塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.26 「最善の結果」

 

【デウス・エクス・マキナ】《deus ex machina》

 

 古代ギリシア演劇の演出技法“機械仕掛けの神”。

 転じて、物語上の強引な解決、ご都合主義。

 

 

 * * *

 

 

「……出てきた」

 

 No.6は、事件に対応するヒーロー達の動きをじっと観察していた。

 与えられた全ての手駒を犠牲にしてでも、確かめたいものがあった。

 

 文明の灯火が消えたコンクリートジャングルの中を、素早く飛行していくザ・スカイクロウラー。その背に、見慣れぬ少女が乗っているのが見える。

 

 強化した己の目には、その顔がはっきりと見える。

 

 背面の吸排気筒によって呼吸を効率化。

 単眼を増設し、視覚情報を強化。

 再構築した全身の骨格と筋肉によって高圧大気の奔流に耐え、長い尾は推進用のひれと重心制御用の(ウェイト)を兼ねる。

 ここまでしてようやく、加速状態への常駐が可能となった。

 獲物の認識外の時間と空間から迫る、完全優位の捕食者になれる。

 

 

 AFOは、任務に失敗した自分を優しく(いたわ)り、さらなる強化を施してくれた。

 

 任務失敗の原因として、AFO自身の分析まで教えてくれた。

 サー・ナイトアイが持つ個性『予知』や、ラグドールの個性『サーチ』。

 それらの完全上位互換たる、未来予知じみた個性を持つ相手がヒーローの協力者にいる。

 

 恐らくその個性の持ち主こそが、一切姿を見せずにNo.6を追い詰めた黒幕だろう、と。

 No.6が敬愛してやまないオクロックすら、その黒幕の手足となっている確率が高い。

 

 蜂須賀九印をはじめ、超大型(ヴィラン)もディクテイターも蝙蝠男も、あっという間に処理された。

 そして、大阪における致命的なまでの大失敗。

 何もかも先読みできるような者でないと、不可能なことを実行してくる奴が確実に相手にいる。

 

 そしてそれは、警察でもヒーローでもない外部協力者。

 そこまではつきとめた。

 

 アノニマス・オペレーションフェイズ5。

 警察でもヒーローでもない、もちろんオクロックでもない、第三の協力者の炙り出し。

 

 アノニマス・オペレーションフェイズ6。

 全戦力の投入によるプロヒーロー及び市民達の大量虐殺すらも囮とした、黒幕の殺害!

 

 脳が熱い。

 この熱は、怒りだ。

 あいつへの――意味不明な言葉を誰にもバレないようにぶつけてきた女声、その持ち主への!

 

 No.6は体内に隠し持った実銃(ライフル)の部品、銃身(バレル)弾丸(バレット)を取り出した。

 それらを利用する形に身体を再構築、全身の関節を固め姿勢を固定する。

 

 己自身を狙撃銃と化す『No.6 SNIPER(スナイパー) STYLE(スタイル)』。

 

 その上で、奴らの意識を逸らす大きなことを実行する。

 

 東京スカイエッグを襲っている、または襲いながらも返り討ちに遭った爆弾敵(ボマー)

 そいつらの肉体を無制限に増殖させ、再生する。

 後は簡単、スカイエッグに再度飛び込ませ、連鎖爆発させることでスカイエッグをへし折る。

 

 崩壊するスカイエッグ、その運命は誰にも覆せない。

 目の前を通り抜けていくヒーローと、その背に乗る女が一瞬でも意識を逸らせばそれでいい。

 全ての殺意を一発の弾丸に籠め、散々邪魔をしてきたやつを仕留めてみせる。

 

 

 ただ、これはNo.6がAFOの信頼を失っているからこそ出来る行為でもあった。

 

 本当にそんな先読み的個性を持つ者が相手にいるのならば、No.6を捨て駒に正体を判明させればいい。

 正体が判明した後からゆっくり追い詰めて、AFO自身がその個性を奪取すればいい。

 そうすれば、役立たずだったNo.6は多少は綺麗な光を放ってくれる。

 つまり、AFOはNo.6が任務を失敗するであろうという一点において、全幅の信頼を寄せていた。

 

 そうとも知らず、No.6はスカイエッグ爆破指令を爆弾敵(ボマー)達に出した。

 そして月夜の中、この場を飛び去ろうとする二人を撃ち落とすべく、狙いを定めた。

 

 

 * * *

 

 

 凄まじい爆音と共に、スカイエッグを支えるタワー部分がへし折れるのが見えた。

 全速力のパトカーでスカイエッグに向かっていた警察一行だったが、その光景に絶句する。

 

「スカイエッグが!」

「……崩壊するで!」

 

 パトカーの車内で、それを見ていたイレイザーヘッドとファットガムが叫んだ。

 外部に連絡を取ろうにも、携帯が文鎮と化しているので何もできない。

 なお運転は塚内警部、助手席にイレイザーヘッド、後部座席にファットガムとカニ子、そしてラブラバの順だ。

 

「そ……(そら)! ……(まこと)!」

 

 塚内警部の叫びが、(むな)しく響く。

 

「まだよ……まだなのよ……」

 

 ラブラバが、文鎮ではないケータイを懐から取り出した。

 問答無用で、パトカーの窓を開ける。

 崩落をはじめたスカイエッグにケータイのカメラを向け、彼女は叫んだ。

 

「愛してるわ、ジェントルッ!」 

 

 

 * * *

 

 

 目の前でスカイエッグのタワーがへし折れ、今まさに五万人の命が失われようとしている。

 そんな遙か上空の光景を、無言で見上げている男。

 銀髪碧眼の髭紳士、ジェントル・クリミナルは自分の身体の異変に気づいた。

 

「きゃあッ!?」

「きゃあああ!」

「うおっ!」

「た……たすけてぇ!」

 

 それは500m先、閉鎖空間であるスカイエッグの中にいるはずの者達の悲鳴。

 真の叫びであり、和歩の叫びであり、第一チームの混乱であり、市民達の絶叫であった。

 地上に居るジェントルには絶対に聞こえるはずのない、届くはずのない絶望。

 

 ラブラバの個性『愛』。

 愛を囁くことで、最も愛する者一人だけを短時間強化できる。

 愛が深まれば深まる程与えるパワーも強くなり、その力は何十倍にも跳ね上がる。

 

 助けを求める人々の声が、超強化された聴覚を通して聞こえてくる。

 

 この時、ジェントル・クリミナルはヴィジランテ時間軸のため28歳。

 本編で21歳のラブラバは17歳ということになる。

 

 だが、ラブラバの誕生日は、2/14。

 つまりラブラバはもう18歳となり、結婚可能年齢となっていた。

 

 ジェントルがその気になれば、ラブラバは結婚話を受けるだろう。

 だがジェントルは、まだその領域に踏み込めずにいた。

 

 世に絶望し、悪事で教科書に載ろうとしたこともあった。

 だが、そんな自分を頼って単身訪ねてきてくれた女性、相場(あいば)愛美(まなみ)

 彼女は真っ直ぐにジェントルと向き合い、支え続けてくれていた。

 

 貧しく哀れに老いていくだけだったはずの人生に、彩りが添えられた。

 

 そしてもう一人。

 自分を正しい方向に導いてくれている塚内空は、あのスカイエッグの中にいるはず。

 

 誰も自分を見ていない。

 ラブラバのカメラもない。

 

 違う、そうではない。

 何のために、自分は今、こうしてここに立っている?

 念願の仮免に合格し、涙が止まらなかったのは再生数のため?

 

 否!

 断じて否!

 

「そう! 私はジェントル! ジェントル・クリミナル!」

 

 私はただ、誰かの笑顔のために。

 

「私が! 世界を変えてやる!」

 

 相場(あいば)愛美(まなみ)にはじめて出会った時から、純粋に伝わってくる好意。

 いや、年単位の時を刻んだそれは、もはや好意ではない。

 向けられた愛情を、愛情として素直に受け止めることも、また愛。

 

 愛を愛として受け入れることが、愛を一層強くする。

 

 ジェントルが、軽く飛び跳ねて空気に乗った。

 その全身は、凄まじい光量のピンク色のオーラに包まれている。

 

 次の瞬間。

 ピンク色の一筋の光が、昇竜となって真っ暗な鳴羽田の街を照らした。

 

「ジェントリー・スーパー・ラヴァーッ!」

 

 弾性(エラスティシティ)を伴った幾重もの空気の層とピンク色の光が、スカイエッグを包んだ。

 仮免ヒーローが、たった一人で落下するスカイエッグを支えている。

 

「誰かは知らぬが……任せたぞ、ヒーロー!」

 

 エッジショットは、増える爆弾敵(ボマー)の数を減らしながら叫んだ。

 

 

 * * *

 

 

 崩壊するスカイエッグの音と光景に、ターゲットが思わず振り向いている。

 

 ……今だ。

 お前を、破壊する!

 

 No.6の大きな単眼が、ザ・スカイクロウラーの背に乗っている少女を見つめた。

 遠ざかりながらも振り向いているその顔を、一撃でぶち抜く。

 仮に無関係の人間だったとしても、次はザ・スカイクロウラーを撃てばいい!

 

 No.6が勝利を確信した瞬間、強烈な衝撃がNo.6の後頭部を襲った。

 想定外の威力に、思わずNo.6が倒れ伏す。

 

「な……ッ」

 

 ナックルダスター(メリケンサック)付きの的確な打撃が、容赦なくNo.6を殴りつけていく。

 

「『意識の死角を突く超音速の狙撃。この攻撃を防げるものはいない』」

 

 殴る。殴る。殴る。

 

「そう思ったか? 勝利を確信したか?」

 

 殴る。殴る。殴る。

 ナックルダスター(メリケンサック)が、血で染まっていく。

 

生憎(あいにく)だったな……俺がいる(I AM HERE)

 

 顔の上半分をマスクで覆ったコート姿。

 巨躯の男、ナックルダスターがその手を休めてニヤリと笑う。

 

「お前、俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」

 

 No.6の顔が、化け物のような単眼から普通の人間の顔に戻った。

 

「お、俺は――」

「よし、硬化を解いたな」

 

 何かを言いかけたNo.6の顔面を、ナックルダスターは殴りつけた。

 殴る。殴る。殴る。

 

「おっと、話の途中ですまん。よければ話を聞いてやる」

 

 挑発するように、ナックルダスターはその手を止める。

 No.6は、慌てて早口で叫んだ。

 

「俺はあんたに成りたいんだ、オクロック! あんたのことはなんでも知ってるし、『加速』の個性だって――」

「憧れる相手を間違えたな」

 

 殴る。殴る。殴る。

 さらに殴る。

 

「オクロックを真似たがるような奴が本当にオクロックの個性を手に入れたなら――それは最悪の(ヴィラン)でしかない。社会の害悪として取り除く」

「……そっスか、(ヴィラン)認定ね」

 

 No.6は、爆弾敵(ボマー)の細胞を腕に集め、爆弾に変えた。

 

 その瞬間、No.6から離れたナックルダスターがどこかから銃を取りだした。

 レミントンM870ショートバレル・ピストルグリップ。

 ポンプアクション式ショットガンの銃口を、ためらいなくNo.6に向ける。

 

 ショットガンの弾には、種類が色々ある。

 ナックルダスターは、面制圧を重視した鹿弾(バックショット)を選択していた。

 

00(ダブルオー)Buck(バック)だ、味わいな」

 

 BLAM!

 ジャカッ

 BLAM!

 ジャカッ

 BLAM!

 ジャカッ

 

 轟音と共に9粒の鉛玉が扇状に広がり、No.6の回避ルートごと塗り潰す。

 それが、三回繰り返された。

 鉛玉は空間ごと食い破るように、一切の容赦なくNo.6の片腕と横腹と片脚を削り取った。

 

「ハハハ……! あんたやっぱり最高ッスよ! 最高にクール!」

 

 身体のあちこちを削り取られ、血塗れとなったNo.6が叫ぶ。

 No.6は個性『加速』で強引に脱出し、バックジャンプでビルの屋上から飛び降りた。

 

「有象無象のプロよりも! No.1ヒーロー・オールマイトよりも! 断ッ然イケてる!」

 

 落下途中のNo.6の身体が爆発し、その衝撃でビルが半壊した。

 ナックルダスターは舌打ちしながら、ビルからの脱出を試みた。

 

 

 * * *

 

 

 港区六本木、マイトタワー。

 寝間着姿のオールマイトが、目の下に隈を作って眠そうにしている。

 

「それじゃ私休ませてもらうけど、急ぎの仕事はないよね」

「あったとしても私が断る」

 

 サー・ナイトアイが、一言で斬って捨てる。

 

「連続72時間の超・超過勤務……現在は休息こそがあなたの急務だ」

 

 物凄い勢いで事務処理をしているサー・ナイトアイに、オールマイトは苦笑する。

 

「はは……確かに。君も無理しないようにね」

 

 オールマイトは、寂しそうに笑う。

 

「……せめて今から半日くらいだけでも、世の中が平和だといいね。あっ、今のは別に私の安眠のためとかじゃなくて、一般論としてね?」

「さっさと休んでくれオールマイト、言い訳とかいいから」

 

 眼鏡をクイッとしながら、サー・ナイトアイはオールマイトに告げる。

 まさにその時、オールマイトの携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 

 * * *

 

 

 胸を貫く苦しみに耐えながら、塚内空はケータイを取り出した。

 暗い鳴羽田エリアを抜けた瞬間に、アンテナは圏外から三本に復活した。

 空を飛ぶザ・スカイクロウラーの背中から落ちないようにしがみつきつつ、震える指先で電話をかける。

 

 幸い、相手はすぐに電話に出てくれた。

 

「どうかしたのかい、塚内少女。いつもはテキストなのに――」

「……緊急事態です。鳴羽田と東京スカイエッグが、大量の(ヴィラン)に襲われています」

「えっ、スカイエッグ? 大量の(ヴィラン)!?」

 

 慌てたせいで八木モードになったのか、オールマイトが困惑している。

 

「オールマイトさん一人に寄りかかって何も不思議に思わないこの世界がおかしい、そんな事を言った私が言うべき台詞ではないかもしれません、でも……でも、お願いします!」

 

 塚内空は、必死に乞い願った。

 

「お父さんを、叔母さんを、みんなを! 助けて下さい、オールマイト!」

 

 オールマイトの返事には、ほんの少しだけ時間を要した。

 

「……そうか。しかし……『わかったすぐ行く』とは言えないね」

 

 

 * * *

 

 

「何故なら……こんな時に私が言うべき言葉は、ひとつしかないからだ」

 

 サー・ナイトアイがパソコンを操作しながら、慌ててオールマイトに声をかける。

 

「待てオールマイト! いま、状況を把握して――」

「その言葉とは、すなわち――」

 

 ドンッ!

 

 目にも止まらぬ勢いで、オールマイトがマイトタワーから飛び出していった。

 

「……」

 

 サー・ナイトアイは、無言で警察、消防、ヒーローズネットワークに緊急連絡の打診を入れ、それから塚内空のLINEメッセージにその旨を送った。

 塚内空の『ありがとう』の返事が、サー・ナイトアイの心を癒やしてくれた。

 

 

 * * *

 

 

「わーたーしーがーーーーー」

 

 東京スカイエッグが着地できるスペースを鳴羽田に作り上げた。

 避難民と、犬猫鳥達を避難させた。

 通りすがりのファンにサインをしてあげた。

 飛んでいる爆弾敵(ボマー)達を一瞬で叩き伏せた。

 鳴羽田中のアノニマスを空中へ弾き飛ばした。

 ジェントルの代わりにスカイエッグを受け取り、地面に着地させた。

 

「来たっ!」

「ちッ、小癪な真似を……礼は言わんぞ!」

 

 緊急連絡を受けて駆けつけたエンデヴァーが、真っ暗闇の鳴羽田の夜空で赤い炎を解き放った。

 

赫灼(かくしゃく)熱拳(ねっけん)……プロミネンスバーン!」

 

 エンデヴァーの一撃で、空中に飛ばされたアノニマス達が爆発していく。

 

「オールマイトだっ!」

「エンデヴァーもいるぞ!」

「壊れたタワーを一瞬で分解して、ドーム部分を降ろしたんだ!」

「信じらんねえ!」

 

 見ていた人々が、次々に声をあげる。

 

「助かった……のか?」

 

 インゲニウムが、鳴羽田の夜空を見上げる。

 

「よ……良かった」

 

 スカイエッグ内の塚内真が、脱力して崩れ落ちる。

 

「相変わらず無茶をしてくれるな、No.1ヒーロー」

 

 ベストジーニストが、華麗に着地する。

 

「あれがオールマイト、日本の……No.1ヒーロー」

 

 キャプテン・ニンジャ・セレブリティが、感嘆する。

 

「こんなに素敵なジェントルを誰も知らないままなんて、彼がよくても私が許さないんだから!」

 

 ラブラバはYoutube用の動画編集を、ケータイからの操作で行っていた。

 

「……うまくいったみたいだよ、師匠」

 

 ザ・スカイクロウラーが、空を飛びながら笑った。

 

「うん……良かった……」

 

 塚内空は、胸の痛みが航一に伝わらないよう、ギリギリの微笑を浮かべた。

 

 

 * * *

 

 

「YOYOYO――What's Up NARUHATA!」

 

 飛行ドローンに乗ったプレゼントマイクが、夜の鳴羽田で叫んでいる。

 

「鳴羽田市街をブッ壊した(ヴィラン)軍団は、ヒーロー達が即・鎮・圧! 電力・通信も今夜中に復旧予定! 鳴羽田のリスナー諸君には自宅での待機(チルアウト)をお願いするぜ。歩ける奴は歩いて帰れ! 怪我人・病人はヒーローを呼びな! なお現地の対策本部の窓口は、ご存じチームIDATENだ!」

 

 イレイザーヘッドは、爆破に巻き込まれた市民達を救っていた。

 

「他に取り残された者は!?」

「うちの家族で最後です、ありがとうございます!」

「礼はいい、早く安全な場所へ!」

 

 そこへ、飛行ドローンに乗ったままのプレゼントマイクが通りすがる。

 

「よッ、おつかれ。レスキューは専門外だろ、早く恋人の所に行った方がいいんじゃねーの?」

「緊急事態につき市民の安全を最優先、そういう合理的判断だ」

「意地張る余裕があるならけっこうだ、じゃあまた後でな!」

 

 塚内真は、イレイザーヘッドの無事を知ったので、安心して避難民にキャプテン・ニンジャ・セレブリティ印のジュースやおまんじゅうを無料配布する仕事をしていた。

 

「困ってる人を助けるのが今日の仕事よ、みんなでがんばりましょう!」

 

 ポップ☆ステップを含めた『FeatherHATS(フェザーハッツ)』の面々も、色々手伝っている。

 

「お怪我をされた方、お疲れの方の避難所はこちらでーす」

「復旧支援に来られた方の受付はあちらになりまーす」

 

 塚内警部は、何発か銃声がしたという市民の通報を受け、休まず捜査に出向いていた。

 妹と娘の無事を確認できたので、彼はこの上なく張り切っていた。

 

 

 * * *

 

 

「塚内少女、少しいいかい?」

「オールマイトさん」

 

 喧噪から離れ、瓦礫に座って休んでいた塚内空にオールマイトが近づいてきた。

 なおザ・スカイクロウラーは、チームIDATENの一員として現地の対策本部を手伝っている。

 

「そう時間はとらせない。……人の目を避けたい。そこの路地裏まで、来て貰えるかい?」

「はい」

 

 同じ路地裏への案内でも、不良とオールマイトでは段違いだ。

 塚内空は、安心してオールマイトの後をついていく。

 

 電力が復旧していない鳴羽田だが、月明かりと星空が綺麗で、視界はそこまで悪くない。

 路地裏で二人きりになると、オールマイトは塚内空と向かい合った。

 

 身長220cm、274kgの巨体。

 不動のナンバーワン、伝説的ヒーロー。

 

 片や身長160cm、もうすぐ中学一年生。

 司法試験合格の史上最年少記録を塗り替えた天才、武術の鍛錬もしている少女。

 

「聞いたよ。(ヴィラン)達のEMP攻撃を読み、通信機器を守った。的確に事態を分析し、プロヒーロー達全員が納得する作戦を立案した。自らも危険を承知で、命を賭けて街を脱出し、私に連絡をとった。素晴らしい。(きみ)は誇っていい」

「……あっ、改めてそう言われると、照れますね……」

 

 偉大なる男に真正面から褒められて、塚内空は恥ずかしくなった。

 

「皆も褒め称えていたよ。数百人単位の大規模な(ヴィラン)達の攻勢に対し、最小限とも言える被害で済んだのは、塚内少女のおかげだとね」

 

 オールマイトは、ニカリと笑う。

 

「トップヒーローは学生時から逸話を残している……彼らの多くが話をこう結ぶ。『考えるより先に、体が動いていた』と。君もそうだったんだろう?」

「出来る事を、全部やらなければ駄目だと思って……全部やりました」

 

 満面の笑みで、オールマイトは頷く。

 

(きみ)なら、私の“力”を……受け継ぐに値する!」

 

 オールマイトのその言葉に、塚内空は驚愕した。

 それは約三年後、違う誰かにかけられるべき言葉だと知っていたから。

 

「提案だよ。本番はここからさ、いいかい少女……」

 

 オールマイトが、塚内空に握手の形で手を伸ばした。

 

(きみ)は、ヒーローになれ――」

 

 

 まさに、その瞬間だった。

 オールマイトどころか、原作知識のある塚内空ですら知らない出来事が起きた。

 

 塚内空と握手をしようと、右手を伸ばしたオールマイト。

 

 その右手から幾本もの黒い稲光状の糸が一瞬で展開され、路地裏の周囲のビルに貼り付いた。

 動揺したオールマイトの顔がわかるレベルで、彼の身体が数cm浮いた。

 そして、塚内空にオールマイトの手を近づけさせない意思を感じさせるがごとく、幾本もの黒い鞭のような何かがオールマイトの身体を数メートルほど、後方に引き剥がした。

 

「「……は?」」

 

 オールマイトと塚内空の困惑の声が、静かな路地裏に重なって響いた。

 ()()()()()()が一度に起き過ぎて、二人は思わず硬直してしまった。

 

 オールマイトが強制的に塚内空から引き剥がされたその時。

 七人の幻影が重なって見えたことが、最大の混乱の原因だった。

 

 

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