塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.37 「USJ・難易度インフェルノ」

 

【コマンダー】《commander》

 指揮官、司令官。

 (軍隊などの)長、指導者。

 戦場の霧を晴らし、勝利への道筋を描く者。

 

 

 * * *

 

 

「通勤時に人助けをしたくなるお気持ちはわかりますが、今のオールマイトさんは教職です。水曜のヒーロー基礎学など、学校から生徒達が離れたりする日は特に強く意識して、人助けを他のヒーローや警察に任せてあげてくれませんか? 『オールマイト一人に寄りかかって何も不思議に思ってないこの世界がおかしい』と私は言いましたが、オールマイトさん自身にそんな状況を助長して欲しくないのです」

 

 昨夜、塚内空から届いたメールを10回読み直してから就寝したはずだったのに、通勤途中に見かけた(ヴィラン)『僧帽ヘッドギア』につい出来心でMISSOURI(ミズーリ)SMASH(スマッシュ)を決めてしまったオールマイトは自己嫌悪に陥っていた。

 

 余談だが、ミズーリ州はアメリカのど真ん中にあり「Show Me State(疑り深い州)」と呼ばれている。

 トム・ソーヤーの舞台だが、基本的には田舎であり地味なイメージが強い。

 アメリカのヒロアカファンからすると「なんで?」枠に属する。

 わかりやすく日本に置き換えるなら『栃木チョップ!』あたりになるだろうか。

 

「わああ、オールマイトー!」

 

 大騒ぎする、通学・通勤途中の一般市民達。

 

「助かりました! 我々も手をこまねいておりまして……」

 

 喜んだ警官達が、オールマイトに対して笑顔で敬礼を向けてくれている。

 一方、若手実力派シンリンカムイや、デビューから一年の新人ヒーローMt.(マウント)レディはがっくりと肩を落としていた。

 

 やらかした。

 思いっきりやらかしてしまった。

 

 しかしオールマイトの耳に、新たに悲鳴をあげる市民の声が聞こえてくる。

 

 オールマイトは散々悩んだ末、若手のヒーロー二人に後を任せることにした。

 シンリンカムイとMt.(マウント)レディは、廃業を心配せずに済んだ。

 

 

 * * *

 

 

「EMP攻撃への対策は難しいにしても、似たような力を持ったヴィラン達が急襲してきた際の対策は必須だと考えます。雄英自体の守りは完璧でも、校外実習となれば話は別です。かといって、授業を遮ってしまうような定時連絡を教員に強制する必要はありません。一人暮らしの高齢者の安否確認サービスのように、圏外ではなく連絡が取れる範囲内にいるかどうかを定期的に確かめるだけのアプリ開発またはシステム開発であれば、安価で手早く実装できるのではないでしょうか? ご一考頂ければ幸いです」

 

 雄英入学直後の塚内空から届いたメールを10回は読み直していたはずの根津校長は、初週に発生したマスコミ騒動の関係でアプリ開発会社との打ち合わせに遅れが生じたことに困り顔をしていた。

 なお、ヒロアカの時間軸を説明すると、以下のようになる。

 

 ・1週(月)入学式、個性把握テスト

 ・1週(水)戦闘訓練、マスコミ騒動1日目

 ・1週(木)委員長決め・マスコミ騒動2日目&マスコミ撤退

 ・2週(水)←今ココ

 

 一般的な会社は三月決算で区切るため、新規受注は四月から開始する。

 根津校長は、ほぼ最短のタイミングでアプリ開発会社に発注をかけたので『安否確認だけで良いのであれば、仕様さえ決まれば二営業日程度です』と返事を貰っていた。

 その、肝心要の仕様を決める打ち合わせ予定日が、先週の木曜日だったのだ。

 

 打ち合わせ予定が潰れるどころか、雄英バリアーと呼ばれる通学門まで破壊されてしまった。

 破壊された門の修繕を週末で終え(麗日建設の営業が、特急料金は頂くが最短工期で終わらせてみせると豪語したので試しに依頼してみたら資材準備一日、工期一日の合計二日で終わってしまった。本当に意味がわからない。なんなんだあの会社)、2週目の頭の月曜日に打ち合わせをした。そこから二営業日かかるとして、三営業日目の明日がアプリの受け取り予定日だった。

 

 つまり、本日予定しているヒーロー基礎学の校外実習には間に合わない。

 

 まさか、校外実習の初日からヴィランに襲われるなんてことは……無いと思うのさ。

 

 現時点の根津校長は、残念ながら認識が甘い段階だった。

 

 

 * * *

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

「ハーイ! なにするんですか!?」

 

 瀬呂君の挙手に、相澤先生が答える。

 

「災害水難なんでもござれ。人命救助(レスキュー)訓練だ!」

 

 ・訓練場は少し離れた場所にあるからバスで移動

 ・コスチュームの着用は各自の判断で構わない

 ・ケータイは持ち込み不可

 

 そんな説明を受けた後、着替えてバス移動することになった。

 バス移動の最中(さなか)、クラスの皆が原作と同じ会話を、同じようにしている。

 

「俺の『硬化』は、対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」

「僕はすごくかっこいいと思うよ、プロにも十分通用する個性だよ」

「プロなー!」

 

 私はその会話を聞きながら、戦闘訓練で仲良くなった芦戸さんの隣りに座っていた。

 原作であれば、ここには青山君が座っていてネビルレーザー自慢をしていたはずだ。

 

 私は、先週のヒーロー基礎学の戦闘訓練で八百万(やおよろず)さんから強奪した木製の長い棒を、八百万さんと相澤先生の許可を得て持ち込んでいた。

 これは棍の代わりになるから、丁度いい。

 ケータイは案の定持ち込み不可だったけど、昨夜の段階でオールマイト先生にメールしておいたし、根津校長には入学直後にアプリ開発を提案済み。

 アプリ開発にどれぐらい時間がかかるのかはわからないけれど、少なくともオールマイト先生が教職よりヒーロー活動を優先してしまうなんてことは……?

 

 人が良すぎてついヒーロー活動をしてしまうオールマイト先生の姿しか想像できない。

 

 マスコミ騒動は、本当かどうかはともかく、(ヴィラン)連合……いや、まだそう名乗ってないか。

 死柄木(しがらき)(とむら)と愉快な仲間達は、雄英の教師カリキュラムを強奪したという名目だった。

 内通者たる青山君の有無に関係なく、USJが襲われる確率は高い。

 

 仮に、私がAFOだったとして。

 雄英に入れと指示した青山君が雄英に落ちたら、どうするだろうか。

 ……(ヴィラン)連合入りの指示?

 

 でも、ネビルレーザーには継戦能力が無い。

 漏らす事を前提で巻き散らかされたら、ちょっと怖いけど。

 

 死柄木(しがらき)(とむら)黒霧(くろぎり)、脳無。

 あともしかしたら青山君。

 後は確か、72人の小物ヴィラン勢。

 最大で76人?

 

 うーん。

 原作通りだと、相澤先生が大怪我を負ってしまうけれど。

 私が上手に立ち回れば、右目の下に傷跡が残らないようにできないかな?

 直情径行にある爆豪君と切島君が13号の前に出ないようにできれば、ワンチャン?

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ」

「ハイ!」

 

 バス内の会話にキレかけた相澤先生が、皆を黙らせる。

 私は苦笑しながら、(会話には参加していなかったけれど)皆と一緒に返事をしてあげた。

 

 

 この時、私は二つの事に気がつけなかった。

 

 一つは、数匹の小さな蜂がバスを尾行していたこと。

 もう一つは、蜂須賀九印(はちすかくいん)戦やNo.6戦を含めたアノニマス・オペレーションに対する立ち回りを、()()()()()()()()こと。

 

 RTA気味に(ヴィラン)を処理した事が、結果として最悪の流れを招いてしまった。

 必死に生きてきた私にとって、うまくやりすぎたのが駄目だったなんて、わかるわけがなかった。

 

 

 * * *

 

 

「すっげー、USJかよ!」

 

 ドーム型の建物の中、まるでアトラクションのように様々な地形が用意されている。

 その光景を見て、クラスの皆が興奮の声をあげる。

 

 噴水のある、セントラル広場。

 暴風・大雨ゾーン。

 水難ゾーン。

 火災ゾーン。

 山岳ゾーン。

 土砂ゾーン。

 倒壊ゾーン。

 

「あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……(ウソの)(災害や)(事故)ルーム」

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

 13号のUSJ紹介に、緑谷君が早口で説明する。

 相澤先生は、すかさず確認を入れている。

 

「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせるはずだが」

「先輩、それが……」

 

 13号先生は指を一本立てながら、相澤先生と話し込んでいる。

 うーん、メール作戦は失敗しちゃったか。

 

「仕方ない、はじめるか」

 

 相澤先生の判断に、13号先生はクラスの皆に向き合う。

 

「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 

 13号先生は、指を立てながら語り始める。

 

「皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。しかし簡単に人を殺せる個性です。皆の中にも、そういう個性がいるでしょう。この授業では……心機一転! 人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。そして……」

 

 13号先生は、私の方を見ながら言う。

 

「個性が無ければ無いで、どう立ち回れば良いのか。それを考え、動いて欲しいと願います」

 

 うっ。

 13号先生に、何故か睨まれている気がする。

 心なしか、アタリが強い。

 

「以上! ご静聴ありがとうございました」

 

 ボウ・アンド・スクレープ。

 女性としてのカーテシーではなく、男性としてのお辞儀を13号先生はした。

 

「ステキー!」

「ブラボー! ブラーボー!」

 

 13号ファンのお茶子ちゃんが叫び、ファンかどうかはともかく飯田君が拍手で絶賛する。

 

「そんじゃぁ、まずは……」

 

 今の相澤先生は、流石にブリティッシュスタイルのオーダースーツではなく、ヒーローコスチュームだ。

 鉄柵に寄りかかったまま何かを言いかけた相澤先生が、ちらりとセントラル広場を見た。

 相澤先生はぎょっとした表情となり、鉄柵から離れるように一瞬でステップをした。

 

 ……ん?

 

 原作と違う、と感じた私を(あざ)笑うかのように、黒い極太のレーザーが相澤先生の居た場所を貫いた。相澤先生が寄りかかっていた鉄柵が、一瞬で蒸発した。

 

 私は、聞こえてはいけない音が聞こえていることに身震いする。

 

 それは、黒霧(くろぎり)のワープゲートが発する異音でもなく。

 70人を超えるヴィラン達が、ぞくぞくと現れる音でもなく。

 もう二度と見かけることはないと思っていた注射器型の蜂が、私達を観察している羽音。

 

「ひとかたまりになって動くな!」

 

 焦り顔で、相澤先生が絶叫する。

 私は警告の範囲内、現在場所たる長い階段の上、入り口広場の端からセントラル広場を眺めた。

 

 そこには、ワープゲートから出てくる死柄木(しがらき)(とむら)でも、脳無でもなく。

 友人のために先陣を切ったと言わんばかりの青年が、じっとこちらを見つめていた。

 

「13号! 生徒を守れ!」

 

 特徴的な金髪に、うつろな右目。

 それでいて、前髪で左目を隠している。

 原作終盤、最終戦闘付近で着ていた黒コートを着ている、青山優雅。

 

 その青山君は何故か私を見て、嬉しそうに、楽しそうに黒い舌を出した。

 ニチャァと音が聞こえてくるかのような、(よど)んだ笑みを彼は浮かべた。

 

 ヴィジランテ原作を知っている私は、一瞬で戦慄した。

 本来ならばポップ☆ステップが罠にハマり、改造されて闇落ちしたBEE☆ポップ。

 肌こそ黒くなっていないが、青山君の左目の隠し方はBEE☆ポップと同じだ。

 

 そして、あの舌。

 血流障害による口腔部の変色。個性因子誘発物質(イディオ・トリガー)摂取による、副作用。

 だとするなら……複数個性化!

 

 まさかと思いながら、現在進行形で出現し続ける70人以上のヴィラン達に視線を移す。

 原作では事件の後、お父さんが『どれも路地裏に潜んでいるような小物ばかりでした』と言う。

 だけど、その小物の彼らは全員、その手に見覚えのある大きなペン状のものを握っている。

 

 ……待って。それは、話が違いすぎる!

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

 

 切島君が、怪訝そうな声をあげる。

 

「動くな、あれは……(ヴィラン)だ!」

 

 相澤先生が叫ぶ。

 黒霧が、淡々と言う。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか。オールマイトがここにいるはずなのですが……」

「どこだよ……せっかくこんなに、大衆引き連れてきたのにさ……オールマイト……平和の象徴、いないなんて……子供を殺せば、来るのかな?」

 

 身体中に人間の手首から先を装着した、死柄木(しがらき)(とむら)が苛立ちながら吐き捨てる。

 

(ヴィラン)!? バカだろ、ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「先生、侵入者用センサーは?」

「何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る個性がいるってことだな」

 

 切島君、八百万さん、轟君がそれぞれ反応する。

 

 考えろ、考えろ、考えろ……!

 これは最悪の斜め上、油断していた雄英教師陣を笑うことすらできない!

 認識が甘く、一番平和ボケしていたのは、なによりも……私だ!

 

「バカだがアホじゃねぇ、これは……何らかの目的があって、用意周到に画策(かくさく)された奇襲だ」

「13号、避難開始! 学校に連絡試せ!」

 

 轟君の分析を聞きながら、相澤先生が指示を出す。

 私は脳みそをフル回転させながら、大きく息を吸い、叫んだ。

 

「全員、意識を切り替えろ、死ぬぞォーッ!」

「んなァッ?」

 

 突然の私の絶叫に、クラスの全員が驚愕する。

 

 頭と身体が、冴えていく感覚。

 私は相澤先生に近づき、先生に報告する形を取りつつ全員に情報を伝える。

 

「報告、(ヴィラン)数推定76、うち幹部級4。ただし、幹部級以外も個性因子誘発物質(イディオ・トリガー)を含む弱個性改善薬トリガーを所持しているので油断できません。幹部級の一部は過去に鳴羽田(なるはた)で見たことがあります、黒い霧の男は個性『ワープ』。黒くて大きいのは鳴羽田の(ヴィラン)を参考にするなら最低でも『超再生』『ショック吸収』『増強系』の複合個性、対オールマイト個体と推測。黒コートは先ほどの『レーザー』及び『爆弾蜂』。爆弾蜂は鳴羽田で確認済み、これにより幹部級以外は倒した後に自爆する可能性があります。手首男は近接戦即死級の個性と推測、交戦時は要最大警戒!」

「……どんだけ魔境なの、鳴羽田(なるはた)って」

 

 耳郎さんが、イヤそうに顔を(しか)めた。

 (ヴィラン)の絶えない、楽しい街です。

 

 相澤先生はイレイザーヘッドの顔となり、私に問いかける。

 

「……東京スカイエッグと鳴羽田ロックダウンの再来級か?」

「あの時は30人以上のプロヒーローがいました。ここにはイレイザーヘッドと13号、あとヒヨコ達しかいません」

 

 私の返しに、イレイザーヘッドが苦笑する。

 

「ハッ。マイクもスナイプもミッドナイトさんも、お前を褒めていたよ。指揮官(コマンダー)の役割……頼めるか?」

「わかりました」

 

 私の即答に、13号先生が信じられないとばかりに慌てる。

 

「何を言っているんですか、先輩!」

「聞くだけ聞いて、駄目なら却下すればいいだけの話だ。合理的に行こう」

 

 私は持っていた棍をくるくると回し、石床に勢い良く叩きつけた。

 私自身に注目を集めると同時に、自分の考えを急いでまとめていく。

 

「ワープ持ちが側面や背後から急襲をかけてきます。13号先生がブラックホールで対処してください。ワープ持ちのワープを発見次第、皆で声をかけあって出現場所を先生に伝えてください。

 生徒達はワープ持ちと戦う13号先生の前に出ないこと、これを忘れると死にます。

 轟くん、最初は左右に氷の壁を張って下さい、背水の陣というわけではありませんが前後のみに集中します。

 飯田くんは全力で学校まで走って応援を呼んでください。

 黒コートの人がお腹のベルトを向けてきたら、それはレーザーの発射態勢です。見かけ次第、葉隠さんはヴィラン達に向けてレーザーを捩じ曲げてください。

 口田くんは大量のスズメを呼んで爆弾蜂に向かわせてください。蜂にとってスズメは天敵です。

 轟くんと芦戸さんは、爆弾蜂や遠距離攻撃系ヴィランを優先攻撃。

 峰田くんはもぎもぎで、八百万さんは強力粘着剤などで相手を固定するトラップを階段寄りに作って下さい。

 瀬呂くんと尾白くんと常闇くんと障子くん、麗日(うららか)さんと蛙吹(あすい)さんと耳郎さんはヴィランをトラップに押し込むように立ち回って下さい。

 切島くんと砂藤くんと上鳴くんはディフェンスです、臨機応変に皆を守って下さい。

 EMP攻撃こそありませんでしたが電波系の個性が妨害しているのは確実です。なので妨害個体を発見次第、障子くんは砂藤くんと上鳴くんを背中に乗せて、麗日(うららか)さんと蛙吹(あすい)さんに飛ばしてもらって妨害個体に奇襲をかけてください。砂藤くんはシュガードープを使って意地でも妨害個体を排除してください、上鳴くんはそのフォローを。妨害個体の排除に成功したら、上鳴くんは特製電子変換無線による学校への連絡を試みてください」

 

 ここまで一気に言うと、爆豪君の舌打ちと、緑谷君の困惑が聞こえた。

 

「……俺には無ェのかよ、三つ編み」

「僕はどうすればいいの、塚内さん?」

 

 劇場版で何度も何度も言っていたように、『俺に命令するんじゃねぇ!』と爆豪君に言われると思っていたので、私は苦笑する。

 

「相澤先生もとい、イレイザーヘッドと爆豪くんと私は、オフェンスの遊撃です。相手を倒した時の爆発に気をつけて。特に爆豪くんは、イレイザーヘッドを狙う遠距離攻撃系(ヴィラン)を優先してください」

「ケッ!」

「緑谷くんは、いわばリベロです。状況を見て、足りないところに回って下さい。判断は任せます」

「わかった!」

 

 私の指示を聞いて却下しようとしていた13号先生は、慌てて振り向いた。

 ヴィランにというより、私の指示に修正箇所が無くて焦った感がある。

 

「センパァイ!」

「腹ァ括れ、13号。塚内が言った通りだ……切り替えねぇと、死ぬぞ」

 

 捕縛布を構えたイレイザーヘッドが、戦闘態勢に移行する。

 飯田君が、焦りながら私に言う。

 

「塚内くん、クラスの皆を置いていくなど、委員長の風上にも……」

 

 だけど私は、そんな飯田君を睨み返す。

 

「『チームIDATEN、全開運転(フルスロットル)を約束する』……インゲニウムはそう言って、笑ってくれたわ。貴方はどうなの? 飯田天哉(てんや)

「サポートなら、私超できるから! する! から! お願いね、委員長!」

 

 私立聡明中学組、お茶子ちゃんが飯田君を元気づける。

 

「何が戦うだよバカかよぉ、オールマイトをブッ倒せるかもしれねー奴らなんだろ!? 雄英ヒーローが(たす)けに来てくれるまでおとなしくが得策に決まってらい!」

 

 峰田君が、泣き喚いている。

 

「いまここで、峰田くんがトラップを作ったことで大活躍したら……女子にモテるかも」

「オイラはやるぜ、見ててくれ塚内ィ!」

 

 峰田君の説得は、秒で終わった。

 

「『敵が勝利を確信した時が、大きなチャンス』……昔、情熱大陸でオールマイトが言ってたよ」

 

 緑谷君が、決意を固めた瞳をしている。

 

「奴らに、オールマイトを倒す術があるんなら……僕らが今すべきことは、戦って……阻止する(かつ)事!」

「そうね。なら、皆で無事に生き伸びることができたら……その台詞がプレゼントマイク先生が好きなナポレオン語録『最も大きな危険は、勝利の瞬間にある』のパクリなのかどうか、オールマイト先生に聞いてみましょう」

「えっ!?」

 

 緑谷君がこれ以上無いぐらいの驚愕の表情を見せたので、私は思わず笑ってしまった。

 

「数も経験も劣る私達の、勝利の鍵は一つ。生徒(みんな)の個性が、相手にとって未知であること」

 

 私は原作の緑谷君の台詞をパクりながら、棍を構える。

 

「かのインゲニウムは言いました。『それでは諸君、エンジンを回せ』」

 

 クラスの皆の目を見ながら、私は叫ぶ。

 

「……雄英ヒーロー科1-A、全開運転(フルスロットル)!」

「うっ、うおおおおおーっ!」

 

 飯田君が叫んで、全力で走り出した。

 

「GO!」

 

 私の叫びに合わせて、皆が動きはじめる。

 イレイザーヘッドと爆豪君と私は、一気に階段を飛び降りた。

 

 

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