塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.5 「エンデヴァー」

 

【エンデヴァー】《endeavor》

 努力、試み。

 〈しようと〉努力する〔+to do〕。

 

 

 * * *

 

 

 お兄ちゃんが見せてくれた太極拳の套路(とうろ)の中に、不思議な動作があった。

 

「お兄ちゃん、さっきの『なるほど、そうだったのか』みたいなやつ。左のパーを右のグーで、なるほどーって打ち付けた動作があるでしょ? あれも危ないの?」

「ん? ああ、金剛搗碓(こんごうとうたい)かな。いい質問だ」

 

 お兄ちゃんは、気をつけの姿勢からゆっくり足を開いた。

 日本の武術を極めてるお兄ちゃんが、中国拳法に手を出している理由はわからない。

 

「正確にはその前の前、敵と相対するところから既にはじまっている。身体の使い方への理解度、また敵の動きに応じて分岐が沢山あってどうとでも変化する動作なんだけど、」

「要点だけ」

「ええー……」

 

 話が長くなりそうだったので、途中でぶったぎった。

 

 お兄ちゃんは私から見て逆時計回りに両腕で円を二度描きながら左脚を少し前に出した。

 右拳を顔のあたりまで持ち上げてから右膝をあげ、お腹の前あたりで上に向けた左の手の平に、右拳を打ち付けながら右脚を降ろした。

 合わせて、お兄ちゃんが軽く叫ぶ。

 

「どーん!」

「えっ。なにその『どーん』って」

「震脚の擬音。ガチでやるとこのアパートの床が抜ける」

「じゃあ、相手を踏みつける技なの?」

 

 私が質問すると、お兄ちゃんは少し考えてからこう答えた。

 

「そういう用法もある……が正しい答えかなぁ?」

「結局どういう技なの? それも人を殺せちゃうの?」

「殺せちゃうというか、殺す技というか……軽く説明するね。なるべく手短に」

 

 お兄ちゃんは最初、つまり気をつけから足を開く姿勢に戻った。

 

「まずこの段階で敵に対して自分の顔面を攻撃するよう誘導してる。そこで両腕を使って相手を捕らえる」

 

 そう言いながら、両腕で円を描いてみせた。

 

「中国拳法には聴勁(ちょうけい)と言って、相手に触れることで相手の情報を得たり、相手に与える情報を操作する技がある。さらにいうと纏絲勁(てんしけい)という攻防に使える身体の使い方があって、使い方次第では相手が自分から離れられないように縫い止めてしまうこともできる。つまり相手に触れた時点で敵をどうとでもできてしまう。その人の技量次第だけどね」

 

 両腕を引きながら足で蹴ったり、左手で引きながら右拳で相手を殴るフリ。

 

「左脚は、攻撃・防御・移動のどれに使ってもいい。(カオ)と呼ばれる体当たりがやりやすい」

 

 両腕を回した際に出した左脚を、お兄ちゃんは指さした。

 その後で、左の手の平を開いて私に見せる。

 

「左手のパーなんだけど、円圏といって防御に使ってもいい」

 

 お腹の前で右手をひらひらと振ってから、お兄ちゃんは右手をあげた。

 右手をあげた状態で、またひらひらと振ってみせる。 

 

「右手を上げる時に下陰(えいん)……金的を狙ってもいいし、顎に掌底を入れてもいい。なんにせよ、この時点で相手は前のめりになっている……から」

 

 パンッ。

 お兄ちゃんが右脚をおろしながら、左の手の平を右拳で打ちつけた。

 あ、これ危ないやつだ、と私は感じた。

 

「後頭部をどーん?」

()()()()()()。ま、なんでもいいんだよ、なんでも」

 

 お兄ちゃんは苦笑しながら、私の頭をぐりぐりと撫でた。

 無骨で硬い手だったけど、優しい撫で方だった。

 

 

 * * *

 

 

 さらに月日が経過して、私は小学三年生になっていた。

 和歩(かずほ)ちゃんは小学四年生、航一さんは高校三年生だ。

 

 

 いつもの鳴羽田(なるはた)功夫(クンフー)道場。

 道着に着替え終わった後、師父(シーフー)がトイレに行っていたので、ぼんやり道場の風景を眺めていた。

 

 周囲の人達がやっている、ゆったりとした健康体操。

 あの部分で人を殺せちゃう?

 あの部分で相手を押さえることができる?

 

 分岐が沢山あってどうとでも変化するのなら、套路(とうろ)という名の型稽古の意味は?

 跳んだり跳ねたり腕を遠くに伸ばしたりする、師父(シーフー)曰く面倒で疲れる長拳を、師父(シーフー)は何故私に教えたのだろう。

 馬歩(まほ)の意味は? 弓歩(きゅうほ)の意味は?

 

 全身を張り詰めたり、全身から力を抜くのではなく。

 どこに力を入れ、どこの力を抜くのかを師父(シーフー)は教えてくれる。

 

 

 ふと、なんとなく思い立って。

 健康体操よりも、もっともっと、もっとゆっくりとした動きで。

 三年以上かけて教えて貰ったことを、全部まとめてみることにした。

 

 首すじを真直にのばし、顎を引く。

 胸を内に、背筋をなだらかに、背骨を緩める。

 両肩を沈め、腰と股関節を緩める。

 

 ただ立っているだけなのに、二本足ってすごく不安定だ。

 ()()()()()()()()()()のに。  

 

 だから私は、少しだけ足を開いた。

 二本足で立つという無茶な行為は、ちょっぴり安定した。

 

 だらりと垂らした両腕をゆらゆらと揺らしながら、小さい円を描く。

 腕を回しただけで身体が揺れる。

 身体が揺れると、身体の中にある重りが動いて円が大きくなっていく。

 

 大きな円を肩と水平にしたら、身体の中の重りが大きく動いた。

 身体を支えるために左脚を前に出した。

 重りの回転が止まらないから、左手を下げて右腕を上げたら回転の半径が小さくなった。

 重りの速度を邪魔したくなかったので、両手にねじりを加えた。

 

 両手をねじったら両腕がねじれた。

 両腕がねじれたら肩がねじれた。

 肩がねじれたら胸に二つの円が生まれた。

 二つの円は、それぞれ逆に回転したまま私の身体に広がっていく。

 

 空気ポンプによって大量の空気が一気に入って、風船が一瞬で膨らんだ感覚に陥った。

 右膝を曲げて片足をあげたら、重りの回転速度があがった。

 この状態で足を降ろすと、回転速度はどうなるんだろう?

 そう思ったから、右手と右脚を落とした。

 

 道場中の、健康体操をしていた人達や受付のお姉さんが一斉にこちらを振り向いた。

 

 回転は残っている……というより、速度を可変させることができる。

 腕を開き、足を動かし、手をねじるだけで回転速度は容易に変化する。

 重りが回る印象から、独楽(こま)を思い出した。

 独楽(こま)が回転していると、独楽(こま)は倒れない。

 

 片足を目一杯伸ばしたり、引っ込めたりしてみる。

 重りの回転速度が落ちないから、地球が私を支えてくれる。

 

 弓歩(きゅうほ)の体勢で、指を伸ばす。

 指を伸ばすと手首がついていく。

 手首がついていくから肘が動く。

 肘が動くから肩も動く。

 

 自然と開いた掌を、なんとなく見つめる。

 これって、身体を動かす必要すらないかも。

 ああ、やっぱり。

 呼吸でも、独楽(こま)は回るんだ。

 

 套路(とうろ)内の名称だと懶紮衣(らんざつい)だったような。

 なんかもう、名前すらどうでもよくなってきた。

 

 身体は骨で繋がっていて、地面とも繋がっている。

 地面は必ず押し返してくるから、二足歩行は本当に不安定だ。

 

 人は不安定なのだから、支えてあげないと倒れてしまう。

 沢山の力に逆らわないと、人間は気をつけの姿勢すらできないのに。

 ましてや歩くだなんて、狂気の沙汰ではないだろうか?

 

 独楽(こま)はあくまでも例え話で、実際には独楽(こま)じゃない。

 感覚として私の手の中にあるのは……『球』。

 外回りと内回りの、異なる回転の球が手の内にある。

 

 球を抱えながら、両手を広げていく。

 両手を広げた分、球は大きくなった。

 大きくなった球を、回転をそのままに小さくしていく。

 小さく、小さく。小さく。

 難しい事は必要ない。両手を閉じていくだけでいい。 

 

 私はその球を、両の掌を合わせてゆっくり押しつぶした。

 何かが弾けて行き場を失い、頭頂と足先から突き抜けて放出される感覚があった。

 全くの無意識だったが、下半身は馬歩(まほ)に変化していた。

 

 身体の表面は熱いのに、中身は強制的に冷やされているような、変な感覚がした。

 体内の臓器が全体的に下に落ちている気がして、気分も下がっていた。

 なのに心臓から身体中に流れいく血流がわかるほどに、私の掌は温かくなっていた。

 

 

 * * *

 

 

 ――音や匂い、周囲の景色が戻ってきた。

 

 私は馬歩(まほ)、つまり馬に乗った時のように足を開いた姿勢のままだった。

 両の掌も合わせたままなので、まるで中国拳法の映画のポスターのようだった。

 全身に吹き出ている汗が、ものすごかった。

 

 私の周囲には、健康体操をしていたお爺さんやお婆さんがいつの間にか集まっていた。

 ニコニコとした笑顔で、皆が私に話しかけてくる。

 

「お嬢ちゃん、見事な内功と震脚じゃった。二の打ち要らずの八極拳に興味はないかえ?」

「なーにが二の打ち要らずだ、わからんようにこっそり二度打っとるじゃろがい。そこいくと『半歩崩拳、遍く天下を打つ』の形意拳こそが最強よ。今なら入会は無料じゃよ」

「北の武術なんぞいらん。南だけで十分。嬢ちゃん、洪家拳は打つ・蹴る・掴む・投げるを全部同時にやる格好いい最高の武術じゃよ。是非入門を……」

「お嬢さん。南派なら、女性が創始した白鶴拳というのがあるのよ。暴漢に襲われても大丈夫」

擒拿(チンナ)だけで十分じゃろババア。暴漢なんぞ殺せばええんじゃ、生ぬるいこと言っとるでないわ」

 

 私を取り囲んだ人達が、あーでもないこーでもないと言ってくる。

 返事に困っていると、師父(シーフー)が手の平を振るジェスチャーをしながら近づいてきた。

 

「殺してどうする。ほれ、散った散った」

白爺(しろじ)、この子くれ。わしの弟子にする」

「阿呆が。もうウチの弟子(トゥーディー)じゃ。誰にもやらん」

「かーっ、このエロジジイ! 何が弟子(トゥーディー)じゃ。学生扱いしとったら貰っていったのに!」

 

 私は気になっていた事があったので、白鶴拳を薦めてきたおばあさんに質問した。

 

「学生扱いってどういうことなんですか?」

「練習生ってことよ、お嬢さん。弟子と学生の間には高い壁があって、乗り越えるのはとても難しいの」

 

 お婆さんがニコニコしながら教えてくれた。

 私は、ほへー、と思いながら立ち上がった。

 困り顔の師父(シーフー)が、私に近づいてくる。

 

「あー、弟子(トゥーディー)。理解が進んだのは喜ばしいが、暫くの間は全力で打ってはいかん」

「えっ……全力で打つとどうなっちゃうんですか?」

「内功が進みすぎて外功が追いついとらん。迂闊に打つと開放骨折とかになりかねん」

「えええーっ!?」

「本来は逆なんじゃがのう……外功を進めつつも、内功の理解に苦しむのが普通なんじゃよ」

 

 殴ると開放骨折しちゃうの!?

 私が驚いていると、お爺ちゃん達が好き勝手なことを言ってくる。

 

「排打功(全身を叩いて硬くする鍛錬)はどうじゃ?」

女子(おなご)じゃぞ。腕回りだけでよかろう。鉄砂掌(手や腕を鍛える方法)じゃな」

「雲南白薬(打ち身に効果のある薬)の在庫ならたんまりあるぞい」

「お前んとこ、弟子がおらんからな」

「うっさいわ!」

 

 なんか危険な話をしている気がする。

 白鶴拳のお婆さんを見ると、お婆さんは真顔でこう言ってきた。

 

「握力には色々あるんだけど、武術的には抓力(そうりょく)っていう、瞬間的な握力というか、掴む力が大事になるの。あとどんな武術でも手首は大事。空手をやる人達がやりがちな極端な部位鍛錬のように、拳を潰したり変形させたりするような、女の子として可愛くない手には絶対にならないから安心して。グーでもパーでもチョキでも人は殺せるから」

「あ、あはは……」

 

 ジャンケンって武術だったりする?

 全身汗まみれだったので、私は早くも帰りたいなぁと思い始めた。

 

 

 * * * 

 

 

 あ……ありのまま、今起こった事を話すと。

 道場からの帰宅途中に信号待ちをしていたら、横断歩道の白線が襲いかかってきた。

 何を言っているのかわからないと思うけど、私もよくわからない。

 頭がどうにかなりそう。

 

「ヒャッハァー! 俺の名前はエンディングぅ! (ヴィラン)名はエンディング、たった今そう決めたァ!」

 

 流石は鳴羽田(なるはた)

 なんだかもうよくわからない。

 スタンド使い、もとい、個性持ちは個性持ち同士で戦い合ってて欲しい。

 

「人が唯一平等に選べるのはァ! 人生の幕の下ろし方だけだァ!」

 

 横断歩道の白線で身体をぐるぐる巻きにされている私に向かって、細身の男が自己満悦気味に叫ぶ。周囲の大人達は、子供の私を放置して逃げ出しはじめた。

 

 もしかしたら、一旦逃げて警察やヒーローを呼んでくれているのかもしれないけれど。

 なんか、こう、もにょるなぁ……。

 

 白線に捕らわれている私は、エンディングと名乗ったおじさんをジト目で見る。

 

「あのー、私をどうするんですか?」

「生きてんのか死んでんのか曖昧な人生! たゆたう秋雲(しゅううん)すら疎ましい! ヒーローならもう呼んである、俺の希望、(まばゆ)い炎はもうすぐそこに! だから死んでくれ、俺と一緒に死んでくれ、名も知らぬ少女よ! 死出の旅路に、一緒に地獄に来てくれェ!」

 

 ポエミィな自殺に、何故付き合わされなければならないのか。

 私はぎょろぎょろ目の危ない目をしたエンディングとやらを、じっと見つめる。

 お母さんが言う、冷静になって観察する行為。

 

 私もエンディングも、二足歩行で不安定な生き物だ。

 だけど、今は白線で繋がっているから四本足で安定している。

 彼の不安定を増幅させて、繋がりを断ったら彼は一体どうなるんだろう?

 

 私の身体は、横断歩道の白線に両腕とお腹をぐるぐる巻きにされている。

 だから上半身はうまく動かない。

 でも言い換えれば、下半身を動かすことはできる。

 

 頭と身体が、冴えていく感覚。

 

 私は白線にぐるぐる巻きにされたまま、身体全体で円を作るように膝を回した。

 身体の中で円を捻って螺旋にした(けい)(力の流れ)を、白線経由でエンディングに伝えていく。

 

 沢山の力に逆らって、エンディングは二本足で立っている。

 彼の身体の中にも、重りの独楽(こま)があるのがわかる。

 それに螺旋の力をぶつけて、エンディングの独楽(こま)を転がしてみた。

 

「俺には何も守るものなんてな……ぁぃっ!?」

 

 エンディングは前につんのめって、あっさり転んだ。

 そしてそのタイミングで、大きなV字の炎を軸に身体中が燃えさかっている巨体のヒーローが、凄まじい速度の低空飛行で突っ込んできた。

 

「暴行の現行犯だ、自称エンディング!」

「エンデヴァー!?」

 

 まさかのナンバーツーの登場に、私は驚いて叫ぶ。

 えっ、こんな大物様がどうして鳴羽田(なるはた)に?

 この自称(ヴィラン)名エンディングってそんな重要キャラだった?

 こんな奴全然覚えてないと思っていたら、エンデヴァーがニヤリと笑った。

 

「赫灼熱拳ジェットバーン!」

 

 足裏から炎を出して突進しながら、エンデヴァーが炎の拳でエンディングを殴り飛ばした。

 炎はエンディングを気絶させ、同時に私の束縛がほどける場所で白線を燃やし尽くした。

 ……あっ、なんか格好良くて漫画っぽい演出だ。

 

「ありがとうございます、エンデヴァーさん」

 

 解放された私は、素直に頭をぺこりと下げた。

 

「……俺の邪魔をするな」

 

 あー、ナンバーワンじゃない貴方はそうでしたね。

 立ち去ろうとするエンデヴァーに、私は声をかける。

 

「はい。あなたの努力(Endeavor)の邪魔はしません」

 

 私の言葉にエンデヴァーは立ち止まり、振り返った。

 面白いことを言うヤツだ、と顔が語っている。

 

「……フン」

 

 エンデヴァーが、気が変わったとばかりに私に右手を伸ばした。

 ちょっと待って、解釈違いなんですけど?

 私は引き攣った笑顔で、エンデヴァーと握手をする。

 そこをすかさずマスコミの人達が寄ってきて、皆で撮影していった。 

 

 

 次の日。

 エンデヴァーがヴィランを取り押さえたニュース……ではなく。

 『エンデヴァー、助けた少女への珍しい握手姿!?』という見出しで、私とエンデヴァーが握手している姿が新聞やテレビで流れた。(ヴィラン)名エンディングは、名前すら出なかった。

 どこまでレアなの、この時期のエンデヴァーのファンサは!?

 

 父親は狂喜乱舞して、私の写真が掲載されている全ての新聞を買いあさり。

 母親は欣喜雀躍(きんきじゃくやく)して、ニュース映像を片っ端から録画しまくっていた。

 

 私の無事はお祝いしてくれたけれど、和歩ちゃんと航一さんの反応は薄かった。

 和歩ちゃんは、全国放送で自分の姿を見て貰えて羨ましい、とアイドル志望の片鱗的嫉妬を見せてくるし。

 航一さんはオールマイト至上主義者なので「エンデヴァー? ふーん」という感じだった。

 

 ……みんな、極端すぎない?

 

 

 * * *

 

 

「やったよ師匠! チームIDATENのサイドキックへの内定が決まったよ!」

「おめでとうございます航一さん、順調ですね!」

 

 秋も深まった頃に、航一さんから喜びの電話が入った。

 ザ・スカイクロウラーが大きく羽ばたいていく、その第一歩だ。

 

「俺は誰かが助けを求める声に呼ばれて飛び出るヒーロー! ザ・スカイクロウラー!」

 

 電話の向こう側なのに、航一さんが東映スパイダーマンポーズをとっている姿が幻視できる。

 

「いつか航一さんがヒーローとして独立したら、和歩ちゃんがサイドキックで、私が経営でサポートとか、ありかもしれませんね」

「師匠が支えてくれるのなら、百人力だよ~」

 

 航一さんが、いつものへにゃり顔をしているとわかる。

 見えないけど。

 

「なんなら、雄英高校を目指してもいいですよ。航一さんの事務所に、ドヤ顔で履歴書を出しに行きます」

「うへぇ、プレッシャー凄そう」

「いいじゃないですか。美少女の和歩ちゃんがバディなんですよ?」

 

 ビル落下事件以来、和歩ちゃんに時々航一さんとの仲を聞かれる。

 あー、これは和歩ちゃん、航一さんを意識してしまいましたね?

 

 流石は公式認定カップル。

 何がどうなっても、二人はくっつく運命にあるのです。

 だから私は、真さんに内心で謝ってから、航一さんに和歩ちゃんのことを意識させるのだ。

 

「和歩ちゃんかぁ~。なんかゾロっとしてるよね!」

 

 【ぞろっ‐と】

 ・多くのものが並んだりつながったりしているさま。

 ・衣服の裾を引きずるように、だらしなく着ているさま。

 

「和歩ちゃんでゾロっとだと、私の表現はどうなっちゃうんでしょうかね……」

「あっ、そうだ師匠。師匠の誕生日っていつ?」

「私ですか? 2月2日です。ちなみに父が4月4日で母が1月1日で叔母が3月3日です」

「おおう、覚えやすい……俺は2月22日だから余計に。お互い、2ばっかりだね~」

「和歩ちゃんは確か5月28日だから、彼女も2がかすってます」

 

 さりげなく、さりげなーく、和歩ちゃんのデータを推しておく。

 少しずつでいから、刷り込んでいこう。

 川で溺れかけた和歩ちゃんを助けるイベントを潰してしまった以上、フォローはしておきたい。

 

 とはいえ、のれんに腕押しというか。

 航一さんの和歩ちゃんに対する反応が悪いので、ちょっと困り気味。

 でも原作もこんな感じだったような気もするし、これでいいのかなぁ?

 

「じゃあね、師匠。おやすみ」

「はい、おやすみなさい、航一さん」

 

 私の立ち位置は、祈りを捧げるモブ少女A子さん。

 

 ザ・スカイクロウラーが空を飛ぶ隣りを、ポップ☆ステップが跳躍で追いかける。

 そこをなんかこう、劇場版オリキャラが出てきて「頑張れ」と祈るノリで、私も祈る。

 それでいい。私はキチンと(わきま)えている。

 

 

 祈りを捧げるモブ少女A子さんだから、私はヒーローになれない。

 

 

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