【マスク】《mask》
顔の一部あるいは全体を覆って隠すこと。
また、それに用いるもの。仮面、覆面。
(感情や意図を)隠すこと、偽ること。
* * *
あれから、私は野村六郎さんをプロデューサーとして、街中で何度か歌い続けていた。
その度に彼は感激し、喜び、拍手で迎え、沢山褒めてくれる。
人畜無害そうな顔の長髪の青年は、今は小さなポニーテールのように後ろ髪を縛っている。
服装もスーツではなく、まるで西部劇の主人公を思わせるかのような、クールな服装。
控えめに言って、普通に格好良いイケメン青年がそこにいる。
私と野村六郎さんは、なんでもないレストランで打ち合わせをしたりする。
喫茶ジェンラバだと、知り合いに出くわす確率があまりに高すぎる。
「身近な人とちゃんと話をしなきゃとは思ってるんですけど、その……なかなか……」
オールマイトは、次はないと約束してくれた。
お父さんは、次は必ず間に合ってみせると約束してくれた。
「『勇気が出ない』?」
「ゆ、勇気っていうか……」
オールマイトは、活動限界の低下が酷い。
お父さんは警察である以上、No.6には絶対に勝てない。
「まあ……そうなんですけど」
あなたの脳みそを、どう破壊すればいいのか、困っちゃいますよね。
「……あー、タイミングが合わないことってあるよね」
暫く私を観察したあと、野村六郎さんは笑顔で話を合わせてくれる。
私は、ふふっと苦笑する。
「そう! タイミング! タイミングの問題で……」
ナックルおじさんに相談しても「撃ちたいだけならアメリカにでも行け」と返される。
多分、私に危険なモノを回さないように二人が裏で結託してる。
結局、ぐるっと一周回って『法の範囲内で頑張る』という結論になってしまう。
「……ていうか、ほんとはやっぱり……自信がないんだと思います」
仕方なく、銃も武器も暗器も、殺意が高すぎると思い直す。
かといって、
何かあと、もう一押しが必要だった。
「私は今まで、お父さんにも周囲の皆にも『その場の顔』しか見せてなくて。もし自分の中身とか本音までさらけ出したら、受け入れてもらえるかどうか……」
AFOを絶望のどん底に叩き落としてから、折って畳んで千切りたい。
その後で、できれば航一さんに殺してもらいたい。
自分の本音が、さらけ出せない……。
うんうん、と野村六郎さんは笑顔で頷く。
「大丈夫だって。みんな、
「……でも、『好き』にも色々あるっていうか……」
私は、頬を染めて答える。
航一さんには、綺麗な心のままで居て欲しい。
全ての汚れは、私が引き受けますから。
最後の最期に、汚れきった私を航一さんが仕留めてくれれば、それで全部OKです。
「うん……そうだね」
野村六郎さんは、もっともらしく同意する。
あなたは個性『加速』を併用して、心理カウンセリングごっこをしているのでしょう?
多分、私が考えてることは、貴方の想定と全然違うと思いますよ。
台詞のやりとり自体は、原作の和歩ちゃんそのままのはずですけど。
「ちょっと、場所変えようか」
そう言って、野村六郎さんが立ち上がる。
「今足りてないのは、みんなとのコミュニケーション。そこまでは分かってるわけだからさ。
そうですよね、みんなにも相談したいところなんですけど……。
やっぱり
結局のところ、脳無の最高到達点マスターピースとなった
原作でも、
『僕という人間は一つのゴールに対していくつもの……いくつものルートを
私が経営科に入るのと、ヒーロー科に入るのはどちらが効率良いんでしょうかね?
ルミリオンが無個性化しただけで休学したり、緑谷君に対してオールマイトが「『個性がなくとも成り立つ』とは、とてもじゃないが口には出来ないね」と断言していたぐらいに雄英は無個性に対して厳しいから、併願しておいて選択肢を増やしておくのがよさそうだと判断する。
「やっぱり人間、素直な方がいいですよね。自分にとっても、周りにとっても」
「え~? なんだい、いきなり」
夜の
野村六郎さんが、歩きながら苦笑を返してくれる。
「俺は意地っ張りな
「あっ、もう~、そういうコト言わないでください」
私はそう言いながら、恥ずかしそうに首筋に手を当てる。
でも、本当に手を当てたのは首ではなく、髪の毛。
……うん、いつもの三つ編みじゃなくて。
ちゃんと、
「いや、本当だって。なぜなら俺はロック野村! 複雑な内面に煮えたぎる情熱を秘めたワイルドな男!」
「またまた~」
「イヤ、マジでマジで。そんな俺の秘密のアジトを見たら驚くよ?」
「いわゆる、『隠れ家的なナニヤラ』ですか」
鞄、よし。
いつぞやの『フマキラー・ハチ駆除殺虫剤スプレー・バズーカジェット』、よし。
「そそ。廃墟みたいで恥ずかしいけど」
そう言って、野村六郎さんは廃墟ビルの前で足を止める。
「ここ……ですか」
「うん。階段が急だから、気をつけて」
彼は笑顔で、私を廃墟ビルへの地下へと案内していく。
「そこのドアね、入って入って」
「看板とか出てませんけど、会員制のスタジオかなにか……?」
私も笑顔を返して、薄暗い地下通路を進んでいく。
前世では、見ようと思えばすぐに見ることができた動画がある。
ヴィジランテOPではなく、「けっかおーらい / こっちのけんと」の公式MV映像。
今世だと検索しても出てこないから、私の代わりにみんな見ればいいと思う。
そのMVに出てくる、スーツ姿でお団子頭の女性。
それが、今の私の姿です。
(BGM:こっちのけんと「けっかおーらい」)
Get,get this "All Right",get this "All Right",get this "All Right"
Get,get this "All Right",get this "All Right",get this "All Right"
多分、大丈夫。
きっと、大丈夫。
好印象なノービスから 転がるスターに
ばらまいた優しさの外に 手を伸ばして
俺が飛んでって、その『殺さなきゃいけない壁』ごとブチ抜くよ。
そう言ってくれた航一さんの手を、取らない選択。
好印象なノービスから 転がるスターに
めでたしなストーリー踊り 羽伸ばして
わかったよ、師匠。絶対『守る』から。
そう言ってくれた航一さんの心を、汚さない選択。
君の瞳が助け求めてる 誰これ構わず皆が飢えてる
私は遠い目で、航一さんの姿を思い出す。
背後にいる
目の下のクマ シワのあるマスク
もう少し、寝ておけば良かったかな。緊張してあんまり眠れなかったんだよね。
航一さんから貰ったザ・クロウラー・マスクは、いつでも引っ張り出せる。
ヨレてるスーツ 身に纏うルール
急に身長が伸びたのもあって、買い換えたスーツのサイズが大分微妙だ。
でもどうせこのスーツは、ズタボロになって捨てるハメになる。
正義の肯定 ナンセンスな
看板突き破って 飛んじゃってええで
太極拳には、徒手だけでなく剣、刀、棍、槍など武器術の套路もある。
武器というだけなら、
それでこそ good 後手に回れば boom!(Boom)
でも今回、私は太極剣も、銃も、
Give me your … Give me your …
あなたの勇気を、私にください。
けっけっかおーらい!
扉の向こうに何があるのか、私は全部知っている。
全部知った上で、私はあえてその先へと踏み出す。
「おじゃましま~す」
扉の向こうは、真っ暗闇。
大量の蜂が飛び交う音しか聞こえてこない。
「……ていうか、真っ暗なんですけど――」
「おっと!」
「そうだよ」
「きゃッ!?」
迷える俺たちのヒーロー
そう言って、冷酷な目をしたオクロック
もう止まれない keep off keep off
「
地下室の奥。
パッと見ただけでも二桁数の一般市民の死体が、無造作に転がっている。
その周囲で、注射器型の蜂が大量に、不気味に舞い続けている。
これは原作で和歩ちゃんが見た光景、そのままだ。
苦労をその手に何を握ろう
私は鞄から殺虫剤スプレーを取り出し、床に転がす。
同時に猫耳防犯ブザーを右手で握りしめ、顔の前で格好良く構えた。
Get…Get this!“All Right”
「変身」
Get this!“All Right”
猫耳防犯ブザーの、隠しボタンを押す。
チープな電子音が小気味よく鳴って、チープな合成音声が真っ暗な地下室に響く。
御伽話俺たちのヒーロー
「テテテテテ
今この瞬間から、私はお兄ちゃんになる。
ううん、その言い訳はもうやめよう。
……私は、お前を殺す機械になる。
もう止まれない keep on keep on
心臓が止まるその瞬間まで、殺意だけは
身の程にも合うその日を願うから今
震脚。
私の脚が、殺虫剤スプレー缶を踏み潰す。
月、月下往来
扉は閉じられ、室内はほぼ暗闇と化した。
潰れたスプレー缶から勢い良く殺虫剤が噴霧される音のみが、部屋に響き続ける。
僕らはもう諦めたの
軋む明日を絵に
「私は自らの意思でお前を殺す」
「全力でお前を殺す。それが俺の目的、俺の欲望の全てだ」
僕らはもう身につけたの
軋む明日をただ歩いて
「全ての努力をこの日の為に費やしてきた」
「
もう遅いのは分かってる
まわりを通っていく
『非常口 EXIT』と書かれた緑色の人間の看板だけが、この部屋の隅を照らしている。
私はその看板を狙って、潰れたスプレー缶を蹴り飛ばす。
室内唯一の明かりが、これで完全に消え去った。
成りたいもんに成っている
みんなが通っていく
航一さんはオールマイト事務所を継ぎ、独立する。
和歩ちゃんはアイドルヒーローとしての道を突き進む。
成れないもんに成っていく 僕の帰り道に
転がって突っ伏している 僕の可能性へ
私は、ヒーローになれない。
私は、お嫁さんになれない。
私が進む
忘れてきたのに思い出した
体に痛みが来る前に
拝啓、緑谷出久様。
私が死ぬ可能性もあるので、今のうちに伝えておきます。
逃げだして来る彼に
我先に立ち去るナードに差し上げたのに
ワンフォーオールはあなたのもの。
綺麗な心も、あなたのもの。
今の自由とは何?
過去の自分の“まま”に
私が世界の異物なら、私に自由なんてない。
私を生み出した過去ごと、流れのままに消えゆくだけ。
正義の肯定 ナンセンスな
看板突き破って 飛んじゃってええで
個性『二倍』に必要なのは、データとイメージ。
人を増やすなら身長・胸囲・足のサイズなど多くのデータが必要。
単行本16巻のカバー裏、全裸のトガヒミコをメジャーで計測するトゥワイスが描かれている。
つまり、彼に対してそこまで身も心も預けることが出来なければ、『二倍』は使えない。
オールマイト級の強い人を二倍にすれば、理論上は無敵かもしれない。
確かに、それを実行に移せるのなら凄いと思う。
問題は、それを実行に移せないというだけの話。
それでこそ good 後手に回れば boom!(Boom)
私は、航一さん以外の人に自分の裸体を晒す気は無い。
そして航一さんは和歩ちゃんとくっつくのだから、余計にそんな機会は訪れない。
Give me your … Give me your …
あなたの愛が、欲しかった。
けっけっかおーらい!
「
真の暗闇の中、私は微笑む。
No.6は今まで、私に踏み込んできていない。
違う。踏み込もうにも踏み込めない。
……思った通り。
だって貴方は、あの夜の鳴羽田で私を殺しきれなかった。
ナックルおじさんから聞いた話を突き詰めていくと、そう判断できる。
貴方はわずかな光量を増幅し、夜間だろうが昼間のように見える。
でも、本当の意味での真の暗闇となれば、話は別だ。
周囲にわずかな光量すら無いこの世界では、貴方は私を視認できない。
公式MVの女性は、このタイミングで仮面を外していた。
私は彼女とは逆に、ザ・クロウラー・マスクを引き上げる。
「おっと!」
私の声と、マスクを上げた衣擦れ音を頼りに、No.6が踏み込んでくる。
個性『加速』を使った、瞬間八撃のラッシュ。
迷える俺たちのヒーロー
でもNo.6さん、貴方の打ち方って、大振りを八回繰り返してるだけなんですよ。
『振りは大きく足はベタ踏み、パワー優先テレフォンパンチ上等』でしたっけ。
そんな打撃を八回繰り返すために必要なことって、わかりますか?
エコーロケーションを併用した空間
闇雲に攻撃しているだけのNo.6の姿が、私には丸見えだ。
No.6の『瞬間八撃』は、腕を伸ばして引く行為を八回繰り返すのみ。
そこには術理も何も無い、個性『加速』任せのテレフォンパンチだけがある。
私が左側面に踏み込み、伸びきった彼の右手を引くだけで化勁となる。
伸びた右腕を引かれた事で、No.6の体軸はあっさり崩れた。
今の彼の外見は人間、つまり二足歩行だから、
化勁と同時の蓄勁により、私のデコピンは放たれるのを待っている状態。
発勁。
術理の伴った『瞬間八撃』、連環技法を暗闇の中で披露する。
右腕を引いたことで相手の顔面が前に出たので、左背掌による相手顔面強打。
顔面強打により相手の胸部が前に出たので、左肘で心臓。
心臓を打ったことで下半身が前に出たので、左掌による金的。
金的を叩いたことで頭が前に出たので、左肘をそのまま上げて相手の顎を打つ。
顎を打たれて軸が崩れたところを、相手右膝裏を左足で蹴り上げつつ左背掌で相手の喉を打つ。
もはや倒れるしか無い相手の右腕を捻り折りつつ、相手の顔面を踏み抜くように震脚。
顔面に背掌・心臓に肘・金的・顎に肘・膝裏蹴り・喉潰し・右腕折り・顔面震脚踏み。
ここまで約二秒、連環技法による『瞬間八撃』。
もう止まれない keep off keep off
「俺に
殺しきれなかった。
通常の人間には無い、魚の尾のような何かが私を貫こうと反撃してきた。
苦労をその手に何を握ろう
こうなると、手と足が二本ずつある普通の人間を拘束する技法に意味が無くなる。
私は全力のバク転で、No.6の尾を躱した。
Get…Get this!“All Right”
大丈夫。まだ生きてる。
大丈夫。まだやれる。
Get this!“All Right”
私は左手をグーに、右手をパーにした
理性を激情で包むは、死地へ赴く
御伽話俺たちのヒーロー
汚れるのは、私の心だけでいい!
もう止まれない keep on keep on
「私は前に
「俺はお前を
身の程にも合うその日を願うから今
私は
一気に踏み込んで、No.6の目を貫くことで脳髄に突き刺そうと試みる。
No.6は自分の右掌を一瞬で硬質化させることで、タクティカルペンを受け止めた。
ペンごと私の左手を握りつぶそうと、彼は人外の握力の本領を発揮しはじめる。
月、月下往来
全ては前振りだった。
航一さんにも教えた双推手の本質は、情報操作。
私が左手を大きく強く動かしたから、そっちに意識がいっちゃったんですよね?
さらに言えば、あなたは私に触れているから、私の個性『否定』により『加速』も『爆発』も『再生』も『硬質化』も使えない。人外の握力だけは、どうしようもないけれど。
私の右手は、自分のお団子頭から引き抜いた
タクティカルペンの突きを防ぎ、私の左拳を掴み、反撃に転じたことでNo.6は愉悦している。
そんな彼から離れるのではなく、左手を犠牲にすることで一気に彼の懐深くに潜り込む。
握りこんでいた特注のチタン製
特注の
ほぼ同時に、犠牲にしていた私の左手に激痛が走った。
彼の頭が空に浮かぶ月なら、その月を掴む勢いだった。
それはまるで、「けっかおーらい」公式MVのような。
Get,get this "All Right",get this "All Right",get this "All Right"
よろめいてNo.6から離れた瞬間、彼の身体が爆発の兆しをみせるのがわかった。
明かりの無い暗闇の中でNo.6の身体が光り出したから、間違えようもない。
そして残念なことに、接触していないから個性『否定』も発動できない。
近づいて個性『否定』に賭けるよりは、離れた方が生存確率が高まると感じた。
私はできるだけNo.6から離れるようにジャンプし、伏せる。
これも公式MVの動きだな、と苦笑したその瞬間、No.6が大爆発した。
Get,get this "All Right",get this "All Right",get this "All Right"
ビルは半壊し、夜空に月が見えていた。
運が良かっただけなのか、個性『否定』が生かしてくれたのか、理由はわからない。
煤だらけでギリギリ生きてる私と、異形の男のバラバラになった下半身。
部屋の奥に積み重なっている、二桁数の死体。
爆発音やビルの損壊音を聞いて、慌てて外に出てきた住民達が大騒ぎをはじめた。
大丈夫ですか、生きてますか、と多くの人に心配げに声をかけられる。
駆けつける救急車や、何台ものパトカーのサイレン音も聞こえてくる。
大量の瓦礫と、大量の死体の中。
私は座り込んで休みながら、激痛が走り続ける左手をぼんやり眺めていた。
ザ・クロウラー・マスクは、もう引き下げている。
三つ編みでもなくお団子でもない、ほどけた私のロングヘアが風に揺れている。
原作において、No.6は最後の最後に航一さんの左頬に傷を残すことを優先した。
この世界において『俺はお前を憎み続ける』と言ったNo.6は、私に傷を残すことに成功した。
私の左掌に、フェイントとして使ったタクティカルペンが見事に貫通している。
尖ったペン先からではなく、ペン尻の丸いクリップ側からの貫通なので本当に痛い。
これは、多分。
しかもこれ、抜いたらお医者さんに怒られるヤツだよね……。
血がドバッと出ちゃうんだっけ?
私は、声をかけてくれる救急隊に対して碌な返事もできずに、意識を失った。
* * *
大量殺人犯、野村六郎(偽名)は判明しただけで20人以上を殺していた。
塚内空を狙った理由は不明だったが、地下室にあった遺体に共通項が無かった事から、快楽殺人傾向にある犯人に巻き込まれたものと解釈された。
回収されたバラバラの犯人の遺体の分析により、『鳴羽田ロックダウン&スカイエッグ爆破事件』の際に通報があった銃声現場で発見された血痕と同一人物と判断された。多種・高濃度の化学物質を含み、血液型・DNA型共に判定不能。人間の血ではない『詳細不明』のもの。
塚内空は、野村六郎を殺したはずだった。
だが、そもそも彼との戦いの証拠は爆発によって全て消失してしまった。
大量殺人の結果犯人は精神を病んでしまい、任意の誰か(塚内空)を巻き込んで爆死したという警察見解になった。つまり塚内空が狙われたのは、ただの不運の結果と解釈された。
警察は被疑者死亡のまま書類送検し、検察が不起訴処分にして事件は終了した。
ゆえに、裁判すらおこなわれなかった。
正当防衛以前に、塚内空は完全なる被害者として扱われた。
塚内空の命を賭けた殺し合いは、戦った事実すらなかったことにされた。
大量殺人鬼の犯行に巻き込まれて入院した塚内空のところには、多くの見舞客が訪れた。
塚内空的には、左手にタクティカルペンの貫通創が残ってしまった事だけが悲しかった。
悲しげに左手の傷跡を見つめる塚内空の姿は、見舞客の心に大ダメージを与えたという。
もっとも、塚内空の悲しげな顔に関して、当人と見舞客ではだいぶすれ違いが発生していた。
見舞客は、ペンをペン先からではなく尻側から貫通させる拷問を受けた塚内空の心中を思い。
塚内空は、
* * *
AFOは、放置したまま忘れていたNo.6が死んだことに、やはり失敗作だったと笑った。
それは同時に、アノニマス・オペレーション方法論の失効も意味する。
いついかなる時にどれだけのヒーローが自然発生したとしても、その頂点を真っ向から受け止め、捻じ伏せることのできる個の力を追求するプランへの注力が必要だ。
――改人、
ある意味では、これもNo.6の示した結論とも言えた。
* * *
ザ・スカイクロウラーが、マイトタワーの元オールマイト事務所を受け継ぐことは大ニュースとなった。その結果、バタフライエフェクトというよりはハリケーンとなったニュースが界隈を激震させた。
なんと、サー・ナイトアイやバブルガール、センチピーダー、“迷わない男”コンパス・キッドが、ザ・スカイクロウラー事務所にサイドキックとして加入したのだ。
サー・ナイトアイが独立すると思っていたオールマイトは、顎が外れそうな程に驚いた。
サー・ナイトアイは、塚内空を通して見た景色の真実を知りたいとずっと考えていた。
オールマイトのサイドキックを辞めるような事があれば、『予知』に出てきた『オールマイトパーカーにバイザーをつけたデザインの服を着たヒーロー』のそばにいたいと考えた。
彼がザ・スカイクロウラーだというのはすぐにわかったが、チームIDATENのサイドキックから運命がどう流れるのかと注目していた。
オールマイトが雄英教師になるにあたり、ヒーロー事務所を手放すところまでは理解できた。
だが、マイトタワーの事務所ごとザ・スカイクロウラーが受け継ぐことになるのは、サー・ナイトアイにとって完全に想定外の出来事だった。
もはや迷う理由は無いと判断し、彼の下へサイドキックとして飛び込んだ。
バブルガールとセンチピーダーは、いわば偶然の産物だ。
バブルガールは愛媛県、センチピーダーは新潟県のヒーローである。
地方で埋もれるよりは、上京して有名になれる可能性のあるヒーローの所でサイドキックをしたいと常々考えていた。
そんな時に、オールマイト事務所を受け継ぐヒーローが現れたニュースを聞いて、迷わず飛び込んだのだ。
“迷わない男”コンパス・キッドは引退も視野に入れていたが、「子供にお父さんのカッコいいトコを見せておきたい」とずっと考えていた。
原作ではNo.6に殺されてしまった彼だったが、彼が死なずに生き残った結果、運命はザ・スカイクロウラー事務所旗揚げへの合流を選択させた。
サー・ナイトアイの熱心な教育により、九月の試験でジェントルとラブラバは正式にヒーロー免許を取得することができた。
ジェントルは「ナイトアイにだけは逆らってはいけない」と、恐怖に震えていたという。
だが念願たるヒーロー免許の取得は、彼にとって滂沱の涙を流すに値するものだった。
【ザ・スカイクロウラー事務所(協力:オールライト・ホールディングス)】
《所在地》
港区六本木マイトタワー
《代表》
ザ・スカイクロウラー
《サイドキック》
サー・ナイトアイ
ジェントル・クリミナル
ラブラバ
バブルガール
センチピーダー
コンパス・キッド
* * *
時間はゆっくり、しかし確実に経過していく。
「ぐっ……!」
鳴羽田の片隅。
不良に突き飛ばされた少年は、必死に叫ぶ。
「こ……この街はあのザ・スカイクロウラーと、怪傑浪漫ジェントルの地元なんだ、何かあったらすぐ飛んで来るんだぞ!」
少年のハッタリは、不良達には通じなかった。
「来るかよバァーカ!」
「六本木でヒーローやってる奴が、たかがカツアゲぐらいで鳴羽田に来るかよ!」
不思議なことに、鳴羽田の犯罪率は高い。
警察やヒーローがどれだけ頑張っても、次から次へと変なのが湧いてくる。
「そうだな……奴は来ない」
一人の男が、ふらりと現れる。
「だ……誰だ!?」
「ヒーローというやつは忙しい。わざわざこんな路地裏に飛んでは来ない」
迷うこと無く、その男は歩みを進めていく。
「では貴様らのような、
顔の上半分をマスクで覆ったコート姿。
しっかりと己の二本足のみで立つ、頼もしい姿。
「
【My Hero Academia ~Sora Tsukauchi Can't Be A Hero~】
Thank you for reading.
The End of Vigilantes Era, And――
――The Story of Izuku Midoriya Begins?