塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.22 「因果律調整」

 

【コーザリティ】《causality》

 

 因果関係、因果律。

 原因と結果の関係。

 

 

 * * *

 

 

 相澤消太(イレイザーヘッド)分倍河原(ぶばいがわら)(じん)、雄黒(いわお)、塚内空、ミッドナイト、塚内真、槍手沢(やりてざわ)(りん)、ヒナ。

 何故こんな奇妙なメンバーでの合コンが行われることになってしまったのかを説明するためには、多少時間を巻き戻さなければならない。

 

 大まかな経緯は原作に似ていたが、細部が大きく変わっていた。

 

 原作と違い、保冷剤に偽装した薬物の証拠隠滅を防ぐことができ、流通ルートのデータも確保できた為、ドラッグの取引に使われていた飲食店に対して早期のガサ入れをすることができた。

 その結果、効果が従来型のものより低く、向精神性の成分も含まれていない『経口型トリガー』の存在を警察は認識できた。

 (ヴィラン)の目的が、弱いトリガーを安価でばら撒き、めぼしい個性を持つ者を攫って改造することにあるのではと推理された。

 

 飲食店に残っていたデータから、都内の大学のイベントサークルを中心にドラッグがばら撒かれていると判明した。

 実際に、突発性(ヴィラン)事件の被疑者のうち複数の人間が、事件の前に女子学生のグループを交えた飲み会に参加したと証言していた。

 これにより、都内の各エリアの飲み屋や合コンを、ヒーローや警察達の協力体勢で分担し、確認して回ることになった。

 

 鳴羽田(なるはた)エリアの担当として、イレイザーヘッドとミッドナイトが割り当てられた。

 山田、もといプレゼントマイクは別エリアに割り当てられた。

 

 元々、イレイザーヘッドはお祭りや宴会の類など、騒がしいものはイヤだったので断ろうとしていた。

 話を持ち込んできた塚内警部が、個室でもなんでもない喫茶ジェンラバで、イレイザーヘッドとミッドナイト相手に打ち合わせしていたのが悪かった。

 話をそばで聞いていた塚内真が、大学生との合コン案件に割り込んできたのだ。

 

 曰く「私は現役の大学生だから、人数合わせに良いのでは?」と。

 

 イレイザーヘッドは、喫茶ジェンラバがきっかけで塚内真と出会っていた。

 店で出会った時に、軽い挨拶を交わしていた程度のはずだった。

 なのにいつしか、塚内真とコーヒー談義をするぐらいの仲になってしまっていた。

 

 恋愛関係というわけではないが、イレイザーヘッドの中で好感度の高い塚内真が割り込んできたことがきっかけで、イレイザーヘッドは合コン案件を断るタイミングを逃してしまった。

 Ms.ジョーク(この時24歳)からは会う度に「付き合おう」だの「結婚しよう」だの言われてしまうが、彼女の発言は本気なのか揶揄(からか)いなのかさっぱりわからないので相手にしていない。

 だが塚内真は、こちらの話を真摯に聞き、頭の回転が早いとわかるウィットに富んだジョークも交えて、居心地の良い合理的な時間を提供してくれる。

 

 非合理だと思っていた合コン案件だったのに、よくわからない感情が邪魔をしてきた。

 この感情は果たして合理なのか非合理なのか、イレイザーヘッドには判断できなかった。

 

 

 * * *

 

 

 生々しい話だが、原作を元にスピンオフ作品を出すことになった場合、縛りが入ることが多い。

 『Fate/stay night』の外伝として『Fate/Zero』を出すことになった際、原作者から大量の縛り注文が入ったことは有名だ。

 

 原作時間軸の中に、劇場版を挟み込もうとした場合も同じく縛りが入る。

 登場キャラの人間関係を変化させるわけにもいかず、大怪我を負わせるわけにもいかない。

 余計なことをすると原作とズレが生じてしまうため、整合性を取らなければならない。

 

 整合性以外にも、スピンオフにおいて大事なものがある。

 原作の人気キャラと、スピンオフオリジナルキャラの邂逅に関しての縛りだ。

 

 人気キャラに対する異性との出会いは、迂闊に実現すると恋愛に繋がる可能性がある。

 なのでそういう場合は、きちんとした縛り注文が入ったりする。

 

 『恋愛が発生しそうなキャラ同士を、そもそも出会わせない』。

 『スピンオフオリジナルキャラは、スピンオフの中だけで恋愛を成立させる』。

 

 キャラクター人気投票で、毎回高い順位にランクインする人気者イレイザーヘッド。

 正統派美人で有能、かつ主人公格に告白できる程に押しの強い塚内真。

 当然のことながら、二人の出会いは恋愛に発展してしまう可能性がある。

 

 二人の仲が恋愛に発展すると、天界ジャンプ(プラス)編集部にカミソリが送られてくる。

 過激なファンだと『可能性を生み出しただけでアウト』と、天界SNSで騒ぎ出したりする。

 

 だから二人は強力な因果律調整によって、いかなる平行宇宙であろうと出会いが発生しない運命を辿る。

 そのはずだった。

 

 だがこの平行宇宙では、鳴羽田(なるはた)飛田(とびた)弾柔郎(だんじゅうろう)相場(あいば)愛美(まなみ)が呼び寄せられ、喫茶ジェンラバが誕生してしまったことで、蝶が羽ばたきハリケーンが発生してしまった。

 

 原作のイレイザーヘッドは、喫茶店でもない店に『ブラック』と何度も要求するぐらいコーヒーを愛飲している。

 塚内真に至っては『好きなもの:コーヒー』とプロフィールにある。

 地味に喫茶店が少ない鳴羽田(なるはた)において、美味しいコーヒーを提供してくれる喫茶ジェンラバが営業しているのなら、コーヒーを飲みにリサイクルショップへ行く理由が無くなってしまう。

 

 存在するはずの無い店で、出会うはずのない二人が出会い。

 またお会いしましたね程度の簡単な挨拶を交わすうちに、親密な関係となった。

 

 因果律調整? なんですかそれ、食べ物の名前かなにかで?

 お茶請けになればいいですね。

 

 それぐらいの勢いで、沢山のものがズレはじめていた。

 

 

 * * * 

 

 

「いぇーい! みんな、飲んでる~?」

 

 カオリことミッドナイトが、ビールの大ジョッキを掲げる。

 

「おう」

「やってるぜ!」

 

 口回りに白い泡をつけたイワオが笑顔を見せ、JINが肉や魚を食べまくっている。

 

「……ショータさんとこうやって飲むのは、初めてですね」

「いつも、コーヒーでしたから。それはそれで、悪くありませんが」

 

 ショータとマコトは、向かい合っていい感じにトークしている。

 SORAは、リンの世話を焼くように、細かく話しかけていた。

 

「飲み過ぎですよ、リンさん。間に食事を挟まないと、悪酔いしてしまいます」

「……えっ……うん……」

「ほら、ジョッキが倒れちゃってます。悪酔いの兆候です。一度、水分補給をしましょう」

「あ、じゃあ青りんごサワーを追加で……」

「アルコールは水分補給になりません。普通のりんごジュースにしましょう」

「ありがと、SORA君……」

「すいませーん、ジョッキ回収と、りんごジュースお願いします」

 

 そんなSORAとリンの姿を、ヒナは悔しそうに眺めている。

 かと思えば、SORAはヒナにもフォローを入れてくる。

 

「ヒナさん、箸が進んでいませんね? 他の人が頼んだものも、どんどん食べていいんですよ」

「こういう雰囲気、ほんとは……ちょっとニガテで……」

 

 弱気にヒナが答えると、SORAはヒナにそっと耳打ちをする。

 

「リンさんの飲むペースが早すぎます。お持ち帰りならまだマシで、悪ければ急性アルコール中毒です。リンさんに食事を勧めて同じ物を食べたり、ご自身のジンジャーエールを一緒に飲むなりして、彼女の血中アルコール濃度を落としてあげてください」

「あ、はい……」

 

 カオリは、満足げにビールを飲みながらJINに質問した。

 

「JINさんは、何をしてる人なんですか?」

「俺? 俺は麗日(うららか)建設ってところで……」

 

 SORAがすかさず会話に割り込む。

 

「彼は建築学科です。建設会社でバイトしながら頑張っている苦学生です」

「そうそう、そーなのよ、クガクセー? だぜ!」

 

 ジョッキを掲げながら、JINが笑う。

 カオリは、いかついイワオに質問してみた。

 

「イワオさんは何を?」

「俺か? 俺は悪党を殴……」

 

 SORAがすかさず会話に割り込む。

 

「彼は社会学科でヴィランの研究をしています。研究しすぎて八年生だとか」

「NPO法人の代ひょ……」

「ヴィランの被害を受けた方々を支えるために、NPO法人の設立を目指しているようです」

 

 最後まで言わせないぞ、という謎の決意がSORAから漂ってくる。

 カオリは苦笑しながら、SORAに尋ねる。

 

「じゃあ、SORA君は?」

「私ですか? 法科大学院(ロースクール)狙いの法学部です」

「ん"っ?」

 

 即席のアドリブのはずなのに、際どい設定を話してきたのでカオリは驚いた。

 なんというか、既に通ったことのある道のりを淡々と言われているようだった。

 

 

「ショータさん……今日はあまり、こっちを見てくれないのですね」

「情が移りそうで怖いんですよ。責任を持てないのなら、関わるべきではない」

「……それは、私と責任問題に発展しそうな可能性がある、と?」

 

 マコトが、そっとショータの手に触れた。

 逡巡した後、ショータは目線を合わせずに答える。

 

「無いですね。塚内警部とも、貴女とも、ただのビジネス繫がりで――」

「それは()()

 

 ショータは驚いて、マコトの方を見た。

 

「あっ。ようやく私を見てくれましたね」

 

 してやったり、とばかりにマコトが微笑を浮かべる。

 

「今のは……貴女の個性?」

「はい。昔は兄にも似たようなことをして、機嫌を悪くさせてしまいました」

 

 ショータは、ため息をつく。

 

「困った人だ。そうやって他人を試すのは、良くない」

「兄にも、全く同じ事を言われました……わかっては、いるつもりなんですが」

「結婚願望が無いとまでは言いません。ですが俺は、安易に相手を選べる立場にない。明日突然、死んでしまうかもしれない。貴女が俺を選ぶのは、合理的ではない」

 

 飲み会の中、相澤消太と塚内真がいるこの空間だけ、大人の雰囲気になっていた。

 実のところ、カオリことミッドナイトも、SORAこと塚内空も、他の皆と和やかに談笑している空気を作りながら、全力で相澤消太と塚内真の会話に耳を傾けていた。

 

「でも、ショータさん」

「なんです?」

「私の手を振り払わないのは、何故ですか?」

「……むっ……」

 

 実のところ、マコトの手はずっとショータに触れたままだった。

 会話内容的には、マコトの手はとうの昔に振り払われているはず。

 

「これは非合理では、ないのですか?」

「……貴女の手の感触が、心地よかっただけです。男女関係の話とは、関係無い」

「それは、う、そ……?」

「どうしました?」

 

 ショータの目は、赤くなっていた。

 マコトは動揺し、焦りを隠せない。

 

「……そんな、まさか」

「貴女のちょっとした悪戯が、できなくなりましたか?」

 

 マコトの顔が、真っ赤に染まる。

 ショータはマコトの手を優しく離し、懐から目薬を取り出し、挿した。

 

 微妙な沈黙が続く中、マコトは自分の頬が熱く染まるのを抑えられなかった。

 だがショータ自身、心臓の鼓動が非合理に早まっていることを自覚していた。

 

 

 * * *

 

 

 原作での塚内真は、灰廻航一に告白した。 

 それは、塚内真の選択肢が灰廻航一以外になかったことも大きい。

 

 塚内真が灰廻航一を望んだのは、灰廻航一がいつでも『普通』でいてくれる人だったから。

 だが相手に『普通』を求める女性は、もう一つ、相手を好きになるケースがある。

 

 それは、相手に『普通』を求める事の真逆。

 ()()()()()()()()()()()()()()()の出現。

 

 これには、二つのパターンがあった。

 一つは、塚内真がどんなに破天荒なことをしようとも、一切気にしない男性。

 もう一つは、個性などで塚内真を普通の女性として扱えてしまう男性。

 

 イレイザーヘッドは、前者でもあり、後者でもあった。

 

 繰り返すが、二人は強力な因果律調整によっていかなる平行宇宙であろうと出会いが発生しない運命を辿る、そのはずだった。

 山田もといプレゼントマイクか、香山(ねむり)ことミッドナイトを経由しないと、連絡すら取れないはずだった。

 

 喫茶ジェンラバの誕生が原因? いや、違う。

 そもそもの大元を辿れば、塚内空がこの世界に生まれ落ちたのが主原因だ。

 

 では何故、塚内空はこの平行宇宙に生まれ落ちたのか。

 その理由を語るのは、もうしばらく後の話になる。

 

 

 * * *

 

 

「うーん……いいわね、青春」

「……まさか、こんな流れになるなんて」

「駄々漏れる心と身体のあれやこれや! とてもいいわっ!」

 

 カオリは、予想外の展開にゾクゾクしていた。

 SORAは、『もうどうにでもな~れ』の検索で出てくる猫のAA(アスキーアート)を貼り付けたい気分になった。

 

「カオリさん、油断してると婚期逃しますよ」

「なっ、なんのことかしらっ!?」

 

 SORAのジト目に、カオリが慌てる。

 苦笑しながら、SORAは背伸びをした。

 

「さて、と……じゃあ、犯人捕まえて終わらせましょうか」

「……えっ? どういうこと?」

 

 SORAは、リンに甲斐甲斐しく世話を焼いているヒナにおもむろに近づいた。

 ヒナの手を一瞬で後ろに回し、親指、人差し指と中指でヒナの喉笛を掴む。

 

「ッ、SORAさん、一体何を……!?」

 

 慌てるリン。喋ることもできず、動けないヒナ。

 しかしSORAは、冷静に指示を出す。

 

「ショータさん。いい雰囲気のところすみませんが、私のアップルビネガーにトリガーの検査用紙を入れて反応をみてください。あとカオリさんは、ヒナさんの手荷物をポーチ優先に調査してください」

「あ、ああ」

「わかったわ!」

 

 少し顔を赤くしていたショータが、SORAの飲み物に検査用紙を入れる。

 検査用紙はすぐに、トリガー存在反応を示した。

 

 カオリがヒナの手荷物を漁ると、すぐに経口型トリガーが出てきた。

 すかさずミッドナイトモードになったカオリが、ヒナを問いただす。

 

「トリガーの入手経路、使用目的、過去の使用状況……聞きたいことは沢山あるけれど、まずはなによりあなたの気持ちが知りたいわ、ヒナちゃん。何故こんなことをしちゃったのかしら?」

「だ……だって……だって、リンちゃん男の子とばかり遊ぶから! そんなのイヤ!」

「……そう。それで『やっちゃった』のね」

 

 SORA的には、リンの吐瀉物を啜るヒナは遠慮したかったので、ちょっとだけリンに優しくして、後は自席から離れて様子を見るだけで良かった。

 案の定、ヒナはSORAの飲み物にトリガーをこっそり仕込んでくれた。

 

「男はみんなケダモノだってこと、私がリンちゃんに教えてあげるんだから!」

「それは残念でしたね。私は女性です」

「……はい?」

 

 ヒナの叫びに、SORAは淡々と答えた。

 ついでに言うなら現役小学生だったが、そこは言わずにおいた。

 

 悲しいぐらいに男装がバレないから、私はヒーローになれない。

 

 

 * * *

 

 

 頭が痛い。二日酔いの頭痛だろうか。

 イレイザーヘッドこと相澤消太は、柔らかいベッドの中で目覚めた。

 

 知らない天井、知らないベッド、知らない布団、知らない部屋。

 付け加えるなら、何も着用していない。全裸で寝ていたらしい。

 

 それにしても、複雑な匂いがする。

 バラの香り、女性特有のフェロモン、アルコール臭、乾いた汗、ほんのりとイカ臭い何か。

 

 なんだ、ここはどこだ、俺は一体……?

 

「っふ、うぅ……ん……」

 

 艶っぽい声が真横から聞こえて、相澤消太は心の底から驚いた。

 グギギ、と顔と視線を動かす。

 自身の真横で全裸の塚内真が、寝返りを打ちながら無防備な寝顔を晒していた。

 彼女の膨よかな胸のラインが、朝の起床を経て屹立しようとしている自分の息子を無駄に応援してくる。

 

 嘘だろ、おい。

 

 相澤消太は慌てながら、塚内真が起きないよう静かに布団をめくった。

 破瓜の痕跡だろうか、多少の血がシーツの尻のあたりで乾いていた。

 乾いた血の周囲には、汗ともなんともいえぬ大量の分泌物がシーツに染みこんでいた。

 

 青ざめながら、自分の身体をチェックしていく。

 明らかに、ヤっちゃった感じだ。

 しかも複数回。

 

 相澤消太は183cm、(ヴィラン)と戦っているだけあって肉体は鍛えられている。

 肉体を鍛えているということは、テストステロンの分泌量が高く性欲も強い。

 なおCV:諏訪部順一なので、耳元で甘く囁かれたら男性でも陥落する。

 

 塚内真は168cmと女性にしては高身長で、胸も大きく身体のラインも申し分ない。

 普通に美人というか、顔も身体もモデル級の逸材。

 彼女のCV:瀬戸麻沙美は、『桜島麻衣/青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』『アルファ/陰の実力者になりたくて!』『不知火フリル/推しの子』と説明すればわかる人も多いのではないだろうか。

 

 今は『ヴィジランテ時間軸=本編時間軸の四年前』。

 だから相澤消太は26歳、塚内真は21歳。年齢差的には問題無い。

 

 それはいい。

 

 問題は、ベッドそばにあるゴミ箱の中身と、枕元に置かれているコンドームの袋。

 コンドームの袋が枕元に置かれているから、ここがラブホテルの一室なのだろうとはわかる。

 

 わかる、が、しかし。

 コンドームの袋は開けられておらず未使用のまま。

 ゴミ箱の中身は、ティッシュ一枚すら入っていない。

 

 つまり、欲望のままにゴムすらつけず、塚内真の身体を(むさぼ)って味わい尽くした疑惑がある。

 疑惑もなにも状況証拠が「そうだけど、何か問題でも?」と腕組みをしている。

 

「……猫を飼うのとは、ワケが違うってのにな」

 

 相澤消太は、そう言ってため息をついた。

 そして、自分を見つめる視線に気づく。

 いつの間にか起きていた塚内真が、じっと彼を見つめていた。

 

「交通事故だったことに、しますか? アフターピルも間に合うと思いますし、あと……」

「あと?」

「……覚えて、ないですし」

 

 塚内真は、そう言って寂しそうに微笑んだ。

 相澤消太は、頭をポリポリと掻く。

 

「覚えてないのは、俺もなんだが」

「それなら、なおのこと交通事故でしょう。プロヒーロー・イレイザーヘッドの人生の邪魔をする気はありません。アフターピルでも妊娠確率は0.5%程度あると聞いていますが、万が一その0.5%を引いてしまったとしても、堕ろします」

 

 (まなじり)に涙を浮かべながら、一夜の出来事を無かったことにすると塚内真は言い出した。

 流石の相澤消太も、眉をひそめる。

 

「そいつは随分と、非合理な答えだ」

 

 山田曰く。

 『あいつ、考えすぎて出遅れるクセがあるけど、腹が据わるとえげつねえぞ』。

 

 白雲曰く。

 『色々気がつくから、逆に考えすぎるんだよな、ショータは。そんで自分で先回りして無理って思い込む』

 

 やってみせろよ、マフティー!

 やっちゃえ、バーサーカー!

 僕は……頑張れって感じのデクだ!

 

 Plus Ultra、更に向こうへ!

 

「まったく。随分と大きな猫だ」

 

 そう言って、相澤消太は布団をめくる。

 塚内真の美麗な裸体が、目の前に出現する。

 なお塚内真の胸まではともかく、大事な部分は相澤消太の身体が邪魔で読者には見えない。

 

 塚内真は、苦笑する。

 

「餌やりとしつけが、大変ですよ?」

「問題無い。しつけはこれからする」

「あっ……」

 

 相澤消太は塚内真を抱き寄せ、念入りに口づけをかわした。

 こんないい女との一夜が記憶に残っていないのは、全くもって合理的ではない。

 

 結果として、相澤消太は二時間延長するとフロントに連絡した。

 

 

 * * *

 

 

 天界ジャンプ(プラス)編集部。

 因果律調整とは一体なんだったのか、と担当編集は少し首を傾げた。

 

 とはいうものの。

 ここは天界ジャンプ編集部ではなく、天界ジャンプ(プラス)編集部。

 編集方針はエログロバイオレンス路線に全振りだから、何も問題は無い。

 

 この平行宇宙の物語を天界ジャンプ編集部に移籍する案も出ていたが、()()()()()()()()()()()天界ジャンプ(プラス)編集部のままがいい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()を創世神HKに内緒で実行した以上、物語はもっと過激になっていく。

 どうせ平行宇宙だから、本連載に影響が出ることはありえない。

 

 打ち切り(エター)にならないよう、作家のケツを蹴り飛ばしておくか。

 担当編集はニヤつきながら、退社の準備を始めた。

 

 

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