【ファウンデーション】《foundation》
建物の物理的な基礎。
概念的な土台や基盤。
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未来のポップ☆ステップこと
未来のザ・クロウラーこと
二人が知り合うきっかけとなった救出イベントを、私は知らずに潰してしまった。
原作介入なんてただでさえ怖かったし、私は前世の兄と違って原作から遠のいていたかった。
法的に無個性となってしまった以上、余計に原作からは離れていたかったんだけど。
……そんな自分が原作破壊RTAをしてしまうだなんて、全く思ってなかった。
私が役所に『個性:無し』として登録され、法的に無個性となったのは約一年前。
年齢的には五歳、原作破壊RTAをしてしまった六歳からは少し遡る。
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超常が発見されてから、超常関連の研究はどんどん進んだ。
発見から130年以上も経過すれば、個性の発現に関してある程度の解明はできていた。
曰く、四歳までに両親の個性を受け継ぐ可能性が高い。
曰く、超常持ちは足の小指に関節が無い。
曰く、世代が進むごとに個性持ちが増えて比率は大逆転した。
特別だったはずの個性保持者は、今となっては『個性持ちが普通』。
第五世代ともなれば、『無個性こそが異常』と認定される。
何が問題だったのかというと、五歳までの私に個性の発現が確認されなかったことだ。
お母さんに連れられて病院で因子検査とやらをした結果、色々と判明した。
それを因子だと認識できない程に小さく、機能していない何かしか私には無い。
何らかの原因によって形にならなかった、因子のようなゴミしかない。
お母さんは、個性発現がどうとか、因子形成がどうとか、難しい話を医者と真剣に議論していた。私は隣で激しい議論をぼんやり聞いていたが、前世知識が微妙に残っている私にとって無個性こそが普通という感覚もあり、特に気にはしなかった。
帰宅後、お母さんは私の検査結果のデータを見ながら、沈思黙考を続けていた。
お母さんは、警察の捜査一課第七『強行犯係』に所属している。
殺人、強盗、放火、傷害、誘拐などの凶悪犯罪を専門に扱う部署。
性的犯罪の被害者からの事情聴取に、女性が必要だから重宝されているらしい。
強行犯係だから、当然殺人事件などの捜査にも当たる。
ドラマの中の登場人物みたいで格好いい。
「冷静になって観察するの。観察することで大体わかる」
「捜査に夢中になるとね、頭と身体が冴えていく感覚に陥るのよ」
そんなことを笑いながら話してくれる。
お母さんは格好いい。私の自慢のお母さん。
随分と長く考え事をしていたお母さんは、真剣な顔で私にこう告げた。
「空。お母さん、あなたのこと、役所に『個性:無し』として登録しようと思うの」
「うん」
「第五世代なのに無個性の可哀想な子。何も出来ない無能。そんな感じに世の中からは扱われてしまうかもしれない。でもそんなの関係無い。無個性の人達は上の世代には沢山いるし、警察も個性使用は禁じられてる。そもそも私達は同じ人間。役所に『個性:無し』として登録されているだけで、できることは沢山ある。できることがあるのだから、できることをやる。お父さんもお母さんも、空のことが大好き。空はお父さんとお母さんのこと、好き?」
「大好き!」
「じゃあ、なーんにも問題無い。
「うん!」
お母さんが、優しく私を抱きしめてくれる。
前世の私だって、個性みたいな超能力は無かった。
個性があろうがなかろうが、私達は生きている。
とはいえ、個性の関係で友人は作りにくそうだ、とぼんやり感じた。
両親と相談し、公立よりは私立の方がイジメ的なものが少ないのでは、と私立聡明小学校への入学を目指すことになった。
小中一貫のエリート私立校でもあるそこは、記憶が確かなら将来の雄英高校ヒーロー科1年A組、クラス委員長こと飯田天哉君も通うことになるはずだ。
彼と知り合うかどうかも、仲良くなるかどうかもわからないけれど。
最終戦闘で祈りを捧げる一般人A子さんになる夢は、まだ諦めていない。
夢はいつか必ず叶うと、前世で読んだ漫画のキャラが言っていた。
時間が経てば立つほど、前世の細かい記憶が薄れていく。
せめて、お兄ちゃんとの思い出だけは忘れないようにしたい。
* * *
役所に『個性:無し』として登録するということは、法的に無個性になるということ。
つまり私がヒーローに強い憧れを抱いていたのなら、ヒロアカの主人公・
でも、法的に無個性となってしまったからといって、そこで立ち止まる理由は何も無い。
この世界では、鍛錬によって一年足らずで化け物みたく強くなれる、はず。
折角なので、護身を兼ねて武術を学んでみたいと思った。
武術オタのお兄ちゃんも「やるなら出来るだけ早めに、できれば五歳から!」と異世界転生時の注意点を熱く語っていた。八歳ぐらいになると身体が硬くなってくるらしい。
前世日本で大人になってからそんなことを言われてもどうしようもなかったが、今世ならちょうど五歳だ。
インターネットを活用して、武術関係の道場やホームページの検索をした。
大半の道場が我流の武術道場で、格好いい跳び蹴り動画を公開していた。
心の中のお兄ちゃんが、親指を下に向けていたので駄目だと思った。
自宅から通えて、なおかつ知っている武術名がホームページに掲載されている道場は一つしかなかった。
【
~太極拳であなたも美しくなれる。美容・ダイエット・健康な心と体づくりに~
お父さんとお母さんに、法的に無個性だからこそ護身として武術を学びたいと言うと、お父さんは警察としての立場から、お母さんは娘を心配する母親としての立場から、それぞれ渋っていた。
どちらの親も、空は俺/私が護るから大丈夫と熱血していた。
偶然遊びに来ていた叔母の真さん(当時15歳、女子高生)が「中途半端に抵抗するためじゃなく、逃げるために武術を使うならいいんじゃない?」と両親を説得してくれた。
「できることがあるのだから、できることをやりたい」
私がそう言うと、お母さんは屈した。
お母さんと真さんが賛成したから、民主主義の原則に基づいてお父さんの反対は否決された。
民主主義を恨み始めたお父さんを放置して、私は
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営業時間内なら予約無しに参加できて、いつ来ていつ帰ってもいい。
一時間単位でお金を払うシステムになっていて、普通の人は一時間を週に二回から四回。
月謝式ではなく、一時間千円の明朗会計。入会金は無料キャンペーン中だった。
月二千円から四千円で健康体操の太極拳を楽しく学べる……というお話だった。
その先を目指したいのであれば、個人の上達具合に応じて調整してくれるという。
道場に通う際のルートの下見についてきてくれたお母さんも、私が一人で行き来できる道だと安心してくれた。
「空ちゃんは、何のために太極拳を学びたいのですか? ダイエットではなさそうだから、美容か健康かな?」
受付のお姉さんが、笑顔で尋ねてきた。
なので私は、正直に答えた。
「役所に『個性:無し』として登録されているので、自分の身を守れるようになりたいです」
「え"っ」
「ふむ」
受付のお姉さんの後ろにいた、白髭のお爺ちゃんが自分の顎髭を揉みながら質問をしてきた。
「健康体操の先へ行くのであれば、かかる費用を減らすためにも自習が必須となりますな。時間もその分必要としますじゃ。それでも?」
前世で大学院を出ていた私にとって、学校の勉強は近代史ぐらいで済む。
つまり自習に関しては問題無しというか、むしろ望むところだ。
「はい、お願いします。……お母さん、週一時間を月四回でいい?」
「我が娘ながら、生意気な五歳児ねぇ」
月四千円のお小遣いを寄こせ、という五歳児。
生意気と言われても、仕方が無い。
* * *
「指導役の、
「はい、先生」
白髭のお爺ちゃんこと、
私は幼稚園児で、まだ小学生ではない。
なのに学生さんと呼ばれるのは、変な気分だ。
「ご母堂にも説明しておきましょう。スワイショウという、でんでん太鼓のような準備運動がありましてな。両腕を前後に振るだけの、簡単な健康体操ですじゃ」
そう言って、先生がお手本を見せてくれた。
オモチャみたいな感じで、面白い。
「まあ、本当にでんでん太鼓のよう」
「まずは、このスワイショウで身体をほぐしてもらっております。その次は立ち方と歩き方、肩の動かし方と呼吸の練習ですかの。学生さんが飽きてもなんですから、最後は
「……長拳? 太極拳ではなく?」
「ははは、細かい事は言いっこなしですじゃ。長拳というのは、わかりやすく言えば跳んだり跳ねたりする武術ですかのぅ」
お母さんは首を傾げていたが、まあいいかと納得したようだ。
そんなわけで、太極拳の道場なのに、太極拳を教えて貰えないという変なスタートをした。
初日の指導が終わった帰り際、受付で千円を支払うと、受付のお姉さんは生け贄の羊を見る優しい眼差しで私に声をかけてくれた。
「健康体操に戻したくなったらいつでも言ってくださいね、塚内さん」
「えっ? あっ、はい、わかりました」
私は帰宅後も、教えて貰ったことを素直に繰り返し続けた。
飛んだり跳ねたり、でんでん太鼓をしたり、そういうのを黙々とやり続けた。
太極拳を学びに来たはずなのに、太極拳を教えてもらっていない。
「先生、ここは太極拳の道場なのでは?」
「
「れんうーぶれんこん、だおらいーちゃんこん?」
「大丈夫じゃよ、学生さん。
そう言って、先生は笑った。
よくわからず、私は首を傾げた。
* * *
あれから、半年以上が経過した。
ヒロアカのキャラ達は紹介欄に好きなモノが掲載されているけれど、私の場合は『プロテイン』と書かれてしまうんだろうなってぐらい、こまめにプロテインを飲んでいた気がする。
私の身体(股関節?)は、いつの間にかぐにゃぐにゃに柔らかくなっていた。
地面にぺたりと寝転がって土の字になれたし、前後開脚も余裕になっていた。
Y字バランスやI字バランスを越えて、立ったままで200度位は開脚できるようになった。
バレエダンサーを目指していたわけではないのだけれど。
あと、全体的にきびきびと素早く動けるようになった気がする。
長拳の練習は、手と足を素早く遠くに伸ばしたり回したりするものばっかり。
ぐるぐる腕を回したり、遠くを突いたり、跳び蹴りしたり、伏せるように回る足払いをしたり。
長拳は全体的にそんな動作ばかりだ。
お兄ちゃんは蹴り技なんて使わないと言っていたけれど、指導通りなので仕方が無い。
それとは逆に、動かずにじっとしているのも平気になってきた。
よくわからないけれど、私が30分その構えを続けていると、受付のお姉さんが可哀想な人を見るかのような目で見てくる。
片足立ちをしても、身体が全然揺れなくなったと思う。
片足立ちのまま手と足を水平に伸ばすポーズとかがあって、なんか面白かった。
……あれっ?
私、太極拳を全然習っていないのでは?
「先生、この長拳って強いんですか?」
「ん? 強くはないのう。跳んだり跳ねたり腕を遠くに伸ばしたりするのは面倒で疲れるじゃろ。そもそも蹴り技なんて、いきなり仕掛けてもなかなか当たるもんではないしの」
「じゃあなんでやってるんですかね、これ……筋トレ的なものもしてないですし」
「筋トレなんぞいらんわい。大事なのは腱と神経、正しい力の使い方。それだけじゃよ」
そう言って先生は右手をグーに、左手をパーにして胸の前で合わせるポーズをした。
先生は真面目な顔で私をまっすぐ見つめる。
「右は武を表す。左は文を表す。合わせて文武両道となし、もって
先生が突然別人になったように喋りだしたので、私はぽかーんとした。
「
「……はっ、はい、
その日から、長拳ではなく。
太極拳の基本功や套路、推手と呼ばれる押し相撲のような練習がはじまるようになった。
道場内の他の人達は、ダイエットや美容のために太極拳をやっている。
そんな健康体操としての太極拳と違って、私がやってるのは速度が段違いに早い気がする。
もちろん、ゆっくり動く練習もやる。差が極端で困る。
現時点の先生は、あくまでも表面上の動きしか教えてくれない。
でも私はお兄ちゃんが教えてくれた『意味』、つまり全ての動作の向こう側に人を殺す技術が含まれているというのを知っている。
ゆっくり動くのは動作の確認であり、力の流れの確認でもある。
だから私は、套路の向こう側には常に相手がいるものだと考えながらやるようにしていた。
すると
「たった今から延長料金無料キャンペーンじゃ。あと一時間ぐらいやっていかんかね?」
ふわっとしてるぅー!
なんか絶対その場のノリで決めてる!
もちろん私は、喜んで承諾した。
受付のお姉さんは、生温かい眼差しで延長料金無料の手続きをしてくれた。
* * *
やがて私立聡明小学校への通学がはじまり、小学校入学記念でケータイを買って貰えた。
ケータイの連絡先には、お父さん、お母さん、真さん、和歩ちゃん。
なんと四人も登録されている。
……多いのか少ないのか、ちょっとわからない。
小学校で友達を作れば増えるのだろうか。
結論から言うと「塚内さんは個性の発現が確認されていないんですって?」と同級生からネチネチ言われまくり、私は速攻で孤立した。
私は役所に『個性:無し』として登録されていて法的に無個性なだけ。
何らかの原因によって未形成化した個性因子のようなゴミしか見つかってないだけ。
あと個性の発現が確認されていないだけ。
無個性と決まったわけでは無い。
でも、デク君をイジメる爆豪君が目の前にいたら、腹いせに回し蹴りを叩き込む自信がある。
何処までいっても無個性扱いされるから、私はヒーローになれない。