【グラウンドワーク】《groundwork》
土台、基礎工事。
下準備、根回し。
誰も気づかない地下で、破滅の種を蒔くこと。
* * *
頬に青痣を作った
友達も連れてきていいということなので、ヒミコちゃんとお茶子ちゃんを連れて行った。
和歩ちゃんも連れていってあげたかったんだけど、彼女は勉強とバンドの両立で死にかけている。Feather Stepsの武道館ライブと夏の全国ツアーが決まって、大忙しだ。
アイドルヒーローを目指すと宣言した和歩ちゃんは、中高一貫の学校を投げ捨てることにした。
ヒーロー科のある高校を受験するために勉強も頑張っている……のは良いのだけれど。
バンドが大人気になりすぎてしまったのもあり、ステータス:瀕死が続いているっぽい。
その日のLINE遺言は「焼き肉より寝たい」だったので、そっとしておくことにした。
最初こそ、なんだか妙に私のメンタル面を心配してくれた
JK(女子高生ならぬ女子看護学校生)のトガヒミコちゃんと、JCたる私とお茶子ちゃんが、焼き肉の御礼としてかわりばんこで三人がかりのお酌をしたものだから、物凄い早さで
途中で様子を見に来た
でも
「こんなつらい世の中でよォ、みんな頑張ってるよなァ……!」
泣き上戸すぎてうるさかったので、面白がって皆で酔い潰して静かにしてさしあげた。
高級店の焼き肉だったので、お肉は本気で美味しかった。
精算の金額が凄いことになってたけれど、
女性店員が客の代わりに肉を焼いてくれる焼き肉屋さんは実在するし、料金も割高。
『客の隣に座って継続的に会話する』と風営法が絡んで面倒臭くなるんだけれど、焼き肉屋の場合は『客の前に立って、お肉を代わりに焼いてあげてるだけ』なので風営法を回避できる。
自分で焼こうが女性店員が焼こうが、お肉の値段自体は変わらない。
だから、みんな女性店員に焼いてもらおうとする。
みんなうまいこと考えるよね、と思いながら帰路についた。
* * *
キャプテン・ニンジャ・セレブリティ、なんとアニメ化が決定。
アメリカのあちこちに、アメリカン忍術の道場がどこからともなく湧いて出たらしい。
やっぱりニンジャは、アメリカの地に旅立っていたんですね。
……アメリカン忍術って、なんだろう。
多分深く考えたら駄目なやつ。
日本刀を力任せに振るとお兄ちゃんが怒ることだけは、伝えてあげたい。
* * *
ヒロアカ世界の六月は、ヒーロー仮免許の時期。
ラブラバがあっさり仮免に受かって、ジェントルは複雑な顔をしていました。
調理師免許は二人とも取得済みなので、新メニューの開発に夢中。
ヒーローを目指すのではなく、二人でレストラン経営とかいけると思う。
新しい看板娘のヒミコちゃんは、なんだかんだで人気を得ている感じ。
週に最低一時間バイトすればそれでいいことになっているので、絶妙にレア度が高い。
ヒミコちゃんはジェントルに色目を使わないから、ラブラバからも好感度が高い。
個人的には、窓際でゆったりしている
前世なら、pixivか同人誌じゃないと見ることが出来なかった景色がそこにあるというか。
喫茶店の店員姿のヒミコちゃんが笑顔で差し出したコーヒーを、
はー。
尊みです。
こういうのです。私はこういうのがいいんです。
聞いてますか、『義手義足を外したミルコの薄い本が欲しい』とか言ってたお兄ちゃん!
* * *
そして、六月はジューンブライド。
イレイザーヘッドこと相澤消太さんと、叔母である塚内真さんの結婚式がありました。
塚内真さんは、名字が変わって相澤真さんになりました。
情け容赦無く、新郎側の招待状で結婚式に呼ばれたMs.ジョークは、笑い泣きをしていたかと思いきや、突然『FXで有り金ぜんぶ溶かした人の顔』になるのを繰り返していたので相当ショックだったと思います。
迂闊に近寄れませんでした。
なお、真さんが投げたブーケトスの行方ですが。
ピクシーボブとMs.ジョークがクロスカウンターで相打ちになったところを、ミッドナイトさんが漁夫の利で受け取りました。
なのでミッドナイトさんには「風船モードが解除されたファットガムさん、真面目に格好いいんで狙い目だと思います」と耳打ちしておきました。
ミッドナイトさんにガシッと両肩を掴まれて「詳しく」と言われたけれど、プロヒーローの女性陣は婚期に対してもっと焦ればいいと思う。
女性側って25/30/35と五歳刻みで判断されがちなので、急いだ方がいいです。
……プロヒーロー向け婚活事業の案が浮かんだけれど、闇が深そうなのでポイ捨て。
* * *
こっそりやりたかったんだけど、直接海外に行かないと実行が難しいビジネスがあった。
未成年、しかも現役中学生ともなると、海外旅行の縛りが大変きつい。
知り合いの大人の同伴でもダメで、実の肉親級の保護者同伴じゃないとアウトなことばかり。
(高校生からは、保護者の同意書類があれば知り合いの大人同伴でも大丈夫になる)
仕方なく、私は夕飯後に一杯飲んでるお父さんの服の裾をつまんでこう言った。
「真さん達は新婚旅行に行ったけど、私もお父さんと海外旅行とかしてみたい。お父さんの溜まった有給を消化してもらう感じで、夏休みにオセオン旅行とかどう?」
「……いいとも、空。二人で旅行をしよう。きっと記念になる」
「ふふっ。ヨーロッパの避暑地で、親子水入らずだね」
だから夏休みに、私はお父さんとオセオン旅行に行くことになった。
* * *
飛行機の中で、私はオセオンについて書かれた歴史書を眺めていた。
なにしろ距離があるので暇というか、お父さんは日頃の疲れから爆睡モードだ。
東京からの直通便で、往路は約14〜15時間。
復路は偏西風に乗るので、約12〜13時間。
今回はパリのシャルル・ド・ゴール空港で乗り継ぐので、乗り継ぎ待ちの時間が追加。
合計して、片道で約18時間〜21時間。
……うん、爆睡が正しいと思う。
時差は、ヨーロッパ中央時間(CET)と同じならマイナス8時間(夏時間マイナス7時間)。
オセオン。
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の舞台となった架空の国。架空、といっても今世では普通に存在しているけど。
オセオンに関して、公式設定たる映画から読み取れた情報は非常に少ない。
なにしろ、国名以外は島の名前すら出なかった。
『通貨単位はユール(EURU)』『チャイナレストランがある』『都市部は賑わっている』『大きな鉄道橋がある』『不人気な国立公園がある』『地下鉄がある』『国境は厳重な警備体制』。
映画の地下鉄シーンの電光掲示板には「LAFA行き」と「ESSERES行き」と書かれていた。
都市部の賑わいに比べて、郊外部は完全に何も無い荒れ地で落差が酷い。
私は、暇つぶしにオセオン(ロザル島)の歴史書を読みふける。
* * *
アイルランドの南、フランスの西、スペインの北西にある孤島、ロザル島。
孤島とは言うものの、ロザル島はアイルランド島より大きい。
ビスケー湾(フランスとスペインの間)に、北海道より大きな直径500km〜600kmクラスの巨大な島国がある。
国境線は右上から左下に向けて斜めに引かれていて、東側の国の方が領土的に少し狭い。
東側のオセオン国と、西側のクレイド国。
前世と違ってこのロザル島があるおかげで、ヨーロッパ、特に西欧諸国はかなり変化している。
フランスの葡萄畑は枯れ、イギリスは凍え、この島だけが暖流の恩恵を独占して繁栄した。
暖流であるメキシコ湾流は、アメリカ沿岸から大西洋を横断してヨーロッパにぶつかる。
本来ならイギリスやフランスの沖をスムーズに北上してスカンジナビア半島まで温めるはずが、ロザル島が防波堤になってしまっている。
そしてロザル島は山脈地帯があるために、偏西風(湿った暖かい風)を吸い取ってしまう。
そうなると、風下にあるフランス内陸部からドイツに渡って、乾いた風が吹き込むフェーン現象が頻発するようになる。
フランス・スペイン本土の間の海峡は、ロザル島がある関係で本来の広い海から狭い水路に変貌した。海流の循環が悪くなり、水質汚染で海が澱みやすくなってしまった。
冬場には、冷たい空気が溜まってロンドン以上に猛烈な霧が発生しやすくなる。
前世と違って西欧諸国は暖流の恩恵が減り、冬の寒さが劇的に厳しくなってしまった。
ロンドンやパリが、札幌やモスクワ並みに凍てつくようになった。
乾燥と寒冷化のダブルパンチで、ワイン作りや小麦栽培が壊滅的な打撃を受けるようになった。
(余談だが、このためにフランス料理の歴史が根底から変わっている。前世地球でのフランス料理は「豊かな食材(小麦、乳製品、ワイン、新鮮な野菜)」を前提としているが、寒冷化と乾燥でそれらが手に入らないため、フランス人は持ち前のプライドと技術で「貧しい食材をいかに豪華に見せるか」という方向に異常進化を遂げた。キラキラした宮廷料理ではなく「北欧料理とロシア料理を足して、フランス人の執念で煮込んだ茶色くて重い料理」となっている)
一方、ロザル島は暖流が直撃するため、島の西側(クレイド国側)は温暖で雨が多い。
島の山脈には大量の雨が降り、豊かな水源があるので水力発電や農業用水に使用されている。
ゆえに、欧州諸国はロザル島を『呪われた島』と呼んで毛嫌いしている。
ロザル島。
立地的に、大西洋を行き来する貿易船を襲うには最高の場所で、元々は『海賊の島』として知られていた。イギリスの私掠船(公認海賊)や、国を追われた貴族、宗教弾圧から逃れた人々が逃げ込む場所だった。
だが、フランス、スペイン、イギリスという大国に挟まれた巨大なロザル島は、「誰が取ってもパワーバランスが崩れる」という火薬庫でもあった。
大航海時代は、スペイン無敵艦隊(アルマダ)の補給基地としてスペインが領有。
当然のことながら、イギリスは喉から手が出るほどロザル島を欲しがった。
ナポレオン戦争時には、フランスが無理矢理ロザル島を占領した。
英仏西の三国が数百年殺し合いをした挙句、ロザル島はどこの国のものでもないという条約が結ばれた。そして、ここからがロザル島の地獄のはじまりだった。
まず前提として、ロザル島には中央を南北に走るロザル山脈が存在する。
この山脈が、命運を分けてしまった。
西側は暖流(メキシコ湾流)と偏西風が直撃するため、温暖湿潤。
山脈に降る雨が豊かな大河を作り、広大な平野を潤す。
農業・資源(赤土)・水力に恵まれた「持てる土地」。
東側は山脈が湿った風を遮るため、乾燥した寒冷地(雨陰効果)。
平野は少なく、荒れた岩場と痩せた土地ばかり。
資源もなく、あるのは良港(深い湾)だけという「持たざる土地」。
この島を巡って争った英仏西の三国は、ロザル島が統一国家として強大化し噛みついてくることを恐れ、意図的な「分割線」を引いた。
西側のクレイドは、フランス・スペインの影響下に置かれた。
豊かな資源地帯として開発され、貴族的な階級社会が形成された。
東側のオセオンは、イギリスの影響下(という名の放置)に置かれた。
本国からあぶれた犯罪者や海賊、宗教的異端者が流刑地のように送り込まれた。
持たざる土地である東側のオセオンは、資源の無さを逆手にとった。
資源がないなら、知恵と毒を使えばいい。
オセオンは生き残るために、タックスヘイブン化と軍事産業に特化した。
豊かな西側のクレイドは、保守的で変化に弱かった。
そのため、経済戦争で東側に遅れを取り始めた。
現在では「資源はあるが田舎のクレイド」対「資源はないが金と闇があるオセオン」という、歪な冷戦状態が続いている。
二国間には、かつての大国が引いた国境線に沿って、厳しい警備の検問所が今も存在している。
オセオンとクレイドの言語は、歴史の関係で一つに統一された綺麗な言語ではなかった。
支配者が変わるたびに継ぎ足された「チャンポン言語(クレオール言語)」になっている。
・海賊時代(英語):日常会話やスラング、罵倒語は英語ベース。特に船乗り言葉や、荒っぽい表現が多い。
・スペイン領時代(スペイン語):宗教用語、食事、家族に関する言葉はスペイン語由来。
・ナポレオン戦争〜フランス影響下(フランス語):ナポレオン法典が導入されたため、法律用語、行政用語、お洒落な言い回しはフランス語が使われる。
公用語は両国とも同じだったが、両国共に起源は自国であると主張した。
よって、クレイド国はクレイド・クレオール。
オセオン国は、オセオン・クレオールが公用語だった。
「Hey amigo, pass me the vin rouge, por favor.」
(おい相棒、その赤ワインを取ってくれ、頼むよ)
Amigo(スペイン語:友)
Vin rouge(フランス語:赤ワイン)
Por favor(スペイン語:お願いします)
Pass me(英語:取って)
文法は英語に近いSVO型だが、形容詞はフランス語のように名詞の後ろに来る。
発音はスペイン語のような巻き舌がありつつ、フランス語のような鼻母音も混じる。
英語とスパニッシュとフレンチをミキサーにかけて、300年熟成させた謎言語が生まれていた。
だが、オセオンはタックスヘイブン化の為に。
クレイドは経済戦争でオセオンに遅れを取らぬように。
思惑は違えど、両国は英語を強引に共通語化してしまった。
つまり、オセオンとクレイドの言語は以下のようになる。
・第一公用語:英語
・準公用語:オセオン・クレオール/クレイド・クレオール
また、駅名にも採用されている「LAFA」と「ESSERES」という名前の地区がある。
「Lafa」は、中東のパンの名前などにある。
海賊や貿易船が行き交った歴史があるため、中東系の移民街や市場があるエリアだと読み取れる。
接尾辞「-es」や「-eres」は、ラテン語系(スペイン語・ポルトガル語・古フランス語)の特徴。ラテン語には「Essere(存在すること)」という単語がある。
「〜の人々の場所」「〜の集落」といった意味を持つ、スペイン領時代に作られた地区の名前と読み取れる。
・LAFA:活気ある商業地区や、移民が多く住むダウンタウン。
・ESSERES:歴史ある石造りの建物が並ぶ、旧支配者層(スペイン・フランス系)の居住区。
オセオンは、タックスヘイブン化の関係でユーロ加盟国に入ることができなかった。
クレイドの加入を認めると両国が戦争に発展しかねないため、ユーロ諸国はクレイドの加入に対する返答をのらりくらりと引き延ばし続けている。
このような経緯があり、両国の通貨単位は「ユーロ(EURO)」に対抗した名称の「ユール(EURU)」となった。
ただの嫌がらせでしかないが、残念なことに迷惑しているのはオセオンとクレイドの国民だけだった。
* * *
歴史書を読み終えた私は、真顔で歴史書を閉じた。
大きな島が増えれば、それに伴い地理が変わる。
地理が変われば気候が変わり、地政学も変わる。
地政学が変われば、歴史と文化と言語も変わる。
映画関係者、ここまで考えてなかったと思うよ?
なんかこうふわっと、映画の脚本の関係で名も無い島をひとつ追加しただけだと思う。
ふわっと追加された島は、ロザル島と名付けられて沢山の影響を周辺に及ぼしている。
「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない!」
フランス革命期にマリー・アントワネットが言ったとされる有名な言葉。
実際には彼女の発言ではなく、史実とは無関係と言われている。
むしろマリー・アントワネットは節約家だったという説すらある。
でもこの世界のフランスは前世とは違うので、実際に彼女は言ってしまった。
「(ライ麦を使った黒くて硬い)パンがなければ、(ドングリの粉を練ってドライフルーツを混ぜて焼けば、それはクッキーではなくケーキと言い張れるので)ケーキを食べればいいじゃない(それならまだ備蓄があるし、栄養価も高いわ)!」
寒冷化により、小麦が全滅。
ライ麦パンすら底をつき、小麦に固執して餓死する民衆達。
彼らに対して、マリー・アントワネットはサバイバル食たる『
この発言に対し『貴族がドングリなんか食えるか!』と反発されて、ギロチン行き。
まさか、転生したらフランス革命を覚え直すハメになるとは思わなかった。
ただでさえ超常黎明期からの歴史はグダグダなのに、それ以前も割とおかしい。
世界史と日本史の勉強をし直すだけでいいので、楽といえば楽なのだけど。
* * *
ようやくオセオン空港について、ほっと一息。
映画で見たあの景色が、そのまま目の前にある。
「はぁ……やっと着いた。乗り継ぎ含めて丸一日かかったね。お父さん、腰大丈夫?」
「驚いたな。パリでは息が白くなるほど寒かったのに、この島は南国のようだ」
オセオンのことを『ヨーロッパの避暑地』と表現したのは、別に間違いではなくて。
『ヨーロッパで、唯一まともに海水浴ができるリゾート地』という意味だったりする。
今世のヨーロッパは、ロザル島があるせいで夏でも肌寒い(日本の秋〜初冬くらい)。
パリやロンドンで優雅にバカンス……なんて言ってる場合じゃなく、コートが必要です。
「海流の悪戯みたいだよ。ヨーロッパ中のセレブが、寒い本土から逃げてここに来るんだって」
「この景色を見れば、疲れも吹き飛ぶよ」
お父さんが、空港の外の空気を吸いながら目一杯伸びをしている。
私達は予約していたホテルに荷物を置いてから、早速オセオン観光に出かけることにした。
軽くオセオンの街に出ただけで、その無茶苦茶さがわかる。
フランス風の石畳に、英語のネオンサインが光り、スペイン風のバルでフィッシュ・アンド・チップスを食べる。
プルス・ケイオスです。
オセオンは、観光スポットに行くだけで聖地巡礼になってしまう。
私達はオセオンのパンフレットを見ながら、映画で見た場所をお父さんと回っていく。
* * *
『グラン・ポンテ・ヴェルメ(Grand Ponte Vermelho)』
(通称:朱の大橋 / The Vermilion Bridge)
【観光ガイド紹介文】
オセオンの首都エリアと、工業地帯がある対岸を結ぶ、全長2.5kmの巨大な吊り橋。
フランスのエッフェル塔を手掛けた設計事務所の弟子が設計したとも噂されるこの橋は、その鮮やかな朱色が特徴です。
上層は自動車専用道路、下層は鉄道が走る二層構造になっており、オセオンの物流を支える大動脈です。
常にビスケー湾からの強風が吹き荒れるため、橋のメンテナンスには莫大な費用がかかっていますが、夕日に染まるその姿は「オセオンの赤い竜」と呼ばれ、国民に愛されています。
『ベルヴェデーレの丘公園(Parc du Belvédère)』
および
『三賢者の噴水(Fontaine de los Tres Sabios)』
【観光ガイド紹介文】
グラン・ポンテ・ヴェルメを一望できる高台に位置する、市民の憩いの場。
丁寧に刈り込まれた植え込みは、フランス式庭園の影響を色濃く残しています。
中央にある『三賢者の噴水』は、かつてこの国の独立と平和のために尽力した、イギリス系・フランス系・スペイン系の三人の政治家を記念して作られました。
噴水から溢れる水は「融合と調和」を象徴しており、コインを投げ入れると、旅の安全が約束されるというジンクスがあります。
* * *
言語も文化も乱れすぎてて、真顔になる。
ごった煮のカオスすぎる。
しかも「グラン・ポンテ・ヴェルメはどこですか?」と現地の人に尋ねても通じない。
現地の人は単に「レッド・ブリッジ」としか言わないので、「レッドブリッジはどこ?」と聞かないとダメ。
ロディ君の居場所を探そうと思えば探せるかもしれないけれど、お父さんがいるから無理。
今回は大人しく、予定通りのビジネスにのみ注力すると決めた。
* * *
夜になり、お父さんが寝静まった頃。
私はホテルのロビーに設置されているソファに座って、オセオン・コーラを飲んでいた。
オセオン・コーラ。
イギリス文化の紅茶に、炭酸と大量の砂糖、そしてクローブやシナモンなどのスパイスをぶち込んだ飲み物。
見た目はコーラのように黒いけど、飲むと強烈な紅茶の渋みとスパイスの刺激が鼻を抜ける。
かつて高価だったコーラの輸入が止まった際、余っていた安物の茶葉とスパイスで「コーラっぽいもの」を作ろうとしてオセオンで生まれた代用飲料。今では本家コーラより人気がある。ドクターペッパーをさらに薬っぽくして、紅茶風味にした感じ。
日本人の舌に合うかと問われると、無言になる。
そこへ、真夏だというのに全身を司祭服に包んだ男性がやってきて、私の向かいにあるソファに座り込んだ。
彼は周囲に私とホテルスタッフ以外誰もいないことを確認し、声をかけてきた。
「Sora Tsukauchi, l'invité unwelcome. Our Señor desires the réponse sheet.」
(ソラ・ツカウチ、招かれざるアドバイザー。我らが主が、解答用紙をお望みである)
オセオン・クレオール。
英語とフランス語とスペイン語の混ざり物。
文法が滅茶苦茶で、聞いてるだけで頭が痛くなる。
私は懐から折りたたまれた紙切れを取り出し、そっとテーブルの上に置く。
「Here is the marchandise. If even uno is false, feel free to annuler the deal.」
(用意したブツはこちらに。一つでも違っていたら、取引はキャンセルで構いません)
司祭服の男は、紙切れを受け取ると一旦立ち去った。
なお、その紙切れには以下の内容が英語で書かれている。
~ ~
東アメリカ: ニューヨーク
西アメリカ: シアトル
メキシコ: メキシコシティ
南米: ブエノスアイレス、サンパウロ
スウェーデン:ストックホルム
イギリス: ロンドン
フランス: パリ
ポルトガル:リスボン
イタリア: ローマ
ギリシャ:アテネ
ロザル島:オセオン
ドイツ: ベルリン
ロシア: モスクワ
エジプト: カイロ
南アフリカ: ヨハネスブルグ
カメルーン:ドゥアラ
アラブ首長国連邦:アブダビ
日本: 東京
中国: 北京
東南アジア: シンガポール
ブルネイ:バンダル・スリ・ブガワン
インド: ニューデリー
オーストラリア: パース
アイスランド中央
~ ~
暫くしてから、司祭服の男が慌てて戻ってきた。
「Our Señor will rencontrer you. Salut for the humanidad.」
(我らが主が、貴女にお会いになる。人類の救済を)
私はにっこりと笑いながら、立ち上がる。
案内されたVIPルームには、司祭服を着た人達が数人集まっていた。
その中で、一番背の高い人が、私を目の前に連れてくるよう案内人に指示を出す。
青い肌、200cmの高身長、司祭服の髭マン。
お兄ちゃんが「この人の個性『リフレクト』以外ならなんでもいい」とまで言い切った人。
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』のラスボス。
フレクト・ターンその人が、昏く冷たい表情で私をじっと見つめてくる。
眼窩に埋め込まれたアイマスクが無いと、彼は全盲に等しいはず。
「They say you speak the language of profit, Miss Tsukauchi. Let us see if your proposal is as 'fruitful' as you claim.」
(貴女は利益という言語を話すと聞きました。その提案が、貴女の言う通り『実りある』ものかどうか、見定めさせてもらいましょう)
オセオン訛りが一切ない、完璧で冷たいクイーンズ・イングリッシュ。
「Very well. Let's make this discussion... fruitful, Mr. Turn.」
(ええ。この議論を……『実りある』ものにしましょう、ミスター・ターン)
"fruitful" の部分で少し口角を上げて、私は微笑を浮かべた。
* * *
商談は、無事に成功した。
フレクト・ターンは最後には感涙までして、私に全面協力を約束してくれた。
私がやろうとしているのは、
『オール・フォー・ワンの絶望を深めよう大作戦』なのです。
ヒューマライズだろうがなんだろうが、使えそうなら何でも使います。
「良かった、空。とても楽しそうだ」
「親子水入らずの海外旅行、最高! でも、流石にもうオセオンはいいかな……遠すぎ」
「ははっ、来るだけで一日、帰って一日。エコノミークラスだったら、死んでたかもしれない」
別にファーストクラスでも良かったんだけど、ファーストクラスの値段を見てお父さんがひっくり返ってしまったので、ビジネスクラスを利用した。
私と真さんのコンビで、株式会社オールライトは割とえげつない荒稼ぎをしているからファーストクラスでも問題無かったのだけれど、お父さんにはそれが今イチ伝わっていない。
多分そのうちオールライト・ホールディングスに再編するし、私が15歳になったらオールライト・グループ化すると思う。
言い換えると、真さんの妊活が一段落して子供が産まれて、私が15歳になると、やりたい放題度が急上昇する。
……雄英の経営科とか、ぶっちゃけもう行かなくてもいいんじゃ?
でも学歴しか見ない人達が世の中多いので、仕方ないのです。
ヒーロー科の記念受験ぐらいは、してもいいかな。
オセオンで海水浴も観光もビジネスも全部やって大満足。
すっかりリフレッシュした私は、『Feather Steps・夏の全国ツアー』に合流して、後方腕組みプロデューサー顔で頑張りました。
実際にはプロデューサーの数段上の上司というか、取締役社長なんですけど。
現場に出て
* * *
そして、月日はどんどん流れていき。
私も航一さんも、さらに年齢を重ねて、そろそろ私が中学三年生になる頃。
雄英ヒーロー科に合格してしまった和歩ちゃんが、混乱しながら電話してきました。
「うううう受かっちゃったんだけど、どうしよう雄英!」
「やったね和歩ちゃん、アイドルヒーローだね!」
「バンドのスケジュールどうすんのよおおおおお」
「そこは……その……睡眠時間とか削って……」
「ヤダああああああ」
たぶん、不和真綿ちゃんと同じクラスになるのでは?
「真面目な話、
「ど、ドームライブ……」
「武道館はやったんだから、ドームは一旦諦めよう? ヒーロー免許とってから復帰しよ?」
「ヤダああああああ」
じたばた暴れる和歩ちゃんを宥めるのに、結構時間がかかりましたとさ。
オセオンのことが全くわからなかったので、タグ「独自設定」の本気を出してみました。