塚内空はヒーローになれない   作:RAP

35 / 76
EP.35 「黒い光」

 

【シークレット・アイデンティティ】《secret identity》

 スパイやスーパーヒーローなど匿名の人物の、

 本当の姿、秘密の正体。

 

 

 * * *

 

 

 個性把握テスト。

 無個性(無個性とは言ってない)の私にとっては、微妙なテストだ。

 

 入学式や、ガイダンスといったものもなく。

 体操服に着替えてグラウンドに出た私達は、早速体力テストをすることになった。

 ……入学式はともかく、ガイダンスぐらいは無いと効率が悪いような……?

 

 ただ案の定、代表として投げた爆豪君の投げ方と成績に、皆は盛り上がってしまう。

 まず、芦戸さんが言い放つ。

 

「なにこれ! 面白そう!」

「個性思いっきり使えるんだ、流石ヒーロー科!」

 

 これは瀬呂君。

 『面白そう』が芦戸さんの台詞だったってことは、アニメ版が微妙に混じってるのかな?

 実際、太極拳も原作漫画には出ずに、アニメ版だけに登場した単語だったしね。

 原作なんてとっくに破壊されていることから目を逸らした私は、相澤先生に注目する。

 

「面白そう……か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 スパダリイケオジと化した相澤先生(グラウンドでの指導なのにオーダースーツのまま。ファッション重視というより着替えるのが面倒臭かっただけだと私は感じた)は、真剣な表情になる。

 

「よし、トータル成績最下位の者はやる気無しと判断し、夕飯抜きとしよう」

「はあああ!?」

 

 あっ、除籍処分から夕飯抜きになった。

 年齢層高めの人達が「儂等もよくしごかれたもんじゃ」と遠い目をして同意する、雄英なら仕方ない理論。

 しかも私達は全寮制ではなく家から通ってるので、律儀に守らなくてもいいやつ。

 

「そんな……理不尽すぎる!」

「なんだ、除籍処分の方が良かったか?」

 

 相澤先生は、私の方をチラリと見てから苦笑した。

 大丈夫ですよ叔父様、除籍の合理的虚偽でなければ妥協します。

 

「放課後マックで談笑したかったならお生憎(あいにく)。理不尽を覆してみろ、ヒーロー」

 

 そんな感じで、個性把握テストがはじまった。

 

 

 * * *

 

 

 ちゃんと鍛えているのであれば、無個性でも前世オリンピック選手を越えられる。

 まして、個性・中学生・高校生とレベルキャップが三回外れたのであれば、もはや体力テストの内容に合った個性を持っているかどうかという個性ガチャの領域だと思う。

 

・ソフトボール投げ:まあ男子並には

・立ち幅跳び:日常的にビルの屋上にジャンプしてパルクールしてます

・50m走:芦戸さんよりちょっと早い(個人的には3mとか5m移動の方が得意)

・持久走:タバタプロトコル舐めんな

・握力:私が鍛えているのは握力ではなく、抓力(そうりょく)という瞬間的な握力なのでそこそこ

・反復横跳び:どうしろと?

・上体起こし:まあ男子並には

・長座体前屈:理論値最大(幼少時の長拳のおかげ)

 

 両脚を前後に180度開脚しながら座る。

 座位のままで両脚を左右に180度開脚する。

 Y字もI字も越えた、立ったままでの200度開脚。

 一応、この辺の柔軟性はずっと維持している。

 

 蛙吹さんも身体は柔らかいんだけど、身長差の関係で長座体前屈は私が一位だった。

 

 個性把握テストは、結果として8位だった。

 切島君に僅差で勝った感じ。

 

 ただ、除籍は無いのにも関わらず、緑谷君は一人で勝手に追い詰められている感じだった。

 現時点だと、一度個性を使う度に身体が壊れていく段階だからどうしようもないのはわかる。

 

 ……多古場海浜公園、まだ綺麗なままなのかな。

 彼が訓練する場所を奪ってしまったみたいで、ちょっと気が引ける。

 とはいえ身体の鍛え方なんて幾らでもあるから、多分大丈夫……だよね?

 

「夕飯抜きは君らの最大限を引き出す合理的虚偽としても良かったが……あえて言おう、最下位の緑谷は夕飯抜きだ。リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

 相澤先生から夕飯抜きがガチで宣告されたことに、クラスの皆は恐怖に震えていた。

 でもこれは、別に守る必要の無い指示。

 寮住まいではないので、自宅で夕飯を食べようが皆にはわからない。

 リカバリーガールはペッツをくれるし、本気で夕飯を抜いたとしても夜食を摂る選択肢もある。

 でも多分、緑谷君の性格的に馬鹿正直に夕飯抜きにしちゃうんだろうなぁ。

 

 

 案の定、がっくりと両肩を落としている緑谷君の下校姿に苦笑する。

 除籍の合理的虚偽と、どっちがマシだったんだろう?

 飯田君が周囲にいなかったので、代わりに私が話しかけてみた。

 

「指は治ったの?」

「わ! 塚内さん……うん、リカバリーガールのおかげで……」

「夕飯抜きとか、気にすることないと思う。夕飯の前後に間食を二回摂ればいいだけ」

「……そ、そうなの?」

 

 緑谷君が、そんなのアリ? なんて顔をしてる。

 私は苦笑しながら説明する。

 

「一日三食なんて法律は、どこにも無いよ? 例えばボディビルダーだと、一日六食の人もいる。私はプロテインをよく飲むけど、プロテイン一杯を一食と数える人もいる。お相撲さんだと、太るためにわざと一日二食にしたりしてる。その意味では、夕食抜きなんて、もっと柔軟に考えていいと思うよ?」

「お二人さーん! 待ってー!」

 

 お茶子ちゃんが、手を振りながら駆け寄ってくる。

 

「えっと、緑谷……デクくん? だよね!」

「正確には、出久(いずく)くん」

 

 私がそう説明すると、お茶子ちゃんは首を傾げる。

 

「え? だってテストの時、爆豪って人が『デクてめェー!』って」

「あの……本名は出久(いずく)で……デクはかっちゃんがバカにして……」

「いわゆる、蔑称(べっしょう)というやつ」

「えー、そうなんだ! ごめん!」

 

 お茶子ちゃんはけらけら笑いながら、フォローの言葉をかける。

 

「でも『デク』って……『頑張れ!』って感じで、なんか好きだ、私!」

「デクです」

「緑谷くん、掌の回転が早い……早すぎない?」

 

 名場面ではあるのだけれど、やっぱり苦笑するしかない。

 緑谷君は、恥ずかしそうに両手で顔を押さえながら呟く。

 

「コペルニクス的転回……」

「コペ?」

「ふふっ。考え方を180度変えたってこと」

 

 私はお茶子ちゃんに説明しながら、家路につく。

 

 

 コペルニクスは天動説を捨てて、地動説を唱えた。

 その事を表現した、哲学者イマヌエル・カントの言葉がコペルニクス的転回。

 

 ただこの台詞、個人的にはもうちょっと深いと思ってる。

 

 【木偶の坊(でく‐の‐ぼう)】

 1.人形。あやつり人形。でく。

 2.役に立たない人。気のきかない人。また、そのような人をののしっていう語。「この―め」

 

 飯田君が原作で言ったように、デクは一般的には蔑称だ。

 でも、宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』が絡むと全く意味が変わってくる。

 

「ミンナニデクノボートヨバレ/ホメラレモセズ/クニモサレズ/サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」

 

 賢治が描いた「デクノボー」は、自己を捨てて他者に尽くす存在。

 自分を誇示せず、黙々と人のために尽力する姿に「無私の美徳」が重ねられている。

 

 木偶の坊。

 自己を捨てて他者に尽くす存在。

 無私の美徳のヒーロー、デク。

 

 彼がそういう存在であることは、一巻の時点で既に示されていた。

 そんな、コペルニクス的転回。

 

 

 * * * (単行本のコラムページ的なアレ)

 

 

 塚内空(15)

 

 個性:『否定』

 出身校:聡明(そうめい)中学校

 出身地:東京都(前世は静岡県)

 Birthday:2/2

 Height:169cm

 血液型:O型

 好きなもの:物語、プロテイン

 CV:楠木ともり

 

 THE・裏話

 

 ・前世は法科大学院卒の弁護士

 ・塚内真(現:相澤真)の女子高生時代を想像してみてください。

  外見や身長の高さなど、モデル系の血筋です。

 

 

 * * *

 

 

「わーたーしーがー」

 

 別の日、午後のヒーロー基礎学。

 となれば、綿菓子機(オールマイト)先生の予感。

 

「普通にドアから来た!」

「オールマイトだ……! すげぇや、本当に先生やってるんだな……!」

 

 皆がざわつきはじめる中、戦闘服(コスチューム)に着替えてグラウンド・βに集まれと指示が出る。

 

 個人的に問題があるとすれば、戦闘服(コスチューム)

 被服控除以前に、合格すると思ってなかったので全く考えていなかった。

 

 そこで、B組の物間寧人くんのコスチュームを思い出しました。

 物間寧人くんのコスチュームがアリなら、いつものスーツをアレンジしちゃえばよくない?

 スーツの上着を、ロングコートにしちゃえばそれだけでイメチェンできるはず。

 

 ……思考放棄して実行した結果、チェンソーマンのマキマさんに似てないコスプレが完成。

 黒いロングコートとスーツと三つ編みだけが似ています!

 

 まあ上鳴君とか現時点だと体操服そのままみたいなノリだし。

 お茶子ちゃんみたいなパツパツスーツよりはマシかな?

 

「君らには、これから『(ヴィラン)組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 オールマイト先生がそう宣言し、ルール説明がはじまっていく。

 

 

【屋内対人戦闘訓練・概要】

●勝利条件:

・ヒーロー側はヴィランを確保または核の回収

・ヴィラン側はヒーローを確保または制限時間まで核を守る

●制限時間:

・15分(ヴィラン側の準備時間5分)

●持ち物:

・小型無線機

・建物の見取り図

●特殊ルール

・核の場所はヒーローに知らされない

・核の回収条件は本体にタッチ

・確保テープを相手に巻き付けると「捕らえた」証明になる

 

【コンビ発表】

A:ヒーロー:麗日&緑谷

B:ヒーロー:轟&障子

C:ヴィラン:八百万&峰田

D:ヴィラン:飯田&爆豪

E:ヒーロー:芦戸&塚内

F:ヴィラン:砂藤&口田

G:ヒーロー:耳郎&上鳴

H:ヒーロー:蛙吹&常闇

I:ヴィラン:尾白&葉隠

J:ヴィラン:瀬呂&切島

 

 

 私と青山君が入れ替わっただけで、後は原作通り。

 原作で明かされなかった対戦の組み合わせは、アニメで描写されていた。

 だから、アニメ通りだと『F:砂藤&口田』が私達の相手になるんだけれど……。

 

 青山&芦戸コンビなら、砂藤&口田コンビが相手になるのはわかる。

 

 でもこの世界だと『E:芦戸&塚内』、つまり女性同士のコンビなわけで。

 そうなると、多分運命的なナニカが『C:八百万&峰田 』を相手に持ってくるんじゃないかなぁ?

 

 この世界が漫画なのかアニメなのかは知らないけれど、私や芦戸さんや八百万さんの胸や太股、お尻などが無駄に強調されたアングルや描写の戦いになる。

 『寺沢武一アングル』で検索かければすぐに出てくると思う。

 女性のお尻と股間から他の人物が見える構図とか、なんかそういう。

 そして、読者視点の峰田君だけが喜ぶというオチ。

 

 実際、今も峰田君は隙さえあればヤオヨロッパイを眺めてる。

 

 ……にしても、耳郎さんと上鳴君のコンビ。

 青山君が不在になって私が入った関係で、席順の段階で二人は隣同士になってるんだよね。

 今回の対人戦闘をはじめとして、八年後の隣り合った事務所も含めて二人はイチャついてる。

 芦戸さんじゃなくても、もう結婚してくださいという気分になる。

 

 とか考えてたら、物凄い爆発音がグラウンド・βに鳴り響いた。

 音声は私達生徒には聞こえないけど、多分ブチ切れた爆豪君がやらかした。

 一応、言うだけ言ってみる。

 

「先生、緑谷くんの怪我が増えるだけです。止めた方が……」

「いや……」

 

 オールマイト先生が、逡巡していた。

 止めた方がいいと思うんだけどなぁ。

 

「爆豪少年、次それ撃ったら……強制終了で君らの負けとする」

 

 頭をかきむしった爆豪君が、何かを叫んでいるのがモニタから見える。

 生徒の音声が教師にしか聞こえない仕組みになっている理由は、ちょっとわからない。

 

 ただ、爆豪君が個性『爆破』を使いながら間合いを詰め、フェイントとして緑谷君の目の前で『爆破』させ、彼を飛び越えてから両腕を広げて『爆破』で背中を攻撃しつつ空中でバランスを取った時、轟君をはじめとした皆はその技術に驚愕していた。

 

「目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更、そして即座にもう一回……考えるタイプには見えねぇが意外と繊細だな」

「慣性を殺しつつ有効打を加えるには、左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」

 

 峰田君は、轟君に続いて解説するヤオヨロッパイをガン見し続けてる。

 

「才能マンだ才能マン、ヤダヤダ……」

 

 上鳴君がため息をついているが、私の見立てでは少し違う。

 

 緑谷君は、爆豪君がフェイント爆破をしてくるものと信じて(実際に爆豪君はフェイント爆破をしてしまったのだから正解なのかもしれないけれど)、両手を前に出して両目を(つぶ)ってしまった。

 つまり、相手がフェイント爆破を絶対にしてくるという思考に居着いてしまった。

 私が爆豪君だったら、目を(つぶ)って両手を前に差し出して硬直している緑谷君をやりたい放題に攻撃してそこで終わらせる。

 わざわざ彼を飛び越える意味が無い。

 両手を突き出した緑谷君の両腕を崩しながら中に入って、隙だらけの胸に突進の勢いそのままで八極拳の頂肘を入れれば、多分緑谷君の肋骨は何本か折れて……?

 最悪死んじゃうからダメですね。やめましょう。

 

 とか思ってたら、お茶子ちゃんの彗星ホームランが決まって核回収に成功。

 麗日&緑谷ヒーローチームが勝利した。

 

 緑谷君は保健室に搬送され、授業は続いていく。

 リカバリーガールが怒る理由も、わかるなぁ……。

 

 講評タイムにおいて独壇場とばかりに八百万さんが解説し、オールマイト先生が冷や汗をかく。

 

「常に下学上達! 一意専心に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」

 

 ヤオヨロッパイが目立つ仁王立ちで、八百万さんがふんすと鼻息を荒くしている。

 本当にあったら笑っちゃうけど、もし天界ジャンププラス編集部なんてものが存在していたら、作家に対してねちっこいエロ描写にしろ、とか指示を出してるはず。

 まあ、エロ担当は八百万さんの下乳に任せたく思います。

 

 

 場所を移して第二戦、BvsI。

 ビルに向かう葉隠さんに対して、手を振って送り出したけど。

 正直、アレはヤバい。

 

 お兄ちゃんは「彼女が何処に居るのか、わかる自信がある」と言っていた。

 そしてエコーロケーション技術を学んだ私も、同じ事を言えるようになりました。

 

 貴女が全裸だったとしても、私はどこにいるかわかります。

 見えなくても音の反響でわかります。

 つまり、葉隠さん。貴女は私にとって、ただの痴女です。

 

 案の定、原作通りに轟君が一瞬で試合を終わらせていた。

 その後も、オールマイト先生が淡々と授業を進めていく。

 

「よし、次で最後だ。Eコンビ(芦戸&塚内)がヒーローチーム、Cコンビ(八百万&峰田 )がヴィランチームだ!」

 

 ん。ようやく出番だ。

 私は芦戸さんと目線を合わせ頷いて、指定されたビルへと向かった。

 

 

 * * *

 

 

 ヴィランチームには、準備時間として五分間与えられる。

 言い換えれば、ヒーローチームにも五分間、相談時間があるということ。

 私は柔軟体操をしながら、芦戸さんに話しかける。

 

「芦戸さん、これぐらいのコンクリート壁なら溶かせそう?」

「塚内、なんか作戦あんの?」

「うん。核の設置階数はほぼ一択、外れても確定でその付近。場所は大体絞り込めてる」

「……はぁっ!?」

 

 驚く芦戸さんに対して、私は微笑を浮かべる。

 

「説明するね。ビルが、大雑把にこんな感じになっていたとして……」

 

 私はその辺に転がっていた鉄筋(爆豪君の爆破で生まれたやつ)を手に取った。

 地面に大きな四角を描き、その中に横線を二本、縦線を二本追加する。

 ちょうど、9マスの格子が完成する形になる。

 

「建物の見取り図的に、階段は全階右上マスにある。それで、ここからが本題なんだけど……」

 

 右上のマス目に階段マークを描く。

 

「全てのビルに、非常階段がある。建築基準法および消防法では、火災時に一つの避難経路が塞がれても逃げられるよう『異なる二つの避難経路』を確保して設計しないといけない。五階建てビルなら必須級。片側に階段を集中させると、反対側の端にいる人が逃げ遅れるから、結果的に『両端に階段を配置する』ことになる……つまりこう」

 

 9マスの格子、左中央の外側に、10マス目の階段マークをつける。

 

「中央選好。人間は、複数の選択肢がある時に真ん中付近のものを選びやすい傾向にある。ラーメン屋でカウンター席を案内された時に、端っこを避けて一つ内側に座っちゃう心理って言えば伝わる?」

「すっごいわかる」

「境界回避。非常階段や入り口は、外の世界……鬼ごっこでいう、鬼が来やすい場所。だから心理的に、境界から遠い場所を選びたくなる」

 

 マス目と離れた場所に12345と数字を書いて、1と5の上にバツ印を書く。

 

「一階は論外、五階は屋上から芦戸さんの奇襲があるかもしれないから却下。八百万さんも峰田さんも私を良く知らないから、下から来る可能性が高いと判断する。つまり二階への配置もない」

 

 2の上にバツ印を書く。

 

「残るは三階と四階だね」

「中央選好の法則からすれば、無意識に中間の三階付近を選びたがる。でも、『常に下学上達』なんて言ってる推薦入学の八百万さんが、仮に峰田くんと同じ三階配置の答えになったとして……それを認めたがると思う?」

「……認めない、かなー?」

「うん。少なくとも、代案を出そうとするはず。でも残る代案は四階しかない。峰田くんは私と芦戸さん、どちらかにエッチなことができればいいと考えてるから、どの階に私達が現れても全対応可能な三階に適当な理由をつけて防衛したがるはず。八百万さんは、同じ場所に二名居ても色々なことに対応しきれないと自身を正当化しながら『四階、かつ階段からも非常階段からも離れた場所』に核を移動させる」

「ふおおおー! 塚内すごいよー!」

「後はもう、そんなに候補は残ってない。私は四階の下(南)側を、陽動も兼ねて窓から潜入する。芦戸さんは五階から潜入して、五階中央部分の床を溶かして四階中央部分にダイレクトアタック……速攻OK?」

「OK!」

 

 私と芦戸さんは、ハイタッチをした。

 

 

 * * *

 

 

 準備時間、八百万(やおよろず)(もも)はアニメで描写されたように、核がある部屋を鉄柵で強化していた。

 だが、同じくアニメで描写されたように、峰田は八百万百の尻と太股をずっと眺めていた。

 流石に彼女にキレられ、峰田は「オイラ防衛する!」と言い残して三階に逃走した。

 

 開始直後、10秒も経たずに四階の窓が割れる音がして、八百万百は驚愕した。

 核からは離れたくなかったが、あえて離れて駆けつける。

 どうやって来たのかは不明だが、塚内空が四階の窓をぶち破って侵入していた。

 

(謎のカメラアングル:八百万(やおよろず)(もも)のお尻の後ろ、艶めかしい太股の間から、黒いロングコートに黒いパンツスーツ姿の塚内空が微笑みかけているのが見える)

 

 八百万百は、自身の身体から長い棒を個性『創造』で生み出し、塚内空に対して構えた。

 

(謎のカメラアングル:八百万(やおよろず)(もも)のコスチュームの開いた胸元が強調される。露骨な下乳描写。長い棒が『創造』で生み出された際、彼女の膨よかな胸がぷるりと揺れる。戦闘前の興奮で頬が紅潮した八百万百が、ほう、と熱っぽい吐息を吐く姿が描写される)

 

 塚内空は黒いロングコートを脱ぎながら、左手に巻き付けていく。

 彼女は長い棒を恐れることなく、八百万(やおよろず)(もも)の所へ歩いて行く。

 

(謎のカメラアングル:ロングコートを脱ぐ時の描写が、絵コンテ担当が気合いを入れたのか妙にねちっこい。塚内空が歩く時の腰の揺れ方は、恐らく作監修正が入っている)

 

「ひゃっほーい!」

 

 その時だった。

 五階の床を溶かした芦戸三奈が、護衛無き核に対して直接触れることに成功した。

 無事に着地した芦戸三奈が、笑顔でサムズアップをしてみせる。

 

(謎のカメラアングル:芦戸三奈が飛び降りる所を下方向からの大胆な構図、お尻付近の皺の書き込みに気合いが入っている。落下と同時に彼女の胸がアップ、そのまま可愛いドヤ顔演出)

 

「……なぁっ!?」

 

 八百万(やおよろず)(もも)が、視線を一瞬核の方向へ移してしまった時。

 ふわりと広がった黒いロングコートが、彼女の手から長い棒を奪い取っていた。

 

「終わりです、八百万さん」

 

 呆然としていた八百万(やおよろず)(もも)のおでこに、絆創膏のように確保テープが貼られた。

 

「終了ー! ヒーローチーム、WIIIIIN(ウィーーーン)!」

 

 三階。

 芦戸三奈や塚内空を個性『もぎもぎ』で拘束し、どさくさに紛れてエロいことをしようと画策していた峰田実は、思わず絶叫した。

 

「はぁーーーーーーッ!?」

 

 

 * * *

 

 

「うおー、二階の窓の、あの細っせーフチを踏み台にして四階の窓に行きやがった!」

 

 切島が興奮して驚愕する。

 

「随分器用なことするのね」

 

 蛙吹は感嘆し、賞賛した。

 

「最初から核があそこにあるとわかっていなければ、立てられない作戦じゃないかっ!」

 

 飯田が目を見張る。

 

 皆が驚き、きゃいきゃいと騒ぐ様子を、爆豪は歯がみしながら眺めていた。

 

 

 * * *

 

 

「お疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我もなし! しかし真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃ、みんな上出来だったぜ! それじゃあ私は、緑谷少年に講評を聞かせねば! 着替えて教室にお戻り!」

 

 そう早口で告げると、オールマイト先生は凄い早さで保健室へと向かっていった。

 

「本当に作戦が成功するとは思わなかったよ、塚内ー!」

 

 芦戸さんに、ハグをされた。

 教室への帰り道、わいわいと皆で盛り上がる。

 

蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)よ。梅雨(つゆ)ちゃんと呼んで」

「塚内(そら)です。では、こちらも(そら)ちゃんと」

「俺! 砂藤!」

「はい。よろしくお願いします、砂藤くん」

 

 その時、私は芦戸さんとの作戦がうまくいった事の嬉しさに、注意力、あるいは観察力的なものが少々落ちていた。

 まして、相手は小さく、じっと動かないまま遠間からこちらを見つめていたので、なおのこと気がつけなかった。

 

 とはいえ、仮にこちらを見ていたモノに気がつけたとしても、何も出来なかったと思う。

 私がこの世界に生まれ落ちたことで、どのように蝶が羽ばたいてどんなハリケーンが発生したのか、その全てを私が知る方法は無かったのだから。

 

 

 * * *

 

 

 神奈川県横浜市神野区にある、隠れ家的なバー。

 カウンター席に座って新聞を読んでいた死柄木(しがらき)(とむら)は、ため息をついた。

 

「見たかコレ? 教師だってさ……」

 

 その新聞には、『オールマイト・雄英の教師に!』との記事が掲載されていた。

 やってられないとばかりに、死柄木(しがらき)(とむら)はカウンターに新聞を置いた。

 

「なァ、どうなると思う? 平和の象徴が……(ヴィラン)に殺されたら」

 

 バーの中には、三人しかいない。

 身体中に人間の手首を装着している、死柄木(しがらき)(とむら)

 バーテンの服装をしている黒い霧のような男、黒霧(くろぎり)

 

 そして死柄木(しがらき)(とむら)は、黒霧(くろぎり)の方を見ていない。

 

 だからその問いは、残る一人に向けられたものだ。

 

 長い金髪の前髪は、見えないように左目を隠していて。

 涙すら涸れ果てたとばかりの、昏い瞳を右目に宿し。

 黒いコートに身を包んだ細身の美麗な青年は、ぼそりと喋った。

 

「……叔父さまが、世界の裁定者になる」

 

 バーの中を飛んでいた、一匹の蜂――お尻が注射器型の――が、その青年の顔に張り付いた。

 注射器蜂は、青年の前髪の奥にある左目の中に、もぞもぞと入っていく。

 

「きっと、僕らに幸福をもたらしてくれる」

 

 

 個性『ネビルレーザー』は、AFOにとっては不要なもので、余っていた。

 だから彼の両親に請われるまま、彼にプレゼントしてあげた。

 

 多少は使えるコマになるかと思ったので「オールマイトが教師になると噂がある。雄英に入れなさい」と指示を出した。

 しかし彼は、蝶の羽ばたきの結果、雄英ヒーロー科に合格することができなかった。

 

 個性『女王蜂(後期型)』は、前期型と違って強力無比な爆弾蜂が使い放題の進化改良版だ。

 進化させたことも改良したことも忘れかけていたが、No.6が死んだことで存在を思い出した。

  

 彼は(とむら)の友人とし、(とむら)の肉壁とし、(とむら)の成長の糧にしてあげよう。

 最後は両親ごと、ゴミ箱に捨てればいい。

 

 そう考えたAFOは「もう一つ個性をあげるから、(とむら)の友人になっておくれ」と指示を出した。

 

 余っていたから、個性『ネビルレーザー』をプレゼントした。

 余っていたから、個性『女王蜂(後期型)』もプレゼントした。

 

 相乗効果(シナジー)もへったくれもない。

 ただそこにあり、余っていたからあげた、それだけ。

 

 青山優雅は左目を失っただけで、複数の個性持ちとなった。

 彼のご両親も、心の底から喜んでくれるはずだ。

 

 

「ああ……寿司食いたいな、寿司。頼むよ、ノワール」

 

 死柄木(しがらき)(とむら)は、寿司係の友人に笑いかけた。

 彼に頼むと、いつでも寿司が食える。

 

「いいとも、死柄木(しがらき)くん。パパンに連絡しておくよ☆」

 

 青山優雅、(ヴィラン)名リュミエール・ノワールは、絶望すら忘れた微笑みを浮かべた。

 リュミエールの部分は彼なりの最後の抵抗だったが、長すぎて(とむら)はノワールとだけ呼ぶ。

 つまりなんの意味も無く、なんの効果も無かった。

 

 青山優雅の両親は、言われるがままに寿司代を払うしかなかった。

 




感想沢山来てビビったので更新頑張りました(早口)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。