【ディセント】《descent》
下降、下り坂、転落。襲撃、侵入。
家系、血統。世代を超えて受け継がれるもの。
* * *
オールマイトが、塚内空に握手の形で手を伸ばした。
「
真っ先に、虚弱で小柄、白髪碧眼の簡素なワンピース姿の女性が塚内空を抱きしめようと飛び出した。
その顔は涙に溢れており、泣き叫びながら塚内空に向かって手を伸ばしている。
オレンジレッドの髪に、顔に斜め傷のある青年と。
バンダナを額に装着し、水色の髪を後ろに束ねた青年。
彼らは二人がかりで、走り出す白髪碧眼の女性を制止した。
白い胴着に緑色のパーカー、顔にヒビの入った男が冷や汗を垂らしながら、彼らの前に出る。
そして塚内空から女性を守るように、あるいは女性を塚内空の元へ行かせないようにその両手を広げた。
スキンヘッドにゴーグル、鋲が打ち込まれた黒い革ジャン姿の男が、両手を広げた男の隣りに立った。スキンヘッドの男はしゃがみこみ、右手から黒い稲光状の糸を何本も出し、周囲のビルに固定した。
顔にヒビの入った男の隣り、スキンヘッドの男の反対側に、赤い服の男が真剣な眼差しで立っている。
二人の男が制止し、三人の男がその前に立ちはだかっている。
白髪碧眼の女性はそれでも抗い、塚内空に手を伸ばし続け、制止を振り切って前に進もうとしている。
黒髪に黒いスーツ、白いマントを羽織った女性が、複雑かつ真剣な表情で彼女の肩に手を置いた。その瞬間に、オールマイトの身体が数センチ浮いた。
口元を赤い服装で覆った黒髪の青年は、慎重に下がれというジェスチャーを指先でとった。
スキンヘッドの男が頷くと、黒い鞭のような光が浮いたオールマイトを数メートル強引に後退させた。
オレンジレッドの髪、顔に斜め傷のある青年が、忌々しそうな目で塚内空を睨んでいる。
バンダナを額に装着し、水色の髪を後ろに束ねた青年が何事かを白髪碧眼の女性に告げている。
白髪碧眼の女性はようやく動きを止めたが、それでも隙さえあれば飛び出そうとしている。
黒髪に黒いスーツ、白いマントを羽織った女性が、彼女の肩に手を置いたまま首を左右に振った。自分だってこんなことはしたくないが、本当に仕方なく、といった表情だ。
黒スーツで白マントの女性が口を開くと、白髪碧眼の女性は崩れ落ち、
「「……は?」」
オールマイトと塚内空の困惑の声が、静かな路地裏に重なって響いた。
* * *
鳴羽田事変。
腸を撒き散らしながらも戦い、かろうじてオール・フォー・ワンを制したあの戦い。
勝利は得たが、『呼吸器官半壊、胃袋全摘』『活動限界時間の大幅低下』という多大なる犠牲を強いられた。
あの時の、空中戦。
塚内親子の方に手を伸ばし、オール・フォー・ワンが個性『鋲突』を行使した際。
「おまえは避けられるだろう、オールマイト。だが彼女はどうかな?」
「貴様はそうやって人を弄ぶッ!」
「ヒーローは多いよなあ、守るものが」
凄まじい速度のドリル棘に対して、オールマイトは殴ってへし折って止めるつもりだった。
だが身のうちから溢れ出た、強烈な『身を挺してでも守る』という意思がその行動を変えさせた。殴るのではなく、盾となって少女を守る。
結果としてオール・フォー・ワンの『鋲突』はオールマイトの左胸を貫き、彼に致命傷を負わせた。少女の母は死んだが、少女の命だけは助かった。
オールマイトは、自分が何故そんな行動をとったのかわからなかった。
母性本能と呼ばれる自己犠牲の精神は、男性たるオールマイトには理解しがたいものだった。
* * *
塚内空は、一瞬だが自分が見た光景に対して驚愕する。
だが、あの。
虚弱で小柄、白髪碧眼、簡素なワンピース姿の
違う、あの全力の感情表現は、生まれた時から女性でなければ持ち得ない!
ならば、兄の死柄木全と、弟の死柄木与一ではない。
……兄と、妹?
コレは、私の知っている『僕のヒーローアカデミア』では、ない!?
* * *
オールマイトは、
塚内空の見舞いに行った、あの時だ。
近づくのは良いが、触れると抱きしめてしまいそうになってしまった。
確かに自分は童貞ではあるが、別に少女趣味ではない。
まして、入院中の少女に襲いかかるような変態であるつもりもない。
これでも立派なアラウンド還暦、四捨五入60歳である。
だが、塚内少女に対してはなんでもしてあげたいという感情が湧きあがる。
アメリカ時代の所持品は、既に自分が着用していた白青スタジャン一着しか無かった。
思い出深い品だったが、震える少女を温めてあげたいと思い、羽織らせた。
サインもしたし、連絡先の交換も快く引き受けた。
ついうっかり手が滑って、九桁の見舞金も送金してしまった。
オールマイトはその行為に満足したが、それは母としての無償の愛に等しいことは自覚できなかった。
* * *
オールマイトは改めて塚内空への接近を試みたが、突然の煙幕に邪魔された。
黒い稲光状の糸はビルに張り付いたままオールマイトを固定し、微動だにしない。
困惑顔のオールマイトは、身動きが取れないまま、全力で謝罪した。
「塚内少女、すまない。この話は、一度無かったことに……」
「はい、オールマイトさん。どうか、気になさらないでください」
塚内空は苦笑して、何事もなかったかのように振り向いた。
そしてオールマイトに自分の表情を見せないように、路地裏から立ち去った。
* * *
今の塚内空は、もう過去の塚内空ではない。
個性『危機感知』は、悪意のない攻撃には反応できない。
つまり、挨拶は回避できない。
ゆえに、ギリギリの、直前まで気づけなかった。
ワン・フォー・オールという、この世界における希望の力。
その力を、根源から抹消されていたかもしれなかった恐怖に。
白髪碧眼の女性は崩れ落ち、項垂れ、両手で顔を覆って泣き続けたままだ。
「譲渡は、できない。私達が消えてしまう」
「あの子の個性が目覚めつつある以上、これ以上は無理さぁ」
「……以前の推測通りでしたね。最悪の場合、殺してでも止める覚悟が必要になる」
「赦すことも、わかりあう事も叶わない。救いようのない人間ではなく、救いようのない個性」
「
白髪碧眼の女性は、泣きながら駆藤を見つめた。
実兄である
実兄の特徴である、薄膜が張ったように艶がない眼球を強く受け継いだ少女の出現。
……それはきっと、偶然ではない。
* * *
「夜も遅いし、送っていくよ師匠!」
ザ・スカイクロウラーが笑顔でそう言った時、偶然そばに居た
電力と通信が回復しつつあったので、塚内警部は上層部への報告に忙しい。
つまり近辺に、塚内警部はいない。
「ありがとう、ザ・スカイクロウラー……いえ、航一さん」
サイドキックとはいえ、ヒーローならSIG P230JP セミオートの乱射にも耐えてくれるはず。
無責任な想像で、
塚内空は、快く承諾した。
中途半端に街の灯りが回復していく中、塚内空を抱えた航一が浮き上がる。
「なんか色々機械が壊れちゃったみたいだけど、オールマイトヘッドフォンが無事だといいね!」
塚内空を背に空を飛びながら、航一が笑う。
「うーん、ノイズキャンセリング機能が生きてれば多分?」
航一の笑顔に、塚内空は微笑で返す。
その時、塚内空は航一への淡い恋心を自覚した。
そして、その想いは永遠に封印しなければいけないこともまた、理解した。
* * *
航一さんは、和歩ちゃんと結ばれる。
子供は二人。
姉の
芸能界を目指す
そして私は、祈りを捧げるモブ少女A子さんにすらなれない。
私の想像が正しければ。
何もかも終わったあと、最後に私は死ぬ必要がある。
……だとしても、デク君相手はイヤかな。
だから、航一さん。
よければ、最後の最後に私を殺してください。
全ての殺しは、私が代わりに引き受けますから。
No.6も。
ギガントマキアも。
もちろん、オール・フォー・ワンは念入りに折って畳んで千切ります。
ふふっ。あはは。あはははは!
【次回予告(CV:ご機嫌な大塚明夫)】
ワン・フォー・オールに拒絶された塚内空の個性が、ついに明かされる。
それでも、やらなければいけない事がたくさんある。
走れ。仲間を拒絶し、皆の手を振り払い。
走れ。絶望に向かって、走るんだ!
次回、「塚内空:フォールン」。
その先には何もない。ネク・プルス・ウルトラ!