【マストドゥ】《must do》
成すべきこと、不可欠なこと。
やるしかない、しなければいけない。
* * *
突然の暗闇に、レストランのシェフ達が呆然としている。
現状、室内の明かりはお茶子ちゃんが手にしているニンジャ・ライトだけが頼りだ。
重いものを片手で持ち運びながら全力疾走できちゃうお茶子ちゃん、地味に凄いと思う。
私はオーブンレンジの蓋を改めて開ける。
見た目ではわからないが、業務用無線機の親機が無事だったことを祈るしかない。
「
「あっ、ああ……」
勢いで押し切りながら、お茶子ちゃんに改めて業務用無線機の親機を浮かせてもらう。
ニンジャ・ライトの明かりを頼りに、私達はヒーロー控え室へと戻る。
「ねえ、なんでレンジの中に入れたん?」
お茶子ちゃんが、走りつつも小首を傾げて質問してくる。可愛い。
片手にLEDペンライト、片手に業務用無線機の親機なので、全体の絵面としては謎。
「EMP攻撃って言うんだけど、
廊下を走りながら、大きなガラス面から暗くなった鳴羽田の街を見やる。
間違いない。『鳴羽田ロックダウン』だ。
ラブラバの報告から、『スカイエッグ爆破事件』との同時進行なのは確定だ。
「電子レンジはマイクロ波を閉じ込める箱。EMP攻撃の電磁波を遮断する、最強のシェルター」
『デンパ・シャット・ダウン』で守られた自分の携帯を懐から取り出して、お茶子ちゃんに見せる。
お茶子ちゃんは、絶望に満ちた顔に変化した。
「そっ、空ちゃんにプレゼントしてもらったスマートフォン、壊れちゃった?」
「……『デンパ・シャット・ダウン』の中に入れていなかったのなら、確実に」
「うわーん!」
お茶子ちゃんの誕生日は、12/27。
プレゼントしたケータイは、約三ヶ月間でお亡くなりになってしまった。
「あれ、でも、ニンジャ・ライトは? これも機械でしょ?」
お茶子ちゃんが、不思議そうにニンジャ・ライトを振る。
「理由は三つ」
走りながら、私は指を三本立てる。
「ペンライトの中身は、電池・スイッチ・抵抗・LEDだけ。ニンジャ・ライトには色を変更できるICチップも入っているけれど、基板は小さいし配線も短い。EMPって、配線が長いほど影響を強く受けちゃうんだけど、ペンライトは配線が短いから影響を受けにくいの。あと入れ物がプラスチック製だから、余計に影響を受けにくい。最後に、運んでる途中は電源を切ってたから、回路が物理的に遮断されてた」
「おおお……空ちゃん、すごい」
やらないといけないことが、山積み過ぎる。
私は内心絶叫したくなりながらも、ヒーロー控え室の扉を開けた。
* * *
ヒーロー控え室には、真さんと東京スカイエッグのスタッフ達も集まっていた。
売り物として用意されていたニンジャ・ライトが箱ごと持ち込まれ、スタッフの人達が必死に電池を詰める作業をおこなっている。
真さんはスカイエッグの見取り図をテーブルに広げ、プロヒーロー達と何やら話し込んでいるようだった。
私とお茶子ちゃんはスタッフ達を押しのけ、業務用無線機の親機を持ち帰った。
チームIDATENのサイドキックエリアに戻りながら、彼らが持ち込んでいた
電源ラインに、高耐圧サージプロテクタ(避雷器の強化版)が噛ませてある。
……これなら、一筋の希望はある。
「空ちゃん、お願い。知っていることを全部教えて」
暗い部屋の中、ペンライトの明かりだけ。
そんな中、真さんが真剣な表情で尋ねてくる。
30人以上のヒーロー達も、真剣そのものだ。
「全国各地には、誰でも見ることができるライブカメラが設置されています。当然、この鳴羽田にも。私と友人は、鳴羽田エリアのライブカメラをAIを利用して常態監視することで、何かしらの異変があればすぐにわかるようなシステムを構築しています。良く言えば市民による善意の監視システムですが、悪く言えば……」
「ヴィジランテ・ネットワーク」
険しい顔で、真さんが直球を投げる。
「……そう言い換えることもできます。ですが今は時間が無いので、説明を続けます……この近辺、できれば鳴羽田エリアをカバーした地図はありますか?」
「観光用のパンフレット付属のものでよければ」
東京スカイエッグのスタッフさんが、答えてくれる。
「十分です。ホワイトボードに張って下さい」
広げられた観光用の地図が、マグネットでホワイトボードに固定される。
ニンジャ・ライトを受け取り、私は講義のように説明をはじめる。
「現時点で行われている
「待って、待って空ちゃん、そこは……」
真さんの顔が、わかりやすく青ざめる。
「はい。私の父である塚内直正警部や
ふらり、と真さんがよろめく。
傍らにいたミッドナイトが、慌てて真さんを支えた。
「本題はここからです。EMP攻撃の直前、友人はこうも言いました。飛行タイプのヴィランが何匹も、あちこちから一斉に飛び立ったと。そして……小さいケータイの画面ですみません、ヒーローの皆さん一人ずつに順番に手渡しで……黒い顔、黒い肌、顔に大きな傷の異様な風体の人間が何百人もライブカメラの映像に映りこんでいるのが、わかりますか?」
私の携帯が、ヒーロー達の間を素早く手渡しされていく。
皆は画面を見ながら、アノニマスの姿の異様さに眉をひそめている。
「父からは捜査情報の漏洩だと怒られそうですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。大阪において私が遭遇したヴィランは、個性『加速』という強力な戦闘力の保持者でした。数多くの警官達が苦労して手錠をかけて拘束したにも関わらず、犯人は自分の身体を爆発させて脱出しました。つまりこの街中にいるヴィラン達は、最低でも爆発する個性を所持している可能性があります」
「つまり、あちこちから一斉に飛び立った飛行タイプのヴィランは、この東京スカイエッグを目指しているということか。何者かによって、意図的に」
ベストジーニストが、格好いいポーズで語る。
「ふむ……この事態は単なる事故や災害ではなく」
「なんらかの悪意による攻撃――」
ギャングオルカとエッジショット。
「おいおいおい、そりゃテロってことかよ!」
デステゴロが、焦って叫ぶ。
「落ち着けデステゴロ。この非常時に、市民に安心を与えるべきヒーローが自らうろたえてどうする」
ベストジーニストが、デステゴロを諫める。
「正直なところ、オノムラ薬品工業まで手が回りません。私達の手は、そこまで長くない。ですがここには、プロヒーローの皆さんがいます。鳴羽田エリアと、この東京スカイエッグをなんとしてでも守り抜かなければなりません」
「総力戦……というわけね」
リューキュウが、真剣な眼差しで見つめてくる。
「ツルむの好きじゃねーんだよなー!」
ミルコが、早く暴れさせろと言わんばかりに伸びをする。
私は苦笑しながら、説明を続けていく。
「皆さんを、大きく四つに分ける必要があると私は考えます。一つ、スカイエッグの五万人を落ち着かせて守るチーム。二つ、外に出て飛行型ヴィランを食い止めるチーム。三つ、地上に降りて鳴羽田中に散らばっている地上型ヴィラン……アノニマスと仮称しますが、このアノニマス達を倒すチーム」
「四つ目は?」
インゲニウムの問いに、私は彼の真剣な瞳を見つめ返す。
「インゲニウムさん。サイドキックのザ・スカイクロウラーをお借りします。私とザ・スカイクロウラーは東京スカイエッグを脱出し、携帯のアンテナが復活する地域まで急ぎ移動します。警察、消防、ヒーローズネットワークの緊急ライン、連絡候補は多々ありますが、なによりも……私の携帯電話には、オールマイトへの連絡先が入っています。もはや四の五の言っている場合ではありません。彼を、ナンバーワンを呼びます!」
「ソラ、YOUのアドバイスは完璧だ。だがそれでは、YOUの安全が……」
キャプテン・ニンジャ・セレブリティが、心配そうに私に声をかけてくれる。
「いいえ、いいえキャプテン。私は信じます、皆を信じます。少なくとも飛行型ヴィランの迎撃に成功すれば、他に手を回すことができます。地上班の応援もできるようになるでしょうし、オノムラ薬品工業の研究棟を確認しに行けるかもしれない。初手のEMP攻撃から、無線機を守ることもできました。――私達には、できることが沢山あります。そして、付け加えるなら」
私は、ヒーロー控え室にいる全員を見渡す。
「ここには沢山のプロヒーローがいます。特にこの状況下では、マンダレイさんとラグドールさん、あとスナイプさんの存在がとても心強い」
「……えっ? 私?」
驚いたマンダレイに、私は微笑む。
「はい、マンダレイさんです。東京スカイエッグの従業員、スタッフ、五万人の市民をテレパスで落ち着かせて下さい」
「……ごっ、ごまんにんにてれぱす!?」
マンダレイが口をパクパクさせていたが、彼女の返事を聞く気はない。
ラグドールが、自分を指さして尋ねてくる。
「あちきは?」
「簡単です。爆弾関係の個性持ちがスカイエッグに近づいてきたらスナイプさんに狙撃指示を出して下さい。飛行型ヴィランを食い止めるチームは、それだけで数と方角がわかって大助かりでしょう」
「なるほど。俺の的確な使い道だ」
スナイプが、心得たとばかりに頷く。
私はすかさず、チーム分けにも踏み込むことにした。
「チーム分けの叩き台を提案します。第一チーム、内部班。マンダレイ、プレゼントマイク、ミッドナイト、ウワバミ、ウォッシュ、マニュアル。マンダレイさんとプレゼントマイクさんは力を合わせて全員を落ち着かせる。ウォッシュさんは子供を落ち着かせる。ミッドナイトさんとウワバミさんは大人達を落ち着かせる。マニュアルさんは水分補給やトイレなど、五万人の水関係を支援してください。真さんと東京スカイエッグのスタッフの皆さんは、内部班の支援を願います。食料はともかく、トイレと水分補給が多数を落ち着かせる鍵になると思います」
「わかったわ、空ちゃん」
「ごまんにんにてれぱす……」
ミッドナイトさんが、頷いた。
マンダレイさんは、まだ呆けている。
「第二チーム、迎撃班。ラグドール、スナイプ、リューキュウ、エッジショット、キャプテン・ニンジャ・セレブリティ、エアジェット、ベストジーニスト。飛行タイプヴィランを全滅できたと判断したら、第三チームの援護に回って下さい。エアジェットさんとベストジーニストさんは協力して第三チームを地上に降ろして下さい。その後は遊撃でいいと思います」
「ドーム上部の小型点検口は手動での解錠が可能です。そこから地上には出られませんが」
東京スカイエッグのスタッフさんが、プロヒーロー達に説明する。
「充分だ。我々の預かった五万の命、いや、鳴羽田も含めて。取りこぼしは許されない」
ベストジーニストが、淡々と答える。
「第三チーム、地上班。インゲニウムとチームIDATEN、ギャングオルカとサイドキック、ミルコ、ピクシーボブ、虎、デステゴロ。広範囲のやりとりになりますが、この無線機なら5km圏内はカバーできるはずです。子機を二つ、真さんとマンダレイさんに渡しておけば、スカイエッグ班との連携もちゃんと取れるはずです」
「心得た。チームIDATEN、
インゲニウムさんが、親指を立てる。
「第四チーム、私とザ・スカイクロウラー。第二チームの援護を受けながら鳴羽田エリアを脱出、オールマイトをはじめ各所に連絡を打診します」
「わかったよ、師匠。絶対『守る』から」
航一さんが、バイザーを降ろした。
これ以上ない真剣な顔だ。
まるで第四期オープニング曲、『ポラリス』の歌詞みたい。
「チーム分けに疑問や訂正案がなければ、動き始めましょう」
私がそう言うと、プロヒーロー達はしばし考え込んだ。
特に穴はないと皆が同意したのか、反論は無かった。
ただ、キャプテン・ニンジャ・セレブリティが質問してきた。
「Heyソラ、ヴィラン達の初手EMPはどうして予想できたんだい?」
キャプテン・ニンジャ・セレブリティが、首を傾げる。
「簡単です。私がヴィランならそうするからです。私がヴィランの指揮官なら、スカイエッグの地上出口は初手の爆破で潰すので、その意味ではまだ手ぬるいですね」
私の答えを聞いた皆が、怯えた目で私を見つめる。
「アノニマスの外見は目立つので、負傷して倒れた市民に見せかけた
「Oh、ソラ。YOUとはいつまでもよき友人でありたい。敵に回したくないネ!」
ドォン!
大きな音と衝撃が、スカイエッグを揺らした。
私は皆に、指示を出す。
「初弾が来ました。今後も続々とやってくるはずです。急ぎましょう!」
「いいだろう、それでは諸君……エンジンを回せ!」
「「「応!」」
インゲニウムの叫びに、プロヒーロー達が気合いを入れた。
真さんも気を取り直したのか、スタッフに指示を出し始めている。
つんつん、と私の肩をつつく指があった。
お茶子ちゃんだ。
「空ちゃん、あたしは?」
「……和歩ちゃんに、『ドンキで買った安物なら、マイクスピーカーは使えると思う』って伝言を」
「OK!」
お茶子ちゃんは、ニヤリと笑って全力で走り出した。
そして二度目の爆発が、更に大きくスカイエッグを揺らす。
「……行こう、師匠!」
バイザーを降ろした航一さんは、凄く格好良かった。
* * *
「フェイズ2。幹線道路を事故で塞ぐ。ただし目的はあくまで外部との交通を制限することであり、目立つ大事故にはしない……」
No.6の指示により、車が破壊されていく。
じわじわと、車道が機能しなくなっていく。
鳴羽田エリアが、陸の孤島と化していった。
「フェイズ3。市内各所でトラブルを起こす。全貌を把握できない不穏な空気を作り出す」
アノニマス達が、街で暴れはじめる。
暴れるといっても、商店街のガラスを割ったり、壁にスプレーで落書きしたり、民家や商店に炭酸ジュースを投げ込んだり、車に大きな傷跡をつけたり、コンビニの食品を無銭飲食したり、停まっているバイクや自転車を倒していったり。
No.6曰く、ホラー映画の序盤みたいな『つかみどころのないイヤ~な感じ』。
情報を得られず身動きも取れず、さらに漠然とした不安に煽られ続ければ、人々は疑心暗鬼に駆られて適切な集団行動が取れなくなる。社会集団は心理的な分断によって機能を失う。
だがこのフェイズ3は、塚内空に言わせれば『砂金よりも貴重な時間を与えてくれる間抜けな行動』でもあった。
* * *
警察組にとって、幸運な事が2点あった。
塚内警部や
イレイザーヘッドと
「被害報告!」
「死者はいません、重軽傷者多数!」
塚内警部の叫びに、
痩せて別人となったファットガム
「なんやっちゅーねん、証拠隠滅にしたって無茶苦茶しよる!」
「あたた……ギャグもイケてる美少女捜査官の顔が台無しやがな……」
瓦礫を押し上げるように、カニ子が姿を現す。
しかしファットガムは、眉をひそめる。
「盛りすぎや。捜査官しか合っとらんやないけ」
「美少女も
「ジブンのボケ分かりにくいねん」
「ボケちゃうわ!」
大阪遠征組が漫才をしていると、大声で割り込む少女の声。
「ごめんなの、通して! 通してなの!」
「あれは……喫茶店の店員か」
煤だらけとなったイレイザーヘッドが、煤を払いながら立ち上がる。
瓦礫の山をかき分けるように、ラブラバが塚内警部達に近づいていく。
「どうしました? ここは危険ですし不法侵入にあたります、どうか離れて……」
塚内警部がラブラバを遠ざけようとするが、ラブラバは叫ぶ。
「何百人もの
ラブラバの叫びに、警察チームは全員ケータイを確認した。
周囲の景色から停電はわかっているが、ケータイがただの文鎮と化している。
「通信機器の故障……ではないな。EMP攻撃による、鳴羽田地区全域の通信及び送電機能のシャットダウン? どうにかして本庁と連絡を……いや、まずは現状の確認――」
塚内警部が周辺を見渡した、まさにその時だった。
暗闇の中、遠くにうっすら見える高き塔スカイエッグ。
そのスカイエッグが、二連の爆発と共にその瞬間だけくっきりと姿を現した。
「……スカイエッグが!」
ラブラバの悲鳴。
「スカイエッグには、
イレイザーヘッドの顔が、怒りに染まる。
「塚内さん、行きましょう。動かせる車はありますか?」
「空、真……」
塚内警部は歯ぎしりしながら、無事そうなパトカーへ向かって走り始めた。
* * *
「――エビバリ LISTEN TO ME! 先ほどから続いてるこのSHITな揺れと停電は、EARTHQUAKE! 地震によるものとの情報が入ってるぜ! 安全が確認されるまでしばらくそのままでSTAY ON PLEEEEASE!」
《……きこえますか……聞こえますか、スカイエッグの……みなさん……プロヒーローの、マンダレイです…… 今……あなたの……心に……直接…… 呼びかけています。落ち着いてスタッフの指示に従って……ください》
第一チーム。
プレゼントマイクが地震のせいにして説明している。
マンダレイは、片方の鼻から鼻血を垂らしつつも五万人へのテレパスを成功させていた。
ミッドナイト、ウワバミ、ウォッシュが両手にニンジャ・ライトを持って巡回しているので、暗闇の中でも客は安心している。
マイクスピーカーを手にしたポップ☆ステップが、飛び跳ねながら案内をしていた。
「お手洗いに行きたくなったり、気分が悪くなったお客さんはいますかー? お声がけしていただければ、スタッフが対応しまーす!」
時折、爆発音がして建物が揺れる。
地震が嘘であったとしても構わない。
目の前のヒーロー達が全力で頑張っているから、協力しよう。
そんな空気が、東京スカイエッグを包んでいた。
* * *
一方、第二チームは大忙しだった。
「あそこ!」
「任せろ!」
ラグドールがレーダーとなり、スナイプが居場所を知らせる。
そこをリューキュウ、エッジショット、キャプテン・ニンジャ・セレブリティが撃破していく。
「ドラグーンパニッシュ!」
「穿孔螺旋貫手!」
「キャプテン・ニンジャ・セレブリティ、推参! イヤーッ!」
しかし、地上500メートルというのは正直長い。
第三チームを地上に降ろし終えたエアジェットとベストジーニストが合流しても、取りこぼしが発生する。
新たな自爆特攻が、東京スカイエッグを揺らしていく。
「くそっ、抜けられた! 数が多い!」
スナイプが舌打ちをする。
そんな遙か上空の光景を、無言で見上げている男がいた。
銀髪碧眼の髭紳士、ジェントル・クリミナルだ。
ヒーロー仮免許。
これがあると、緊急時にプロヒーローと同等の権利を行使できるようになる。
だからジェントルは、上空の光景を助けるべく、駆けつけることができる。
だが自分の個性『
しかも今は、星空が頼りの暗闇という状況。
こういった混戦では、プロヒーロー達の足を引っ張ってしまう恐れがある。
当初の話に聞いていた、一方向から飛来してするヴィランを相手にするのならまだ良かった。
こうも多方向から来られては、どうにもやりにくい。
ジェントルは、真剣にトラウマと戦っていた。
* * *
第三チームは、塚内空が敵ではなかったことに心の底から感謝していた。
アノニマス・オペレーションフェイズ4、市民に見せかけた
塚内空が言ったように、負傷して倒れた市民に偽装されていたら被害は甚大だっただろう。
だが幸いにも、アノニマス達はうわごとのように「ヒーローノヒトデスカァ」と片言で繰り返すだけだったので、判別は容易であった。
アノニマスだとわかれば、その場で撃破すればいい。
爆発の被害こそあれ、少なくとも爆破場所を誘導できる。
救助すべき市民の中に紛れ込んだ生きた
結果としてそれは、塚内警部達が乗るパトカーとの合流時間を早めることになった。
* * *
第四チーム。
ザ・スカイクロウラーの背に座った塚内空は、必死に彼にしがみついていた。
本編の最終戦闘付近、背中にイヤホンジャックを乗せたツクヨミは『あと出来ればあまりアレだ! お尻を動かさないでドギマギする!』という台詞を吐いた。
あれと同様のことが、ザ・スカイクロウラーこと灰廻航一に発生していた。
生々しい話になるが、女性の陰部の体温は体の深部体温に近い。
通常は37℃前後で、脇の下で測る体温よりも少し高めとなる。
つまり、女性が男性の背中に座った場合。
お尻の感触だけでなく、体温の高さも感じてしまうのだ。
正常な男性であるからこそ、相手が女性なのだと余計に強く意識してしまう。
ゆえに、灰廻航一は仏像のような表情になっていた。
『心を乱さず待てば、嵐はいつか過ぎ去る』という、父の教え。
かんじーざいぼーさつ、ぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじー。
しょうけんごーうん、かいくう。どいっさいくやく。
しゃーりーしー。しきふーいーくー。くーふーいーしき。
しきそくぜーくう。くうそくぜーしき。じゅーそうぎょうしき、やくぶーにょーぜー。
夜空を高速で移動中に、塚内空は必死に周囲を睥睨していた。
皮肉な話だが、
明かりが消えた
脳裏に地図を描き、現在位置のマーカーを配置する。
電話をかけるなら、少しでも近い方がいい。
だとするなら、マイトタワーがある港区六本木は……南の方角。
北極星は単独だと少し暗い二等星なので、見つけるための目印として北斗七星やカシオペア座が使われる。三月末の夜だと、北斗七星は北東の空高くに昇っているはず。
ひしゃくの水を汲む部分の、先端2つの星を5倍伸ばした先。
……あった、北極星!
「航一さん、あっちです、あっちの方角!」
「しゃりし」
塚内空は、必死に指先を伸ばす。
「北極星に背を向けて進んでください!」
「ぜしょほうくうそう」
ザ・スカイクロウラーの飛行速度が早いので、返事が良く聞こえない。
だが航一が頷いているので、多分OKの返事だったのだと塚内空は理解した。
北極星を背負い、暗闇に沈んだコンクリートジャングルを凄まじい速度で駆け抜けていく。
この時、
塚内空が胸を押さえて、苦しそうにしていたことに。
* * *
北極星に背を向けたから、私はヒーローになれない。
あれっ?
どうして、私はヒーローになれないの?
なんだろう。
なんだろう、この、胸を貫く苦しみは。
そもそも、私は何故、
痛い。痛い。苦しい。
胸が。痛い。
* * *
それを因子だと認識できない程に小さく、機能していない何か。
何らかの原因によって形にならなかった、因子のようなゴミ。
形成時の
豊富な栄養を与えられた