【コーポレーション】《cooperation》
協力、協同。
共通の目的のために力を合わせること。
* * *
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の
オセオン国同様、物語上ではふわふわ処理されていた部分が『今そこにある現実化』するため、全くもってふわふわできなくなる。
世界中のヒーロー関連企業が出資して研究や発明のために作られた、総面積8,000ヘクタール、一万人以上の科学者が住む島。
独立研究機関・学術人工移動都市《I・アイランド》。
総面積8,000ヘクタールと聞いて、東京ドーム約1711個分と言われても余計にわけがわからない。山手線の内側(約6,300ha)よりもさらに広く、香港島(約7,800ha)とほぼ同じ。
つまり山手線の内側よりも大きな人工島が浮いていることになるので、正気の沙汰ではない。
具体的には、メンテナンスコストだけで小国の国家予算が吹き飛ぶ。
《I・アイランド》は日本から見て入国審査が必要な他国だ。
ただ、独立研究機関・学術人工移動都市といえども『独立国』ではない。
小説版では市長の存在が明記されているし、日本と違って個性の使用も自由。
公用語も含め《I・アイランド》は世界の警察・アメリカの管轄下だと考えるのが自然だ。
《I・アイランド》は『研究成果や発明品を狙うヴィランから科学者達を守るために移動可能な人工島』となっている。だが、国際法の観点から《I・アイランド》は島ではなく「人工島・構造物」として定義され、アメリカのEEZ(排他的経済水域)内を移動していると考えるのが最も整合性が取れる。
《I・アイランド》を「島」と主張した瞬間に領土権が発生するため、その場合は他国、特に中国やロシアなどが黙っていない。
あくまで「アメリカの管轄下にあるデカい船(構造物)」扱いが関の山だ。
また、他国の領海やEEZに勝手に入ると国際問題になる。
「ヴィランから逃げる」と言いつつ、実際はアメリカの西海岸〜ハワイ周辺のEEZ内をぐるぐる回っているだけというのがリアルな落とし所だろうか。
その防衛システムは犯罪者特殊収監施設タルタロスに相当し、
偽造パスポートを見抜けない入国審査、簡単に銃器を持ち込めてしまう輸入通関審査、10人以下のテロリストで制圧可能という完璧な防衛システム。
……前向きに考えるのなら、
居住している科学者とその家族は、情報漏洩を防ぐ守秘義務のために旅行ができない。
普通に考えれば国際的な人権侵害として炎上案件だが、肝心の人権団体が沈黙している。
ヴェネツィア共和国のムラーノ島の、現代版。
財源となる高度なガラス技術の流出を恐れたヴェネツィア共和国政府は、1292年にすべてのガラス職人とその家族を、本島から数キロ離れた小さな島「ムラーノ島」に幽閉した。
当然のようにガラス技術は目覚ましく発展を遂げ、ルネッサンス期にはヴェネツィアン・グラスは栄光をほしいままにした。
だが、外の世界を夢見る職人達を望み通り外に連れ出す者達の手が、ガラス職人達を島外へ脱出させていく。これにより、門外不出とされていたヴェネツィアン・グラスの技術は、少しずつ外へ漏れ始めた。
例えば、フランスのヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」はムラーノ島から連れ出された職人の手によると言われている。
そして1797年、プレゼントマイク先生も大好きなナポレオン率いるフランス軍がイタリアへ侵攻し、ヴェネツィア共和国は滅亡し、ヴェネツィアン・グラスの技術も国外へ流出したことで、ムラーノ島の問題は一応の決着をみることとなる。
この件に関してフォローをしておくと、『僕のヒーローアカデミア・チームアップミッション』1巻3話「二人のサポーター」において、メリッサ・シールドが唐突に雄英高校に湧いて出てくる。
情報漏洩を防ぐ守秘義務の為に、旅行ができない(旅行ができないとは言っていない)。
……人権を侵害された《I・アイランド》市民はいなかった。
人権団体は、異形型を人外と呼ばせない問題を最優先に取り組んでいると思われる。
散らばっている情報を整理するだけで、何故か胃が痛くなってくる。
深く気にすると負けなので、上手に受け流すしかない。
* * *
さて、身も蓋もないが劇場版のあらすじを簡単にまとめる。
【『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の
『登場人物』
・デヴィット・シールド:ノーベル個性賞を受賞した博士。報連相が圧倒的に足りない人。
・メリッサ・シールド:アカデミー所属の17歳。大変貴重な眼鏡っ娘。
・サム:デヴィットの助手。栄誉と名声というやりがい搾取で低賃金の被害者。
・小山力也:
『ふんわりとしたあらすじ』
デヴィット・シールドは個性を増幅できるアイテムを発明したが、発明が世間に公表されれば超人社会の構造が激変すると判断した各国の政府機関が圧力をかけたため、研究データはスポンサーによって凍結させられた。
→トシ(デヴィットのオールマイトへの呼び名)の個性数値が急激に低下しすぎている。私はトシにオールマイトでいてもらいたい!
→ヴィランが個性増幅装置を盗んだことにして、オールマイトに渡してしまおうと助手のサムがデヴィットに提案し、デヴィットは同意した。
→金が欲しかった助手のサムの裏切りにより、本物のヴィランが来てしまった。
→セントラルタワー最上階を含めたタワー上層部が破壊される大損害、テロ自体は大成功。
つまり、眼鏡っ娘であるメリッサ・シールドと轟冬美は保護されなければならない。
唐突に話の軌道修正をするが、映画の作中に大変重要な一言が出てくる。
《I・アイランド》で開催される博覧会『I・エキスポ』で展示されるヒーローアイテムの大半にデヴィットが発明した特許が使用されている、というメリッサの言葉だ。
結論から言うと、メリッサ・シールドが無一文リスタートになる。
テロリストへの協力というのは、本当に重い罪なのだ。
連邦法では、死刑すら余裕であり得る。
だがデヴィット自身は殺人を犯しておらず、またノーベル賞受賞者という功績と知名度があるため、国際的な非難を避けるべく死刑自体は回避される可能性が高い。
残念なことに、デヴィットは減刑に関する司法取引のネタがない。
助手のサムに利用された側であり、AFOとの繋がりも本人は知らない。
しかしテロ行為に対する共犯自体は成立しているという、大変厄介な状況である。
こう考えていくと、デヴィット・シールドは仮釈放なしの終身刑が確定する。
そしてここからが無慈悲だ。
テロリストを国内に導く行為は「テロ活動への
テロリストへの資金提供の疑いもあるため、テロに関与したという事実だけで全財産を政府が取り上げることを可能にする法律がある。
裁判で有罪が確定する前であっても、財務省の
デヴィット名義の特許権も、そこから生じる特許印税も、全て没収、あるいは凍結される。
事件が公になり、逮捕されたりテロリストとして認定(SDN指定)された後では、弁護士がどれほど優秀でも特許の保護は困難。
アメリカ政府(司法省や財務省)は、テロ支援者の資産を剥奪する強い権限を持っている。
そのため、事件発覚後に娘へ権利を移譲しようとしても資産隠しとみなされ、移転自体が遡って無効にされる。
資金が凍結されると、弁護士費用すら無くなる。
娘のメリッサが「テロ資金源である特許」を無理に守ろうとすると、彼女自身がテロ支援の共犯やマネーロンダリングの疑いをかけられ、人生が破綻するリスクすらある。
親のデヴィットがテロリストへの協力者として資産凍結されれば、当然だがメリッサ・シールドにもその影響は及ぶ。親の庇護は切れ、独り立ちを強制され、テロリストの娘というレッテルを貼られ、アカデミーにも居づらい。
島の外に出ることも許されな……許されるが、ある程度実績をあげての信用回復は必須。
長々と説明してきたが、簡単にまとめると以下のようになる。
原作知識のある塚内空にとって『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の
対AFOへの嫌がらせのみを考えるのなら、個性増幅装置だけをさりげなく強奪して何食わぬ顔で逃走する手もある。
個性増幅装置に関しては、それを使って何かをするというわけではなく、あったら何かに使えるかもしれないという程度なので必須というわけではない。
対AFOとして容赦無くヴィラン寄りな思考をするのであれば、もっと悪辣な案もある。
セントラルタワー138階サーバールーム侵入時に、サーバールームの重要サーバーマシンのマザーボードにちょっと細工をしておいて、メリッサ・シールドがセキュリティを取り返した瞬間に彼女のIDをコピーするピギーバックという手口がある。後はいつでも、メリッサ・シールドの権限で《I・アイランド》のデータベースにアクセスできるようになるという段取り。
ソフトではなくハードへの工作なので、ソフト上でシステムスキャンをされてもバレないうえに、セキュリティが陥落している最中にどさくさに紛れて仕掛けるプランなので全部ウォルフラム達のせいにできる。
既にデトネラットは暗躍をはじめているから、遅かれ早かれハッキングで色々なものが情報漏洩していく。ムラーノ島からヴェネツィアン・グラスの技術が流出していったように、残念ながら《I・アイランド》の全ての技術は守り切れない。
ただ、138階サーバールーム関連は何点か問題があった。
映画通りの進行だと、クラスメイト達が戦闘している最中に作業をしなければならない。
また、みらい文庫版ノベライズでは子供達に『サーバールーム』という単語を使用することを避けたのか、138階は警備ロボットの製造工場に変更されている。
戦闘訓練の飯田天哉のように悪い顔で「俺はぁ……至極悪いぞぉお」とか言いながらサーバールームに悪いことをしようと準備して出かけたら、待っていたのは警備ロボットの製造工場でした、そういう展開が待っている可能性もある。
そして一番大事なことであるが、あくまでも憎いのはAFOであって、頑張っているメリッサを巻き込みたいわけではない。
今の塚内空はヒーロー科に合格して、1-Aの面々と一緒に頑張っている。
放置しておけば確実に無一文になる少女が生まれてしまうとわかっているのであれば、そんな少女の未来が多少はマシになるよう頑張ってもいい。
ウォルフラム達の潜入工作はもうはじまっていて、止めることができない。
助手のサムの裏切りをデヴィットに信じて貰わないといけないのに、その手段がほぼ無い。
オールマイトなら説得できるかもしれないが、ではオールマイトにどう説明すればいい?
結局のところ、メリッサを助けたいのなら、メリッサ自身の協力が必要になる。
覚えている限りの映画の展開をメモに書き出してみたが、物語が詰まりすぎている。
いつ、どこから、どのようにして割り込めば最も効率良く彼女を救えるのか?
抜け道のない法はない。
法の番人側の人間の言う台詞ではないが、今回の件、法の抜け道はなくもない。
アメリカ版の六法全書である『合衆国法典』を調べるのに時間がかかってしまったが、抜け道は見つかった。
そして原作とこの世界線において、重要な違いが一点、確実に存在する。
『
フル・ガントレットのイベントは、省略できるかもしれない。
《I・アイランド》へ向かう飛行機の機内で、塚内空はそんな事を考えていた。
そして、その塚内空の隣席。
よくわからない流れではあるが、
なんだかんだでイケメンの無防備な寝顔は目の保養になるので、塚内空は複雑な感情を胸に、顔をもにょもにょさせていた。
これはとても大事な話だが、恋愛とイケメン成分の補充は別腹なのだ。
* * *
《I・アイランド》自体には1-A全員が来ているが、《I・エキスポ》のプレオープン日だけは話が別だ。《I・エキスポ》プレオープンは関係者の集まりであるがゆえに、招待状が無いと入ることができない。
・
オールマイトがメリッサから貰った招待状が二名分だったのでオールマイトから誘われた。
・
雄英体育祭優勝者へと送られてきた《I・エキスポ》プレオープンへの招待状を使って参加。
・
爆豪の付き添いでプレオープンに参加。
・
エンデヴァーの代理として参加。
・
ヒーロー一家の両親の代理(時期的に両親は兄の介護中)。
・
父が《I・エキスポ》の出資企業の株主。そのツテで三枚のプレオープンチケットを入手。
・
ヤオモモチケット強奪・A組女子のじゃんけん勝負に勝利。
・
ヤオモモチケット強奪・A組女子のじゃんけん勝負に勝利。
・
エキスポ期間中のカフェのアルバイト募集に応募、合格。パーティ参加券は非所持。
・
エキスポ期間中のカフェのアルバイト募集に応募、合格。パーティ参加券は非所持。
塚内空は、その気になれば《I・エキスポ》プレオープンの招待状入手手段は幾らでもあった。
株式会社オールライトHDとして《I・エキスポ》に出資して三枚貰っても良かった。
どうやって《I・エキスポ》招待状を入手しようかと塚内空が悩んでいた七月のある日。
1-A中が騒然とする事態が発生した。
「塚内。ちょっといいか」
「ん? なぁに、
教室内で、轟焦凍から塚内空への呼びかけ。
この時点で、
塚内空は『轟くん』と呼んでいたはずなのに、いつの間にか『焦凍くん』呼び。
そして轟焦凍側も、いつも真顔だったのに、最近は微笑が増えてきた気がする。
(母親との関係改善がきっかけで、父以外との家族交流が増えてきたため)
「《I・アイランド》でやる《I・エキスポ》のプレオープンに、親父の代理で行くことになった。塚内、付き添いとして来てくんねぇか?」
「……っ、いい、けど……」
「飛行機のチケットもついてたから、交通費の心配はねえよ」
「うん、わかった」
「じゃあ、そういうことで頼む」
焦凍的には、炎の力を使うことへの忌避感を取り除いてくれた事や、母親への見舞いのきっかけをくれた事への礼のつもりだった。
問題は、外から見ればただのデートのお誘いにしか見えなかった事だろうか。
これは後から女子勢に事情聴取されるやつ、と塚内空は顔を引き攣らせた。
* * *
自然に介入するポイントは、メリッサとデクがパビリオンの中で1-A女子勢に会う時。
轟焦凍がヴィラン・アタックの順番待ちをはじめたので、タイミングが丁度合っていた。
つまりそれは、メリッサとデクが見つめ合っている時間帯とも言えた。
(映画はそこまで見つめ合っていないが小説だと見つめ合っている。恐らく映画と小説が混ざっているのだろう)
「僕も、オールマイトのようになるために、もっと努力しなくちゃ!」
「デク君、本当にマイトおじさまが大好きなのね! さっきは凄い勢いでびっくりしちゃった!」
「あぁ! すいません、つい……その、癖で……」
「あははっ!」
メリッサ・シールド169cm、緑谷出久166cm。
偶然ではあるが、塚内空とメリッサの身長は同じだ。
メリッサも塚内空同様にナイスバディなので、服を着ていても巨乳が目立つ。
「……楽しそうやね、デクくん」
「う、ううう
「ゴホン……とっても、楽しそうでしたわ」
「八百万さん!?」
この時、塚内空は内心で冷や汗をかいていた。
本来は『楽しそうやね』とお茶子が二回言うはずなのだ。
……一回しか言ってない!
(デク君、好感度足りてない、頑張って!)
「緑谷、聞いちゃった」
仕方なく、塚内空も声をかける。
「楽しそうだったね」
お茶子が言うはずだった二回目の楽しそうを、仕方なく告げた。
メリッサは小首を傾げてデクに尋ねる。
「お友達?」
「学校のクラスメイトで……何か誤解してるみたいで……」
原作に沿った流れの中、《I・エキスポ》のオープンカフェに皆で行くことになった。
当然だが、バイト中の上鳴や峰田をはじめ、飯田や切島、爆豪や轟などが集まっていく。
そして男子勢のヴィラン・アタックが終わり、夕陽がゆっくりと辺りを包み始めた頃。
《本日は、18時で閉園になります。ご来園、ありがとうございました。明日からの一般公開にもお越し下さいますよう、スタッフ一同、心よりお待ちしております》
レセプション・パーティへの招待状がメリッサから上鳴と峰田に送られ、全員が解散モードの雰囲気に突入。セントラルタワーでレセプションパーティのために1830に集合しようと飯田が皆に声がけした、その少し後。本来なら、メリッサがデクに対して「デクくん、ちょっと私に付き合ってもらえないかな?」と声をかけるタイミング。
そこに、塚内空が介入した。
「メリッサさん。少し、私に付き合ってもらえませんか?」
「えっ、あ、はい……?」
合わせて、飯田に「所用がありパーティに参加できそうもありません」とメッセージを送っておく。そもそもの話、飯田が設定した集合時間が早すぎる。女性の着替えと化粧の時間を舐めすぎている。映画の女性陣、特にメリッサあたりは相当急いで着替えたはずだ。
* * *
メリッサの通う、アカデミーの研究室。
レセプションパーティの正装に着替える準備もあるということで、塚内空はそこに案内された。
あまりにも時間が無さ過ぎるので、開口一番、塚内空は嘘をついた。
「……メリッサさん、落ち着いて聞いてください。私のお父さんは日本の警察官で、個性犯罪専門の刑事として
「そんな、テロリストが……?」
貴女のお父さんはテロリストの共犯で、もう後戻りできません。
そんな怪しい説得よりも、心配性がアイテムを借りたいというだけの話に留めた。
何も起きなければそれでいいという話に、多少は真実味が増した。
「お話はわかりました、でもどんなものを?」
「ジェットパック、ないしセントラルタワーを屋上まで登れそうなアイテムはありますか?」
塚内空は指先を真上に示したが、メリッサは首を傾げることしか出来なかった。
「セントラルタワーは、高さ1km以上ありますよ?」
「すいません、防寒具と手袋も貸して下さい」
即答だった。
* * *
『東京スカイツリーより、もっとずっと大きい』と小説で表現されているセントラルタワー。
東京スカイエッグの存在を思い出してしまうと、どこからか狙撃兵がやってきて狙われる。
そのセントラルタワーの屋上には、海に囲まれた人工島からの移動手段として、屋上ヘリポートが10箇所も設置されている。
「待機とはいえ、流石に屋上は冷えるな」
一人のヴィランが、身体をさすりながら律儀にヘリ内で待機していた。
そして一人ゆえに、独り言も多くなる。
アラブ首長国連邦にあるブルジュ・ハリーファという名のビルは、163階で828m。
200階のセントラルタワーは、単純計算で1kmを越える。
研究施設であることから天井も高く(映画の描写でも高い)、推定1200m以上あるだろう。
一般的に、標高が100m上がるごとに気温は約0.6℃下がるため、高さ1,200mなら地上と比べて-7.2℃となる。
上空1,000mは風を遮るものがないため、常に強風が吹いている。
風速1mにつき体感温度は約1℃低下する。
もし風速10m以上の風が吹いていたら、体感温度は地上より15℃〜20℃くらい低く感じる。
つまり、屋上ヘリポート地帯の体感温度は氷点下と言っていい。
UH-60Vブラックホーク、森林迷彩塗装。
森林迷彩塗装であることから、アメリカ陸軍からかっぱらってきたものと思われる。
「駄目だ、外で立ちションでもするかぁ」
要人輸送ヘリならともかく、軍用のUH-60には簡易トイレしかない。
簡易トイレは不人気すぎて、簡易トイレでヤるぐらいなら立ちションの方が早い。
パイロットを任されるだけあって、このヴィラン男はその辺に詳しかった。
「風向きはっと……」
こういう時、男が考えることは大体同じだ。
風向きを考慮した上で、一番遠くに小便が飛びそうな立ち位置で思いっきり
屋上は外周と中央円の間に深さ10m以上の大きな凹みがあり、手すりを越えて落ちれば普通に大怪我をする。落ち処が悪ければ即死もありうる。
だがそういう場所だからこそ、余計に
鼻歌交じりに股間のネビルレーザーを噴霧していたヴィランだったが、背中に突然蹴りを入れられ、手すりを飛び越え10m以上落下した。
股間のモノを出したまま遠くで痙攣しているヴィランのパイロットを上から眺めた塚内空は、冷たい目線で一瞥してからヘリ内へと向かった。
七月三週の真夏に氷点下なんて、寒くてやってられない。防寒着バンザイ。
なお映画だと、飛んでいる最中のヘリをオールマイトによって撃破され、空中でヘリは大爆発。
本来ならパイロットは即死案件だが、ウォルフラム戦後にパイロットの生存描写がされる。
その意味では『高所から落ちただけで、爆発に巻き込まれなかっただけまだマシ』となる。
アニメ『ガールズ&パンツァー』の戦車に使用されている、特殊カーボン素材でヘリが保護されていた可能性も高い。しかしその解釈だとスターアンドストライプの為に散っていった米軍兵士のシーンが台無しになってしまう。【殺意や悪意のある攻撃じゃないと死なない法則】の適用範囲が広すぎるのだと、前向きに受け止めるべきだろう。
* * *
ここから、最終局面までは映画とほぼ同じ展開となるので大胆に省略する。
【AmazonPrimeで映画を見よう! [x]閉じる】
なお、138階はサーバールームではなく警備ロボットの製造工場だったので、映画版に小説版が微妙に混ざっている世界だと思われる。
そもそもサーバールームでの戦闘行為はシステム管理者が発狂する案件であり、下手すれば雄英1-Aの面々に損害賠償を突きつけられる可能性もあるからこれはこれで問題無かった。
(戦闘で破壊された建物の代金を保険で補うシステムを、仮免すら持っていない生徒達に適用できるとは思えない。そう考えるとサーバールームでの戦闘は映画の脚本とはいえ、割と洒落になっていなかった)
「まさか
峰田は叫ぶが、《I・アイランド》は日本と違って個性使用が自由。
アメリカの法律適用だと、さらに話が変わってくる。
アメリカ特有の概念として、
身の危険を感じた場合に逃げる必要はなく、その場に留まって殺傷能力のある武器(銃など)を使って反撃しても正当防衛になるという過激な法律だ。
映画の中でも説明されているが、日本の犯罪発生率はオールマイトのおかげで6%なのに対し、海外は20%を越える。
それゆえに、日本での対応と同じように考える必要は本当はなかった。
「塚内さん……」
実際に発生してしまったテロに、メリッサは青ざめる。
これが彼女の言っていた『最悪中の最悪』かと思ったが、実際にはもっと酷かった。
騙されていたとはいえ、尊敬する父、デヴィット・シールドが、テロリストの共犯者となってしまっていた。
何もかも終わりだと内心で絶望しながらも、メリッサはやるべきことを懸命にこなしていった。
* * *
「警備システムが再起動しきる前に出るぞ!」
「はい!」
撃たれて死にかけている博士を肩車したまま、ウォルフラムは屋上にやってきた。
隣りを歩いていた部下に、ヘリに向かうよう指示を出す。
この時、映画ではヘリ側からパイロットが迎えに来ていたが、その迎えは来ていない。
ヘリのローターも回っていない事に、ウォルフラムは気づくべきだった。
「私を……殺せ……!」
身体の痛みに自己嫌悪も重なり、博士は懸命に呻く。
「もう少しだけ罪を重ねよう。その後で望みを叶えてやる」
だが、ウォルフラムにとっては知ったことではない。
ヘリの開いたドア部分に、デヴィット博士とアタッシュケースを無造作に放り込んだ。
余談だが、
わかりやすさ重視とはいえ、名前すら出てこないちょっと可哀想な存在であった。
そこへ、ぼろぼろの姿のデクが追いつき、叫ぶ。
「待て! 博士をォ……返せッ!」
「なるほどォ……悪事を犯したこの男を捕らえに来たのか?」
ウォルフラムは、ヒーローの卵を挑発してみせる。
「違う! 僕は博士を、
「犯罪者を?」
屋上の床に手をついたウォルフラム。
彼の個性により操作された金属塊が、デクを襲う。
実はこの時、ヘリに乗り込んだウォルフラムの部下は無音で気絶させられていた。
ヘリ内の攻防に気づいた博士は、密かにぎょっとする。
「僕はみんなを
「お前、何言ってんだ?」
「うるせえ! ヒーローはそうするんだ! 困っている人を助けるんだ!」
この『うるせえ』は、デクの爆豪化が進んでいる証左だが今は置いておく。
ウォルフラムは後ろを見ずに背後の博士に銃を向け、決め台詞を吐いた。
「……どうやってェッ?」
「こうやって?」
女性の声が、その問いに答えた瞬間にヘリの扉が閉められた。
反対側の扉から、血塗れの博士を肩に抱えつつ、血塗れのアタッシュケースを手にした塚内空が脱出していく。
「……は?」
「
ウォルフラムが呆けた一瞬の隙をついて、デクは思い切り殴り飛ばした。
たまらず拳銃を取り落とし、ウォルフラムはのけぞる。
「もう大丈夫、何故って!?」
そんな矢先、見慣れた、そして最高の笑顔が地面に着地した。
「
* * *
塚内空は、円柱状のエレベーターの陰にデヴィットを寝かせた。
流れる血が止まるよう、簡易的な止血手当を試みる。
デヴィットの体温低下を防ぐべく、塚内空は防寒服を脱いでデヴィットに着せた。
「パパァッ!」
戦闘から離れる意味もこめ、メリッサが駆け寄ってくる。
塚内空は、メリッサに対して微笑を向けてから、改めてデヴィットに向き直った。
「聞いて下さい、デヴィット博士。私は雄英高校教師であるオールマイトの生徒、塚内空と申します。真実はともかく、現状の貴方はテロの共犯者です。このままでは特許も資産も凍結され、一文無しとなる。弁護士費用すら捻出できない」
「それが……どうした……」
「親の庇護を失い、一文無しとなったメリッサ・シールドを路頭に迷わせても良いと?」
「そっ、それは……」
愛娘メリッサの事が頭から抜け落ちるぐらい、頭の中がオールマイト一色だった。
今更ながらに、デヴィットは歯がみする。
「パパ、どうしてこんなことを……」
「平和の象徴を、失いたくなかった……失いたく、なかったんだよ……」
メリッサの慟哭に、デヴィットは正直に答える。
「時間がありません、よく聞いて下さい。このタイミングでの生前贈与は、資産隠しの詐害行為として取り消されるリスクがあります。ですが、抜け道がたった一つだけあります。連邦法における
そう言いながら、塚内空はタブレットと付属ペンを取り出す。
メリッサは突然自分の名前を呼ばれたので、驚く。
「……私が、鍵?」
タブレットに書かれている文面を見て、デヴィットは驚く。
「これは……信託契約書?」
「デヴィット博士を委託者、私の会社を受託者、メリッサさんを受益者とする『
「……メリッサ、私は彼女の進言に従う。いいね?」
「わかったわ、パパ」
震える指先でペンを握り、デヴィットはタブレットに表示されている書類にサインをしていく。
塚内空は、補足説明をしていく。
「メリッサさんは未成年なので、彼女の法的後見人が必要です。私の会社が後見人になれば、彼女の生活も研究も全て保障することが可能です。つけくわえるなら……メリッサさんの預かりとなったデヴィット博士の特許を弊社で使用させてもらえるのなら、特許利用権の見返りとして、最強弁護団の費用を全て肩代わりすることをお約束いたします。実刑は免れないと思いますが、大幅な減刑が可能となるでしょう」
「何からなにまで、すまない……」
「パパ。パパ……」
「メリッサ……!」
父と娘が、そっと抱きしめ合う。
デヴィットの流血の関係で、塚内空もメリッサもアタッシュケースも、みんな血塗れだ。
塚内空はデヴィットがサインした書類を確認、有効なものであると判断できたので、オンラインで《I・アイランド》の役所に送信した。
この契約書は、『《I・アイランド》の特許使用技術の大半』と『メリッサ・シールドという人材』を、デヴィット博士に対して誠実に接している限りは塚内空が自由に扱えるようになる書類といって差し支えない。
裁判関連の手間や費用はかかるが、トータルの差し引きで見ればとんでもないプラスだ。
屋上の体感温度は氷点下なので、塚内空はくしゃみをした。
ヘリの中で待機していたとはいえ、すっかり身体が冷え切っている。
なにか温かいものが飲みたいな、と塚内空は遠い目をした。
* * *
映画の展開通りに1-Aの面々も駆けつけたが、個性増幅装置によるパワーアップもなければ、博士という人質すらないウォルフラム。正直なところ過剰戦力で、やることは殆ど無い。
案の定、デクとオールマイトの叫びが屋上にこだまする。
「ダブル」
「
「「
デトロイト。日本人が聞くと、なんとなく格好いい感じになる。
実際には寂れた工業地帯であり、かつての栄光にすがる荒廃した地域で、全米でもトップクラスに治安が悪い。
寂れた工業地帯という意味では、日本の四大工業地帯から外されてしまった北九州が該当する……が、デトロイトは2013年に市として史上最大規模の財政破綻をしてしまった。
なので日本に置き換えると『夕張スマッシュ』が近い、はいこの話はヤメ!
「「更に向こうへ!」」
「「プルス・ウルトラーッ!」」
ぶっちゃけ、プルス・ウルトラをする必要が無い。
でも共闘の機会なんてそうそう無いから、二人は張り切ってしまった。
セントラルタワーの最上階付近は大変悲惨なダメージを負ってしまったが、オールマイト保険がきっとどうにかしてくれる。
ウォルフラムがやらかした金属塊より、総合ダメージ的には酷いかもしれない。
「デイヴ。デイヴ」
「オール、マイト……」
デヴィットの元へ、オールマイトが駆け寄った。
「
「……ありがとう。メリッサが私の後を継ごうとしているように、彼が君の後を継ぐ者なんだな」
オールマイトと共闘していたデクの姿を、デヴィットは優しい瞳で見つめる。
「私にも見えるよ、トシ。君と同じ光が……ヒーローの、輝きが」
* * *
さて、その後の話だ。
場所は、アメリカ合衆国
デヴィット・シールドはオレンジ色の囚人服を着て、弁護人の隣に立っている。
「裁判長、合衆国政府は被告人デヴィット・シールドに対し、以下の罪状にて大陪審の起訴状を提出します」
"The United States of America v. David Shield."
「合衆国 対 デヴィット・シールド」
《I・アイランド》はアメリカの管轄下、つまりアメリカに対するテロ。
当然、
"Count One: Conspiracy to Provide Material Support to Terrorists, in violation of Title 18, United States Code, Section 2339A."
(第1訴因:テロリストへの物質的支援の共謀。合衆国法典第18編2339A条違反)
「被告人は、テロ組織と共謀し《I・アイランド》のセキュリティシステムへのアクセス権および施設を供与することで、彼らのテロ行為を支援した」
"Count Two: Theft of Trade Secrets, in violation of Title 18, United States Code, Section 1832."
(第2訴因:営業秘密の窃盗。合衆国法典第18編1832条違反)
「被告人は、州際通商に関わる製品(個性増幅装置)の独自技術およびデータを、所有者の許可なく不正に持ち出し、自己の利益のために利用しようと企てた」
"Count Three: Computer Fraud and Abuse, in violation of Title 18, United States Code, Section 1030(a)(5)."
(第3訴因:コンピュータ詐欺及び濫用。合衆国法典第18編1030条(a)(5)違反)
「被告人は、保護されたコンピュータシステムに故意に損害を与え、セントラルタワーの制御機能を停止させた」
"Count Four: Aiding and Abetting Hostage Taking, in violation of Title 18, United States Code, Section 1203 and Section 2."
(第4訴因:人質奪取の幇助。合衆国法典第18編1203条および第2条違反)
「被告人の行為により、島内の民間人およびヒーローが拘束され、生命の危険に晒された」
連邦検察官が起訴状を読み終えた後、
"Mr. Shield, you have heard the charges against you. How do you plead? Guilty or Not Guilty?"
「シールド氏、罪状は聞きましたね。答弁はいかに? 有罪か、無罪か?」
本人に『有罪か無罪か』と問うあたりが、日本の裁判とは全然違う。
デヴィット博士は弁護人と目配せをしてから、しっかりと判事を見て言う。
"Not Guilty, Your Honor."
「無罪を主張します、裁判長」
デヴィットの弁護人が、すかさずフォローの言葉を入れていく。
"Your Honor, we request a bail hearing and..."
「裁判長、保釈審問を請求します。また、本件に関わる証拠開示を……」
『サムに騙された被害者であるデヴィット博士は確かに過ちを犯したが、最後は正義のために戦った。個性増幅装置をヴィランから奪還し、自らの意思でFBIに任意提出した』。
最高の弁護団に加え、捜査に全面協力したことで裁判官の心証は良くなった。
何もしなければ『仮釈放なしの終身刑』だったが、劇的に減刑されて懲役15年となった。
模範囚であれば、デヴィット博士は約7年程度で刑期を終えることができる。
ただこれは、早くて一年、平均で数年経過してからの話だ。
アメリカの裁判が結審する頃には、本編通りであれば日本はズタボロ化が避けられない。
原作通りに物語が展開するのであれば、アフターストーリーでメリッサとデヴィットは抱きしめ合える。
だが、この世界の物語がどう転がるのかは、まだ誰にもわからなかった。