塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.40 「雄英体育祭の撮れ高」

 

【カバレッジ】《coverage》

 取材、報道。(ニュースの)扱い。

 撮れ高。

 

 

 * * *

 

 

「うおおお……何事だぁ!?」

 

 男子生徒っぽい叫びだけれど、これはお茶子ちゃん。

 放課後の1-A廊下が、1-Aの様子を見に来た大量の生徒達で埋まってしまっている。

 

「意味ねェからどけ、モブ共」

 

 爆豪君が相変わらずのスタンスで挑発していく。

 

「ヒーロー科に在籍する奴は皆こうなのかい? こういうの見ちゃうと、ちょっと幻滅するなぁ」

 

 八年後に大人気になってそうな進化イケメン君、心操君も見に来てる。

 そして、例の大胆不敵な台詞を吐いていく。

 

「調子のってっと足元ゴッソリ(すく)っちゃうぞっつー、宣戦布告しに来たつもり」

「隣のB組のモンだけどよぅ! (ヴィラン)と戦ったっつぅから話聞こうと思ってたんだがよぅ!」

 

 余計な、もとい、お願いだから空気読んでな人まで来てる。

 爆豪君の態度が変わらないのもあって、廊下も教室内もざわつきすぎ。

 私はため息を一つついて、スタスタと騒ぎの元凶方面へと歩いて行った。

 

(そら)ちゃん?」

 

 心配そうに、お茶子ちゃんが声をかけてきてくれる。

 私はお茶子ちゃんに大丈夫だよ、と軽く手を挙げる。

 

「えー、まずB組の鉄哲(てつてつ)徹鐵(てつてつ)くん」

「……あ?」

 

 自己紹介なんかしたっけ、という顔だ。

 すいません、一方的に知ってます。

 

「申し訳ありませんが、今日はTPOが悪いです。また日を改めて来て頂けますか?」

「お、おう」

 

 人が集まりすぎていてそういう場ではないと向こうもわかっているのか、引き下がってくれた。

 

「次、普通科の心操(しんそう)人使(ひとし)くん」

「っ、なんで普通科(オレ)の名を……」

 

 自己紹介なんかしたっけ以下略。

 すいません、一方的に以下略。

 

「念願叶ってヒーロー科に編入できた先の話を考えていませんね? 50%の確率で貴方は1-Aになるんですよ」

「……はぁ?」

 

 突然話を振られて、心操君が困惑している。

 なので私は、上鳴(かみなり)君を手招きで呼ぶ。

 

「お、おい、なんだよ塚内……」

「はい、心操くんの真似」

 

 ドキドキしていた上鳴君だったけど、私がネタを振ると一気にノってくれた。

 上鳴君は心操君のような顔で、それ以上にアドリブでドヤ顔をかましてくれた。

 

「調子のってっと足元ゴッソリ(すく)っちゃうぞっつー、宣戦布告しに来たつもり(キリッ)」

「わかりますか? これが1-Aの新しい挨拶になってしまいます」

「……」

 

 ガーン、という顔をしている心操君。

 

「あっ、もう用済みです上鳴くん」

「なんだよ塚内ひでぇなオイ!」

「海氷の表面部分だけ見て一括りにするのは危険です。以上! 行こう、お茶子ちゃん」

 

 そう言って、私はお茶子ちゃんの手を引いてスタスタと去って行った。

 

 

 * * *

 

 

「……まさか、塚内くんは全校生徒の名前を把握しているとでもいうのか?」

 

 唖然とした飯田(いいだ)天哉(てんや)が、眼鏡をクイッとする。

 

「彼女だと、それがありえそうで怖いよね」

 

 緑谷(みどりや)出久(いずく)は、流石雄英だと感心した。

 

「関係ねえよ……(うえ)()がりゃ、関係ねえ」

 

 爆豪(ばくごう)勝己(かつき)は一言で切って捨てて、その場を去って行った。

 

 もちろん塚内空は全校生徒の名前なんて記憶してはいなかったが、1-Aの全員が勘違いした。

 それぐらいには、USJで出された指示がなんか凄かったから。

 

 この時、葉隠(はがくれ)(とおる)は教室内で雄英制服を着ていたので露出度は最低だった。

 そんな彼女に対し、両手を合わせて遠くから拝む存在がいた。

 峰田(みねた)(みのる)である。

 

「神よ……」

 

 時間経過と共に少しずつ欠損しつつある脳内情報を、制服のラインから補填した。

 どんぶり三杯余裕ッス。昨晩も大変お世話になりました、今夜もよろしくお願いするッス。

 雄英卒業後、彼の卒業アルバムが妙にカピカピする謎現象が起きる可能性が極大だった。

 

 

 * * *

 

 

 雄英体育祭、本番当日。

 

 かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。

 しかし個性社会となった今、かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ。

 

 当然、スカウト目的で全国のトップヒーロー達も見る。

 雄英卒業後はプロ事務所にサイドキック入りが定石のため、皆はトップを目指して必死となる。

 雄英体育祭で活躍して目立てば、プロへのどでかい一歩となる……!

 

 ……という風潮に、冷水をぶっかけようと考えていたのが塚内空だった。

 

 地雷を用意する体育祭とか意味不明。

 前世の総合格闘技系と違って、ルールが皆無に等しい模擬戦。

 雄英は、生徒を殺す気なんだろうか。

 

「選手宣誓! 1-A、塚内(つかうち)(そら)!」

 

 今年の一年主審である18禁ヒーロー・ミッドナイトが、正直エロい服で高らかに宣言した。

 瀬呂(せろ)範太(はんた)は、思わず呟いてしまった。

 

「無個性で、入試一位通過か……」

 

 その呟きに、普通科の女子生徒が呆れたように返事をする。

 

「ヒーロー科の入試な?」

「でも彼女は、経営科の入試も一位通過です」

 

 緑谷が即座に返す。

 

「普通科も受けてたら一位だった可能性はある」

「ヒーロー科以外の試験日は、同日だったからな……」

 

 これは障子(しょうじ)目蔵(めぞう)と、常闇(とこやみ)踏陰(ふみかげ)

 普通科女子は言葉を返せなくなり、黙り込んだ。

 

「宣誓」

 

 マイクの前に立った体操服姿の塚内空が、大勢の観客を見渡しながら言葉を紡いでいった。

 

「雄英体育祭は、日本のビッグイベントの一つです。

 国民のみならず、プロヒーローの人達も注視する凄いイベントです。

 それゆえに、出場者全員が無理をして勝とうとします。

 『常にトップを狙う者とそうでない者、そのわずかな気持ちの差は社会に出てから大きく響く』。雄英で良く聞く言葉です。これもまた、社会の正しい一面なのでしょう。しかし」

 

 塚内空は『しかし』を強調したあと、わざと時間を置いて注目を集めてから台詞を続けた。

 

「既に公表されているニュースですが、雄英は(ヴィラン)の襲撃を事前に受けました。

 にも関わらず、今回の雄英体育祭は警備の数を何倍にも増員して実行されています。

 だからこそ、私はあえて、この言葉を贈りたいと思います。

 『無事これ英雄なり』」

 

 塚内空は事前に競馬関係を調べたが、案の定、個性社会の関係で競馬は(すた)れていた。

 使おうと思っていた『無事之名馬(ぶじこれめいば)』の格言が生まれておらず、内心で冷や汗を垂らした。

 

「怪我と引き換えに得た勝利は、確かに美しいかもしれません。

 ですが、入院や手術が必要な大怪我を負って得た一位は、『一瞬の輝き』でしかありません。

 もしその次の瞬間に、大量の(ヴィラン)が襲撃してきたらどうしますか?

 満身創痍で倒れたまま、襲われる市民を前にして『さっき全力を出し切ったから仕方ない』と言い訳をしますか?

 それでは本末転倒です。貴方はなんの為に、雄英体育祭で戦ったのですか?」

 

 私が(ヴィラン)なら、六桁級の人間が集まるイベントは、一年以上の準備期間をかけてでも潰す。

 悪意の最大効率は、多くの人が集まるイベントを狙うのが手っ取り早い。

 本音ではそう思っていたが、塚内空は触れなかった。

 

「だからといって『ご安全に』などと、工事現場の標語のようなことを言うつもりはありません。

 『無理と怪我をしない判断』もまた、正当に評価して頂きたいというだけなのです。

 次の戦いのために、次の次の戦いのために、そのまた次の戦いのために。

 雄英体育祭は確かに有名になるチャンスですが、別にチャンスは雄英体育祭だけではありません。戦い続けることさえできるのであれば、いつか必ず有名になるチャンスは訪れます。

 いつの間にか消えていたあの人ではなく、いつでも隣りにいてくれるヒーローであってほしい。

 ……以上、選手宣誓とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました」

 

 その主張は、100%受け入れられたわけではない。

 それでも、まばらな拍手が選手宣誓を称えた。

 一礼をしてから壇上を去る塚内空に対して、皆は思い思いの事を考えていた。

 

(継続こそ力なりということか)

 

 飯田天哉は、口を引き締めた。

 

(耳が痛い)

 

 緑谷出久は、冷や汗を垂らした。

 

(怪我ごときで止まるかよ。全部ぶっ壊して、完膚なきまでの一位だ)

 

 爆豪勝己に、変化は無かった。

 

「さーてそれじゃあ早速第一種目、行きましょう!」

 

 ミッドナイトの笑顔と共に、第一種目『障害物競走』がはじまろうとしていた。

 

 

 * * *

 

 

 オールマイト、というより八木(やぎ)俊典(としのり)は、吐血して椅子からひっくり返って痙攣していた。

 約二週間前、緑谷出久に対して『雄英体育祭で全力で自己アピールしろ』と言ったその真逆のことを塚内空に言われてしまったからだ。

 そして残念なことに、現時点のOFA継承者は力の発動と引き換えに大怪我をしてしまう段階。

 

 『無事これ英雄なり』

 『次の戦いのために、次の次の戦いのために、そのまた次の戦いのために』

 『戦い続けることさえできるのであれば、いつか必ず有名になるチャンスは訪れます』

 

 これらの台詞が、何よりも重いパンチとなって八木俊典のメンタルをぶん殴っていた。

 

 

 * * *

 

 

 障害物競走のうち、九割が原作と同展開だったのであえて描写を省く。

 明らかに違う点は、塚内空がザ・フォールにおいて一秒たりとも停まらず、パルクール機動でさくさく移動していたことだろうか。

 さらにいうと、彼女は先頭集団の三人に追いつこうとも抜かそうともせず、ずっと四位をキープしていた。

 

 ただ、先頭集団は爆発と爆発と爆発の嵐だったので、これが『無理と怪我をしない判断』の実演か、と観客達は納得していた。

 障害物競走の順位的には、四位に塚内空が入り、一人ずつ後ろにずれた形となった。

 つまり上位42名のうち、原作で42位だった人物は……?

 

 顔も身体も手も足も何もかも包帯でぐるぐる巻きのまま、死柄木弔と仲良くテレビ中継で雄英体育祭を眺めていたので、何も問題は無い。

 

 

 * * *

 

 

「予選通過は上位42名! さーて、第二種目『騎馬戦』よ!」

 

 ミッドナイトが、さくさく進めていく。

 

 ・参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作る

 ・障害物競走の結果に従い各自にポイントが割り当てられる

 ・与えられるポイントは下から5ずつ

 ・1位のポイントは1000万

 

「上位の奴ほど狙われちゃう、下剋上サバイバルよ!」

 

 ・制限時間は15分

 ・騎手はポイント数が表示されたハチマキを装着

 ・獲ったハチマキは首から上に巻く

 ・0Pになっても騎馬が崩れてもアウトにはならない

 ・悪質な崩し目的での攻撃はレッドカード、一発退場

 ・個性発動アリの残虐ファイト

 

「42名からなる騎馬、10~12組がずっとフィールドにいるわけか」

 

 砂藤(さとう)力道(りきどう)が、真剣な顔になる。

 

「塚内さんに……再戦を挑みたい」

 

 八百万(やおよろず)(もも)は、決意する。

 

「ポイント数は、僕の場合あまり関係無い……!」

 

 緑谷(みどりや)出久(いずく)は、必死に考える。

 

「それじゃこれより15分! チーム決めの交渉スタートよ!」

 

 ミッドナイトの宣言と共に、大事な時間がはじまった。

 

 

 * * *

 

 

(そら)ちゃん!」

「んっ?」

 

 自分が青山君の入れ替わりなら、心操チームだろうか。

 そう考えていた私に、お茶子ちゃんが話しかけてきた。

 

「組もっ! 仲良い人とやった方が、良い!」

 

 *おおっと*

 

「じゃあ飯田くんと組む?」

「すまない塚内さん、断る」

 

 偶然そばにいた飯田君に、眼鏡クイをされる。

 

「俺は君に挑戦したい、塚内くん」

 

 そう言って飯田君は、轟君や上鳴君、八百万さんと同じチームに入っていった。

 うーん、これは……もう原作崩れてるから、何でもいいか。

 

常闇(とこやみ)くん、組みませんか?」

「塚内か。構わないが、俺は……」

「攻撃は不要です。防御に徹して下さい」

 

 私のその言葉に、常闇君は驚いたようだ。

 まあ原作のパクリなんですけどね。

 

「俺を使ってみろ、託したぞ塚内!」

 

 後一人かぁ、どうしたもんかなぁ。

 緑谷君は発目さんあたりともう組んでるだろうし……?

 なんて、悩んだ矢先だった。

 

「僕と組みませんか、塚内さん」

「私と組みましょう、宣誓の人!」

「近っ」

 

 緑谷君と発目さんに、同時に手を握られてビックリした。 

 ……あれ、緑谷君、こんな積極的だったっけ?

 

「わわっ、ごめん、塚内さん」

 

 案の定、急に私の手を握ったことに対して、緑谷君自身が驚いて手を離した。

 ゴーグルやサポートアイテムで身を固めた発目さんが、自己紹介をしてくる。

 

「私はサポート科の」

発目(はつめ)(めい)さんですよね。存じております」

「発目明、あなたの事は知りませんが……はい?」

 

 発目さんは発目さんで、原作で緑谷君にそうしたように、私にも積極的にぐいぐいくる。

 うーむ、天然すぎる。男の子にやると危険だと思います。

 

「あなたと組むと必然的に注目度が高くなるじゃないですか、そうすると」

「ストップ、発目さん。こちら私の名刺です。お納めください」

 

 そう言って、オールライトホールディングス取締役名義の名刺を彼女に渡す。

 私の名刺を受け取った発目さんは、驚愕に震えていた。

 

「おおおおお!?」

「私の目には、ちゃんと貴女のドッ可愛いベイビーが映りました。後日取引のお話をしましょう」

「はい!」

 

 そう言って、発目さんは満足そうに去って行った。

 ……念のために、名刺を一枚持ってきて大正解だった。

 

 恐る恐る、緑谷君が再度話しかけてくる。

 

「あっ、ええと、それで、塚内さん」

「緑谷くん……いえ、もうデクくんとお呼びしましょう。条件を一つ提示させてください」

「条件?」

 

 1000万ポイントの自分と組んでくれるなら最早何でもいいという顔をしたデク君に対して、私は人差し指を上に向ける。

 

「私を騎手にさせてください。その上で、166cmのデクくんが先頭の騎馬。158cmの常闇君と156cmのお茶子ちゃんを後ろの騎馬とします……この条件、呑めますか?」

「……轟くんやかっちゃんのように、僕が個性をちゃんと見せていないから、信用がない?」

「違います」

 

 私の即答に、デク君が驚愕する。

 ……申し訳ないですけど、貴方より貴方について詳しい自信があります。

 

「現時点のデクくんの弱点は、継戦能力だと判断しています。今後は弱点を克服できるとしても、今すぐは無理でしょう?」

「……えっ? あっ、うん、そうだね……でも塚内さんは、大丈夫なの?」

「問題ありません」

 

 私は、ふふっと笑う。

 

「健康体操歴10年、塚内空。お任せ下さい」

「「「……健康体操!?」」」

 

 私の笑みに、デク君もお茶子ちゃんも常闇君も、首を傾げた。

 

 

 * * *

 

 

「さァ上げてけ鬨の声! 血で血を洗う雄英の合戦が今、狼煙を上げる!」

 

 プレゼントマイク先生の実況に、苦笑する。

 

「血で血を洗うレベルには、したくないなぁ……」

「塚内さん、麗日さん、常闇くん、よろしく!」

 

 気合いの入っているデク君。

 私は私なりに、皆を鼓舞してみる。

 

「エンデヴァーを筆頭に、沢山のヒーローが見に来てます。頑張ろうね」

「よォーし、いくぜ! 残虐バトルロイヤルカウントダウン!」

 

 プレゼントマイク先生、煽りすぎ。

 本当に残虐にしたら、リカバリーガールがブチきれますよ。

 

「3!」

 

【爆豪チーム】

 ・爆豪勝己  200P

 ・切島鋭児郎 165P

 ・芦戸三奈  115P

 ・瀬呂範太  170P

 

「2!」

 

【轟チーム】

 ・轟 焦凍  205P

 ・飯田天哉  180P

 ・八百万百  125P

 ・上鳴電気  90P

 

「1!」

 

【塚内チーム】

 ・塚内 空  195P

 ・麗日お茶子 130P

 ・常闇踏陰  175P

 ・緑谷出久  10,000,000P

 

「START!」

「実質それ(1000万)の争奪戦だ!」

「はっはっはっ! (そら)ちゃん、いっただくよー!」

 

 B組の鉄哲(てつてつ)君、A組の葉隠(はがくれ)さんなど、色々なチームが狙ってくる。

 私はすかさず指示を出す。

 

「基本的には、エリアぎりぎりを時計回りに周り続けます。左側のお茶子ちゃんは私と常闇くんを浮かせて下さい。右側の常闇くんは黒影(ダークシャドウ)で死角をフォローしつつ防御を。デクくんは私が『回せ』と指示したら、お茶子ちゃんの手をしっかり握って全員を右回りにぶん回して下さい」

 

 お茶子ちゃんの手をしっかり握って、の部分で、デク君が渋い茶を飲んだ時の顔になった。

 お茶子ちゃん自身を浮かせてしまうと負担が大きい。

 だから原作では、お茶子ちゃん一人に担がせていた。

 どうせ狙われるのなら、そこまで高速移動をする必要は無い。

 慌てず騒がず、どっしり構えて待ち受ければいい。移動はし続けるけど。

 

「峰田くんのもぎもぎトラップと、B組骨抜くんのフィールド液状化に注意してください」

「了解だ、塚内!」

 

 常闇君が、元気に返事をしてくれる。

 だから、チームの皆に説明してあげた。

 

「こうやって外周に徹することで、ある程度他のチームの意識や動きを分析できます。全員が徹底的に1000万を追ってくるわけじゃない。1000万に固執しない人達、あるいは偶然近場にやってきたら狙おうと考える人達もいる。少なくとも終盤まではそう。全員がなりふり構わず高得点を狙うようになってきてからが本番だけど……それまでは冷静に対処していきましょう」

「そうだね、こちらを狙うことに必ずしも固執していない……逃げ切りがやりやすいはず」

 

 デク君が頷く。

 

「ヘドロ事件の被害者! 今度参考に聞かせてよ、年に一度(ヴィラン)に襲われる気持ちってのをさ!」

 

 早速、B組の物間(ものま)寧人(ねいと)君がA組の皆を煽りはじめた。

 やっぱりというか、爆豪君がブチ切れてる。

 

「切島……予定変更だ。三つ編みやデク達の前に、こいつら全員殺そう……!」

 

 うーん、ちょっと煽りすぎなんだよね、彼。

 

「えっ、物間(ものま)くんって(ヴィラン)に襲われたことないんですか? おいでませ鳴羽田(なるはた)へ! 最低でも、三日に一度は(ヴィラン)に会えますよ!」

「東京に呼ばれた時に『鳴羽田の治安は正直良いとは言えない』って言われたけれど、思い返せば初日から(ヴィラン)に会ってたね」

 

 お茶子ちゃんに、ジト目で見られている気がする。

 鳴羽田の犯罪率の高さは、犯罪白書とかに論文を掲載していいレベルだと思います。

 

 私は開き直って、魔境・鳴羽田の歌で誤魔化すことにした。

 雄英体育祭の騎馬戦の最中ということも忘れて、私は熱唱する。

 

(BGM:南北春三郎「鳴羽田慕情」)

 

「鳴羽田~、鳴羽田ぁぁぁ、ああ鳴羽田の~♪」

 

 私達の目の前に、轟チームが迫ってくるのが見えた。

 

「ネオン煙らすぅ~涙ァ~雨ェ~~~♪」

「そろそろ()るぞ」

 

 あーん、誰も聞いてない。

 

「お茶子ちゃん、みんな浮かせて緊急180度ターン!」

「りょ!」

 

 緊急で場を脱出したそばから、無差別放電130万(ボルト)と氷結の重ね技が轟チームの周囲に放たれた。お茶子ちゃんが、焦って叫ぶ。

 

「強すぎるよ! 逃げ切れへん!」

「牽制する!」

 

 常闇君の牽制攻撃が、八百万さんの装甲板で防がれる。

 

「『創造』……厄介すぎる!」

「気にしない気にしない。上鳴くんの個性と、相性悪いんでしょ?」

「なっ、何故それを?」

「(原作を)見てれば大体わかるよ」

 

 私は苦笑しながら指示を出す。

 

「当面は今までと逆、外周左回りで……っと、あのチーム。普通科の心操(しんそう)人使(ひとし)くん、A組尾白(おじろ)猿夫(ましらお)くん、B組庄田(しょうだ)二連撃(にれんげき)くん、サポート科の発目(はつめ)(めい)さんに近づける?」

「クラスが全部バラバラー!」

 

 お茶子ちゃんが笑う。

 私はすれ違いざまに、心操君の背中に手を当てる。

 

「なっ!?」

 

 突然背中を触れられて驚いた心操君の身体の中を通して、心操背骨・腰経由、庄田君の肩・首・背骨・腰と辿って庄田君の仙骨を崩した。

 同時に、情報操作で意念を消した動作を用いて心操チームのハチマキを強奪。

 

 庄田君の重心が崩れたことで『やりあっている最中に、騎馬のバランスが崩れて』庄田君が転び、庄田君に引きずられて発目さんが耐えきれず転び、連動して心操君が落馬していく。

 地面に落ちた心操君は、私が思う以上に動揺し、狼狽(ろうばい)していた。

 

 だって、尾白くんも庄田くんも発目さんも、自分が何故騎馬をしていたのかよくわかってない感じの顔してるもんね。

 これでもう、騎馬戦中に個性『洗脳』で再度コントロールを奪うのは、無理でしょ。

 

「ははぁ……強いね。きっといい個性なんだろうね、(ヴィラン)に襲われまくりの人!」

 

 急速に近づいてきた物間(ものま)くんが、私に手を伸ばしてくる。

 

「まっ、僕の方が……」

「僕の方が?」

「……良いけどさ……えっ?」

「コピーできましたか? 私の個性」

 

 すれ違いざまに、私を攻撃しようとしたものの、動揺して何もできなかった彼の手にハイタッチをしてさしあげた。

 

「無個性(無個性とは言ってない)のコピー、お疲れ様です!」

「はぁあ!?」

「鳴羽田~、鳴羽田ぁぁぁ、ああ鳴羽田の~♪」

 

 その時、私の方に急接近してくる轟チームが見えた。

 

「ネオン煙らすぅ~涙ァ~、『回せ』!」

「トルクオーバー、レシプロバースト!」

「うおおおおお!」

 

 私の指示と、飯田君の絶叫と、デク君の絶叫が重なった。

 幸いだったのは、あまりの超加速に轟君の動きが追いついていなかったことだろうか。

 彼の手を、旋回に合わせて素直に化勁で流すことができた。

 

「次! 三つ編みと轟んとこだ!」

 

 動揺して動きが悪くなっていた物間チームからハチマキを奪った爆豪君が、私と轟チームの方にジャンプした、まさにその時だった。

 

TIME(タイム) UP(アップ)!」

 

 ズゴッという音と共に、爆豪君が顔面から地面に激突した。

 ちょっと痛そう。

 

「早速上位4チーム、見てみよか!」

 

 プレゼントマイクが、ご機嫌に喋っていく。

 

「1位、塚内チーム! 2位、轟チーム! 3位、爆豪チーム! 4位、鉄哲チーム!」

 

【鉄哲チーム】

 ・鉄哲徹鐵

 ・骨抜柔造

 ・泡瀬洋雪

 ・塩崎 茨

 

 心操チームの洗脳が急に切れたことで、色々取り戻せなかったようだ。

 本当はもうちょい手加減してあげたかったんだけど、流石に発目さんへの洗脳は、なんていうかその、薄い本が厚くなるやつでして、前世の兄が喜ぶと申しますか何というかその、あーもう!

 

「以上4組が、最終種目へ……進出だぁぁーっ!」

 

 前世の兄が真顔で呟いていた『夜のヒロアカ最強は庄田(しょうだ)二連撃(にれんげき)説』が脳裏をよぎって、私は思わず両手で顔を覆ってしまった。

 むぐぅ、あの兄は相手が妹だからって平気でエロ話もしやがってェ……!

 

 ところが、私の顔が真っ赤になっていたのもあって、周囲の皆は私が感激の涙を隠すために顔を覆ったものだと勘違い。

 

「良かったね、(そら)ちゃん!」

「やったね、塚内さん!」

「ああ。喜べ塚内、皆の勝利だ」

 

 チームの皆が、私が泣いていると思って温かい声をかけてくれる。

 仕方なく、私は目を拭くフリでなんとか泣いていたように誤魔化した。

 

 ……来るなァ! 来ないでカメラマン! 感動の光景とかそういうの撮影しなくていいから!

 わかってます撮れ高なんですよね来ないで下さい!

 

 後日、雄英体育祭の報道特集を見たら『勝利の感涙 ~無事これ英雄なり~』とか私の泣き顔(のフリ)にテロップが入ってて、私は死んだ。

 

 




「鳴羽田慕情」を歌わせてみたかった
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