塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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「生成AI+画像編集」による挿絵がありますので、生成AIが苦手な方はご注意下さい。


EP.46 「ポイント・オブ・ノーリターン」

 

【マインフィールド】《minefield》

 地雷原。危険な状況。

 触ると爆発しかねないデリケートな話題。

 

 

 * * *

 

 

 バトルヒーロー・ガンヘッド。

 独自の格闘技G・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)を操るプロヒーローだ。

 

 ここは格闘技練習用の道場であり、『心技体』と看板がかかっている。

 麗日(うららか)お茶子は練習用の模造ナイフを片手に、ガンヘッドと向かい合っていた。

 

「でやぁーっ!」

 

 気合いの入ったかけ声と共に、お茶子は模造ナイフを矢鱈滅多に振り回す。

 ガンヘッドは後ろに飛び退きながら、可愛い喋り方でお茶子に指導をしていく。

 

「振り回してきたら……距離を取って対応!」

 

 お茶子がナイフを突いた時、ガンヘッドの対応が変わった。

 

「直接攻撃が来たら、片足軸回転で躱して、手首と首を同時に掴む!」

 

 右腕を伸ばした状態のお茶子の左側(お茶子から見て右側)に回りこみ、ガンヘッドは台詞通りにお茶子の手首と首を同時に掴んだ。

 そのまま手首を引っ張り、半円状にお茶子を回しながら体軸を崩す。

 お茶子はたまらず、右腕を真っ直ぐ伸ばしたままでうつ伏せに引き倒された。

 

「手首を引きながら……首を押す!」

 

 ガンヘッドは、お茶子を倒す所までは首を押していた。

 彼女を床に倒してからは、手加減として背中を押している。

 首を押すのは、相手の顔面を地面に押しつけることに繫げる意味がある。

 説明はしていないが、この時ガンヘッドは左膝でお茶子の右太股を押さえて制圧している。

 

「手首を捻ってナイフを落とさせ、落ちたナイフは蹴って遠ざければ……より完璧になるよ!」

 

 お茶子の手から落ちたナイフが、道場の床を回転しながら彼女から離れていく。

 わかったかい? とばかりに、ガンヘッドが左手の人差し指と親指を立てた。

 

 くう、とお茶子は捻られた右手首を押さえる。

 あっさりナイフを落とされてしまい、少し悔しい。

 

「よし、じゃあ息吹(いぶき)をやって〆ようか!」

「はい!」

 

 空手には、『息吹(いぶき)』と呼ばれる特殊な呼吸法がある。

 逆腹式呼吸、または丹田呼吸法と呼ばれる。

 息を吸うときに腹を膨らませ、吐くときに腹を凹ませるのが特徴だ。

 呼吸と一体になることで、精神的な集中力を高め、気力を充実させる。

 原作においては漫画的誇張表現がされていたが、実際にはこんな感じだ。

 

「「コォォ~ッ、()ッ!」」

 

 ガンヘッドと麗日(うららか)お茶子は、仲良く並んで息吹でその日の鍛錬を終えた。

 G・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)自体が我流の武術なので、空手の呼吸を含めて最早何でもアリだった。

 

 

 * * *

 

 

 久しぶりの鳴羽田(なるはた)功夫(クンフー)道場。

 塚内空は模造でも何でも無い普通のナイフ(本当に斬れるヤツ)を手にして構えていた。

 

 師父(シーフー)である白爺(しろじ)太一(たいち)は、解説をしていく。

 

「今日は擒拿(きんな)術と呼ばれる、中国拳法版の関節技を教えるがの。実のところ、関節技という表現は正確では無い。ただの人体破壊術じゃ」

「人体破壊術……ですか」

 

 太極拳もわりと壊しますよね、という台詞を塚内空は飲み込んだ。

 

「死ぬまで壊す。あるいは、壊していたらいつの間にか相手が死んどる。仮に生き延びても戦場に戻ることはできん。徹底的に何もかも破壊するのが擒拿(きんな)術よ」

「あのー、私、一応ヒーローの卵なんですけど」

「細かい事はええ。まず相手がナイフや武器を持っていたと仮定するがの」

 

 徹底的な人体破壊に関する塚内空のツッコミは、スルーされた。

 

「相手が武器を持っている場合、大半の相手は武器を使うという発想に居着く。自分の手で殴るよりは切ったり刺したりの方が早いから、どうしたって()()()()()()()()()()

 

 師父(シーフー)が、上半身を動かさない蹴りこと斧刃脚(ふじんきゃく)をしてみせた。

 

「ゆえに足元が(おろそ)かな事が多い。膝を壊せそうならとりあえず壊す」

「とりあえず膝を壊す」

「前掃腿は場所や体格差もあるから確実ではない。で、相手が突いてきたとする。カモじゃ」

 

 ナイフで突いてこい、と指チョイをされたので、塚内空は素直にナイフで突いた。

 師父(シーフー)は躱しながら塚内空の右腕を掴む。

 

「ナイフに限らんが、突くということは腕を伸ばすということ。じゃから相手の肘を肩にのせてとりあえず折る」

「とりあえず肘を折る」

 

 ナイフで突いた右腕の肘を肩に載せられ、テコの原理で折るという意思表示をされた、

 

「別に肩に載せる必要は無い、肘の上から手で押さえても折れる。隙があるならとりあえず目潰しでもエエ」

「とりあえず目潰し」

「この時点で、ナイフを落とすことに固執する必要は無くなる。こっちが内にはいっとるから怖くもなんともない。相手の脇があいとるから、とりあえず肘で肋骨を折って裏に回る」

「とりあえず肋骨を折る」

「裏に回る時は、右腕を離さんように。とりあえず肩でも折っときゃ勝手にナイフが落ちる」

「とりあえず肩を折る」

 

 塚内空の裏に回りながら、師父(シーフー)が淡々と説明していく。

 肩の折り方は『そっちに腕は回らねぇよ式』『腕を使い相手を持ち上げ、敵の自重で勝手に肩が壊れる式』などこれはこれで色々な種類があった。

 

「ぶっちゃけこの時点でやりたい放題じゃの。相手の(たい)を崩して、地面に倒して制圧した方が早いし簡単で楽じゃ。倒した後は、耳の下に点穴があるからそこを押さえてもよし、分筋法で相手の筋肉を引き裂いてもよし、指を引き裂いてもよし。とりあえず全部やってもエエの」

「とりあえず引き裂く」

「相手の顔を掴む時は、眼底に指を引っ掛ける感じじゃの。相手の身体の壊せそうな所を片っ端から壊していけば、そのうち相手は静かになっとる」

「……死んでるっていいませんか、それ」

「細かいことはええ。ほれ、まずここが点穴の一つ」

「ぎゃーーー!」

 

 師父(シーフー)は、塚内空の点穴を実演で指導していった。

 点穴の実演指導というのは「ここを押すと痛いから身体で覚えてね」「角度と力の入れ方が点穴によって違うから身体で覚えてね」「ほら、ここをこう押さえるだけで激痛が走るでしょ、理解できた?」を淡々と繰り返されるということであり、つまりどういうことかというと、塚内空の涙目の絶叫が道場内に響き渡り続けるということである。

 

 職場体験で六本木に来たから、ついでだし鳴羽田に寄って道場の皆に挨拶しようと気楽に考えていた塚内空は、静岡県に帰る頃には涙と鼻水まみれで全身激痛の瀕死状態に陥っていた。

 関節技に類する指導は全員同じ道を辿るらしく、健康体操のジジババ達は懐かしい景色を見る目で塚内空の悲鳴を堪能していた。

 受付のお姉さんですら遠い目をしていたので、塚内空の味方は誰一人いなかった。

 

 

 * * *

 

 

 職場体験が終わり、久しぶりの雄英高校。

 1-Aの皆は、思い思いに自身が体験したことの感想を言い合っていた。

 

「へぇー、(ヴィラン)退治までやったんだ! うらやましいなあ!」

「避難誘導とか後方支援で、実際交戦はしなかったけどね」

「それでもすごいよー!」

「私もトレーニングとパトロールばかりだったわ。一度隣国からの密航者を捕らえたくらい」

「それすごくない!?」

 

 芦戸(あしど)三奈(みな)耳郎(じろう)響香(きょうか)蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)がそんな会話をしていた。

 

「お茶子ちゃんはどうだったの? この一週間」

「とても……有意義だったよ」

 

 コォォ~ッ、()ッ!

 

 漫画的誇張表現ではない、正しい空手的『息吹(いぶき)』を麗日(うららか)お茶子はやってみせた。

 

 ひゅぼっ!

 

 『職場体験って一週間でしたよね?』みたいな鋭さの左正拳中段突きも披露される。

 空手は空手で、伝統派とフルコン等、面倒な事が多いのでふわっと処理させていただく。

 (中国も日本も、武術は分裂と創流と誇張の歴史であり、真面目に歴史を追ってはいけない)

 

「目覚めたのね、お茶子ちゃん」

「バトルヒーローのとこ行ったんだっけ」

 

 蛙吹と耳郎が感心する。

 上鳴(かみなり)電気(でんき)は、昨今流れてるニュースを思いながら言う。

 

「ま、一番変化というか大変だったのは、ヒーロー殺しに絡んだところだろうな」

 

 飯田(いいだ)天哉(てんや)緑谷(みどりや)出久(いずく)(とどろき)焦凍(しょうと)、そして塚内(つかうち)(そら)

 なんとなく集まっていた四人に対して、クラスメイトの興味や心配の視線が集まっていく。

 

「俺ニュースとか見たけどさ、ヒーロー殺しは(ヴィラン)連合とも繫がってたんだろ? もしあんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うと、ゾッとするよ」

 

 尾白(おじろ)猿夫(ましらお)が、四人に対して肩をすくめてみせる。

 

「うん、そうだね」

 

 『繫がっていないが?』と本人から直々に言われてしまった緑谷としては、苦笑するしかない。

 

「彼は信念の果てに、粛清から自殺という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ」

 

 飯田が、強い意志を籠めて答える。

 

「……そうね。彼にはちゃんと、()()()()()()()()()()()()()()

 

 塚内空が、顔をもにゅもにゅさせながら微妙な言い回しをした。

 

「ああ、そうだな。ヒーロー殺しには、生きて罪を償って欲しかったと思う」

 

 真面目な轟が、真面目に受け取り真面目に返した。

 

 もちろん、塚内空の内心は全然違う。

 ステインからオールマイトへの、情報伝達イベントが起きない時の影響が良くわからない。

 オールマイト頑張れ子さん(仮名)の頑張りをオールマイトに伝えるのは、誰でも出来る。

 

「さァそろそろ始業だ、席につきたまえ!」

 

 飯田の大声と共に、皆の雑談は一旦中止となった。

 

 

 * * *

 

 

「ハイ私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ。ヒーロー基礎学ね」

 

 指導に不慣れなオールマイトの迷走がよくわかる台詞が、彼の口から出る。

 

「久しぶりだ少年少女、元気か? 職場体験直後ってことで、今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!」

 

 運動場γ(ガンマ)

 鉄パイプなどで構成された、迷路のような細道が続く密集工業地帯。

 立体交差を含めて、大変複雑に入り組んでいる地形だ。

 

 ・緑谷(みどりや)出久(いずく)

 ・尾白(おじろ)猿夫(ましらお)

 ・飯田(いいだ)天哉(てんや)

 ・芦戸(あしど)三奈(みな)

 ・瀬呂(せろ)範太(はんた)

 

 はじめに選ばれた五人は、ごちゃついた中間層を避けて一気に上空に駆け抜けた。

 なんだかんだで、フルカウル5%を習得したデクの動きは凄かった。

 最後の最後で滑って足を踏み外したとはいえ、爆豪(ばくごう)勝己(かつき)を思わせる機動を見せた。

 

「何だあの動き」

「すごい……ピョンピョン……何かまるで……」

「俺の動き方……!」

 

 轟、お茶子、爆豪が、それぞれ感想をこぼしていく。

 塚内空は、挙手と共に質問をした。

 

「オールマイト先生。遊びの要素を含めて良いのなら、縛りプレイをしてもいいですか?」

「縛りプレイ……!」

 

 塚内空の発言を聞いた峰田(みねた)(みのる)が、挙動不審のガンギマリな目で呟く。

 

「何をするつもりなんだい、塚内少女?」

「夜間想定、つまり目隠しです……あ、もちろん私だけ」

 

 そう言いながら、塚内空はタオルで目を覆っていく。

 オールマイトが返事を出す前に、彼女の目隠しは実行されていた。

 

「……この運動場γ(ガンマ)を、目隠しかい!?」

 

 複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯。

 立体交差を含めて、大変複雑な地形だ。

 

 ・爆豪(ばくごう)勝己(かつき)

 ・(とどろき)焦凍(しょうと)

 ・塚内(つかうち)(そら)

 ・蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)

 ・常闇(とこやみ)踏陰(ふみかげ)

 

 そして、ランダムで選ばれたメンバーは誰しもが立体構造に強い人選だった。

 塚内空以外の全員が、己の個性により自由自在に三次元機動をこなすことができる。

 『進撃の巨人』の立体機動装置が涙目になる動きを全員やってのけるメンバーだ。

 

「クソが……舐めやがって……」

 

 悪態をつく爆豪だが、微妙に覇気が足りていない。

 職場体験で一週間も足踏みをしてしまったという事実が、彼を苛つかせていた。

 

「スタート!」

 

 オールマイトのかけ声と同時に、五人全員が走り出す。

 塚内空以外の四人は、一組目同様に個性を活用し、一気に上空へと踊り出た。

 

「……あの機動は、正気なのか」

 

 障子(しょうじ)目蔵(めぞう)が、冷や汗をかく。

 八百万(やおよろず)(もも)は、驚愕を隠せない。

 

「理論値最短コースを、目隠しのままで!?」

 

 単純な話だが、一度上に抜けてから横に移動するのと、目的地に向かって真っ直ぐ向かうのは距離が違う。

 大変複雑な地形たる運動場γ(ガンマ)で、しかも個性を使わずどうやって、と全員が驚いた。

 

 塚内空的には、逆だ。

 複雑な地形だからこそやりやすい。

 これが平坦な地形であれば、個性把握テストの50m走と変わりが無くなる。

 

 エコーロケーションで周囲の地形を把握し、パルクール技術で駆け抜ける。

 スタンダールや蜂須賀九印がやっていたように、ビルの屋上に数回の跳躍で行くこともできる。

 私立聡明中学時代は、さらにタバタ・プロトコルを追加して毎日二回、疲労困憊していた。

 通学の往復の度にシャワーを浴びて汗を流していたのは、伊達ではない。

 

「フィニーッシュ!」

 

 結果として、五人全員が同着した。

 丁度いいとばかりに、塚内空は目隠しをしていたタオルで自身の汗を拭いている。

 爆豪勝己は、歯ぎしりが止まらなかった。

 

 俺が馬鹿みてぇな時間を過ごしている間に、こいつらは先へ……!

 

 爆豪と塚内の視線が交錯した。

 塚内空は、爆豪と顔を合わせづらいままだったので、日本人的曖昧な微笑で誤魔化した。

 爆豪は爆豪で、今更ながらに塚内空の半裸を思い出し、舌打ちしながら目線を逸らした。

 (雄英体育祭の後、母親からマジ殴りで激怒されたのは誰にも言ってない)

 

 

 * * *

 

 

 救助訓練の後の、着替え時間。

 峰田実が大騒ぎをはじめた。

 

「おい緑谷、やべェ事が発覚した、こっちゃ来い!」

「ん?」

 

 なんで僕を呼んだんだろうという顔で、緑谷は峰田を見る。

 

「見ろよこの穴、ショーシャンク! 隣はそうさ、わかるだろう? 女子更衣室!」

 

 飯田がため息をつきながら、一通の手紙をロッカーから取り出した。

 

「峰田くん。こういう時のために、塚内くんから手紙を預かっている」

「うひょーっ、ラブレターかよ!」

 

 興奮した峰田が、大慌てで手紙の封を開ける。

 中身が気になった砂藤(さとう)力道(りきどう)切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)が、横から手紙を覗き込んだ。

 

【『静岡県迷惑行為等防止条例』

 

 第3条 何人も、正当な理由がなく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

 (2) 公共の場所又は公共の乗物にいる人の下着又は身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る)をのぞき見ること。

 第12条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 (1) 第3条の規定に違反した者

 12-2 常習として前項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。】

 

「知るかぁぁぁーッ! オイラのリトルミネタは、もう立派なバンザイ行為なんだよォ!」

 

 塚内空からのマジレス(ラブレター)を、峰田は思いっきり引き裂いた。

 

「葉隠神の巨乳全裸、塚内のナイスバディ半裸、八百万のヤオ腿ッパイ、芦戸の腰つき、麗日(うららか)のうららかボディに蛙吹の意外おっぱいとケツゥゥゥ!」

 

 異常者そのもの、手遅れ、治療不可能。

 峰田は涎を全力で垂らしながら、天岩戸(あまのいわと)の向こう側を覗き見た。

 なお映画『ショーシャンクの空に』は超がつく名作なので、一度は見て欲しい。

 

 耳郎(じろう)響香(きょうか)の『イヤホンジャック』。

 原作では一本が峰田の片目にめり込んだが、この世界では二本共に峰田の両目にめり込んだ。(※この瞬間だけ平行宇宙がギャグ時空となり、全てのダメージがギャグ漫画変換された)

 

 そして女子更衣室では、原作の脱衣状況に加えて塚内空も着替えをおこなっていた。

 原作と違うのは、1-A女子全員の胸や股間や太股その他、色っぽい部分が見開きページでがっつり描写されていることだろうか。

 下着の書き込みや皺の入り具合、肉感描写が異常なクオリティとなっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アニメにおいては作画監督のみならず、監督自ら絵コンテに修正指示を出す気合いの入り方だ。

 

 耳郎響香のスポーツブラ姿も、乳首の突起がわかる表現になって強化されていた。

 だが当人達は、上位存在の視線に気づけるわけもない。

 

「ウチだけ何も言われてなかったな……」

 

 耳郎響香の心の闇が、増した。

 

 

 * * *

 

 

「彼には無個性の妹がいた。妹は身体も小さくひ弱だったが、意思の強い女性だった。兄の所業に心を痛め……抗い続ける女性だった。そんな妹に、彼は『力をストックする』という個性を無理矢理与えた……」

 

 原作同様に、オールマイトは緑谷出久にワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンの説明をした。

 残念なことに、この平行宇宙では根底となる大事な部分が変更されてしまっていた。

 バタフライエフェクトの結果、原作に存在しないAFOの血族が発生し、塚内空は強制的に転生させられた。

 

「それが優しさ故か、はたまた屈服させる為かは、今となってはわからない」

 

 それはAFOの実妹に対する偏執的な愛情の結果であり、結婚指輪の代わりに個性を与えただけ。

 その単純明快な事実を予想できるのは、現時点のこの世界では塚内空、一人しかいない。

 

「皮肉な話さ。正義はいつも、悪より生まれ()ずる」

 

 オールマイトは、真剣な顔で緑谷出久にそう語る。

 

 だが、悪から正義が生まれるのであれば、正義から悪が生まれることもある。

 そして正義から生まれた悪は、往々にして正義側の手口を知っているからタチが悪い。

 

 ただでさえ教師という不慣れな仕事に加え、今のオールマイトにはOFAの新しい後継者である緑谷出久を導くという大事な仕事もあった。

 だからこそ、余裕が無かった。

 現在進行形で、真綿で首を絞められている塚内空に気を回し、彼女を助ける余裕が無かった。

 

 

 この時たった一言でも、塚内空がオールマイトに助けを求めていたら。

 それは歴史のIFでしかなかったが、無意味なIFでもあった。

 

 志村転弧は、道行く人々に『助けて』を言うことができず、結果として死柄木弔となった。

 塚内空は、『助けて』と誰かに言うことも、誰かに相談することも自ら封印してしまった。

 

 ステイン、(ヴィラン)連合、週刊誌、ニュース報道。

 「俺達まで泥に(まみ)れろってのかぁ!?」と最終決戦で主張する一般市民達の民度。

 善悪関係無く、誰もが無責任に面白がり、塚内空を『ヴィランの女神』として祀り上げた。

 

 ニュースで塚内空の偏向報道が流れているのはわかっていたが、皆どうにも出来なかった。

 

 だから誰も気づけなかった。

 無実の少女に凶悪な冤罪をかけ続けるとどうなるのか、想像すらしなかった。

 

 子供すら道具として、世界平和の維持のために貢献していると勘違いしている愚者達。

 動く必要の全く無いヒーロー公安委員会が、動きはじめてしまった。

 

 

 * * *

 

 

【報道番組『HEROES UP!』特集コーナー】

 

 【特集】 テロリストを生んだ『聖なる言葉』?

     ~著書と発言から読み解く危険思想~

 

【出演者】

 ・MC:宮城(みやぎ)大角(だいかく)。フリーアナウンサー。片角がトレードマーク。

 ・ヒーロー評論家:暗井指数(くらいしす)煽雄(あおりお)。時代の節目に詳しい。(※原作25巻公式キャラ)

 ・社会心理学者:偏見(へんけん)凄美(すごみ) 。中立を標榜している社会心理学者。

 

 

宮城大角(MCの片角アナウンサー):

「さて、保須市を襲った『ヒーロー殺し』ステイン。彼が犯行直前に名を挙げ、崇拝していたとされるのが、雄英高校ヒーロー科の生徒・塚内空さんです。彼女の著書『聖なるゴミ』は社会現象にもなりましたが、今回の事件を受け、内容と彼女へのインタビューが再検証されています」

 

【フリップ:塚内空(当時11歳)のインタビュー】

 『彼らがヴィランに堕ちたのか、その根本原因の解決には一銭の報酬も出ません』

 『社会福祉やカウンセリングが正常に機能していれば、ヴィランの発生は激減している』

 『社会は悪を倒すショーに熱狂し……』(画面一時停止、塚内空の顔をアップ)

 

暗井指数煽雄(ヒーロー評論家):

「これは驚きました。一見、社会問題を憂いているように見えますが、彼女はヴィランの凶行を『社会のせい』にして正当化しています。『ヴィラン側の論理』ですね。ヒーロー志望の生徒が言っていいことではありません」

 

宮城大角(MCの片角アナウンサー):

「しかし、彼女は『社会の構造的な欠陥』を指摘しただけであり、犯罪を肯定したわけではないという反論もありますが?」

 

偏見凄美(社会心理学者):

「ええ、言葉の上では。心理学的に見れば、これは典型的な責任転嫁のレトリックです。『だから犯罪を犯しても仕方ない』という免罪符をヴィランに与えているのと同じです。ステインのような確信犯が、この甘い言葉に飛びつくのは当然の帰結でしょう」

 

【フリップ:塚内空(当時11歳)のインタビュー】

 『オールマイト一人に寄りかかって、何も不思議に思わない世界こそが(いびつ)なのです』

 『資格を持たない者こそが、こう言って手を差し伸べる社会であってほしい。大丈夫、私が来たと』

 

暗井指数煽雄(ヒーロー評論家):

「出ましたね、オールマイト批判。平和の象徴が築いた時代を『歪』だと断罪。さらに危険なのは後半です。資格を持たない者こそ、要するに『法を無視した自警主義(ヴィジランティズム)』の推奨です。免許なんていらない、市民が勝手に正義を執行しろ……まさにステインがやったこと、そのものじゃないですか。彼女の言葉が、無法者たちに『俺たちは正しい』という理論武装をさせてしまった責任は極めて重いと捉えます」

 

偏見凄美(社会心理学者):

「彼女は無自覚かもしれませんが、結果としてテロリストの思想的指導者になってしまっている。確信犯的に扇動した可能性も捨てきれません」

 

宮城大角(MCの片角アナウンサー):

「……なるほど。表現の自由とはいえ、その解釈が社会に与える影響は計り知れないということですね。CMの後は、ステイン逮捕の瞬間の映像を……」

 

 

 * * *

 

 

 塚内空は、メシがまずくなるので無言でテレビを消した。

 麗日(うららか)お茶子が、心配そうに彼女の顔を覗き込む。

 

「切り抜きって、すごかねぇ」

「……本もインタビューも、見事に真逆に解釈されてる」

 

 味噌汁を啜りながら、塚内空はため息をついた。

 

「お茶子ちゃんの手作り料理だけが、癒やしだよ……」

「毎日作るよ!」

 

 そう言って、お茶子が笑った。

 

 

 * * *

 

 

 神奈川県横浜市神野区にある、隠れ家的なバーの地下。

 モニタに映るニュース番組を眺めながら、AFOは独白する。

 

「『ヒーロー殺し』。自殺までするとは思わなかったが、概ね許容範囲だ。暴れたい奴、共感した奴……様々な人間が衝動を解放する場として(ヴィラン)連合を求める。死柄木(しがらき)(とむら)は、そんな奴らを統括しなければならない立場となる!」

 

 生命維持装置が無ければ生きていけないAFOは、基本的に大人しくしている。

 彼の言葉を聞いたドクターが、呆れ顔を見せる。

 

「出来るかね、あの子どもに」

「いいのさ、彼には苦労してもらう! 次の僕となるために」

 

 AFOは苦笑しながら、ニュース番組が映す少女を見やる。

 

「この子も面白そうではある。一度会った気もするが、はて、どこだったかな」

 

 思いだそうとしたAFOだったが、人生の長さゆえに、会った人間も殺した人間も多すぎる。

 つまり今のAFOにとって、塚内空は埋もれた人間の一人でしかなかった。

 だが死柄木弔にとって、良い成長の材料になりそうな少女ではあった。

 

「今のうちに謳歌するといいさオールマイト、かりそめの平和という茶番をね」

 

 

 AFOは、気づかない。

 

 その少女が、自身の愛した妹との大切な子孫であるということ。

 その少女が、自身を笑いながら殺せる精神性を保持していること。

 その少女は、現時点でもAFOを殺せる可能性があるのに、ある願望のためだけに実行しないということ。

 

 そうとは知らず、AFOは塚内空を玩具としてしか見ていない。

 もしこの時、AFOが塚内空の正体に気がついていれば、また違う歴史をこの世界は辿ったことだろう。

 

 その意味では、六月中が後戻りできる最後の時期だった。

 それはヒーロー側にとっても、ヴィラン側にとってもだ。

 

 歴史のIFは、無意味なIF。

 ()()()()は、残念ながら存在しない。

 

 地獄への道は、善意で舗装されていた。

 

 




挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)
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