塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.24 「想定の斜め上」

 

【アンイマジナブル】《unimaginable》

 

 想像できない、考えられない、思いもよらない。

 通常では考えられない。

 

 

 * * *

 

 

 『キャプテン・ニンジャ・セレブリティ ファイナルステージ in 東京スカイエッグ 協賛:マルカネ百貨店』。

 

 失われたニンジャ真実に迫るニンジャ・アトラクション『鳴羽田(なるはた)フェスティバル』の総決算。

 キャプテン・ニンジャ・セレブリティの物語の最終章でもあるため、マルカネ百貨店が協賛についた。そのため、東京スカイエッグを借りることがより安易になったとも言える。

 

 東京スカイエッグは、前世の東京スカイツリーの場所……ではなく、鳴羽田にある。

 地上500メートル、収容員数5万人。

 夕方から入場開始、夜の三時間程度を想定した大規模なイベント。

 

 マルカネ百貨店は、ステージの前座として特別ユニット『FeatherHATS(フェザーハッツ)』による「マルカネ百貨店のうたREMIX」の歌を要求した。

 マルカネの前座バンドが歌った後に、キャプテン・ニンジャ・セレブリティをはじめとした、日本のプロヒーロー達がステージを盛り上げるという流れだ。

 このステージは、空前のニンジャブームもあり多くのヒーローの出演が決定した。

 

 3月末に日本を去るキャプテン・ニンジャ・セレブリティにとって、大きな花束となるだろう。

 

 原作では、なるフェスメンバーでクリスマスにクリスマス会が開催された。

 しかし『鳴羽田(なるはた)フェスティバル』はカラオケ大会ではなくニンジャショーとして始まったため、特別ユニット『FeatherHATS(フェザーハッツ)』は初デビューがいきなり東京スカイエッグになってしまった。

 出演を打診された和歩(アイドル名:ポップ☆ステップ)は、毎日のように歌とダンスの練習をしている。

 キャパが5万人のステージでいきなり前座をしろと言われたのだから、無理も無い。

 

 

 だが、塚内空は少々違和感を抱いていた。

 クリスマスの夜に、爆弾飛行ヴィランの話を一切聞かなかったからだ。

 

 代わりに発生したのは、イレイザーヘッドと塚内真のクリスマスデートぐらい。

 イブの昼に出かけて、クリスマスの深夜に帰ってくるという胸焼けデート。

 

 それはそれで良いが、No.6は爆弾飛行ヴィランの観測気球をあげなかったということになる。

 原作では、爆弾飛行ヴィランから子供達を守ったことによりキャプテン・セレブリティの人気は急上昇し、流行語ランキングにも掲載され、キャプテン・セレブリティグッズの増産が間に合わない流れとなった。

 しかしこの世界では既にキャプテン・ニンジャ・セレブリティとして爆発的な人気を得ており、グッズは株式会社オールライトの力で増産されていて商機を逃すこともない。

 

 大阪ではNo.6を追い詰めることができず、取り逃がしてしまった。

 No.6は再生持ちだから、怪我が原因で動きが鈍くなっているとは考えにくい。

 

 痛み分けに終わった大阪では、悔しい思いをした。

 でも今度は、ホームとも言える鳴羽田で待ち受けることができる。

 向こうにとってもホームかもしれないが、鳴羽田ならジェントル・クリミナル&ラブラバの協力を得られる。

 

 対EMP装備も、売れるかどうかはともかく、少なくとも世に出すことはできる。

 三年後の『鳴羽田(なるはた)ロックダウン』での被害も、多少は減らせるだろう。

 

 来るなら来い。

 ジェントル・クリミナル&ラブラバさえ居れば、どうとでもできる。

 塚内空は、内なる闘志を燃やしていた。

 

 

 * * *

 

 

 塚内空にとっては、大阪は痛み分けだった。

 

 だが、当のNo.6や報告を受けたAFOにとっては、痛み分けどころの話ではなかった。

 何故かNo.6の個性がバレていて、弱点も突かれ、さらに爆弾ギミックまで使わされた。

 

 流通データも証拠品も完全に抑えられ、証拠隠滅どころか的確に追い詰められていった。

 『経口型トリガー』の流通経路たる飲食店も早々に潰されてしまった。

 

 サー・ナイトアイが持つ個性『予知』や、ラグドールの個性『サーチ』。

 それらの完全上位互換たる、未来予知じみた個性を持つ相手がヒーローサイドにいるのか?

 そうでも考えないと説明がつかない事象が、あまりにも発生しすぎている。

 

 市民の中にヴィランを紛れ込ませる、あるいは市民をヴィラン化する秘匿作戦(アノニマス・オペレーション)

 蜂須賀九印(はちすかくいん)や、様々な突発性(ヴィラン)をはじめ、見事なまでに最短で手札を潰されている。

 

 当然、ナックルダスターは調べ上げた。

 だが結論として、彼は個性『加速』を奪われた絞りカスに過ぎない。

 

 彼の背後に誰かが居るのはわかるが、誰が居るのかすら掴めない。

 「小なる多」を安易に潰す「大なる個」が相手にいるのであれば、秘匿作戦(アノニマス・オペレーション)は簡単に破綻してしまう。

 

 ゆえに、AFOが出した結論は簡単なものだった。

 

 『予知』や『サーチ』の完全上位互換の個性を持つ「大なる個」が相手にいるのであれば。

 こちらも「小なる多」から、「大なる個」へ切り替えればいい。

 「大なる個」、つまり改人『脳無』によって「小なる多」というヒーロー共を駆逐する。

 

 つまるところ。

 残念ながら『試験体6号(ナンバーシックス)』は、あまり燃えない焚き木だった。

 ゆえに在庫一掃セールとして、No.6はAFOに切り捨てられることになった。

 もちろん、AFOがそんな内容を正しく彼に伝えるはずもない。

 

「君の全力を見せて欲しい、No.6。僕の未来を照らす光となってくれ」

 

 AFOによる、No.6の切り捨て。

 それは塚内空にとって、完全に予想外の出来事だった。

 

 

 * * *

 

 

 2/2。塚内空、12歳の誕生日。

 灰廻航一は、塚内空にヘッドフォンをプレゼントした。

 それは兎耳のような、なんか長いアホ毛が二本ついたような。

 

「……兎の耳……じゃないですね、これ」

「オールマイトヘッドフォンだよ、師匠!」

「あー、このヘッドフォンをつけると誰でもオールマイトになれるとかそういう」

 

 塚内空は苦笑しながら、航一の目の前でオールマイトヘッドフォンをつけてみせた。

 自分が好きなものは相手も好きだろうという航一の無邪気な笑顔は、単純に嬉しかった。

 オールマイトヘッドフォンは、地味にノイズキャンセリング機能がついている高性能なやつだったが、つけるのは少々恥ずかしかった。

 

 

 2/14。

 羽根山和歩は灰廻航一に、ブラックサンダー(40円・税抜)をプレゼントした。

 塚内空は灰廻航一に、オールマイトの似顔絵を描いた手作りのキャラチョコをプレゼントした。

 どちらも義理チョコと一目でわかるものだった。

 オールマイトチョコは食べていいのか保存しておくべきなのか、航一は三日ほど悩んだ。

 結局食べた。美味しかった。

 

 2/22。灰廻航一、20歳の誕生日。

 塚内空は灰廻航一に、オールマイトの私物スタジャン(サイン入り)をプレゼントした。

 誕生日プレゼントというだけでなく、航一の成人式のお祝いも兼ねていた。

 塚内空は、このスタジャンはオールマイトのファンこそが持つべきアイテムだと思っていたから、あっさり手放した。

 オークションにかけたら幾らになるのか全くわからないプレゼントに、航一は恐怖した。

 

 

 * * *

 

 

 3月末、イベント当日の夕方。

 

「キャプテン・ニンジャ・セレブリティ、ファイナルステージ in 東京スカイエッグ。協賛、マルカネ百貨店。ただ今入場のご案内中です。チケットをお持ちのお客様は、入場ゲートの列の後ろにお並び下さい」

「2列になってゆっくりお進みくださーい!」

「物販はこちらでーす!」

 

 5万人が、列を成して東京スカイエッグに入っていく。

 満員御礼の会場は、なかなかに壮観だ。

 

 塚内空は関係者席もヒーロー控え室も行けたので、適当に回りながら挨拶をしていた。

 

「空ちゃん、関係者席ありがと!」

「楽しんでね、お茶子ちゃん」

 

 関係者席の麗日お茶子が、家族と共にニンジャ・ライト(ただのLEDペンライト)を手に笑っていた。

 既に小学校は卒業式を終えていて、4月からは一緒に私立聡明中学に通うことになる。

 

 そんな塚内空の格好は、いつもと変わらない。

 白のワイシャツ、群青色のネクタイ、黒のジャケットと黒のパンツスーツ。

 

 ヒーロー控え室は、それはそれでとんでもなかった。

 塚内真が、本気を出しすぎた。

 

 インゲニウム&チームIDATEN(ザ・スカイクロウラー、エニグマ、ビッグショット等)、プレゼントマイク、ミッドナイト、ベストジーニスト、リューキュウ、ウワバミ、エッジショット、ミルコ、ギャングオルカ&サイドキック、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ(マンダレイ、ピクシーボブ、虎、ラグドール)、ウォッシュ、デステゴロ、スナイプ、マニュアル、エアジェット、そしてキャプテン・ニンジャ・セレブリティ。

 

「HAHAHA! マコト、最高のニンジャ・アドバイザーが来てくれた! ソラ、YOUのアドバイスには本当に感謝してもしきれない! 本国(ステイツ)に戻ってもやっていける自信がついたよ!」

「それは貴方の努力が実ったのです、ミスタ・セレブリティ。本国(ステイツ)に戻られても、日本チームとは電話なりネットなりでいつでも話せますから、安心して相談してください」

「ボクのために、何から何までありがとう、ソラ!」

 

 笑顔のキャプテンが、塚内空に握手を求める。

 塚内空は、外で待機してもらっているジェントル達に内心で「寒い中ごめんね」と謝ってから、ヒーロー控え室を巡り始めた。

 

 

 * * *

 

 

 オノムラ薬品工業・関東開発センター。

 その敷地の一角にある、研究棟。

 (ヴィラン)グループ、仮称『ファクトリー』、そのアジト。

 

 イレイザーヘッドとファットガムのプロヒーロー。

 塚内警部と蟹屋敷(かにやしき)モニカ巡査をはじめとした、警察一行。

 

 ガサ入れが決まり、万全の体制で取り囲んでいた。

 名目は、違法薬物所持および違法医療行為の容疑に基づく強制捜査。

 退勤直前に証拠と被疑者を確保し、一網打尽にする。

 

 

 やや離れたビルの屋上から、ラブラバは塚内空の指示通りにガサ入れの様子を見守っていた。

 飛行タイプ、しかもEMP攻撃をしてくる(ヴィラン)がいるかもしれないと警官たる父親が語っていたらしい。万が一にでも、東京スカイエッグにそんな敵を向かわせてはいけない。

 

 警察がガサ入れに成功すればよし。

 東京スカイエッグ内には大量のヒーローがいるが、万が一の事があれば彼らとて危ない。

 犯人は個性『加速』持ちなので、何が起きるかわからない。

 今日に限っては喫茶ジェンラバは休みとし、ジェントルは東京スカイエッグ付近にて待機。

 ラブラバは、飛行タイプのヴィランが研究棟から飛び出るようなことがあれば、即座に連絡。

 そういう段取りだった。

 

 実際には、警部たる塚内直正が捜査の内部情報を漏らすことはあり得ない。

 だが、塚内空のもっともらしい嘘を、ジェントルとラブラバは疑うことなく信じた。

 ラブラバにとって、EMP攻撃は洒落になっていない攻撃の筆頭格だったので、予備の携帯まで用意していた。

 『デンパ・シャット・ダウン』の導入のみならず、対EMP対策は自室も含めてがっちり固めた。

 

 双眼鏡を構えたラブラバが見守る中、白衣を着たカニ子がゆっくりと研究棟に近づいていった。

 

 

 * * *

 

 

 東京スカイエッグ内、満員御礼の会場の明かりが最低限に落ちた。

 映画がはじまる直前の雰囲気の中、五万人が固唾を呑んで見守る。

 

「YO-YO-YO! キャプテン・ニンジャ・セレブリティ、ファイナルステージの前座を飾るのは……鳴羽田発のウルトラフレッシュなSONG&DANCEユニット、『FeatherHATS(フェザーハッツ)』だ!」

 

 ボイスヒーロー・プレゼントマイクの声が、暗い会場内に鳴り響く。

 

「カモナッ、マルカネ百貨店のうた REMIXゥッ! イエエエアアアア!」

 

 眩いスポットライトが、壇上を照らす。

 会場内のスモークに散らばる、色とりどりのレーザー光の演出。

 

 フェザーズの美羽と由羽。

 ポップ☆ステップ衣装の和歩。

 鳴羽田東高校ダンス部の女性陣。

 大学生バンドこと、MAD HATTER。

 

 『FeatherHATS(フェザーハッツ)』の面々が、映し出された。

 

 

(BGM:「マルカネ百貨店のうた REMIX」)

 

「やっとるカーネッ、ホイ♪ ホイ♪」

 

 美羽と由羽が、歌い始める。

 

「おたっしゃカーネ-、ホイ♪ ホイ♪」

 

 ポップ☆ステップも、歌い始める。

 

「みんなでマルッと~、来ィたらええでェ〜♪」

 

 着飾った鳴羽田東高校ダンス部の女性陣が踊る中、歌のテンションが盛り上がっていく。

 

「hoi!hoi!hoi! A hoi! hoi!hoi!hoi! A hoi!」

 

 紙吹雪が舞う中、ポップ☆ステップが飛び跳ねた。

 

「hoi!hoi!hoi! A hoi! hoi!hoi!hoi! A hoi!」

 

 五万人の観客達が、ペンライトを振る。

 前座とはいえ、それは一般的なバンドではありえない観客数だった。

 

 そんな光景を関係者席から見ながら、塚内真はこっそり塚内空に耳打ちした。

 

「なんか、JASRACがどうこうでマルカネの歌は無理って言ってなかった?」

「JASRACだと駄目で、NexToneだとOKだったみたいです」

 

 その時、ミュートにしていた塚内空の携帯が突然震えはじめた。

 叔母に離席を伝えてから、塚内空は関係者席を離れて通路に出る。

 通路に出ただけで、会場内の騒ぎが殆ど聞こえなくなるのは凄いと感じた。

 

 電話をかけてきた相手は、ラブラバだった。

 

「はい、空です」

「空ちゃん、大変だわ! 鳴羽田の雰囲気がおかしいのよ! 沢山のライブカメラに、妙な人間が大勢映ってるの!」

 

 既に年単位の付き合いなので、ラブラバは空ちゃん呼びになっていた。

 なおジェントルは、空くん呼びのまま。

 

「画像、貰えますか?」

「いま送信したのだわ!」

 

 空は、送られてきた画像を慌ててチェックする。

 ラブラバが送ってきてくれた鳴羽田各所の画像には、ありえないものが映し出されていた。

 

 黒い顔、黒い肌、顔に大きな傷。

 群体型(ヴィラン)、アノニマス。

 ヴィジランテ原作では三年後に登場するはずのアノニマス達が、鳴羽田の夜の闇に紛れるようにして、各所のライブカメラに大量に映っている。

 その数、ざっと数百体。

 

 空の顔は、一瞬で青ざめた。

 

 

 * * *

 

 

「突入!」

 

 防弾チョッキを着た塚内警部が愛銃を構え、先陣を切って研究棟に突入していく。

 その後を、イレイザーヘッド、ファットガム、警官達が追いかけていく。

 

 入った瞬間にわかったが、建物内には異臭が漂っていた。

 より正確には、大量の血と、内臓が腐った人間特有の死の匂い。

 

 研究棟の中は、死体で溢れていた。

 

「……これはっ!?」

「鑑識が来ないと正確にはわかりませんが、48時間は経過していないかと」

 

 死体を見た三茶(さんさ)が、冷静に分析する。

 

「口封じってことかいな?」

 

 ファットガムが首を傾げた、まさにその時だった。

 

 

 * * *

 

 

「あと、警察はもう突入して――」

 

 ラブラバが言いかけたその時、電話の向こうから凄まじい爆発音が聞こえた。

 突然の爆発音に、私は焦る。

 

「ラブラバ!? ラブラバッ!」

「……こっちは無事なのよっ! 警察が入った建物が大爆発したのよ! 建物内の人達の無事は、まだわからない!」

「う、くっ……」

 

 一体全体、何が起きているのか。

 

 お父さんは無事なのか。

 イレイザーヘッドさんは無事なのか。

 ファットガムは、カニ子さんは――

 

「……空ちゃん、聞いてなの! 空ちゃんが言ってた飛行タイプの(ヴィラン)が、あちこちから一斉に飛び立ってる! あと、町中の黒い変なのが全部動き出してるのよ!」

 

 お父さん達を心配している場合じゃない!

 多分、想定の斜め上、最悪のケースが起きた。

 

 スカイエッグ爆破事件と、鳴羽田ロックダウンの同時発生。

 できること、思いつくことを全部やらないと、一方的にやられる!

 

 この状況下で最善の行動が取れなければ、私はヒーローになれない。

 

「ラブラバ、聞いて! もうすぐ大規模なEMP攻撃が来る、携帯だけでも守って! 私はスカイエッグで出来る事をやる!」

「了解なのよ!」

 

 電話を切り、すぐに携帯を『デンパ・シャット・ダウン』でガードする。

 そして私は、関係者席に全力で駆け戻った。

 必死な形相の私が飛び込んできたので、真さんが驚く。

 

「どうしたの、空ちゃん」

「大規模な(ヴィラン)の攻勢が来ます、多分初手はEMP攻撃! お茶子ちゃんお願い、一緒に来て!」

 

 突然指名されたお茶子ちゃんが、驚愕する。

 

「ふぇっ!?」

 

 ニンジャ・ライトを元気に振りかざしていたお茶子ちゃんの手を取り、私は走り出した。

 

「待って、どういうことなの……!」

 

 真さんに、詳しく説明している時間が無い。

 私は振り返らず、お茶子ちゃんと共に目的地へと向かう。

 

「どっ、何処行くん!?」

「ヒーロー控え室!」

「ふええっ!?」

 

 ドアを蹴り破る勢いでヒーロー控え室に私が侵入したので、そこにいた30人以上のヒーロー達(サイドキック含む)が一斉に私の方を振り向いた。

 

「あら、空ちゃん。血相変えてどうしたの?」

 

 心配したミッドナイトさんが、声をかけてくれる。

 でも、ミッドナイトさんに構う余裕が全く無い。

 

 私は室内を見渡し、目的のものを発見した。

 いつでも出動できるようにチームIDATENが持ち込んでいる、業務用無線機の親機と大量の子機、バッテリー類。

 あと、この手の控え室には大体置かれている、お弁当を温める用の電子レンジ。

 

「……師匠、どうしたの?」

 

 ザ・スカイクロウラー姿の航一さんが、キョトンとしている。

 

「航一さん、電子レンジの電源ケーブルを抜いて、早くッ!」

「えっ、あっ、はい!」

 

 案の定、業務用無線機の親機は大きくて電子レンジに入りそうにない。

 推定重量も20kgオーバー。

 お茶子ちゃんを連れてきて良かった。

 

深夜(しんや)さん、子機とバッテリーを電子レンジの中に!」

「……あっ、うん、わかったネ」

 

 チームIDATENのサイドキックがいるエリアなので、深夜さんにも指示を出した。

 勢いに押された深夜さんは、素直に言う事を聞いてくれた。

 

 問題は、業務用無線機の親機。

 考えろ、考えろ、考えろ……。

 頭と身体が、冴えていく感覚。

 

 そうだ、大型のオーブンレンジ!

 だとするなら……近場のレストラン!

 

「お茶子ちゃん、これ浮かせて! 一番近いレストランに持っていくよ!」

「OK!」

「ちょっ、ちょっと待ってそれはっ!」

 

 慌てるインゲニウムさんを、手で制する。

 息を吸って、私は大声で叫ぶ。

 

「大量の(ヴィラン)がスカイエッグを含めた鳴羽田(なるはた)を急襲中、数百体規模と推定! 爆弾、飛行、EMP、とにかく最悪中の最悪を想定して動きます!」

 

 ヒーロー控え室内に居た全てのヒーローが、ぎょっとした顔を見せる。

 私は業務用無線機の親機を浮かせたお茶子ちゃんと一緒に、最寄りのレストランの厨房へと走り込んだ。

 

「いらっしゃいま、せ……?」

「どいてください! どいて!」

 

 レストランの店員を無視して、厨房へ駆け込む。

 キャプテン・ニンジャ・セレブリティのイベントが既に始まっているので、客はいない。

 だからレンジも……良かった、使われてない!

 

 私は大型のオーブンレンジを開け、中にあった複数枚の大型トレイを掴んで床に投げ捨てた。

 厨房のシェフ達の驚愕もそのままに、お茶子ちゃんに指示を出す。

 

「お茶子ちゃん、この中! お願い!」

 

 真剣な顔のお茶子ちゃんが、業務用無線機の親機をオーブンレンジの中に入れる。

 良かった、入った!

 

 私はレンジの蓋を閉め、レンジから少し離れた。

 息を切らしたお茶子ちゃんと一緒に、呼吸を整える。

 

「一体なんだね、君達は!」

 

 一番偉そうなシェフが叫んだ、その瞬間。

 鳴羽田(なるはた)の街は、スカイエッグごと暗闇に包まれた。

 

 

 * * *

 

 

 夜の鳴羽田(なるはた)を一望できる、ビルの屋上。

 コートを羽織った姿のNo.6は、両手を広げて雄叫びをあげた。

 

 アノニマス・オペレーションフェイズ1、プラス在庫一掃セール。

 同時多発EMP攻撃による、鳴羽田地区全域の通信及び送電機能のシャットダウン。

 及び、飛行&爆弾ヴィラン軍団の全投入による東京スカイエッグ破壊計画。

 

 鳴羽田地区の住民は、数百体のアノニマスによって大量に爆死する。

 そしてスカイエッグ内に居るヒーローは、一般市民五万人ごと皆殺しになる。

 

 原作のような戦力の逐次投入ではなく、「小なる多」の全戦力投入。

 

 No.6を切り捨てることにしたAFOの悪意と。

 AFOの未来を照らす光になろうとするNo.6の善意が。

 

 今まさに、鳴羽田地区全域を壊滅に追い込もうとしていた。

 

 

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