【スナップ】《snap》
ポキッと折れる。
(我慢の限界を超えて)キレる、感情を爆発させる。
* * *
「これより、雄英高校謝罪会見がはじまります」
雄英高校の外、全体像が映る場所で男性リポーターが神妙な顔つきでマイクを手に立っている。
マスコミは、こういうの好んで生中継したがるよね。
神奈川県横浜市神野区にある、隠れ家的なバー。
私はお昼の特上寿司の残りのサーモンを食べながら、カウンター席でテレビを見ている。
今の時間は、夜の七時過ぎだ。
原作ではデク君達が新幹線で長野県から二時間かけて移動して、夜10時頃に到着する。
そう考えると、救出作戦はそれ以降の時間帯になるのだけれど。
でも、原作知識によるタイムラインは今回あてにならない。
そもそも
テレビの向こうでは、スーツ姿の根津校長、相澤先生、ブラド先生が三人揃って頭を下げている。彼らの前にはそれぞれ、『雄英高校校長 根津』『イレイザーヘッド(A組担任・相澤消太)』『ブラドキング(B組担任・
私はカウンター席にケータイを置いて、X(旧twitter)を開きっぱなしにした。
ついでに、黒霧さんに熱いお茶を要求する。
「この度……我々の不備からヒーロー科一年生に大量の被害が及んでしまった事。ヒーロー育成の場でありながら、敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした」
相澤先生が神妙な顔つきで謝罪をするも、記者達が適当すぎる質問で追い打ちをかけていく。
原作同様に、雄英の事を知りながら、さも知らないように悪者扱いして叩く展開になっている。
「不思議なもんだよなぁ……何故奴らが責められてる?」
私の隣でマグロ赤身を食べていた弔君が、両手を広げて肩をすくめた。
「奴らは少ーし対応がズレてただけだ! 現代ヒーローってのは堅っ苦しいなぁ」
「んー、これは多分……なんだけど」
熱いお茶を啜りながら、私は答える。
「もうそろそろ、私を叩き始めるんじゃないかな?」
「はぁ?」
温め直した肉蕎麦を啜っていた荼毘君が、怪訝そうな声を出す。
「拉致られた塚内叩いてどーすんだ?」
「盛り上がって視聴率があがる……中トロもーらい」
私は中トロを容赦無く手に取り、ぱくつく。うーん、オイシイ(お茶子ちゃん風)。
「塚内空さんが拉致されたとのことですが、彼女は『ヒーロー殺し』ステインの思想的指導者とも噂されています。今回の拉致は、本当に誘拐なのですか? 実は彼女自身が望んで、『同志』の元へ合流したという可能性はないのでしょうか?」
テレビの向こうで、記者の一人がそんなことを言い出した。
なのさ口調ではなく、真面目な口調で根津校長が応対する。
「彼女は被害者です。憶測での発言は控えていただきたい」
「……すげーな、本当に空ちゃん叩きがはじまっちゃったよ」
イカと卵焼きを同時に食べていたコンプレスさんが、驚愕する。
「ですが、彼女は体育祭で対戦相手を殺そうとして反則負けになりました。『ヒーローになれないから、ヴィランになる』……そう考えたとしても、不思議ではありませんが?」
相澤先生が、記者を睨みつけながら答えていく。
「……彼女は誰よりも強く、誰よりも正しくあろうとしていました」
別の記者が挙手し、質問をしていく。
既に流れは、雄英高校の謝罪会見ではなくなっている。
「以前、彼女が正当防衛でヴィランを殺害した件についてですが……彼女は、司法試験に最年少合格するほどの天才です。法律の知識を悪用して、合法的に人を殺せる状況を作り出し、殺人を楽しんでいたという見方はできませんか? 今回の合宿でも、彼女が指揮を執ってヴィランを殺害したという情報もありますが」
ブラド先生(
「彼女はクラスメイトを守るために戦ったのです、それを殺人嗜好と呼ぶのは冒涜です」
「実際どうだったの? ムーンフィッシュ戦の指揮は」
リュミエール・ノワールが、優雅にネギトロ軍艦を食べながら聞いてきた。
「指揮は執ってないよ? 単身飛び込んで、鼓膜を破って、頸椎が折れるぐらい首を捻って、アバラをまとめてへし折って、ついでに顎を壊して、最後に後頭部を全力で粉砕骨折させただけ」
「……それは、『だけ』と言っていいのか?」
呆れ顔で、スピナーがウニ軍艦を口に放り込む。
そんな時、原作で相澤先生を怒らせようとした記者が発言した。
「攫われた塚内さんを、言葉巧みにかどわかし、悪の道に染めあげてしまうのでは? まあ、仮に彼女が悪の道に染まったとしても、所詮は『無個性』ですからねぇ。個性社会を脅かすような大した真似はできないでしょうし、『早めに駆除できて良かった』というのが世間の本音かもしれません。雄英としても、無個性のヒーローでは誰も救えないでしょうし、危険分子がいなくなってホッとしているのでは? 不幸中の幸いでしたね」
ヒュゥ、と弔君が口笛を吹いた。
画面の向こう側、青ざめた顔でブラド先生が隣の相澤先生を見たのがわかった。
心の中で、『イレイザーのメディア嫌いを知っての挑発、駄目だ乗るな!』と叫んでるはず。
ダァン!
『イレイザーヘッド』と書かれたプレートが机からはじけ飛ぶ勢いで、相澤先生が机を叩いた。
「……いい加減にしろよ、テメェら」
「ひっ!?」
想定通りに怒らせることに成功したはずなのに、質問した記者が後ずさった。
「彼女はまだ15歳の子供だ。未来ある生徒だ。それを、寄ってたかって犯罪者扱いしやがって……彼女が無個性だから何だ? 彼女は俺を倒し、脳無を圧倒し、誰よりも多くの生徒を守った! お前らが安全な場所でペンを動かしている間、彼女は血を流して戦っていたんだぞ! 駆除だ? 不幸中の幸いだ? ふざけるな!」
「おー、キレた」
ずずずー、と肉蕎麦を啜りながら荼毘君が呟いた。
「あー、これは私の知り合いがブチギレるやつ」
「ブチギレると、どうなるのですか?」
黒霧さんの質問に、私はケータイを押して彼に寄せ、画面を見せてあげた。
「こうなる?」
凄まじい勢いでRTされていて、急速に拡散がはじまっている。
『【拡散希望】雄英会見で暴言を吐いた記者たちの正体』
記者Aの本名: 過去に捏造記事で訴訟歴あり。裏垢で未成年買春疑惑。→裏垢はこちら
記者Bの本名: 不倫中。相手は局のアナウンサー。証拠はリンク先。
記者Cの本名: 過去に差別発言で炎上。住所・電話・家族構成すべて特定済み。』
隣席から身を乗り出すようにしてケータイ画面を覗いた弔君が、うげ、と発言した。
「なんだこれ。過去映像じゃなくてライブ中継だろ、なんでもう情報が割れてんだ」
「そういうの関係無く情報ぶっこ抜く子が知り合いにいるのよ」
「こえーな」
現役のヒーローのはずなんですけどね、
サイバー警察局が追おうとしても絶対に追えないやつ。
「我々も手を
乱闘すら始まりそうな雰囲気の中、根津校長が語り始めた。
「我が校の生徒は必ず取り戻します」
「んー、これは……」
ひょい、と赤身を食べてから、私は熱いお茶をずずーっと飲む。
「これは、なんだよ。早く言えよ」
荼毘君が呆れ顔(わかりにくい)で言ってくる。
「多分もうすぐ、ヒーローと警察がやってくると思うよ。ここだけじゃなくて、脳無工場とかもあるなら全部まとめて」
「……なんだと……」
スピナーが驚く。
リュミエール・ノワールが、肩をすくめる。
「で、どうすればいいのさ、軍師様?」
「そうねぇ……」
私はごちそうさまでしたと言わんばかりに、寿司桶を両手で拝んでから。
「結論から言うと、あえて何もせず、何も知らず、奇襲にびっくりして、反撃するけど無意味で、なすすべなく私は奪還されてしまい、ヒーロー側大勝利……っていうのが流れとしてはラクなんだけど」
「ひでぇ軍師もあったもんだな」
弔君が苦笑する。
「あえて補足するなら、セーフハウスに黒霧さんを事前に避難させておくと皆のその後が多少楽になる、ぐらいかな? 私とラグドールの二人を絶対に奪還できる戦力を投入してくるだろうし、何匹いるのか知らないけど手持ちの脳無も一旦在庫整理になると思う。一番大事なのは、皆が奇襲に本気で驚いて、本気で抵抗して、本気で逃走しないといけないこと。多少でも演技だと見破られるとアウト、しつこく追い回される。本気の本気で焦って涙目で逃げるからこそ、相手は深追いをせずにじっくり追い詰めていけば良いと勘違いしてしまう……速攻を決めた方が良いはずなのにね。そこで質問。私にオールマイトやイレイザーヘッドという先生がいるように、弔くんにも先生的立場の人が居るんでしょ?」
「あ、ああ……確かに、先生はいるが」
私はカウンターに置かれたモニタをちらりと見て、くすっと笑う。
「弔くんの先生的立場の人が、オールマイトに勝てるかどうか。勝てずとも、オールマイトのヒーロー生命を終わらせることができるかどうか。正直な話、その程度を実行できない戦力しかいないのなら、
「叔父さまを犠牲に、平和の象徴を終わらせるっていうのかい!?」
リュミエール・ノワールが、驚愕した。
「だって、確実にオールマイトが来るんだよ? オールマイトだけじゃなくて、警察もヒーローも沢山来ると思うけれど……これをピンチではなくチャンスとして受け止められるぐらいの戦力が無いのなら、貴方たちのどんな理想論だって語るだけ無駄になる。大人しく社会の歯車として組み込まれた方が絶対にいい。それとも、無理なの? 弔くんの先生は、オールマイトにいい勝負はできない?」
少し逡巡したようだったが、弔君はモニタに向かって語りかけた。
「先生、力を貸せ」
「……良い判断だよ、
モニタの中から、CV:大塚明夫の声が聞こえてくる。
なので私は、早速挨拶をしてあげた。
「
「ねぇ空ちゃん、本当にヒーロー科なの? おじさんびっくりだよ」
コンプレスが、本気で驚愕している。
「ヒーロー科は元々記念受験でしたが、合格を機に、仇の
「塚内くん、と言ったか。その調子で弔を導いてくれると助かるよ。個性が必要だと君が感じた時は、いつでも言って欲しい」
私は、
落ち着け、落ち着け。殺すのは、今じゃない。
「先生というのは、弟子を独り立ちさせるためにいる。頼りにしてきた僕が手の届かぬ場所に去ってしまったとしても、君は先頭を歩んでいける。仲間もいる。仲間を増やす
弔君が、泣きそうな顔になった。
「……その身体じゃ、あんた、駄目だ……俺はまだ……」
「弔。君は、戦いを続けろ」
イイハナシダナー。
「ともあれ、いつ警察とヒーローが来てもおかしくない状況です。準備と偽装と、心構えをお願いします」
そう言って、私はいい話(?)を中断させた。
* * *
神野区にある、隠れ家的なバーに塚内空が捕らえられている。
建物は三階建てで、三階部分にバーが存在している。
バー部分に黒霧を除く
もう一箇所、脳無工場とみられる場所に黒霧とラグドールがいる可能性が高い。
作戦会議において、塚内警部が提案した作戦は以下の流れだった。
1. ブリーチングチャージと呼ばれるドア抜き用の爆薬でドアを開ける。
2. ラペリングで屋上から三人降下、二人が窓をぶち割り一人が
3. 1と2のタイミングは同時。室内の全員(人質含む)の視覚と聴覚を奪う。
4. 制圧開始、突入。武器を持っている者は即座に射殺。
5. 人質がパニックで走り回らないよう、床に押さえつけてでも確保。
だが、オールマイトの「ここはアメリカではない」という一言で全て却下されてしまった。
その結果、大体が原作通りに運ぶことになったが、ただ一点。
原作では、万が一捕り漏らした場合に備えて視野の広いエンデヴァーが包囲組で待機となったが、この世界ではエンデヴァーに加えて速すぎる男・ホークスも包囲組となった。
「どもー、エンデヴァーさん、お久しぶりです」
「どういうつもりだ小僧、九州からわざわざ来たのか」
「避暑も兼ねてます。やっぱこっちは涼しいですね」
今は八月第一週なので、夏真っ盛り。
避暑も兼ねていると言われれば、関東圏の住人としてはそんなものかと考えざるを得ない。
実は原作の21巻において、『神野ではホークスの都合がつかなかった』と説明されている。
そしてこの世界では、原作よりも一日早く救出作戦が実行されている。
この一日の差。
たった一日、されど一日。
ホークスの都合がついてしまったことで、ヒーロー公安委員会の
そして、見た目だけは原作通りに、救出作戦が進行していく。
「どーもォ、ピザーラ神野店です」
* * *
オールマイト、シンリンカムイ、グラントリノの急襲。
「もう逃げられんぞ
ここから、原作より黒霧、マグネ、トガヒミコ、トゥワイスを除いた展開が続く。
エッジショットや警察機動隊も包囲に加わっていく。
「オールマイト……これがステインの求めたヒーロー……」
はじめて会ったそのプレッシャーに、スピナーがビビる。
「奴は今、どこにいる……死柄木!」
「お前が! 嫌いだ!」
死柄木弔を問い詰めるオールマイトを彼が嫌ったその瞬間、周辺に大量の脳無達が発生した。
「ん"っ!?」
オールマイトに肩ポンされていた塚内空の口から、黒い液体が溢れ出て姿を消していく。
「塚内少女! NO! NOOO!」
スピナー、コンプレス、荼毘、死柄木も次々と姿を消していく。
あまりに周囲に脳無が溢れすぎ、塚内警部が指示を出していく。
「総員発砲を許可する、繰り返す、発砲を許可する! 同士討ちに注意、射線に気をつけろ!」
そう言いながら塚内警部は右肩でがっつりMP5/10を抱え、反動で極力狙いがブレないようにした上で大型の脳無に発砲した。
この時、そばにいた
だが、現実は全く違った。
ドパラダダッ! ドパラダダッ!
「なんで
震え声で
この台詞には、少しだけ説明がいる。
マイアミ銃撃事件(1986年)の時、9パラ弾頭を撃ち込まれた犯人が平然と反撃をしてきた。
ヒロアカ世界でも、マイアミ銃撃事件に似た問題が発生したと前向きに受けとめて欲しい。
9パラ弾頭のストッピングパワー不足を反省して、FBIはより強力な10mmオート弾を採用した。だが、反動が強すぎて扱いにくいという問題が発生してしまった。
そこでFBIは、火薬量を減らした
さて、H&K社がFBIのために作ったMP5/10は、
「10mmオート弾が撃てるんだから、撃っているだけだ。おかしいことは何もない」
事もなげに塚内警部が答える。
反動が強く命中精度は悪いが、威力はマグナム級のマジキチなサブマシンガン。
流石の大型脳無も、バタバタと倒れていく。
一応補足しておくと、MP5/10は
ショッピングモールの時に許可が下りなかったのは同じMP5でもMP5/10ではなくMP5SD6のはずだが、
「しかしジーニストらと連絡がつかない。恐らくあっちが失敗した」
「グダグダじゃないか全く!」
エンデヴァーが塚内警部に怒鳴りながら、炎で脳無を焼いていく。
「エンデヴァー、大丈夫か!?」
オールマイトの心配に、エンデヴァーが怒鳴り返す。
「どこを見たらそんな疑問が出る!? 行くならとっとと行くがいい!」
「ああ……任せるね」
そう言ってオールマイトは脳無工場へと向かったが、ホークスも笑顔で告げた。
「俺も行ってきます。5kmぐらいなら、自分でも間に合うと思いますんで」
それでは、と指二本を立てた挨拶で、ホークスも飛び去っていった。
* * *
「バーからここまで5km余り……僕が脳無を送り、優に30秒は経過しての到着……衰えたね、オールマイト」
「貴様こそ、なんだその工業地帯のようなマスクは!? だいぶ無理してるんじゃあないか!?」
AFOとオールマイトが、周囲を破壊しながら派手にやり合う。しかしAFOにとっては
なので黒霧のワープゲートが、
ついでに塚内空も拉致しようと、ワープゲートで飲み込もうと画策する。
「塚内少女……今行くぞ!」
「させないさ。その為に僕がいる」
オールマイトとAFOが激しくやり合う中、一瞬の隙をついてホークスが塚内空を抱きかかえ、戦場を離脱した。
「何ィィィ!?」
「こんな……あっけなく……ふざけるな!」
スピナーと死柄木弔が、流石に悪態をつく。
「これで……心置きなくお前を倒せる!」
オールマイトが、全力でAFOに殴りかかっていった。
「塚内警部の娘さんの、塚内空さんで合ってる?」
「あっ、はい。合ってます」
塚内空を抱きかかえたホークスが、確認の台詞を言ってきた。
神野事件の時にホークス居たっけ? と思いながら、塚内空は素直に返答した。
「ま、上の指示なんで。ヒーローが暇を持て余す世の中のために協力してね。謝らないけど」
「ッ!?」
天高く空を飛んでいる状態で、足場も無く、ホークスに全てを委ねるしかない。
流石の塚内空も、そんな状況下で首を絞められ続ければ、【殺意や悪意のある攻撃じゃないと死なない法則】に基づいて気絶するしかなかった。
塚内空の腕の力が無くなるまで、ホークスは油断せず絞め続けていた。
彼女の
* * *
「何これヤバ」
「オールマイト、ボコられてなかった?」
「うっわめっちゃやられてんじゃん!」
「神野ってどこだっけ?」
「わぁ!」
「他のヒーローは何やってんだ!?」
「たるんどる! なんつって。まーでも実際あると思うわ」
「最近ヴィラン暴れすぎじゃね?」
「むしろヒーローがやられすぎな気ィするー」
「いやぁしかし結局今回も、オールマイトがなんとかするっしょ!」
「え……?」
「お……」
「なんだあのガイコツ……」
「あれ……おかしいなオールマイト、笑顔はどうした?」
「き……さま……!」
「負けないで、オールマイト……お願い……
「「勝てや! オールマイトォ!」」*1
「
オールマイトの、ラスト・スタンディング。
カメラを見ずに指さし、トゥルーフォームの
「次は……君だ」
* * *
ヨーロッパ最大の犯罪組織、ゴリーニ・ファミリー。
組織のボスは思わず立ち上がり、感涙しながらひたすらに拍手をし続けた。
「次は……俺だ!」
お前じゃねぇ、座ってろ。
* * *
私が意識を取り戻した時、椅子を模した拘束具に座らされているのはすぐにわかった。
両腕はそれぞれの肘かけに手錠のようなもので固定されている。
両足も、椅子の前脚部分に固定されている。
目隠しも厳重にされていて、通常の手段で周囲を伺うことはできない。
複数人が話し合っている。
気の強そうな女性……50代ぐらい。
声質は、プロヒーローのミルコに似ている気がする。
30代後半~40代ぐらいの男性の声。
なんだかとても眠そう。
確定なのは、ホークス。
目隠しをされていたとて、CV:中村悠一を私が聞き間違えるはずもない。
『五条悟/呪術廻戦』『島津豊久/ドリフターズ』『司波達也/魔法科高校の劣等生』『折木奉太郎/氷菓』『グラハム・エーカー/機動戦士ガンダム00』、この辺のラインナップを提示すれば誰でもわかると思う。
「本当に必要なんですか?」
「平和の象徴が失われた今、AFOへの繫がりを疑われる者は徹底的に調べなければなりません」
「まぁ神野で色々あったんで……AFOの個性をアレした配慮ってやつです」
「無個性であればこそ、ですか。与えられ、支配された可能性」
「ラグドールの個性は奪われてしまった。そして、四歳当時の彼女の因子検査結果と、最新の結果の比較がこれ」
「アレです。運がアレだったと思ってアレしてください」
「俺が
こんなの、エコーロケーションを使うまでもない。
ホークス以外の二人、恐らくは公安委員会会長と
背中の羽根を揺らしながら、ホークスがゆっくりと私の方に近づいてきた。
「……おはよう。起きてたんだ」
私は気絶したフリを続けていたのだけれど、顎を強引に持ち上げられた。
「いやわかるって。誤魔化さなくていいよ」
「日本国憲法第36条……公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」
「可哀想な塚内空は、神野事件で
「悪魔の証明を、どうしろというの」
個性を与えられていない証明なんて、できるわけがない。
「女の子だしさ、顔はやめてあげようと思ってたんだけど。ほらこれ見てよ、指10本分の青アザ。痛いのなんのって」
「目隠しされてて、見えないんですけど」
「んー、ほら。全部、
普通に、左頬をグーで殴られた。
その気になれば化勁できなくもないけれど、相手を余計に怒らせる意味が無い。
左の鼻から、鼻血が垂れてきたのがわかった。
頭の中が、ガンガン痛む。
「すぐ終わるよ。何があったのか、全部話してくれるだけでいい。それでみんなが満足する」
「あはっ」
いけない。なんだか、愉しくなってきちゃった。
こういう時は、あれだ。
あの台詞を言わなきゃ、ダメだよね。
「死ねよ、ホークス」
無言で右頬も殴られて、私の意識は飛びかけた。
「勝てや! オールマイトォ!」は本来現地で見ながらの発言ですが、この世界では現地にいないので中継で見ています。