【プロ】《professional》
ある物事を職業とし、生計を立てている人。職業者。
また、特定分野の専門的知識・技術を有する人。
玄人、専門家。
* * *
「オールマイトの授業はどんな感じですか?」
お茶子ちゃんと一緒に雄英に通学中、不意にマイクを向けられた。
昨日はイベント回避できたけど、今日は捕まっちゃったか。
「良いところも、改善点も両方あります。彼も人間であり新任の教師である以上、当たり前の話です。皆さんも新人時代は努力なされたでしょう? それと全く同じことです」
「……は、はぁ……」
毒にも薬にもならない私のコメントに、リポーターのお姉さんが焦った。
お茶子ちゃんは、元気に「筋骨隆々!」とか答えてる。
私達からコメントを取ると、大量のマスコミ達は次のターゲットへと移動していった。
オールマイトが雄英の教師に就任したニュースは、マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。
「な、なんかすごかねえ!」
「うーん……」
私は、歩きながらケータイを取り出す。
LINEアプリを起動して、素早くメッセージを入力していく。
「何やってるの? メール?」
「うん、ラブラバにね。ちょっとした小遣い稼ぎをしようと思って」
「小遣い?」
小首を傾げるお茶子ちゃんに、私は笑う。
「7桁か8桁かはわからないけど、適当に稼ごうかなって」
「……7か、8……けた?」
呆然とするお茶子ちゃんを横目に、私は鞄に仕込んであるスパイカメラを起動した。
スパイカメラを報道陣に向け、会社名を軸に撮影していく。
これはケータイと連動していて、ラブラバに送信されている。
暫くして、ラブラバから電話連絡が飛んできた。
「テレビ局と新聞社のリストアップ完了!」
「親会社やスポンサー企業の株を中心に、会社(オールライトHD)の運用口座から
「了解なのよ!」
私はケータイを閉じ、通学を再開する。
お茶子ちゃんは、混乱している。
「えっ? えっ? 今、日本語で話したの?」
「うん、日本語」
「な、何をしたの?」
「何かしたというか、するというか……合法だから大丈夫だよ」
「そうなのぉー!?」
ギリギリ合法。倫理的にはアウト。
未成年口座での信用取引は基本的に不可だけど、法人名義の運用口座を使うから大丈夫。
「うまく行ったら、焼き肉食べに行っちゃう?」
「行くー!」
お茶子ちゃんの買収は、2秒で終了した。
* * *
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」
スパダリイケオジの相澤先生(オーダースーツ)の、ホームルームの時間。
「爆豪。お前もう、ガキみてえな真似するな。能力あるんだから」
「……わかってる」
わかりやすく、歯ぎしりをする爆豪君。
緑谷君も、腕を壊した件で叱られている。
現状だと力を全然使いこなせてないから、仕方ない。
「さて、
「「「学校っぽいの来たー!」」」
1-Aの皆が、騒ぎ始める。
全員が挙手し、自分がリーダーをやると主張する。
普通科では雑務、ここヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられる役……と原作で緑谷君が言ってはいたけれど。
……やっぱりどう考えても雑務でしかない気がする。
「静粛にしたまえ!」
飯田君が叫ぶ。
「
「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」
蛙吹さんがあっさり論破する。
切島君も、呆れ顔をする。
「そんなん皆、自分に入れらぁ!」
「だからこそここで複数票を獲った者こそが、真にふさわしい人間という事にならないか!?」
原作通りの流れの中、投票が始まることになった。
私は飯田天哉と書いて、さっくり投票する。
頑張れ委員長!
【投票結果】
・飯田天哉 2票
・塚内 空 2票
・八百万百 1票
以下自分に投票した者 1票
……うん?
原作で緑谷君に入れたお茶子ちゃんと飯田君は、緑谷君に入れなかったってこと?
ど、どう分散したの?
「じゃあ委員長・飯田、副委員長・塚内だ」
相澤先生が、サクサクと話を進めていく。
教壇に立つ私と飯田君を見ながら、
……ということは、まさか。
私に一票入れたのは、八百万さん?
* * *
『ランチラッシュのメシ処』。
全校生徒が一堂に会するから、単純に人の量が多い。
「お米がうまい!」
お茶子ちゃんが笑顔で大盛りご飯を食べている。
ここにいるのは、私立聡明中学組の三人(私、お茶子ちゃん、飯田君)と緑谷君、そして。
「お隣、よろしいですか?」
「どうぞ、八百万さん」
私の隣りに、八百万さんが座った。
私は思わず、しげしげと彼女を眺めてしまった。
「八百万さんも、食堂で食べるんだね……」
「えっ?」
「家からシェフを呼んで作らせているものとばかり」
「そっ、そんなことはありませんわ!」
顔を真っ赤にして照れた八百万さんから、ぷしゅう、と空気が抜けていくように。
「……こっ、こういうの、憧れておりましたので……」
(セレブだ)
(セレブや)
(超富裕層、か……)
(お金持ちなんだなぁ)
その場で聞いていた全員の顔が、察した感じに変化した。
「ここの食堂は、どれも美味しそうだから凄いと思う! 流石ランチラッシュ!」
緑谷君が、嬉しそうに話す。
だから私も同意する。
「和洋中、その他含めて、日替わりで全制覇したくなるよね」
「オイシイ」
お茶子ちゃんの語彙が、低下しすぎている。
「それにしても、副委員長になるとは……」
私がため息をつくと、飯田君が当然だと言わんばかりの顔をする。
「塚内くんの知力・胆力・判断力は、
「……ってことは、飯田くんに入れたのは、私とお茶子ちゃんか」
「メガネ、ツトマル」
「ざっくりだね、
語彙低下中のお茶子ちゃんに、緑谷君が苦笑する。
そんな中、八百万さんが想いを吐き出した。
「下学上達、一意専心、文武両道……私は私なりに、トップヒーローを目指しているつもりです。ですが、先日の屋内対人戦闘訓練……一分も経たずに完敗を喫してしまいました。講評の時間、作戦概要を自慢気に話す芦戸さんの内容に、私は衝撃を受けました。私の渾身のオペレーションを、塚内さんに完璧に読まれてその上を行かれた……正直、ショックでした。自身が推薦入学だからと、驕り高ぶっていたのでは――そう、思いました」
「八百万さん……」
「ですから……学級委員長として、あなたを推薦させていただきました、塚内さん」
寂しげに笑う八百万さんに、飯田君が頷く。
「僕……俺も衝撃的だった。核配置場所の、完全なる先読み……」
「僕……!」
緑谷君が、変な所に引っかかって反応した。
味噌汁を飲みながら、お茶子ちゃんが答える。
「飯田くん、坊ちゃんだから」
「……そう言われるのが嫌で、一人称を変えることにしたんだ」
カレーをかき込みながら、飯田君がため息をつく。
「俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ。ターボヒーロー・インゲニウムは知ってるかい?」
その瞬間、緑谷君が超早口になる。
「もちろんだよ! 東京の事務所に65人ものサイドキックを雇ってる大人気ヒーローじゃないか!」
「それが俺の兄さ」
ドヤァァァ……。
眼鏡をクイあげする飯田君を、温かい眼差しでそっと見守る会、発足。
「インゲニウムさんは、婚活とかしないの?」
飯田君を見守る会は、一旦解散。
女性プロヒーローの行き遅れ事情をできるだけ解消する会、発足。
「兄は、みんな美人過ぎて気後れすると言っていたが……」
「インゲニウムさんは選びたい放題の立場だよ!?」
「そっ、そう言われてもだな」
「Ms.ジョークとかリューキュウとかピクシーボブとかミッドナイトとか13号とかMs.ジョーク(二度目)とか」
「兄のことだから、ヒーロー業のことで頭が一杯なんだと思う」
すいません、女性プロヒーローの皆さん。
行き遅れ解消の会は解散となりました。
私はそんな雑談をしながら、ケータイで時間を確認する。
『後場寄り(12:30)の成行売り注文』は予約済み。
ラブラバにも同タイミングでの注文を指示済み。
12:30到来。東証の昼休みが終了し、自動的に売り注文が成立(約定)する。
株価は平穏。私のポジション(空売り)が確定。
そして、そう時間を置かず。
校内に警報のサイレンが鳴り響いたので、私はニヤリとした。
「セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい」
食堂全体が大騒ぎとなり、我も我もと全員が一気に屋外へ脱出しようとする。
私はその光景を見ながら、のんびり食べ続けていた。
「セキュリティ3って何ですか?」
「校舎内に誰かが侵入してきたってことだよ!」
飯田君の問いに、三年生が答える。
私は動じず、のんびり味噌汁を啜る。
「……つ、塚内さん?」
「八百万さんも、ゆっくり食べれば? こんな状態じゃ、すぐに脱出は無理だよ」
「そ、そうですわね……」
ごちそうさまでした。
大変美味しかったです、ランチラッシュさん。
食べ終わった私は、皆に声をかける。
「よし。じゃあ、行こっか」
「どこ行くの-?」
尋ねてきたお茶子ちゃんに、笑顔で返す。
「放送室」
* * *
放送室にいた放送委員的な人達は全員脱出してしまったらしく、私達が放送室に辿り着いた時には人が居た形跡だけがあった。
機材の電源は入りっぱなしで、使いたい放題の状態だった。
「最高峰の教育機関のセキュリティとは……」
「扱ってるのは人間だしね。何事も、過信は禁物ってこと」
呆然とする飯田君を尻目に、私はモニタを眺める。
雄英の放送室は、根津校長の用心深さを考慮するなら、緊急時には司令室代わりになるはず。
そしてその読みは当たり、モニタには校内にまで侵入した報道陣が丸見えとなっている。
「あれは……報道陣?」
緑谷君が、驚く。
私はケータイと放送室の機材を接続し、モニタ画面を録画できるようにした。
その上でマイクを握り、放送のスイッチをONにする。
「校舎内にいる、報道陣の皆様に通達します。刑法130条、建造物侵入罪。皆さんは正当な理由なく、管理者の意思に反して敷地内に立ち入りました。刑法233条、威力業務妨害罪。大勢で押しかけて騒ぎ立て、警報を鳴らさせ、学校の業務を妨害しました。刑法261条、器物損壊罪の嫌疑。雄英バリアーを破壊しなければ、本来皆様は雄英に立ち入ることはできません。いずれにしても現行犯性が明確なので、刑事訴訟法第213条に基づき、逮捕状なしで逮捕可能な私人逮捕の条件を満たしてしまっています。つまり、今この瞬間から、私たち生徒でも貴方たちを逮捕できるということです。すぐに警察が到着しますので、雄英の教師または生徒達に逮捕されたくなければ、報道陣の皆様はそれ以上動かず大人しくしていてください」
私の校内放送を聞いて、報道陣だけでなく生徒達の雪崩の動きも停止した。
「たっ、逮捕されちゃうのか、俺達!?」
「えっ、逮捕できちゃうの、俺達?」
報道陣と生徒達が困惑している光景をキッチリ録画。
私は録画データを、迷わずラブラバに送信する。
「売り浴びせ開始、トレヨロ」
「まかヨロ」
ラブラバとの、意気投合したやりとり。
売り浴びせとは、株価を下げるために大量に売ることを指す。
私が送った「報道陣の不法侵入動画」はラブラバが編集し、ネットに投下される。
トレンド入りまでしようものなら、もう確定だ。
市場はパニックになり、株価が急落を始める。
「よし! みんな撤退!」
「おー!」
私とお茶子ちゃんだけが元気なので、飯田君も緑谷君も八百万さんも首を傾げていた。
* * *
警察が到着し、マスコミは撤退することになった。
ニュースでは「警察出動」「逮捕者」などの続報が乱舞している。
ケータイでニュース速報を見ている人達は、そこでおしまい。
でも私が見ているのは、株式市場の値動き。
マスコミの親会社やスポンサー関連企業の株価が、どんどん落ちていく。
とりあえず、私が何をしたのかを説明すると。
まず、マスコミの親会社やスポンサー企業の株を中心に、
空売りというのは「後で株を買い戻すから、事前に株を売った事にさせてね」という行為です。
日本の制度信用取引では、自己資金(保証金)の約3.3倍まで取引が可能。
なので「レバレッジ最大」は「持てる保証金(会社の資金)の限界まで枠を使って、3.3倍の規模で空売りを仕掛ける」という意味。
ラブラバに言った「
これは、事件が起きる数時間前に大量の空売りが入っていると、インサイダー取引だと疑われて逮捕されるリスクが存在しました。
こういう時は、前場の引け(11:30)か後場寄り(12:30)で仕込めば偶然と言い張れます。
そして、今。
本来であれば14:20~15:10は6限なんだけど、マスコミ騒ぎのせいで時間割はぐちゃぐちゃ。
黒板には自習と書かれているので、みんなやりたいことをやっている。
だから私は、市場終了(15:00)の前に、底値付近で「買い戻し(手仕舞い)」を行った。
これで差額分の利益が確定。
原作ではサラリと流されていたけれど、建造物侵入罪と威力業務妨害罪の現行犯で警察沙汰になるっていうのは、株価に変動が発生するということです。
……株価が変動するってわかりきっているのなら、介入しちゃえばよくない?
本来なら相場操縦として金融庁に睨まれるレベルの仕手戦だけど、今回は「不祥事に基づいた正当な取引」という建前があるので、ギリギリセーフ!
レバレッジを利かせたのもあって、利益はがっつり億単位でした。
やったねお茶子ちゃん!
焼き肉行こうか!
* * *
「
放課後。
上鳴君が、お茶子ちゃんをナンパしていた。
「昔は、おもちだったんだけど、今は……」
「今は?」
「焼き肉」
「焼き肉ぅ!?」
上鳴君には、恋人の耳郎さんがいるくせにっ!(いません)
私はわざとらしく、上鳴君の邪魔をする。
「おーちゃーこちゃんっ」
「空ちゃん! お小遣い、稼げたの?」
「うん、もうバッチリ」
「……じゃあ!」
どうしようもないほど熱烈に、いつだってお腹すかせた君が二度と悲しまないように笑える焼き肉屋に行く為の歌!
私はピースサインを掲げてこう言った。
「叙々苑奢るね、お茶子ちゃん!」
「「「じょっ、叙々苑~!?」」」
周囲で聞いていた人達が、驚愕する。
クク……私がいる限り、ご飯を抜いたり、お餅で空腹を誤魔化すお茶子ちゃんなどいない!
そんなわけで、上鳴君が呆然としているのを尻目に、私はお茶子ちゃんと手を繋いで叙々苑に行きました。
がっつり仕手戦で儲けた後の焼き肉は、大変美味しゅうございました。
* * *
そして、明けて次の週の水曜日。
バタフライエフェクトの結果発生したハリケーンは、もはや原作知識を