塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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【僕のヒーローアカデミア(※ジャンプ+連載)】時間軸
EP.34 「記念受験の結果」


 

【ビギン】《begin》

 始める、開始する。

 (習慣などが)定着する。

 終わらせるために、始めること。

 

 

 * * *

 

 

 2/26。

 国立雄英高等学校の建物を見上げながら、もじゃもじゃの緑髪の少年が震えていた。

 顔を震わせ、手を震わせ、身体を震わせ、足を震わせ。

 しかし少年は、勇気を振り絞って前へ踏み出そうと決意し直す。

 

 目標(ヒーロー)への第一歩を!

 

 緑髪の少年が踏み出した瞬間、4つの事がほぼ同時に起きた。

 

 まず、緑髪の少年が思いっきりこけた。

 次に、その身体がふわりと浮かんだ。

 少年が背負っていた巨大なリュックサックが片手で支えられていた。

 少年の胸の前に、少年が倒れないように女性の腕が差し出されていた。

 

「大丈夫?」

 

 少年を浮かせた少女が、心配そうに緑髪の少年に問う。

 

「わっ、えっ!?」

「きちんと前を見たまえ、縮毛(ちぢれげ)の君」

 

 背の高い青年が、眼鏡のつるに手を当てながらリュックサックを離す。

 緑髪の少年の胸を片手で支えていた少女が、手慣れた様子で少年を地面に立たせる。

 

「転んじゃったら、縁起が悪いですから」

 

 女性陣は冬用のコートを羽織っているが、全員同じ中学の制服だとわかる。

 

「緊張するよねぇ」

 

 個性だろうか。

 自分を浮かせた少女が、緑髪の少年に対して微笑を浮かべる。

 

「へ……あ……えと……」

 

 口ごもった緑髪の少年に、彼を支えた三つ編みの少女が苦笑する。

 

「お互い、頑張りましょう」

 

 少年を支えた三つ編みの少女は、彼(166cm)より少し背が高かった(169cm)。

 

「行こう、麗日(うららか)くん、塚内(つかうち)くん」

「じゃね」

「そうだね、飯田くん。それじゃ」

 

 白を基調とした、清楚なイメージの制服を着た青年一人と少女二人。

 三人は、何事も無かったかのようにその場を去って行く。

 

(そら)ちゃん、それ長いよねえ。何持ってきたの?」

「……ただの棒。移動にも攻撃にも使える」

「そういえば、持ち込みは自由と書いてあった……それでか、塚内くん!」

 

 三人が去った後、緑髪の少年こと緑谷(みどりや)出久(いずく)は、感動に打ち震えていた。

 

 ……女子と、喋っちゃったァ……!

 

 

 * * *

 

 

「今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!」

 

 ボイスヒーロー・プレゼントマイクの実技試験説明に、緑谷出久は感動する。

 

「ラジオ毎週聞いてるよ、感激だなぁ、雄英の講師は皆プロヒーローなんだ」

「うるせえ」

 

 緑谷出久の隣りにいた、目つきの悪い少年・爆豪(ばくごう)勝己(かつき)が簡潔に悪態をつく。

 

 実技試験説明内、仮想(ヴィラン)を三種配置しているという説明の時。

 緑谷出久の前の方の席で、背の高い眼鏡の青年が、隣りに座る三つ編みの少女に何事かを二言三言、囁かれていた。眼鏡の青年は信じられないとばかりに目を大きく見開き、手元の説明用紙とプレゼントマイクを交互に見始める。

 急に慌てはじめた眼鏡の青年を見て、緑谷出久を浮かせた少女はクスクスと笑っていた。

 

 うわぁ……アオハルってやつだァ……!

 

「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と!」

 

 プレゼントマイクが、受験者全員にエールを送った時。

 三つ編みの少女の何気ない呟きを、緑谷出久は確かに聞いた。

 

「『人間はあらゆるものを発明することができる。ただし、幸福になる術を除いては』」

更に向こうへ(プルス・ウルトラ)! それでは皆、良い受難を!」

 

 三つ編みの少女の呟きは、プレゼントマイクの声にかき消されてしまった。

 その呟きの内容もまた、ナポレオン語録ではあった。

 

 

 * * *

 

 

 10分間の、模擬市街地演習。

 私は、爆豪君と同じ演習会場だった。

 お茶子ちゃんは、原作同様に緑谷君と同じ演習会場っぽかった。

 (その意味では、飯田君はさらに別の会場に回されたみたいだけど、問題は無いと思う)

 

 持ち込みが自由だったので、私は堂々と(こん)を持ち込んだ。

 棍棒の(こん)の字という説明をしてしまうと、ドラクエの巨人が持っている片側が超太い木を連想してしまう人がいるかもしれない。

 そうではなく、ただの細長い棒。

 

 棍はあらゆる武器の最も原初の姿であり、「百兵の祖」と呼ばれる。

 中国武術において、棍は剣・刀・槍と並ぶ最も主要な武器とされている。

 ちなみに他の武器の呼称は以下の通り。

 

 ・棍:百兵の祖

 ・槍:百兵の王

 ・刀:百兵の帥

 ・剣:百兵の君

 

 わざわざ全部の武器に百兵って名前をつける意味はあるの……?

 

 太極拳では白蝋棍(はくろうこん)と言って、200cm~220cmぐらいの長いものを使う。

 日本の武術だと六尺棒と言って、180cmの棒を使う。

 

 白蝋棍(はくろうこん)が日本で売ってなかったので、仕方なく六尺棒を買いました。

 なので、お茶子ちゃんに『棒』と説明したのは何も間違ってません。

 どうせ実技試験でしか使わないから、長い棒ならなんでもいいんです。

 

「ハイスタートー!」

 

 プレゼントマイクの合図と同時に、私と爆豪君は走り始める。

 他の受験者達は、何が起きたのかわからず呆然と突っ立っていた。

 

「どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねぇんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられてんぞ!?」

 

 賽は投げられた(アーレア・ヤクタ・エスト)

 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』で何度も言われてた言葉。

 ユリウス・カエサルが、軍を率いたままルビコン川を渡る(※反逆行為)際に発したとして知られる言葉。

 

 私はピタリと爆豪君の背後について、彼が取りこぼした仮想(ヴィラン)をちまちま棍で破壊していた。

 そんな私をチラリと見て、爆豪君は嘲るような目で笑い、視線を前に戻す。

 

 大混戦の中、三分も経たずに私の本当の狙いが会場に現れてくる。

 

 爆豪君が完全に無視している、救助活動P(レスキューポイント)

 それをできるだけ回収するのが、私の目的。

 

 ぶっちゃけこの入試、効率だけで言うなら救助活動P(レスキューポイント)を稼いだ方が早い。

 まして、ヴィランポイントだけで実技総合一位を取ってしまう爆豪君と一緒のグループなら尚更だ。彼の撃破速度に力で対抗しようとすること自体が間違いである。

 それよりは、(こん)を補助に使いつつ、彼を利用する立ち回りに徹した方が確実で安全。

 

 棍術の特徴として、力任せに振るわない、というのがある。

 重力加速度を用いない、と言い換えてもいい。

 

 要は映画のように格好よくぶん回そうとすると、棍のほうに体が引っ張られてバランスを崩してしまう。体のコントロールを失うという事は、武術では自滅を意味する。

 

 結果的にどうなるかというと、すっごく地味な立ち回りになる。

 突いてー、叩いてー、捻じ込んでー、足場にして跳ねてー、突いてー、跳ねてー。

 (※彼女自身は地味だと思っているが、ソウルキャリバーや鉄拳に出てくる中国拳法系格ゲーキャラが目の前にいるようなものなので、案外派手だ)

 

 派手な爆発をあげながら、格好良く仮想(ヴィラン)を倒していく爆豪君。

 彼の取りこぼした仮想(ヴィラン)を倒しつつ、試験についていけず倒れた生徒を救っていく私。

 

 

 最後の最後、0ポイントの超巨大仮想(ヴィラン)が出現した。

 救助対象がいれば緑谷君のように助けたんだけど、私と爆豪君しか周囲にいなかった。

 

 超巨大仮想(ヴィラン)(くるぶし)に相当する箇所が、剥き出しの関節部分だった。

 (こん)、もとい六尺棒を持ち帰るのも面倒だったので、関節部分に全力の勁で突き刺してあげた。

 

「どけやモブ女ァ!」

 

 よろめいた超巨大仮想(ヴィラン)に対し、大きく飛び跳ねた爆豪君がその右手を向ける。

 

「死ねェッ!」

 

 超巨大仮想(ヴィラン)が、大爆発して倒れた。

 大きく飛び跳ねたのは、私を個性『爆破』に巻き込まないよう配慮してくれたのかな?

 

「終了~~~!」

 

 プレゼントマイクの大声が、会場内に響き渡る。

 やってやったぜ、とばかりに右拳を左手に打ち付けて不敵に笑う爆豪君。

 

 なんだかんだで、それなりの成績は出せたと思う。

 とはいえ、記念受験であることに変わりは無い。

 書類は無個性で提出してるし、不合格確定でしょと苦笑しながら、私は会場を後にした。

 

 

 * * *

 

 

 入試試験後、国立雄英高等学校の教職員会議は荒れた。

 経営科、ヒーロー科を併願した塚内空の扱いをどうするか、揉めに揉めた。

 

 司法試験に最年少合格するだけはあり、塚内空は筆記試験トップの成績だった。

 経営科だけでなく、ヒーロー科もトップの成績だったのが最大の問題だった。

 

【ヒーロー科入学試験・実技結果】

------------------------------------------------------

1位:塚内 空:VILLAIN 23 + RESCUE 55 = 78

2位:爆豪勝己:VILLAIN 77 + RESCUE 0 = 77

------------------------------------------------------

 

 状況を早く捕捉するための情報力。

 遅れて登場じゃ話にならない機動力。

 どんな状況でも冷静でいられる判断力。

 そして純然たる戦闘力。

 

 塚内空は、どれも悪くない。

 実技で1位を取った動きは、見事なものだった。

 

 だが、たった一点。

 最大にして最悪の懸念事項が彼女には存在した。

 

 塚内空は、役所に『個性:無し』として登録されている。

 提出された書類にも『個性:無し』と書かれている。

 

 ……つまり、無個性ということだ。

 

 個性がなくとも、ヒーローはできるのか?

 この命題について、雄英の教師達は激しく議論を交わしあった。

 

 

イレイザーヘッド(賛成)

「……俺は以前、彼女に蹴り飛ばされ、気絶させられました。プロヒーローである俺が、無個性の彼女に後れを取った。それが全てです。『個性がないから危ない』? 笑わせないでください。現場で動けない個性持ちより、動ける無個性の方が生存率は高い。彼女には実力がある。落とす理由がない。除籍権限を剥奪された俺が言うのもなんですがね」

 

オールマイト(反対)

「……私は反対だ。確かに彼女は強い。だが、プロの世界は『身体強化』や『異能』が飛び交う理不尽な暴力の場だ。彼女を戦場に立たせることは、死にに行かせるのと同じだ。相応に現実を見る必要がある。彼女は……最前線に行かずとも、活躍できる人材だ」

 

ブラドキング(反対)

「イレイザーの意見も分かるが、やはりリスクが高すぎる。ロボット相手なら弱点を突けば倒せるかもしれんが、対人、対災害となれば『火力』と『耐久力』がモノを言う。無個性の肉体では、瓦礫の下敷きになっただけで即死だ。学校として安全配慮義務を果たせない。警察や経営だって立派な仕事だ、諦めて貰った方がいい」

 

プレゼント・マイク(賛成)

「え〜? でもさでもさ! 成績トップだよ!? ここで落としたら『雄英は実力主義じゃなくて差別主義』って言われちゃうぜ!? 無個性(No Quirk)でトップ取るとか、最高にRockじゃん! 俺は入れてやりてぇな!」

 

スナイプ(賛成)

「……俺ァ、火力よりも『頭』を評価してぇな。東京スカイエッグ事件は凄かった。通信が死んで、暗闇で、敵の数も不明って状況下だ。プロ連中だってパニック寸前だった現場で、彼女は一瞬で作戦を立案し、何十人ものヒーローを『適材適所』に配置してみせた。迎撃、誘導、防衛。あの采配がなけりゃ、被害はもっと拡大してたはずだ。現場で最も必要なのは『個性』じゃねぇ。『状況判断力』だ。指揮官(コマンダー)としての資質なら、彼女は既にプロ以上だよ。落とす理由はねぇ」

 

ミッドナイト(賛成)

「私は彼女の『交渉力』と『洞察力』を買うわ。以前、ドラッグの売買ルートを探るための『合コン潜入捜査』に協力してもらったことがあるんだけど……当時まだ小学生だったのに、メイクと立ち振る舞いだけで『クールな男子大学生』を完璧に演じきって、ターゲットを油断させたの。しかも、あっさり犯人を見抜いて合図を送ってきたわ。ヒーローの仕事は殴り合いだけじゃない。誰とでも組めるコミュニケーション能力は、ヒーローとして地味に重要な能力だわ」

 

リカバリーガール(反対)

「アンタたちねぇ、治す私の身にもおなりよ。個性による身体強化がない子が、強化系のヴィランに殴られたらどうなるか。内臓破裂、複雑骨折、即死だよ。私の治癒能力だって、本人の体力がなきゃ効かないんだ。死体袋に入れるのがオチさ。やめておきな」

 

セメントス(反対)

 「しかしまァ、無茶をする女の子だ……武術の腕は見事だけど、それだけではヒーローはやっていけないよ。前例がない以上、慎重になるべきだ。何かがあった時に責任をとれない」

 

エクトプラズム(賛成)

「不必要ナ戦闘ヲ避ケ、レスキューニ徹シツツモ、戦ウベキ時ハ戦ッタ。0ポイントノ超巨大仮想(ヴィラン)ヘノアシストモ万全ダッタ。我ガ欲スハ逆境を打チ崩スヒーローノ瞬キ。賛成ニ一票ダ」

 

ハウンドドッグ(賛成)

「グルルル……強者の匂いがする……愚者ではない。興奮状態でもなく冷静を貫き、二位の火力に競り合おうとせず理知的に利用した。そこは純粋に評価すべきだ」

 

13号(反対)

「皆さんご存じだと思いますが、僕の個性は簡単に人を殺せる力です。そういう個性持ちは沢山いるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる『いきすぎた個性』を個々が持っているということです。私達の力は人を傷つけるためにあるのではありませんが、根底となる力すら無いのであれば、論外だと判断します」

 

パワーローダー(条件付き賛成)

「『道具』を使えば火力は補える。事実、彼女は棒を使用していた。銃を持てば、無個性でもヴィランの頭は撃ち抜ける……理論上はね。サポート科との連携を条件になら、アリだと思うよ」

 

根津校長(賛成)

「彼女は入試のルールに則り、最も効率的にスコアを稼いだんだぜ! 『個性がないとヒーローになれない』というのは社会通念だけど、雄英の校則に『無個性の入学を禁ずる』とは書かれてないのさ! 前例がない? なら作ればいい。彼女の知性と身体能力は、多くの個性持ちを凌駕している。これを不合格にする方が、教育機関としては不合理だと思いたまえよ!」

 

 

 決して、満場一致ではない。雄英の教師達はそれぞれの立場から分析し、彼女をヒーロー科に合格させるかどうか真剣に検討した。

 なお経営科の教師陣は「彼女の何処に何を教えろと?」と肩をすくめるだけだった。

 

 

 * * *

 

 

 ゆえに、一週間後。

 夕食時に、父親の塚内直正から手紙を渡された時、塚内空は冷静だった。

 

(そら)、雄英から書類が届いているよ。合格通知なんじゃないのかい?」

「ありがとう、お父さん。多分、経営科の合格通知だと思う」

 

 自己採点は何も問題無かった。

 塚内空の気合いが入ったのは、経営科試験の小論文だった。

 

 『大規模ヴィラン災害による都市機能の麻痺と、それに伴う経済損失(風評被害含む)を最小限に抑えるためのヒーローと自治体・企業の連携モデルについて、具体的な事例を挙げて考察せよ』

 

 直近で「スカイエッグ事件&鳴羽田ロックダウン」があったばかりなので、社会問題として採用されたと推測される。

 塚内空は「被害額の試算・復興のスピード・ヒーローの役割」を論理的にまとめ、最後に「ヒーローはヴィランを倒すだけでなく、『復興の旗印』として経済を回すエンジンの役割も担うべきである」と締めた。

 

 役所に『個性:無し』として登録されている無個性の私(無個性とは言っていない)が、ヒーロー科に受かるわけがない。

 心の底からそう信じていた塚内空が、手紙を開けた瞬間に投影されたオールマイトの姿に味噌汁を吹きかけたのは乙女の秘密ということにしてあげたいと思う。

 

「合格だ……来いよ塚内少女! 雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!」

「おお……やったなぁ、空!」

 

 父は既にオールマイトとの仲を深め、塚内くんと呼ばれるようになっている。

 それだけに、喜びもひとしおといった感じだった。

 

 だが、塚内空は素直に喜べなかった。

 

 自分の代わりに、誰が落ちてしまったのか。誰が不在なのか。

 二次創作でよく見たのは、『砂藤不在』『口田不在』タグだったけど。

 まさか『A組21人』タグなのだろうか。

 

 寝不足になりそうだったので、空は麗日(うららか)お茶子に連絡を取った。

 

「うん、あたしも合格したんよ! 良かった、一緒に行けるね!」

「3LDKぐらいの部屋を雄英の近所に借りるつもりだから、一緒に住も?」

「さ、3LDK? ……お、おやちんは……?」

「うん? 家賃も光熱費も食費も全部私が出すから安心して。お茶子ちゃんは自分の携帯電話代だけよろしくね」

「ほぎゃー!」

 

 電話の向こう、どんがらがっしゃーんとお茶子が転がる音がしたので、空は苦笑した。

 福利厚生の一環としての社宅だから、社会保険料の節約とただの節税になる。

 経営者側の思考として、何も問題は無かった。

 

 

 * * *

 

 

 春、それは高校生活の始まり。

 私は早めに雄英に登校して、真っ先に座席表を確認した。

 

 

【雄英ヒーロー科1-A座席表】

  [  黒板  ]

 

葉隠 耳郎 上鳴 芦戸

爆豪 瀬呂 切島 蛙吹

緑谷 塚内 口田 飯田

峰田 常闇 砂藤 麗日

八百万 轟 障子 尾白

 

 

 青山優雅(チャド)の霊圧が……消えた……?

 あと私の名字が塚内だから、席順にすると緑谷君の隣りの席になるのか。

 へー。なにこの偶然。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ、てめーどこ中だよ端役が!」

 

 原作でも行われていた、飯田君と爆豪君の言い合いがはじまっていた。

 ちらりと見れば、1-Aのドアを少しだけ開けた緑谷君が入りづらそうにしている。

 

「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉(てんや)だ」

「聡明~~!? くそエリートじゃねぇか、ブッ殺し甲斐がありそうだな!」

 

 私はため息を一つついてから、飯田くんを止める。

 

「飯田くん、やめなよ」

「塚内くん」

「彼のご両親が、机に足をかけてはいけないという躾けに失敗しただけだよ」

 

 すると、爆豪君がさりげなく足を床に戻しながら叫んだ。

 

「テメェこのモブ三つ編みがァ、ブッ殺すぞ!」

「ふーん」

 

 私は爆豪君の耳に口を近づけて、小声でそっと囁く。

 

「私は二人殺したよ。キミは何人殺したの?」

「なっ……!?」

 

 唖然とする爆豪君からするりと身を離し、私は微笑を浮かべる。

 

「私立聡明中学出身、塚内(そら)。よろしくね」

「今日って式とかガイダンスだけかな? 先生ってどんな人だろうね、緊張するよね!」

 

 お茶子ちゃんが、楽しそうに笑う。

 あー、先生は、と私が言いかけた、まさにその瞬間だった。

 

「お友達ごっこをしたいのなら、他所(よそ)へ行け」

 

 放置されたボサボサの髪の毛ではなく、美容院でキッチリ整えられた髪。

 無精髭のようで、ちゃんと手入れがされているとわかる髭。

 捕縛布をマフラーのように首に巻いてはいるが、ブリティッシュスタイルのオーダースーツ。

 

「ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 原作のように寝袋(シュラフ)の中に入っていない。

 エネルギーゼリーを咥えてもいない。

 原作しか知らない人が見たら腰を抜かして驚くような、スパダリ系イケメンが普通に教室に入ってきた。

 

「担任の相澤消太だ。よろしく」

 

 私は静かに着席し、青山君はどこに行ったんだろう、と内心で首を傾げた。

 

 

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