【フォーシブル】《forcible》
強制的な、力ずくの。
(法や同意を無視して)無理やりに。
* * *
――ヒロアカ世界の六月イベントって、何があったっけ?
六月の休日。
連日のバッシングに心が疲弊していた私は、ソファに寝っ転がっていた。
叔母の真さんのように、ぐでーんとしながら、今後の事も含めて時系列の脳内整理をしていた。
お茶子ちゃんが、メイドさんのように何でもしてくれるのが悪いという責任転嫁。
同居している天使様に、いつの間にか駄目人間にされていた件。
直球で答えを言ってしまうと、本編以外のスピンオフが絡むかどうかで変わる。
アニメオリジナル話や、小説の雄英白書など。
その意味だと、劇場版の扱いも気になる。
ただ私がオセオンに行けた以上、劇場版は確定で絡んでくるはず。
アニオリが絡むのなら、USJの後に「救え!救助訓練!」があったはずだ。
そして小説の雄英白書が絡む場合は、六月に「授業参観」が発生する。
ただこの二つ、今更ネタバレもへったくれもないから言ってしまうと、両方ともストーリーの根幹が同じ。
『突然現れた強大な敵と戦う1-A生徒達! でも実はオールマイトがヴィラン役でした!』。
「救え!救助訓練!」も「授業参観」も、実はオールマイトがヴィラン役でした。
『アニオリと小説は別』と言われても、世界の中で体験する側としては「また同じオチ?」と感じてしまう。
アニオリの「救え!救助訓練!」は、USJ事件の四日後だったはず。
更に言うと「授業参観」は、二週間前の時点で相澤先生から告知がある。
救助訓練は無かったし、授業参観の告知も無かった。
この事から、アニオリ展開及び雄英白書展開は存在しないのではと推測できる。
雄英白書関連の確定は、
八百万さんの母親が、料理下手特有の『味見すらしない毒物クッキー』を出してくると雄英白書展開。メシマズの人は周囲の人を本気で入院させるから、ちょっとやめて欲しい。
漫画チームアップミッションは、冬のインターン中、来年二月頃のお話。
ただ、チームアップミッションは劇場版を含めて沢山のキャラが入り乱れる。
原作破壊RTA気味に突き進んでいるこの世界では、高確率でキャンセルされるはずだ。
そうなると「原作・劇場版の他に、TVアニメ版要素が多少混ざってる」がこの世界なのかな?
嗚呼、それにしても。
アニメ版ヴィジランテ二期、見てみたかったなぁ。
ザ・スカイクロウラーのグッズとか発売されたら、買うのに……グッズ?
がばりとソファから跳ね起きた私を、お茶子ちゃんが怪訝そうな顔で見てきた。
「空ちゃん、どしたん?」
「アクスタ作ろうと思って」
「あくすた?」
オタ女必携アイテム、アクリルスタンド。
木を隠すなら森の中。
ザ・スカイクロウラー事務所のサイドキック達ごと商品化してしまえ。
よし、ぬいぐるみもいっちゃおう。
というわけで、実際にアクスタとぬいぐるみを売り出してみた。
ラブラバ・バブルガール・深夜おねむの在庫が瞬殺で消えて再版コースです。
バブルガールとかえっちすぎるからね。仕方ないね。
女性陣のフィギュア化の話も回ってきたので、なんかこの世界、わかりやすい。
ザ・スカイクロウラーのフィギュアを出したいなぁ……。
ヒーロービルボードチャート上位ランクイン後なら、いけるはず!
* * *
連日続くマスコミの偏向報道に、真さんがブチ切れた。
叔母こと相澤真CEOは、わかりやすく露骨な戦略に打って出た。
「貴方の局にCM出してもいいですよ/CM撤退させますね」戦略。
これが効果てきめん、少なくともTV関係は一発で黙った。
いつの世も、札束ビンタが支配する。
加えて、あまりに酷すぎる奴は法務部が直接動いてくれた模様。
(証拠となるものが複数欲しかったので、あえて泳がせていたっぽい)
名誉毀損(刑法230条)及び信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条)のカウンターが炸裂。放送局、制作会社、そして発言したコメンテーター個人(暗井指数煽雄、偏見凄美)に対して、刑事告訴と高額な民事訴訟(慰謝料+謝罪広告請求)が同時に叩き込まれた。
……ま、流石にちょっとやりすぎだよね。
『無個性の癖に生意気な!』という世論が後押ししてたフシはある。
無個性の人達だって、好きで無個性に生まれたわけじゃないのにな、とは思う。
* * *
さて、
答えを言ってしまうと、『味見すらしない毒物クッキー』は出てきませんでした。
その代わり、ガチの
……こちとら、生まれも育ちも庶民ですが何か?
なお原作において『我が家はいつもハロッズかウェッジウッド』と言っていた
これは別にハロッズかウェッジウッドしか無いわけではなく、『どのような客にでも万全に対応できるが、念のため尋ねている』が答えになる。
その上で、ガチの上流階級スタンスだと一体どんな流れになるのか?
【勉強指導側】
・
・
【生徒側】
・
・
・
・
・
八百万家の執事が、一息つこうとした勉強会メンバーにそっと尋ねてきた。
運良く最初は私に尋ねてきてくれたので、私は皆にお手本を見せようと試みる。
前世から庶民だけど、前世でそういう人達と仕事をしたことがあったので助かった。
「お嬢様、お茶になさいますか? コーヒーになさいますか? 緑茶もございますが……」
デフォルトが紅茶なので、この場合の『お茶』は『紅茶』のことである。
「……お茶をお願いします」
「中国産に致しましょうか、インド産に致しましょうか。それともセイロン産のものになさいますか?」
ヤオモモちゃんは銘柄を言ったが、本来は外の人に対して銘柄なんて言わない。
その日の天気や客層に応じて、ソムリエ的スペシャリストが『合う物』を判断してくれる。
「セイロン産の紅茶を」
「レモンとミルクのどちらをお入れしましょうか? クリームになさいますか?」
「ミルクを」
この時点で、既に生徒側の五人の顔が呆けているが油断してはいけない。
このやりとりは、まだ終わっていない。
「ミルクですね。ヘレフォード種、エアシャー種、ジャージー種、デイリー・ショートホーン種のいずれになさいますか?」
牛の種類。
どの家畜種のミルクが良いのかという質問。
ちなみに日本の乳牛の99%はホルスタイン種なので、この時点で金の使い方が異常だとわかる。
「オススメはありますか?」
「本日はエアシャー種がようございます」
「ではエアシャーで」
おお……と、生徒側の
ヤオモモちゃんは、
紅茶一杯頼むだけで、この疲労感。
他の五人は全員私と同じものを注文した。
ヤオモモちゃんは嬉しそうに、ずっと笑顔でニコニコしていた。
後日、上鳴君が「本日はエアシャー種がようございます」と言う執事の物真似をしはじめたので、ヤオモモちゃんを除いた勉強会組は暫く笑い死にすることになる。
* * *
演習試験当日。
B組の
原作通りの、教師陣との2vs1の戦闘になった。
組み合わせ的には、ほぼ原作同様。
青山君と私が入れ替わった形になるので、『13号 vs 塚内・麗日』だけが違う。
……緑谷・爆豪組は仲の悪さから選ばれた。
じゃあ仲の良い私達は? となるけれど、それだけ13号先生が手強いということ。
「皆、位置についたね。それじゃぁ今から雄英高一年、期末テストをはじめるよ!」
根津校長の合図と共に、期末テストが始まった。
(謎のカメラアングル:冒頭、
13号先生と遭遇した瞬間に、私とお茶子ちゃんは二手に分かれた。
「逃がさないぞー! 捕り物には一家言あるんだ!」
13号先生は意気込んでいるが、私とお茶子ちゃんは最初から逃げるつもりなんてない。
打ち合わせ通り、前後から13号先生を挟み込むように全力で急接近していく。
だから13号先生は、びっくりしたみたい。
「わ!?」
ただでさえ個性『ブラックホール』で引き寄せられているのに、全力疾走で急接近。
『ブラックホール』は私に向いていたけれど、背後から近づくお茶子ちゃんに対して13号先生が振り向いてしまった、その一瞬。
13号先生は、女性ながらに180cmと背が高い。
宇宙服のようなコスチュームでもこもこしているので、余計に大きい印象がある。
宇宙服ってことは防護服ってことで、つまり防具?
防具=全力で打っていい、と私は解釈してしまった。
マジカル☆八極拳、『馬歩頂肘』。
別名、ただの体当たり。
全力疾走に、『ブラックホール』による加速を加えた運動エネルギー。
形、筋肉、骨格、筋などの外功と、内功と呼ばれる体内の運用を連動させる。
『体当たり』に『体の力』と『地面からの反作用』を加えて『肘の先から流し込む』。
ズダン!(震脚音)
13号先生のバックパックと首回りの防護服がベコベコに凹んで破損、13号先生の顔を覆うヘルメットが圧壊して破損&素顔露出、13号先生が吹き飛ぶ、お茶子ちゃんと激突、お茶子ちゃんが思わず個性『
二人同時に落下して意識が混濁している所に駆け寄り、13号先生にハンドカフスをかけて終了した。お茶子ちゃんは、ゲロを吐く寸前で青ざめてる。
……これは、後日赤点スレスレと言われて怒られるやつだ。
私は遠い目をした。
* * *
七月第一週、土曜日。
期末テストの赤点取得者が発表されたが、林間合宿には全員行くと相澤先生が告げた。
林間合宿は、一週間の強化合宿。
変化球で海に行くと言われても納得したけど、原作通りの流れっぽい。
ほぼ何も無かった六月と違って、七月はイベントが盛りだくさん。
二週の水曜日にOVA「Training of the Dead」(
二週の日曜日にショッピングモール事件。
三週目にTVアニメオリジナルの雄英プール。
三週目に劇場版一作目『2人の英雄』。
最終週半ばに林間合宿、
「救え!救助訓練!」が無かったから、「Training of the Dead」も無くなると思う。
だとしても、ショッピングモールのイベント後にメリッサちゃんとイチャついてから林間合宿?
デク君、スタミナとか大丈夫かな。
彼の疲労回復が心配になる。
「あっ、じゃあさ! 明日休みだし、テスト明けだし……A組みんなで、買い物行こうよ!」
「おい爆豪、お前も来い!」
「行ってたまるか、かったりィ」
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
皆がわいわい騒ぎ始める中、私は隣の席のデク君をぼんやり眺めていた。
もしかして、
* * *
県内最多店舗数を誇る、ナウでヤングな最先端。
原作メンバーに私が加わっているだけで、そこまで大差はない。
皆の台詞も、デジャヴが凄いというか、流れは全部同じ。
「目的バラけてっし、時間決めて自由行動すっか!」
言うや否や、全員がどこかに行ってしまった。
私とお茶子ちゃんだけが取り残されたのが、違いといえば違いか。
そういえば、原作だと青山君にデク君との仲を聞かれて、お茶子ちゃんは駆けだしたんだっけ。
でもこの世界だと、デク君とお茶子ちゃんの仲はどうなってるんだろう?
あっそうか、ここで私がお茶子ちゃんにデク君との仲を尋ねればいいのか。
そうすればお茶子ちゃんは恥ずかしくなって駆けだして、私が一人になって――
「おっ、雄英の人だ、すげー!」
「サイン、いただけませんか?」
私とお茶子ちゃんが、見覚えのある二人に同時に声をかけられた。
何も知らない人から見れば、男二人が女二人に強引なナンパをしているようにしか思えない。
でも、これは……。
「確か体育祭で服がボロボロんなってた奴だよな!?」
「こっちの彼女も、強者相手に激戦を繰り広げていましたよ」
私は死柄木弔の手首を押さえ、いつでも点穴を押せるようにそっと親指を添える。
問題は、お茶子ちゃんの方だった。
左目を隠した青山優雅に、私と同じように肩を組まれてしまっている。
彼の右手の指先には、爆弾蜂が一匹、静かに止まっている。
眼前に爆弾蜂を突きつけられたお茶子ちゃんは、青ざめて硬直してしまった。
「保須事件の時は、ヒーロー殺しと遭遇したんだっけ?」
「本当、信じられないですね。こんなところでまた会うとは」
死柄木弔(175cm)と青山優雅(168cm)に、ナンパされる私(169cm)とお茶子ちゃん(156cm)。少なくとも周囲には、そんな風にしか見えていない。
闇落ちしている青山君は、完全に別人としか思えないオーラを纏っている。
「ここまでくると何かあるんじゃって思うよ。運命……因縁めいたものが」
「メドモワゼル(マドモワゼルの複数形)、雄英襲撃以来になりますね」
マドモアゼルは女性差別だとフランスのポリコレ団体が暴れたため、前世地球ではマダムを使うように変化した。
今世のポリコレ団体が騒ぐ対象は、異形達を人外呼ばわりすること(ヴィジランテ8巻参照)なのでマドモワゼルは現役という風潮になっている。
政治の駆け引きのせいで言語が潰されるという、よくわからない話。
「お茶でもしようか、
「
日本語かフランス語かというだけで、言ってることは二人共同じ。
服装も似ているというか、七月で夏まっさかりの暑さだというのに、二人共にお揃いの黒色フード付きパーカーを着ていて、同じようにフードを被って顔を隠している。
……それ、ペアルックって言うんですけどわかってますか貴方たち?
思い詰めた感じの、真剣な表情のお茶子ちゃんが口を開いた。
「この人、なんて言ったの?」
「……お茶でもどうだい、だって。ヴィランにナンパされてるよ、私達」
「だよね。お友達……じゃないよね。手、離して?」
お茶子ちゃんの台詞を聞いて、死柄木弔も青山優雅も苦笑した。
「自然に……旧知の友人のように振る舞うべきだ。決して騒ぐなよ?」
「マドモワゼル。騒げば貴女か、貴女の友人か、あるいは二人共が死ぬ。わかりますか?」
なんでこっちに来るかな、と私はため息を一つ。
死出と書いて『しいず』『しでく』。
死柄木弔×緑谷出久のカップリングタグの話です。
「落ち着いて呼吸を整えろよ。俺達はお前達と話がしたいんだ、それだけさ」
「別に貴女達である必要性すらない。目の前の妊婦、楽しげに走る子供の兄弟、肩車の父と娘……その気になれば、全部まとめて」
「……そう」
座って休むためだけの、大きな円形状の椅子。
そこに、私達二人は押し込められるように座らされ、挟まれた。
並び順としては、死柄木・私・麗日・青山の順。
「お茶子ちゃんに手を出したら、殺すね」
「ふふっ。君の相棒は、怖いなぁ……」
青山優雅が、右手で肩を組んだまま、わざとらしくお茶子ちゃんの頬に顔を近づけて――彼女の髪の毛を左手でつまみ、自分の鼻に寄せた。
ただの嫌がらせの手つきだったけど、効果は絶大。
私とお茶子ちゃん、あと何故か死柄木弔も真顔になった。
「……こんなところで爆発させたら、すぐにヒーローが来て捕まるよ?」
お茶子ちゃんの言葉に、死柄木弔がくつくつと笑う。
「だろうな。でも見てみろよ、こいつらを。いつ誰が個性という名の凶器を振りかざしてもおかしくないってのに、なんで笑って群れている? 法やルールってのはつまるところ個々人のモラルが大前提だ。『するわけねぇ』と思い込んでんのさ」
「捕まるまでに20……いや30人は殺せるね」
死柄木も青山も、通り行く一般市民達を見ながらニヤニヤしている。
だから私は、こう答える。
「30人程度を殺して捕まるってことは、二人は劣化ステインの愉快犯になりたいの?」
「は?」
死柄木弔が、なんだそれという顔を見せた。
だから私は、淡々と説明する。
「ステインは、英雄回帰思想の流布のためにヒーローを殺したから『ヒーロー殺し』と呼ばれ、劇場型犯罪に分類された。主義主張の無い大量殺人鬼の場合、世の中は快楽殺人の愉快犯として貴方たちを分類する。愉快犯は、人や社会を恐慌させることで、皆が
そう尋ねると、二人共黙り込んだ。
暫く考えてから、死柄木弔がぽつりぽつりと話し始める。
「……大体何でも気に入らないんだけどさ。今一番腹が立つのは『ヒーロー殺し』さ」
「仲間じゃないんですか?」
お茶子ちゃんの問いに、彼はゆっくりと首を左右に振る。
「俺は認めちゃいないが、世間じゃそうなってる」
この時、青山優雅は何故か優しい瞳で死柄木弔を見つめていた。
「……問題はそこだ。殆どの人間が『ヒーロー殺し』に目が行ってる。雄英襲撃も、保須で放った
「人気が無いから、って前に答えたはずだけど」
「いくら能書き垂れようが、結局奴も気に入らないものを壊していただけだろう? 俺と何が違うんだ?」
「そうね。あえて言うなら……」
確かこの時、デク君が『ステインは理想に生きようとしていた』『はじまりはオールマイト』と答えたことで、原作の死柄木弔は『全部オールマイトが悪い』と悟りを開く。
全てのはじまりは、アホのグランパなんですけどね。
「貴方たちには、ビジョンが無い。想像力が欠けている、と言い換えてもいい」
「……想像力?」
怪訝そうな顔を見せる死柄木弔に、私は苦笑する。
「さっき貴方たち自身が言ったでしょう。目の前の妊婦、楽しげに走る子供の兄弟、肩車の父と娘を殺す。じゃあ殺しました。それで、その次はどうするの?」
「その次……」
今度は、青山優雅の方がぽつりと呟いた。
「『捕まるまでに30人は殺せる』と、貴方は言った。言い換えれば、30人を殺すのと引き換えに貴方たちは捕まることになる。その場合、貴方たちはタルタロスに収監され、やがて裁判がはじまり、二人以上を殺しているから死刑が確定する。ステインはステインで想像力が欠けていたけれど、主義主張があった分、マスコミ達が面白がって飛びついて彼の主張が広まった……そろそろ貴方たち
今頃は荼毘君、来てるはずですよね。
本家の荼毘ダンス、目の前で見られるのならチケット代は払います。
「『信念なき殺意に何の意義がある』……ステインはそう言っていた。必要なのは信念?」
真面目な顔で、青山優雅が質問してくる。
「信念……とは少し違うかな? 『目的』というニュアンスの方がより正確かもしれない。例えば、ゲームや漫画などで世界征服を企む悪の偉い人、魔王様が出てきたとする」
「いきなりわかりやすくなったな」
死柄木弔が、苦笑する。
「魔王様は二言目にはこう言います。『世界征服のために、勇者達は皆殺しだ!』。やがて勇者達は皆殺しにされ、無事に魔王様が世界を征服しました」
「ハッピーエンドだね」
青山優雅が微笑を浮かべる。
「ううん、問題はその先にあるの。国どころか、県や市の単位ですら運営は大変なのに、そこを世界丸ごとだよ? 管理運営が絶対に追いつかない。沢山の人間を奴隷として捕まえたとして、今度は奴隷を管理する人手が足りない。勇者達を皆殺しにしちゃったから、奴隷達も属国もどうせ殺されるんだと嘆き続けて言うことを聞いてくれない。人が増えればそれだけ沢山の人を食べさせないといけないのに、農地や肥料が物理的に足りなくなる。ロールプレイングゲームが突然シミュレーションゲームになっちゃったからノウハウもない。上手に世界を管理できればいいけど、多分無理だよね。絶対崩壊すると思う」
「……あんまり考えたくねぇな、そういうの」
「だから『目的』なの。魔王様は、何のために世界征服をしたかったの? 勇者がいた国の王女様に一目惚れをしちゃったのなら、その王女様と人質婚姻政策を結べばいい。領土が欲しかったのなら、国境線を変更すればいい。ただ漠然と『世界征服したい』だけで動いたら、破滅しか待ってない。そもそも戦争は外交の最後の手段だから、まずは『貴方の国の王女様をください』って交渉するところからスタートなんだけどね」
「ふーん。『塚内空、お前が欲しい』とか言やいいの? ……痛ッ!」
死柄木弔が、突然悲鳴をあげた。
「おいノワール、お前の蜂が俺を嚙んだぞ、しっかりコントロールしとけよ!」
「ごめんね
少し納得がいかないという顔をしながら、死柄木弔は台詞を続ける。
「まぁいい、お前が言いたいことはわかった。つまり俺達が、救えなかった人間などいなかったかのように笑っているオールマイトをブッ潰してやりたかったとして、ただブッ潰すだけじゃ足りねぇってことだよなァ?」
「訂正点があるとすれば、二つ」
私は左手でピースサインをして、指をチョキチョキ挟む。
「私の母がヴィランに殺された時、オールマイトの手は私の母を救う長さを持っていなかった。だからオールマイトは全てを救えていないし、笑ってもいない。もう一つは……」
「なんだよ。オールマイトをブッ潰した後のことを考えろってか?」
イヤそうに吐き出す死柄木弔に、こう言ってあげた。
「この世界は、『助けて』って言わないと基本的に救ってもらえない。あなたは『助けて』という言葉を、誰かに伝えた?」
助けて、と誰かに言うことを自ら封印した私が言う台詞ではないけれど。
死柄木弔も青山優雅も、目に見えて表情が曇ったから、何かしら思うところがあったのだろう。
「……わかったよ、『ヴィランの女神』。もう俺達は行くが……追ったりしてきたらどうなるか、わかるよな?」
男二人組が、やれやれという顔で女二人組から離れる。
周辺の人達には、ナンパが失敗したようにしか見えない。
二人が離れていった後、お茶子ちゃんが慌てて警察に連絡を入れていた。
「もしもし警察ですか?
貴方が泉に落としたのは、家族ですか、それとも友人?
正直者のあなたには、この個性『崩壊』をあげましょう。
人混みの中に消えていく死柄木弔達を眺めながら、私はそんなことをぼんやり考えていた。
* * *
「塚内くん!」
「
飯田君と上鳴君が、心配そうに駆けつけてきた。
ショッピングモールは一時的に閉鎖。
区内のヒーローと警察が緊急捜査にあたるも結局見つからず。
私達はその日のうちに警察署に連れられ、事情聴取を受けた。
(お茶子ちゃんは私のお父さんに、私は
雄英襲撃、保須事件。
警察は既に
「それにしても、君に何事も無くて良かったよ」
三茶さんが、遠い目で菩薩のような表情をしていた。『木椰区・ヴィラン・塚内空』、この三つの単語がヴィラン通報の情報に揃った時点でお父さんは上司にこう言ったらしい。
「H&K MP5SD6(サイレンサー内蔵サブマシンガン)の使用許可を申請します」
(※銃に詳しくない読者の方へ:塚内警部はちょっと頭がおかしいことを言っています)
上司が慌てて却下したところ、お父さんの返事はこうだった。
「やはり9パラではストッピングパワー不足か……」
(※銃に詳しくない読者の方へ:塚内警部はかなり頭がおかしいことを言っています)
米軍から対戦車ライフルを借りてきそうな勢いと凄みだったらしい。
私は
三茶さんの哀愁漂う背中が、なんだかハードボイルドだった。
* * *
そして、TVアニメオリジナルの雄英プール回はさっくり終了し。
(女子勢が全員、競泳水着になるだけなので……)
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の
巨大人工移動都市「I・アイランド」を舞台とした物語が、はじまろうとしていた。
この後に林間合宿が控えているのだから、スケジュールは本当にキツキツだった。
前回の女子更衣室シーンに挿絵が追加されていますので、生成AIが大丈夫な方はどうぞ。