【エマージェンシー】《emergency》
緊急事態、緊急時。
救急、応急。
* * *
翌日、合宿二日目。AM5:30。
流石にみんな睡眠時間が足りていないのか、ふらふらだ。
「お早う諸君。本日から本格的に強化合宿をはじめる。今日から君らの個性を伸ばす」
人差し指を立てながら、相澤先生が私達全員に語る。
「死ぬほどキツイが、くれぐれも死なないように」
ブラド先生が補足する。
「筋繊維は酷使することにより壊れ、強く太くなる。個性も同じだ。使い続ければ強くなり、でなければ衰える……すなわちやるべきことは一つ! 限界突破!」
許容上限のある発動型は上限の底上げ。
異形型、その他複合型は個性に由来する器官・部位のさらなる鍛錬。
本来であれば生徒40人を管理するには足りないが、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの面々の個性をフル活用することで全員をフォローできる。
なお
「さて、塚内空をどうするかだが……」
相澤先生が考え込んだが、虎が簡単に解決策を述べる。
「我ーズブートキャンプで良いのではないか?」
「無難っちゃ無難か」
教師達の会話に、塚内空は完全に諦めた目をしていた。
この世界で迂闊に筋肉を鍛え上げすぎると、レディ・ナガンや志村菜奈のような、腕も腹も脚も筋肉でバッキバキな体型にあっさり行き着きそうで怖い。
ヒロアカ原作者の性癖そのものだから、なんか修正とか入りそうで怖い。
(※本気でその体型を目指すと、創世神HK直々の加護が密かに付与されます)
一部の中国拳法や、日本の古流武術には、わかりやすい筋トレがない。
これは筋肉より、身体の連動や、骨や腱の繋がりを重視しているからだ。
鉄砂掌では重い砂袋を投げてキャッチしたりするが、その意味ではそれが筋トレである。
ただ、太極拳にはこういう言葉がある。
『
剛に偏って練習する者は筋骨を痛める。
柔に偏って練習する者は実用を成し遂げることはできない。
外側だけを鍛えてはならない。
中身だけを鍛えてはならない。
外と内、両方を満遍なく鍛えよという思想が太極拳だ。
柔道では「柔よく剛を制す、剛よく柔を断つ」という言葉が有名だ。
中国の兵法書『三略』に由来する言葉だが、これは上記と少しニュアンスが違う。
技は力を制するが、力は技を断ち切る。
ヒロアカ世界的には、こっちの意味の方が強いのかもしれない。
なにしろ全員、力業で何もかも粉砕している。
ゆえに、塚内空は目の前の光景に、私もこうなってしまうのだろうかと遠い目をしていた。
「さあ今だ撃ってこい!」
「……5%デトロイトスマッシュ!」
「よォォォしまだまだキレキレじゃないか! 筋繊維が千切れてない証拠だよ!」
「イエッサ!」
指導官の虎に殴り飛ばされながら、デクが真面目に頑張っている。
「声が小さい!」
「イエッサァ!」
「プルスウルトラだろォ!? しろよ! ウルトラ!」
はぁ、と塚内空はため息を一つ。
レディ・ナガンや志村菜奈のような、腕も腹も脚も筋肉でバッキバキな体型になれというのか。
意識を切り替える。
太極拳ではなく、八極拳に。
意識を制し合いから殴り合いに切り替えた。
塚内空は、八極拳の母なる套路『小架一路』を開始する。*1
様々に枝分かれした八極拳士が、結局最初に戻ってくると言われる基本の
塚内空は、八極拳の老師から細かく学んだわけではない。
基本となる套路を学び、攻防の初歩を教えて貰っただけとも言える。
覚えた太極拳を壊す必要は無い。
八極拳の套路から
八極拳の老師は、そう言って笑っていた。
ダァン!
バァン!
八極拳套路の凄まじい震脚音が、周囲に鳴り響く。
あまりの音に、周囲の教師も生徒も唖然とする。
「切れぬなら……千切ってみせよう、筋繊維」
ホトトギスのホの字も出てこない一句を詠み、塚内空はプルスウルトラをはじめた。
なお、我流格闘術キャットコンバットの使い手である虎は、内心焦るしかなかった。
他生徒とは、攻防の思想が塚内空だけ明らかに違う。
デクをはじめとした一般生徒は、殴って当てようとしてくる。
何を言っているのかと思われるかもしれないが、離れているから攻撃をしてくる。
そこを個性『軟体』で躱し、カウンターを入れるのが虎のキャットコンバットの思想だ。
塚内空の場合、最初から違う。
虎が回避不可能な間合いや体勢を支配しようと、距離を詰めてくるところからはじまる。
殴ろうとすると既に回避姿勢に移行していて、彼女の指先が触れた瞬間に体軸が崩される。
彼女の手が伸びて、自分の身体に触れた瞬間から彼女の打撃がはじまるが、これがまた怖い。
大きく振りかぶるわけではない。最短最速にして最大効率、しかも崩しを兼ねている。
彼女の手が身体に触れた瞬間から重心がおかしくなり、受けるための我慢が不可能になる。
ボクシングにおける、ジャブ的な高速打撃を試しもした。
だが彼女はそんなジャブを払うと同時に、尺取り虫のように指先二本で腕を這わせてくる。
指先の一つ一つが腕を上ってくる度に、少しずつ体軸を崩されていく恐怖。
尺取り虫が肩口に上ってくる頃には、恐怖でバックステップせざるを得なかった。
この世界では滅びつつある武の術理が、確実に継承されていた。
* * *
PM4:00。
外の調理場とテーブルの上に、沢山の食材が用意されていた。
楽しそうに、ラグドールが叫ぶ。
「己で作る飯くらい己でつくれ! カレー!」
「イエッサ……」
全員が疲労困憊していたが、空腹もはじまっている。
動けるうちに動かないと、作れなくなってしまう。
「アハハハ、全員全身ブッチブチ! だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」
「世界一旨いカレーを作ろう、皆!」
委員長の飯田が全員に号令をかけ、調理がはじまった。
爆豪もだが、塚内と麗日の包丁使いも見事なものだった。
皆でわいわいと火をつけながら、調理がはじまっていく。
「はじーめちょーろちょーろ中パッパッ♪ じゅうじゅう吹いたら火をひいて♪」
塚内空がテキパキと食材を切り刻みながら、歌を唄っている。
「ひーと握りのワっラ燃っやしー、あかーご泣いてっもふった取ーるなー♪」
「ねぇねぇ塚内、それなぁに?」
「飯ごうでご飯を炊く時の歌よ、三奈ちゃん」
なおこの時、塚内空はカルチャーショックで内心引き攣っている。
「はじめは弱火で、少ししたら一気に強火に。沸騰が続いて吹きこぼれてきたら、吹きこぼれない程度に火を弱める。追い焚きをして釜内の余分な水分を加熱して飛ばしたら、火を止めて蒸らす。どんなことがあってもふたはとったらダメですよという意味ですわ!」
「麗日もだけど塚内がめっちゃ手慣れすぎ、すごくね?」
「9歳の時にお母さんが死んじゃってね。小学校高学年から中学生までずっと家事やってたから、料理は得意だよ」
「……お、おう。なんだか悪いな、こみいったこと言わせちまって」
「気にしない気にしない。……ほら、出来た! みんな、よそって!」
カレーの完成に、皆で大喜びした。
「こういうのは雰囲気っていうか状況っていうかよ。そういうのを味わうもんだよな!」
取り立てて旨すぎるというわけではない、ないが、これは、この感覚は……?
「……アレだ。ダチが家に遊びに来て、夢中になってダチの帰りが遅れてさ。家で夕飯食べていきなよって流れになって、おかんが丁寧に作ってくれた時のカレー」
「店の味ではなく、家の味、か……」
がっつこうとしていた切島が、思わず味わいながら食べ始めた。
「塚内、これなんか入れたりしたのか? コーヒーとか」
「ううん。カレー会社って毎日のようにしのぎを削って他社と争うようにカレールーを調整してるから、そのままで完成してると私は思ってる。コーヒーを足すとかそういう味変は確かに有名なんだけど、私は不要派かな。だから箱に書いてある通りに作るだけ、って言いたいんだけど……例えば、野菜は繊維を切るように切るとか、野菜を炒める前に油をまとわせてコーティングしておくことで野菜の水分を保持させるとか、玉ねぎを少しゆでてからあめ色になるまで炒めるとか……沸騰してる時にルーを入れるとルーがダマになっちゃうから、ちゃんと火を止めてからルーを入れるとか。そういう地味なのを積み重ねた感じ」
「空ちゃん結婚しよ!」
「葉隠さんごめんねぇ、空ちゃんは私の嫁なんよ」
後方腕組み彼氏ヅラで、お茶子がドヤる。
なお最近は、空の疲労が濃いのでお茶子が手作り料理担当だ。
「挟まりてェ……」
「お前は本当にブレないな」
夕方の森は、虫や鳥の音が案外うるさい。
だから数匹の蜂が静かに周辺偵察をしていることに、誰も気づけなかった。
* * *
PM10:00。
「
フードを深く被ったマスキュラーが、崖の上で呟く。
苦笑しながら、リュミエール・ノワールが答える。
「今から作戦を説明するよ。暴れたい人には暴れさせてあげるから安心して」
「派手なことはしなくていいって言ってなかった?」
マスタードが小首を傾げるが、リュミエール・ノワールは苦笑する。
「君とコンプレスが先鋒で、地味といえば地味かもしれない。でもうまくいけば、初手で全部終わる。名門校の高学歴を、好きなだけ殺してくれていい」
「最低一人、可能なら二人の拉致とはいうけど、区別つかないよ?」
マスタードが、肩をすくめた。
スピナーが、慌てて主張する。
「待て、生殺与奪は全て、ステインの仰る主張に沿うか否か!」
「だとしても九割は殺していいことになる。大丈夫、ヴィランの女神は最優先目標だ」
リュミエール・ノワールの冷たい目に、スピナーは怯んだ。
「肉~、にくめんん! その子達の断面を見るのは僕だぁ!」
「わかってる。ムーンフィッシュは刻めればいいし、マスキュラーは殴れればいいんでしょ?」
軍師役って、保育所の職員と大差無いのでは。
リュミエール・ノワールは、内心ため息をついた。
「歯ごたえがあるやつがいい」
「じゃあ予定通りマスキュラーは男子部屋、ムーンフィッシュは女子部屋で。イレイザーヘッドがいると予想される教員関係は、僕とネホヒャンが直接当たる」
マスキュラーに指示を出し、自分が何をするのかもキチンと述べる。
荼毘がだるそうに言う。
「俺は連中の逃走経路を誘導しろってんだろ、片目よォ」
「荼毘とマスタードは、個性は強いけど個性の相性が悪い。……頼むよ、君の力が頼りなんだ」
ボスの腹心たるリュミエール・ノワールが素直に頭を下げたので、荼毘の機嫌は良くなった。
「マスタードが先制に成功すれば、連中はどうしたって動きが鈍くなる。マグネとスピナーはそこを狙う。撃破より分断優先、下手に仕留めようとして返り討ちにあうよりは目的を完遂したい」
「後は目標を発見次第、俺が拾って貰っちゃうんだろ? 段取りはわかってらァ」
Mr.コンプレスが、仮面の奥で微笑んだ。
「進入口とガスの通り道を作るのを忘れないでね、コンプレス」
リュミエール・ノワールがそう言うと、Mr.コンプレスはボウ・アンド・スクレープで一礼してみせた。
「僕は、さ。弔くんに言いたいんだ。ロールプレイングゲームではなく、シミュレーションゲームにジャンルが変わったのなら……例え三流だろうと、指揮官や軍師役は大事なんだってことをね」
確かに、呂布は強い。
張遼や高順に相当する仲間も、
でも、だからこそ。
軍師・陳宮を疎んじた呂布が最後にどうなったのか、青山優雅はこの場にいない
「さあ、思い知らせよう! 彼らの平穏は、僕達の掌の上だということを!」
リュミエール・ノワールの顔で、青山優雅は嗤った。
* * *
さて、ここで一度整理しておきたい。
合宿先のマタタビ荘にいる雄英関係者は、大きく分けて六箇所。
【1F・教員宿泊部屋】
ラグドール
マンダレイ
ピクシーボブ
虎
【1F・補習組・補習室】
イレイザーヘッド
ブラドキング
【2F・男子大部屋A組】
【2F・男子大部屋B組】
【3F・女子大部屋A組】
【3F・女子大部屋B組】
* * *
AM0:00。
補習組の補習はAM2:00まで続くため、この時点で起きているのは補習組と、ピクシーボブの婚活の愚痴を聞いていたマンダレイとラグドールと虎。
補習後にイレイザーヘッド・ブラドキング・マンダレイ・ピクシーボブで麻雀をする予定(雄英白書展開)だったので、教師陣はなんだかんだで起きていた。
Mr.コンプレスが音もなく2Fの壁に円形の穴を開け、かろやかに侵入していく。
開いた穴を伝い、そこからマスタードが侵入した。
マスタードはリュミエール・ノワール手書きの簡易地図を見ながら、指定ポイントへと移動していく。
「ふむ……この辺かな?」
マスタードは、さあ始めようとばかりに両腕を広げた。
薄紫色の毒ガスが、渦を巻くように静かに広がり始めた。
原作のような広範囲の屋外と違い、完全な閉鎖空間。
しかも先行したコンプレスが、各階に毒ガスが広がるように適度な穴を開けている。
生徒達が寝泊まりする大部屋に効率良くガスが回るよう、リュミエール・ノワールが事前に蜂で調査していた。
この時、男子大部屋B組のそばからマスタードは毒ガスの散布を開始した。
原作マスタード戦で大活躍した
他の部屋にも毒ガスが広まり始めた頃、マタタビ荘の火災報知器が反応した。
《ピーッ♪ ヒュウンヒュウン 火事です ピーッ♪ ヒュウンヒュウン 火事です》
これが、第二の合図だった。
「さァ始まりだ、地に墜とせ……
マタタビ荘の裏に回り込んでいた荼毘が、手を真っ直ぐ伸ばす。
その手の先から個性『蒼炎』が発動し、マタタビ荘の裏手を全て燃やし始めた。
ドドドドォン!
ほぼ同時、教員宿泊部屋の辺りで数匹の爆弾蜂が自爆した。
教員宿泊部屋の扉が吹き飛び、中に居たプッシーキャッツ達は急遽伏せる。
出水洸汰を守らざるを得ず、彼を庇おうと飛び出したマンダレイ。
そんな彼女の脇腹を無慈悲なチェーンソーが引き裂き、血飛沫が舞い散った。
青緑色の肌。
バイザーと一体化したヘッドギアと、ビットギャグを装着している。
背中からチェーンソーやネイルハンマー、ドリルといった工具がくっついた六本の腕を生やした脳無が、爆煙の中を強引に乱入してきた結果だった。
「ネホヒャンッ!」
しかし今、彼は脳無ネホヒャンとして、マタタビ荘を襲うヴィランと化している。
「ははッ、わかりやすい合図だ、殺し放題だ! 景気づけに一人やっとくか!」
「起きろ、起きろ、起きろ、起きろォッ!」
就寝していた最中に毒ガスを吸い、そのまま動けなくなりかけたデクだった。
だが内なる何かが彼を呼び醒まし、左手中指の骨折と引き換えに無理矢理意識を保つことができた。ワン・フォー・オール、聖火のごとく引き継がれてきたもの。
「今考えても答えは出ない、後でいい、今考えるのは……」
「死んどけ!」
マスキュラーの楽しげな前蹴りが、デクの腹に炸裂した。
「きれいだ、きれいだよ……駄目だ仕事だ、見蕩れてた、ああいけない……」
意識が半分飛んでいた塩崎茨の髪のツルが、ムーンフィッシュの個性『歯刃』の軌道を逸らしたことで、柳レイ子は即死せずに済んだ。
取蔭切奈が個性を使うのが間に合い、自らバラバラになることでかろうじて相手が勘違いしたから良かったものの、拳藤一佳が血塗れで動かないことに取蔭切奈は青ざめた。
「綺麗な肉面、ああもう誘惑するなよ……」
ムーンフィッシュは、切り刻むならやはり女の柔肌だと、興奮した。
「イレイザー」
「わかってる、ブラド」
突然の火災警報と爆音に、補習を中止した。
本来であれば戦闘判断を下すのは教師陣だが、余程の緊急性の高さなのか、マンダレイの個性『テレパス』がマタタビ荘内の意識がある者全員の中に響き渡る。
《
教員ではないマンダレイが、教員を通さず戦闘許可を出す異常事態。
「一旦様子を見に出る。お前達はここで待機していてくれ」
《ピーッ♪ ヒュウンヒュウン 火事です ピーッ♪ ヒュウンヒュウン 火事です》
「状況が全くわからない。俺も出るか?」
「いや、生徒達を頼む」
イレイザーヘッドは、単身扉を開けて廊下へと出た。
三日目の夜ではなく、まさかの深夜奇襲。
毒ガスは見えるし、炎の手が広がりつつあるのもわかる。
戦力分散ではなく、一極集中で狙いに来た。
原作の
……指揮官役がいる?
知っている原作と何もかも違い過ぎて、
個性『否定』が、体内に吸い込んだ毒ガスを無効化していく。
こんな使い方も出来るようになったのかと思いながらも、時間がないのもわかる。
B組部屋の方角からは、戦闘音が聞こえてくる。
しかしなによりも、
……対マスタード戦として、最悪過ぎる!
一人一人起こすにしても、誰が起きてくれるのかすらわからない。
もはや
塚内空はケータイを取り出して、グループどころか一斉送信でメッセージを送った。
《code99:elite-villain attack 10? emergency help》(現在位置情報添付)
code99は、全リソースが必要なレベルの緊急事態を意味する。
実は塚内空はスマホのフリック入力が苦手で、日本語で打つと遅かった。
なので彼女は、半泣きで英語入力するしかなかった。
* * *
オールマイト、いや、
林間合宿には、むしろ来ないで欲しいとも言われていた。
思えば、今までの人生がブラックすぎた。
少しぐらいは、休息しても許されるだろう。
半身浴が、疲れた身体と心にとても気持ち良く効いた。
風呂場の外のケータイに、メッセージの着信音が一度、小さく鳴り響いた。
あまりにも疲れすぎていた八木俊典は、それに気づけなかった。
* * *
なにやら新特許を使えるようになったとかで、日本どころか世界レベルで最新の『変身リストバンド』を塚内空から貰った
このリストバンドを装備して「変身」などの指定ワードを告げると、最新鋭の超圧縮技術だかなんだか、とにかくなんか凄い理論で私服から一瞬でコスチュームに着替えることができてしまう。逆もまたしかり。
なので暇さえあれば変身して、私服に戻って、変身して、私服に戻って、を繰り返してサー・ナイトアイに怒鳴られるまでがワンセットの日々を過ごしていた。
でも楽しい! 凄い! 格好良い! 素敵! ひゃほーい!
マイトタワーの寝室(オールマイト気分に浸れる。最高)で寝ようとしていた航一だったが、一通のメッセージを受信したことで話が変わった。
「サー・ナイトアイ」
「なにかね、ザ・スカイクロウラー」
オールマイト時代ほどではないが、それなりに書類仕事は溜まっている。
残業スペシャルで片付けていたナイトアイだったが、航一同様にメッセージを受信して顔色が変わる。
「ふむ……ヒーローズネットワークの緊急ラインにはまだ情報が無いが」
「行ってきます」
「待て、今現地に対応可能なヒーローがいないか問い合わせを……」
既に航一は、マイトタワーの緊急発進口をオープンさせていた。
「――変身」
ザ・スカイクロウラーが、ヒーローコスチュームを蒸着するタイムは、わずか0.05秒に過ぎない!
音速を超える物体は、その周りの空気を強く押し分け、衝撃波を発生させる。
衝撃波は円錐状に広がりながら大気中を伝わる。
大気中を伝播するうちに衝撃波がまとまり、N字型の急激な圧力変動(圧力上昇→圧力低下→元の圧力に戻る)として観測される。
このN波形が耳に届くと、瞬間的な「ドン」という爆発音として聞こえる。
ドン!
オールマイト時代に何度も何度も何度も聞き、味わった爆発音。
それが再び、ナイトアイを襲っていた。
「……」
真顔で夜空を見つめていたナイトアイは、警察と救急と消防に連絡を開始した。
* * *
「レミントンM870と
夜勤で休憩中だったはずの塚内警部が、いつの間にか装備品の管理責任者を問い詰めていた。
なお、ナックルダスターがNo.6戦で使った組み合わせであることから色々察して欲しい。
ダブルオーバックはともかく、レミントンM870自体は日本の警察にもあるにはある。
「待って下さい、娘さんの位置情報は車を飛ばしてもここから一時間以上です!」
「ヘリを要請しろ、三分で回せ」
「無理です、ヒーローに任せましょう!」
「飛ばして15分か」
「何キロ出すつもりですか!」
「離せ
静岡県警の人達は、こいつら早く東京に戻ってくんねーかな、と遠い目をするしかなかった。