さずに済む方法を、そのギリギリの一瞬まで泥臭く探し続ける。……それが俺にできる、精一杯の『意地』かな?」
箒とちりとりを脇に置いて、航一さんは私を真っ直ぐ見つめてきた。
「殺すよりも、生かして捕まえる方が何倍も難しいし、何倍も苦しいよ。でも、その『面倒くさいこと』をやるために、俺は飛んでるんだと思う」
ぐぐっ、と右手で拳を握る航一さん。
「もしも師匠がそんな状況になったら……俺が飛んでって、その『殺さなきゃいけない壁』ごとブチ抜くよ。ヒーローってのは、そういう理不尽をひっくり返すためにいるんだからさ!」
そう言って、ぽややんヒーローは、へにゃりと笑った。
* * *
時計の針は、淡々と進んでいく。
ナックルダスターこと、雄黒
お葬式に行ったら、珠緒と仲良くしてほしい、と頭を下げられた。
『鳴羽田フェスティバル』のイベントを手伝うことになった。
報酬としてキャプテン・ニンジャ・セレブリティとミッドナイトとプレゼントマイクの連絡先を要求するという無法をしたら、何故か通ってしまったので拒否できなかった。
首を傾げながらイベントを盛り上げたら、盛り上げすぎたのかエッジショットから「俺も参加させてくれ」と連絡が来て驚いた。
翌月のイベント当日、駄目元でエッジショットの連絡先を尋ねたら喜んで教えて貰えた。
プロヒーロー、気さくすぎるでしょうと思っていたら、なんかみんな『聖なるゴミ』を読んでくれていて、それで私のことを知っていたようだった。
真さんに振り回されて出版した『聖なるゴミ』だったけど、出した価値はあったのかな、って思った。
編集さんからは続刊を望まれているけれど、公安の人が暗殺に来る内容しか思い浮かばない。
夏が来て、麗日建設が三重県から東京に引っ越してきた。
お茶子ちゃんとはもう、連絡先は交換済みだ。
誕生日(12/27)にケータイ(スマートフォン型)をプレゼントしたいと言ったら、お茶子ちゃんは顎を外さんばかりにポカーンと驚いてた。
だってお茶子ちゃんは1-Aで唯一のガラケー持ちなんだもん、仲間はずれはイヤだよね。
夏休みが終わって、なんとジェントルが仮免に合格した。
鳴羽田に来てから、仮免試験を毎回受けてもらっていたのだ。
ラブラバと一緒に手作りケーキを作って、沢山お祝いしてあげた。
ジェントルは、噛みしめるようにずっと泣き続けていた。
人月計算だと経理の胃に穴が開くので、工程を細かく区切って何パーセントの仕事を彼がやったか算出する方法に切り替えて貰った。
そしたら給料日に
太らないよう気をつけてくださいね、とだけ返してあげた。
秋が終わり、冬になって、コタツの時期になった。
この頃になると、
多分
『珠緒ちゃんRTA』をしたことで、敵の出現間隔が原作と大きくズレてきている。
だからNo.6が蜂須賀九印の代わりに暗躍をしているのは、確定だと思う。
和歩ちゃんがNo.6の罠にかかってBEE☆ポップになるとか、冗談じゃない。
お父さんがNo.6に撃たれて怪我をするのも、可能なら回避したい。
でもオールマイトに殺しの業を背負ってもらうのは、『オールマイト一人に寄りかかって、何も不思議に思わない世界こそが
かといって航一さんに代わりに手を汚して貰うのも、なんかイヤだ。
No.6はAFOと同じく、殺さないと止まらない系の
どうせ殺さないと止まらないのなら、私が殺した方が早いんじゃないかと思う。
私の手はとっくに血で染まっているから、何も問題は無い。
私がヒーローである必要は無いから、私はヒーローになれない。