塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.52 「林間合宿の結果」

 

【ホリブル】《horrible》

 恐ろしい、身の毛もよだつ。

 (事態などが)最悪の、ひどい。

 

 

 * * *

 

 

「よそ見してんじゃねぇよボロ雑巾!」

「う"う"……っるせええええええええ!」

 

 爆豪化の進んでいるデクは、叫びながらその一撃を受け止めた。

 だが、マスキュラーにはまだまだ余裕がある。

 

「そうそう、知ってたら教えてくれよ。塚内って女は上にいんのか? 体育祭で一位になったやつだよ」

「塚内さん……!?」

「あ"ァ!?」

 

 デクは驚き、何故目的が彼女なのかと困惑した。

 爆豪は、聞き捨てならんとばかりにマスタードを殴り飛ばしてから振り返った。

 

「塚内さんは雄英体育祭で、二位だよ!」

「ビデオ見たけどよ、どー見ても二位はそこのトゲトゲだったろーが。でも気にすんな! 緑髪のお前も、トゲトゲのお前も、二人仲良く殺してやるよ! 俺の個性は筋肉増強、皮下に収まんねぇ程の筋繊維で底上げされる速さと力! 何が言いてぇかって!? 自慢だよ! つまりお前等は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ! わかるか俺の今の気持ちが、笑えて仕方ねぇよ! 劣等型をいたぶって殺す簡単なお仕事って奴さァ!」

「んだとコラァ……!」

 

 自分が一位ではなく、事実上の二位だというのは爆豪自身が一番理解していた。

 最も触れられたく無かった最悪の思い出を、土足で踏みにじられた。

 

 デクはデクで、ヴィランの目的が塚内空の拉致にあると理解した。

 

(目的は塚内さん!? 何で――)

 

 デクの脳内で、一言一句全て暗記しているオールマイト語録が超高速で再生された。

 オールマイトが話してくれた内容の中に、心当たりがある。

 

(オール・フォー・ワンは個性を奪い、与える存在……無個性で出来ることを全部やっているような彼女に無理矢理個性を与えて、屈服させる――!?)

 

 1-Aにおいて、偶然にも隣の席に座っている塚内空。

 思えば、受験日の時にも出会っていた。

 

『転んじゃったら、縁起が悪いですから』

『ふふっ。考え方を180度変えたってこと』

『よろしくね、デクくん』

『……雄英ヒーロー科1-A、全開運転(フルスロットル)!』

『健康体操歴10年、塚内空。お任せ下さい』

『少しでも長く続くように配慮してくれましたよね、デク君』

 

 バスの隣りで、まさかのヒーロー縛りのしり取りにも付き合ってくれた塚内空の笑顔が、デクの脳裏をよぎる。

 

 塚内空自身は全く気がついていないが、緑谷(みどりや)出久(いずく)麗日(うららか)お茶子の間で起きるはずのイベントを半分ぐらい潰している。

 そもそも羽根山和歩から灰廻航一に()()()()()()()()バレンタインチョコがブラックサンダー(40円・税抜)だったあたりで気がつかなければいけないのだが、塚内空は気づけない。

 これは解釈が分かれるところだが、原作ヴィジランテ時間軸の和歩は航一へ渡すチョコを用意はするが色々あって結局渡せず、自分でチョコを食べるパターンだと推測する。最終刊以降の本編時間軸になり、正式に付き合いがはじまってそこではじめて航一にチョコを渡せるようになるはず。どちらにせよ、和歩・航一間で起きるはずのイベントはこの世界線においては壊滅状態であり、矢印が発生する余地がない。

 できる女のようでどこか抜けている、そんな塚内空だったがとりあえず今は脇へ置いておく。

 

 マスキュラーはデクも爆豪も無視して耳のイヤホンにしばし集中していたが、何もかもが可笑しいとばかりに笑い始めた。

 

「どうやら、こっちの勝ちみたいだぜ! 塚内とやらは貰ったから、後はお前等を殺して脱出するだけだ!」

「この野郎! 貰うなよ!」

 

 デクが突然ブチギレて、絶叫した。

 

「緑谷、落ち着け……」

 

 まだ起き上がれない障子(しょうじ)目蔵(めぞう)が、思わず苦笑する。

 勢い収まらず、デクは宣言する。

 

「大丈夫……塚内さんは、必ず(たす)ける!」

「必ず(たす)ける!? どうやって!? 実現不可のキレイ事のたまってんじゃねぇよ!」

 

 デクとマスキュラーが、言葉でバトルしていた最中(さなか)

 こめかみをひくつかせていた爆豪が、低い声で言った。

 

「テメェ、ここがどこなのかわかってねェな?」

「あ"ぁ!?」

 

 返事をしたマスキュラーの下半身が、突然氷漬けになった。

 毒ガスがまだ体内に残っているのか、意識が朦朧としている(とどろき)焦凍(しょうと)が片手を伸ばし、マスキュラーに向けていた。

 

「……悪い、今起きた。緑谷の大声は、目覚ましに効くな……」

「できるできないじゃないんだっ、ヒーローは、命を賭してキレイ事実践するお仕事だ!」

 

(ワン・フォー・オール、100%!)

 内心で、デクは全力を出すと決めた。

 

「最大火力でブッ飛ばす!」

 

 距離を詰めながら、爆豪が叫ぶ。

 

「どうなっても知らねぇぞ」

 

 轟が、ふらりと立ち上がる。

 

「デトロイト・スマーッシュ!」

 

 全力で飛び込みながら、デクが叫んだ。

 

 

 * * *

 

 

「……既に目的は達成した。ステインの意思は蘇る……ヴィランの女神によって!」

「とっとと逃げるか」

 

 スピナーのドヤ顔に、もう早く帰りたいという顔の荼毘。

 

「させるかよ」

 

 イレイザーヘッドは二人に向かって突進する。

 

「粛清だ! 粛清がはじまる!」

 

 スピナーの武器、棍棒型大量ナイフがイレイザーヘッドに向けて投擲された。

 

「何言ってんのかわかんねぇよ」

 

 塚内空とて、スピナーの台詞を聞いていれば同じ事を言っただろう。

 とはいえ、スピナーにとっては関係の無いことだった。

 ヴィランの女神こそが、ヴィランを救ってくれる存在なのだから。

 

 投擲された棍棒型大量ナイフを捕縛布で絡め取るようにして、地面に叩きつけた。

 特殊合金を編み込んだ捕縛布が、ただ投げつけられただけのナイフに負けるわけもない。

 

 だが、その迎撃の一瞬だけで、二人の姿はかき消えていた。

 後には、黒い霧のようなもやが少しだけ残っている。

 

「なんだと……?」

 

 その時、玄関方面から銃弾が乱射されたかのような音が聞こえてきた。

 イレイザーヘッドの認識が正しければ、銃声のようなものは九発。

 

 舌打ち一つ。

 右目の下の抉られ傷から流れる血もそのままに、イレイザーヘッドは走った。

 

 

 * * *

 

 

「塚内空は、そちらにいるべき人材じゃない。もっと輝ける舞台へ、俺達が連れて行くよ」

「……お返し遊ばせ!」

 

 八百万(やおよろず)(もも)が、本気でぶちギレた。

 髪を下ろした状態の彼女の怒り顔は、別人のように怖い。

 

「返せ? 妙な話だぜ、塚内空は誰のモノでもねぇ。彼女は彼女自身のものだぞ、エゴイストめ」

「お返し遊ばせと、申し上げました!」

 

 仮面の向こうで、男がクスクスと笑うのがわかる。

 

「ムーンフィッシュ……女部屋を襲った男な。アレでも死刑判決を控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する……彼女は凄いね」

「敵に背を見せるヒーローになれと……教わった事はございません」

 

 怒りのあまり、もはや会話が微妙に成立していない。

 

 八百万百の胸から、スプレー缶のような何かが生み出された。

 それは、期末試験の演習のイレイザーヘッド戦で見せた閃光弾(フラッシュグレネード)に似ていた。

 

 閃光弾(フラッシュグレネード)は、強烈な光を発することで相手を(ひる)ませる兵器。

 だが今回、ブチギレ八百万が製作したのは閃光弾(フラッシュグレネード)ではない。

 

 特殊音響閃光弾(スタングレネード)、『Mk13 type:9-Bang(ナインバン)』。

 

 0.5秒間隔で9回連続起爆し、光と爆音を何度も撒き散らすガチの特殊音響閃光弾(スタングレネード)

 起爆地点から約2mの範囲で約165デシベルの音圧、150万カンデラの光度を発揮する。

 水深20mまでの防水構造なので、地上部隊だけでなく、水中から上陸作戦を敢行する海軍特殊部隊でも使用可能だ。

 

 そしてマグネとコンプレスに向かって、八百万百は一切の躊躇無く特殊音響閃光弾(スタングレネード)を投擲した。

 『Mk13 type:9-Bang(ナインバン)』は、その名の通り九度の閃光と大音量を撒き散らかした。

 

 大音量の銃声が九発鳴り響き、その都度大量の光度が発生した。

 

「うっそぉ!?」

 

 コンプレスは仮面の関係で被害を最小限に抑えることができたが、マグネは回避できなかった。

 スタングレネードの名の通り、マグネは身動きが取れなくなる。

 

開闢(かいびゃく)行動隊、目標回収達成だ! 短い間だったが順次幕引き、予定通り退却!」

 

 コンプレスはマグネをビー玉に変換し、特殊音響閃光弾(スタングレネード)の影響で頭がふらつく中、駆けだした。

 

「うざこいしおもろないわ。空ちゃんかやせコラ。びしゃいたろか。けったくそ悪いわ、くそあんご」

 

 昏睡していたはずの麗日(うららか)お茶子がガスマスクを投げ捨て、コンプレスを殴り飛ばそうと駆けだした。しかし極太の黒いレーザーが放たれ、お茶子の行く手を(はば)んだ。

 

 合わせて、千匹単位の大量の爆弾蜂が急速に周辺を守り始めた。

 さらには、脳無ネホヒャンがチェーンソーを振り回しながら玄関前へと移動してきた。

 爆弾蜂と脳無のコンビによる、鉄壁の守り。

 

「ネホヒャン!」

「うぬぅ……!」

「私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった……なかなかやるね」

 

 虎とピクシーボブも後から追いかけてきたが、爆弾蜂が邪魔で迂闊に近寄れない。

 千匹単位の爆弾蜂と、脳無ネホヒャンが守りにつく中、悠々と開闢(かいびゃく)行動隊の面々が撤退を開始していく。

 

「急いで、長居する必要は無い! 相手の応援は幾らでも来る!」

 

 リュミエール・ノワールが指示を出し、空間に突如発生した複数の黒い霧の中に飛び込んだ。

 

「そんじゃー、お後がよろしいようで……」

 

 コンプレスが去り際に、ボウ・アンド・スクレープで一礼しようと黒い霧の縁で雄英一同の方角を向いた、その時だった。

 

 二つ、いや、三つのことが同時に起きた。

 

 ドン!

 

 一発の銃弾がコンプレスの仮面を撃ち抜き、コンプレスの口からビー玉が二つはじけ飛んだ。

 無数の誘導弾が、夜空に大量の曲線を描きながら爆弾蜂を狙い澄ましたように爆破していった。

 秒速340mを越える何かが直上から一直線に降ってきて、脳無ネホヒャンを一撃で地面にめり込ませた。

 

 ……タァン……。

 やや遅れて、銃声音が届いた。

 

 

 * * *

 

 

 静岡県にある航空自衛隊の基地、静浜基地。

 そこに配備されている都道府県警察航空隊の静岡県警所属のヘリ、アグスタA109E。

 

 パトカーを()()()()、先方のヘリと無理矢理合流。

 置き去りにしたパトカーは、後で拾えばいい。

 ヤバい武器の使用許可も既に得ていて、それを持ち込んでいた。

 

 ただでさえ0時過ぎの夜間飛行。

 夜間は電線や送電塔などの障害物が見えにくく、地表衝突(CFIT)事故も多い。

 法律で禁止されているわけではないが、夜間飛行はあまり好まれるものではない。

 

 好まれるものではない=行けるのなら行け(命令)。

 

 アグスタA109Eの最大速度は154ノット、時速にして285 km/h。

 ヘリの利点は直線距離を進めることだが、まだ足りない。

 

 皮肉にも、視界の悪さはマタタビ荘を燃やす炎が補っていた。

 そして特殊音響閃光弾(スタングレネード)の光が、そこで何かが起きていると教えてくれた。

 

 塚内警部はアキュラシー・インターナショナル AW (Arctic Warfare) L96A1という、世界最高峰と評価されるボルトアクション狙撃銃を構えていた。

 もちろん、ナイトビジョンライフルスコープに換装済みだ。

 

 スポッターとしてナイトビジョン地上用望遠鏡(フィールドスコープ)を覗いている三茶(さんさ)が補佐してはいる。

 とはいえ、『夜間・ヘリ飛行・超長距離狙撃』という頭のおかしい諸条件である。

 これがどれだけ頭がおかしい条件なのかは、『バトルフィールド』シリーズ等でマルチプレイをしてみればすぐにわかる。

 

 だが、個性『加速』のNo.6相手に銃弾を当ててみせた塚内警部の銃の技量もまた、意味不明だ。

 

 ゴルゴ13かな? と誰もが首を傾げる条件。

 ヘリが激しく揺れる中、米粒を狙撃するような行為。

 

 そして塚内警部は、その米粒を狙撃した。

 発射された7.62×51mm NATO弾は、スナイプ先生が涙目になる正確さでコンプレスの仮面を撃ち抜いてみせた。

 個性かな?

 

「チッ」

「……塚内警部、威嚇の警告射撃は?」

「身体には当てていない。警告射撃だ」

「今、舌打ちしましたよね?」

「風の音だろう。ヘリは寒いな」

 

 スナイパーライフルで警告も何もあったものではないが、建前は必要だった。

 しかしその建前の警告射撃が、コンプレスの口からビー玉を吐き出させることに成功せしめた。

 

 

 * * *

 

 

 マッハで飛べるとはいっても、ゲームのように小型MAPが左下に表示されているわけではない。

 バイザーはあくまで風よけのためなので、今度そういう地図表示機能をつけてもらおうと灰廻(はいまわり)航一(こういち)は決意していた。

 

 実を言うと少し通り過ぎてしまい、慌てて戻ってきたぐらいだ。

 それぐらい、夜間飛行は現在位置の把握難易度が高かった。

 

 ただ、燃えさかる炎のおかげでマタタビ荘を一度見つけた後は早かった。

 特殊音響閃光弾(スタングレネード)の光は眩しかったが、おかげで大雑把な状況把握をすることもできた。

 

 (気合いを)(ギュッとして)()()()()(ドーン)を乱射しながら、『ザ・スカイクロウラー・これは絶対使っちゃダメなやつ・ナックルスタイル』を解禁。

 脳無(保須市で遭遇済みだからどう見ても敵)の死角となる直上から、『やっちゃえ☆ヒーローパンチ(仮)』をかました。

 

 相手は一瞬で地面にめりこんだけど、多分生きてるはず。

 

(大丈夫! いま俺、意外と調子いいし!)

 

 航一の調子と脳無の生死は無関係だが、彼にとってそれはどうでも良いことだった。

 

 

 * * *

 

 

 コンプレスの口から飛び出たビー玉は二つ。

 

 その場にいた全員、ヒーロー・ヴィラン問わずでそれに手を伸ばした。

 

 マスキュラーを撃破後、すぐに表に出てきたA組男子勢(毒ガスが薄まったので、B組男子勢は自力で脱出しつつある)の中では、緑谷(みどりや)出久(いずく)障子(しょうじ)目蔵(めぞう)(とどろき)焦凍(しょうと)のダッシュが早かった。だがデクはマスキュラー戦のダメージが抜けておらず、脱落。

 

 結果として、障子目蔵がビー玉を一つ拾った。

 

 もう一つのビー玉に(とどろき)焦凍(しょうと)の手が伸びた時、顔も身体もつぎはぎだらけの、正体不明(正体不明とは言ってない)の男の手が一瞬早くビー玉を手にした。

 

「哀しいなぁ、轟焦凍」

 

 荼毘は楽しげに弟にそう告げると、ワープゲートに沈みながらコンプレスに指示を出す。

 

「確認だ、解除しろ」

「っだよ、今の銃撃……俺のショウが台無しだ!」

 

 コンプレスが、指を鳴らした。

 

 障子目蔵の手の中から、マグネが飛び出た。

 

 荼毘の手の中から、塚内空が出てきた。

 

「問題無し」

 

 荼毘は塚内空のビー玉をGETできていたことに、ニヤリと微笑んだ。

 

「師匠!」(灰廻航一)

「塚内さん!」(緑谷出久)

「塚内!」(轟焦凍)

「空ちゃん!」(麗日お茶子)

「塚内さん!」(八百万百)

 

 荼毘に首を掴まれ、塚内空はワープゲートの中に沈んでいく。

 爆豪ではなく自分が選ばれた理由がわからず、塚内空は混乱していた。

 そして混乱していたがゆえに、涙目で微笑みながら、変な台詞を言ってしまった。

 

「……私には、役割が無いから」

 

 大丈夫だと思う、と続けて言おうとしたところで塚内空はワープゲートに飲み込まれた。

 

 

「あ……っ、……ああ"!」

 

 デクが、声にならない声をあげた。

 この時、デクのOFA(ワンフォーオール)内、志村菜奈が崩れ落ちて吐いた。

 塚内空が拉致られた時の台詞を聞いた八木俊典は、真顔で柱に頭を打ち付けて額が切れた。

 

「……嘘だよね、師匠?」

 

 ぽややんヒーローは、何が起きたのか理解しきれず、呆然としていた。

 格好良く『やっちゃえ☆ヒーローパンチ(仮)』を決めたのを、師匠に褒めてもらうつもりだった。彼はこの後、思考停止状態でマイトタワーに戻り、寝室のベッドで丸まったまま眠れない時間を過ごすことになる。どうやって寝室に帰ったのかすら、灰廻航一は覚えていなかった。

 

「……そらっちゃ、空ちゃぁぁぁぁん!」

 

 たまらず、お茶子が泣き叫んだ。

 万が一、塚内空に強姦系の被害が発生したら、自分を止められるかどうかわからなかった。

 

 

「置いてかれちゃったわぁ……」

 

 女の子座りこと、M字ぺたん座りをしていたマグネの後頭部に、何かが突きつけられた。

 FPSゲームにおいて、スナイパーライフルを手に最前線へ出ることを突撃スナイパー、略して「凸砂(とつすな)」と表現するが、これは凸砂ではなく零距離射撃と呼ばれるものだった。

 

「被疑者、引石健磁(ひきいしけんじ)。投降の意思はあるか?」

 

 L96A1のトリガーに指をかけたまま、塚内警部が真顔で尋ねた。

 流石のマグネも、両手をゆっくりと挙げる。

 

「公務執行に対する抵抗を確認したいのだが」

「投降するわ」

「警告と威嚇射撃に対し投降の意思無しとみなせる行為を確認したいのだが」

「……投降するわ」

 

 引き攣った顔で、マグネが返答を続ける。

 はぁ、と三茶(さんさ)がため息をつく。

 

「塚内警部。今回の襲撃と塚内空の誘拐に関して、全てゲロってもらいましょう」

「……そうか。そうだな。取り調べは、必要だな……」

 

 憔悴した顔の塚内警部の代わりに、三茶(さんさ)はマグネに個性使用不能の手錠をかけた。

 塚内警部が役に立たないので、淡々と現行犯逮捕の手続きをとっていく。

 

 結局の所、林間合宿襲撃事件は雄英サイドの完全敗北に終わった。

 

 

 * * *

 

 

 ザ・スカイクロウラー事務所がヒーローズネットワークや警察・救急・消防への連絡を行っていたので、消火関連も含めてすぐに応援がやってきた。

 

 雄英の生徒達は、毒ガスによる重体、(ヴィラン)の攻撃による重軽傷者など数多くの被害が出た。

 プロヒーローはイレイザーヘッドが右目の下に痕の残る傷を負い、虎とピクシーボブは軽傷、マンダレイは重傷。

 生徒・塚内空と、プロヒーロー・ラグドールは行方不明となった。

 

 一方で、(ヴィラン)側はマスタード・マスキュラー・マグネ、三名の現行犯逮捕。

 ムーンフィッシュは生徒側の抵抗により死亡し、被疑者死亡のまま書類送検された。

 状況が状況なので、正当防衛は成立している。

 

 林間合宿は、最悪の結果で幕を閉じることとなった。

 

 

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