塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.55 「始まりの終わり、終わりの始まり」

 

【フェイト】《fate》

 運命、宿命、命運。

 縁、末路、因果。

 

 

 * * *

 

 

「死ねよ、ホークス」

 

 そう言った私は右頬も殴られて、意識が飛びかけた。

 顔に唾でも吐いてやろうかと思っていると、ホークスがため息をついた音が聞こえてくる。

 彼は私の耳に顔を近づけて、小声で囁いてきた。

 

「その物言いは、駄目だ。見学者がいるから、俺を挑発したら殴るしかなくなる」

 

 そう言いながら、懐から何かを取り出して……布?

 ハンカチだと思う。

 彼は取り出したハンカチで、私の顔と、鼻血を丁寧に拭き取ってきた。

 

「俺は君の味方のつもりだよ。上は君を危険人物だと見做(みな)しているようだけどね。最初に殴ったのは、君を大人しくさせる必要があったから。二回目に殴ったのは……()()()()()、かな」

 

 『良い警官・悪い警官』という尋問のテクニックがある。

 悪い警官役が罵詈雑言を浴びせ、時に暴力を振るい、相手をナーバスにさせる。

 良い警官役が優しく対応し、相手の側に立つような言葉をかけていく。

 やがて取り調べ相手は良い警官役に心を開き、真実を話すという段取り。

 

 良い警官と悪い警官、一人二役で尋問を実行しているのだと私は推測した。

 でも、聞き捨てならない単語が彼の台詞に含まれていたので、首を傾げた。

 

「前任者……?」

「本来なら、君は四年前に暗殺されていた。君の著書、『聖なるゴミ』に懸念を示した当時の公安委員長が、君をこっそり消そうとしたんだ。俺の前任者が、君を()()()()にすることに抵抗して、当時の公安委員長を殺してしまったから何もかも有耶無耶になったんだけどね。もちろんニュースにはなっていないし、表にこの話は出ていない。その頃の俺は、当時の下半期ビルボードチャートのトップ10入りを命じられていたから、自分が使えるコマだと示す為に必死で君のことには関われなかった。だから、その意味では……君の命を守るためにタルタロス送りになった前任者の想いを無駄にしないで欲しいっていう、そういう願いをこめたグーパン、かな」

 

 話を聞きながら、マズイ展開になってきたと私は考えた。

 

 わざと内情を話すことで同情心を芽生えさせ、情報を引き出しやすくしようとしている。

 でもニュースになっていない内情を話した時点で、私は死んでも構わないということ。

 レディ・ナガンが私の為にタルタロス送りになったのは初耳で、そこだけは驚いたけど。

 

 原作と違い、ヒーローではない一般市民の女子小学生を殺せと言われたレディ・ナガン。

 彼女の性格的に、命じられた瞬間に無言で公安委員長を射殺したかもしれない。

 

 だとすると私の罪状は……超人社会のシステムが砂上の楼閣(ろうかく)だと暴露(ばくろ)した罪、かな?

 司法試験には、そんな罪状は出てきませんでした。

 ちゃんと憲法・民法・刑法のどれかに書いておいてください。ぷんすか。

 

「流石に動揺した? 神野(かみの)で何が起きたのかを話してくれるだけでいい。悪いようにはしない」

 

 エコーロケーションを併用した空間聴勁(ちょうけい)

 ホークスの羽根が、細かく震えているのがわかる。

 

 ……私の心音や呼吸音を探っている?

 個性を活用した嘘発見器、ってところか。

 

「えーと。話が長くなりそうなら、先に同居人に電話連絡させてもらいたいんですけど」

 

 私が尋ねると、ホークスは壁のある方向に対して振り向いた。

 音の反響から、その方向にある壁の一部の材質が違うとわかる……ガラス?

 誰かが見ている。部屋に二人きりというだけで、この尋問は見張られている。

 

 ホークスは頷いて、私の左手親指を掴んだ。

 そして、親指を堅い何か……恐らくは、私のケータイに押しつける。

 強引な指紋認証で、私のケータイのセキュリティが突破された。

 

「いいよ。誰にかければいい?」

麗日(うららか)お茶子」

「スピーカーをONにしてある。変な事は言わないでね、お願いだから」

 

 私は、呼吸を整える。

 できるだけ平静を(よそお)わなければならない。 

 電話が繫がり、お茶子ちゃんが出る。

 

「……(そら)ちゃん!? 今どこおるん?」

 

 慌てた声のお茶子ちゃんが、開口一番に心配してくれてるのがわかる。

 

「うらちゃん? あのね、取り調べとかで遅くなるから、冷蔵庫の中のもので適当に食べちゃって。パパにもよろしく」

(そら)ちゃん? ……(そら)ちゃ」

 

 通話途中なのに、さっくり切られた。

 ホークスの苦笑が聞こえる。

 

「これ以上は、ちょっとね」

「今が何時なのかもわからないんですけど」

 

 わかりやすく、頬を膨らませてみせる。

 わざとらしいアクションをすることで、素直に取り調べに応じていると見せかけたい試み。

 

「……話を続けるよ。要は、四歳当時の君の因子検査結果と、最新の因子検査の結果比較がおかしいってこと。明らかに、個性がないとおかしい数値だからね。上は、AFOから君に何かしらの個性が譲渡されて、何かをしろと命じられているのではないかと不安に思ってる。これ以上、君に手荒な真似はしたくない。何度でも言う。神野で何が起きたのかを話してくれるだけでいい」

 

 そう言って、ホークスは私の向かいに座った。

 沢山の羽根が背もたれに押しのけられる音が、妙にうるさかった。 

 

 

 * * *

 

 

 麗日(うららか)お茶子は、真顔になっていた。

 そもそも初手の『うらちゃん』の時点でおかしい。

 

 取り調べとかで遅くなる、これはわかる。

 でも『冷蔵庫の中のもの』、これが一番おかしい。

 

 林間合宿で数日空けるのは事前にわかっていたので、冷蔵庫の中身は調整してある。

 肉や野菜を含め、いわゆる食材はほぼ空っぽ。 

 大半が調味料などの、保存ができるものばかりだ。

 

 塚内空のお父さんこと、塚内警部への直接の連絡先はわからない。

 でも塚内警部の妹であり、担任の先生の妻である真さんの連絡先ならわかる。

 

 急いで彼女に連絡を入れ、事情を説明する。

 

「わかったわ、お茶子ちゃん。多分一刻の猶予もない」

 

 そう言って、相澤真は即決でグループ通話に塚内警部を追加してくれた。

 

「なんだい真、今は取り込み中で忙しいんだが……」

「兄さん聞いて。空ちゃんが兄さんを呼ぶ時は、パパじゃなくてお父さんよね?」

「ん? パパ呼びでも全然構わないんだが、お父さん呼びだな」

 

 そこへ、お茶子が割り込んだ。

 

「あっ、あの! 私、麗日(うららか)お茶子です! さっき空ちゃんから電話連絡があったんですけど、ちょっと内容がおかしかったんよ!」

「……久しぶりだね、麗日(うららか)さん。鳴羽田(なるはた)時代に何度か遊びに来てくれたね、よく覚えているよ。何があったのか、私に聞かせて貰えるかい?」

「ええと、確かこうでした。『うらちゃん? あのね、取り調べとかで遅くなるから、冷蔵庫の中のもので適当に食べちゃって。パパにもよろしく』、です。でもいつも空ちゃんは、私のことをお茶子ちゃんって呼んでて!」

「冷蔵庫の中にある食材は、何があるんだい? 麗日(うららか)さん、あるものを全て教えて欲しい」

「全ても何も、林間合宿の関係で食材は全部使い切るように調整していたんです。だから食材といっても、ハムぐらいしか無くて……」

「ハム。食材と言えるのは、ハムだけなんだね?」

「はい、そうです」

 

 それを聞いて、塚内警部が沈黙した。

 相澤真が、焦り声で尋ねる。

 

「何かわかったの、兄さん!?」

「ハムは、警察の隠語で公安を意味する。冷蔵庫は、恐らく監禁状態のことだと思う。つまり空は、ヒーロー公安委員会に監禁され、取り調べを受けている可能性が高い」

「……こっ、公安!?」

 

 (ヴィラン)受け取り係と普段は揶揄されている警察だが、立場上は公安の上部組織である。

 現場指揮官である塚内警部の耳に何も届いていない以上、それは公安の勝手な暴走を意味する。

 

「時間が惜しい。彼に協力要請をするしかない、か……」

「彼?」

 

 怪訝そうな妹の声に、兄は真面目に返した。

 

「ザ・スカイクロウラー事務所。あそこは捜し物でも、日本一だったはずだ。一口に公安と言っても、場所が複数ある。霞ヶ関なら、まだやりやすいが……」

 

 霞ヶ関の、何がやりやすいのかは不明である。

 なお塚内警部のSPAS-15の残弾はフルに残っている。

 

「とりあえず()は、神野(かみの)から一番近い神奈川県の公安委員会に向かう。真はザ・スカイクロウラー事務所と、お前の旦那を通じて雄英にも連絡を頼む」

「わかったわ、兄さん!」

「三茶、赤上げ(サイレン鳴らせ)。神奈川の公安施設へ緊走! 本部へ連絡、マルガイをハムが持っていったとタレコミあり。県警じゃ止められん、警察庁(サッチョウ)まで話を通せ!」

 

 塚内警部の叫び声と共に、通話が切れた。

 警部の一人称が私ではなく俺になっているぐらいには、焦りを隠せていない。

 

「空ちゃん……っ!」

 

 麗日(うららか)お茶子は、祈ることしか出来なかった。

 

 

 * * *

 

 

 多分、この状況が私にとって本当の林間合宿、個性鍛錬だと思う。

 何故なら個性『否定』ちゃんが、私の頭の中で超嬉しそうに荼毘ダンスを踊っている。

 

 謝罪会見からずっと私が否定されっぱなしなので、彼女にとっては大きな成長のチャンス。

 

 ソラダンスは、元が階段での踊りだった。

 なので実は一箇所だけ、荼毘ダンスから省略した箇所がある。

 具体的に言うと「お前の人形の焦凍(しょうと)が大成した頃に殺そうと思ってた」のあたり。

 

 両脚を広げて中腰になり、前屈みになって、ガクリと気落ちした姿勢になる。

 階段以前に、ダンスとしては間抜けなポーズだったので、さっくり削ったんだけど。

 

 ポケモンのオカルトマニア、あるいは長髪もこもこワカメ系の女の子。

 またの名を個性『否定』ちゃんが、その姿勢と次の姿勢を繰り返している。

 次の姿勢といっても、顔を少し(うつむ)かせたままで立ち上がるだけ。

 

 つまり『脚を広げて中腰前屈みで気落ち姿勢』からの『顔だけ俯き立ち姿勢』。

 これを彼女は、GIF動画のように繰り返している。

 

 ――心音も呼吸音も、その椅子に対しても、嘘をついてないように偽装できるよ。

 

 屈伸運動をしながら、そんな事をニチャリとした笑顔で伝えてくる。

 なのでこの緊迫した状況下において、私は思わず噴くように笑ってしまった。

 

 目隠しされているから見えないけれど、ホークスがきょとんとしているのがわかる。

 

「……大丈夫? やりすぎちゃった?」

 

 私の頭がおかしくなったのかと、心配されてしまった。

 

「いえ、ごめんなさい。ちょっとした思い出し笑いです。ええと、真実を話すのは良いんですが、例えば私の叔母のような、嘘をついているかどうかわかる個性持ちの人とかいないんですか? 正直に全部話したのに嘘だと思われるのも業腹なので、そういう個性持ちの人がいるのなら呼んでください。二度手間は避けたいです」

「あー、その椅子は嘘発見器的な機能も兼ねているから……(ガラスの方を見る)、うん、大丈夫だって言ってる」

「なんでしたら、自白剤とか使います?」

「自白剤って意識レベルを下げるだけだから、確実じゃないんだよね……」

「はぁ。尋問担当も大変なんですね」

 

 雑談をしながら、考えをまとめていく。

 因子検査の結果的に、公安は『私がAFOから個性を受け取ったことにしたい』んだと思う。

 場合によっては殺すし、状況によってはそのまま泳がせる。

 

 ただ、一度は私を殺そうとしたヒーロー公安委員会だ。

 迂闊に逃げようとするよりは、むしろ懐に飛び込んだ方が良い気がする。

 この手の人達には、『いつでも殺せるどうでもいい格下』と私のことを思わせておきたい。

 

 だとするなら……ゲスい三下(さんした)路線でいったほうがいいかな?

 

「確かに、おーるふぉーわん? から個性を貰いました。(ヴィラン)連合入りの打診もされました」

「……それで?」

 

 ふふっ、と私は笑ってみせる。

 

「それだけです。ありがたいことに皆の救援が早すぎて、交渉の途中で終わっちゃいました。だから、貰った個性はお試し版というか。おーるふぉーわん、でしたか? 『まずは個性譲渡が真実かどうか見せてあげよう』と言われて、個性『エコーロケーション』を貰いました。反響定位、コウモリやイルカが持っていると言われているアレです。だから今の私は、音で周囲の障害物を見ることができるので……目の前にいるのがホークスさんなんだな、っていうのが目隠しされていてもわかります。どうやって証明すればいいですか?」

 

 ホークスはガラスのある方向を見てから頷き、私の方を見直した。

 

「いや、信じるよ。それで、何を言われたんだい? (ヴィラン)連合入りの打診だけ?」

「ええと、雄英の内部情報や、ヒーロー達の弱点など有力情報の漏洩。要は内通者として彼らに協力するか、(ヴィラン)連合入りなどで大きく彼らに貢献すれば、誰にでも勝てるぐらい強い個性をあげると言われました。でもお試し版の個性を貰っただけで返事はしていないので、現状は貰い得っていうか……月の無い夜に便利かなー、程度ですね」

「なるほど、それで最新の因子検査の結果がおかしなことになっているのか……」

 

 ホークスが、顎に手をあてて何かを考え込んでいるのが見えなくてもわかります。

 自力性能なんですけど。

 

「あの、著書の関係でやっぱり殺すね、と言われても困るので、ご提案があるんですが……」

「提案?」

「はい。向こうはもう一度私に接触してくるはずです。(ヴィラン)連合入りを断るのは簡単ですが、(個性『否定』をOFF)どうせならみんなの為に貢献できないかなって(個性『否定』をON)」

 

 すると、わかりやすくホークスはニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

「隠さなくていいよ、正直になろう。どうしたいの?」

「えっと、あの……その……ヒーロー免許の本免が欲しくて……っと、これは大きく出すぎですよね! 仮免だけで構いません、あるいは仮免試験を受けた時に必ず合格できるという保証をいただけるのなら、公安のために何でもします!」

「駄目だよぉ、女の子が何でもするとか言っちゃ」

 

 ホークスが苦笑している。

 

「で、でも、死にたくないので……抵抗とか、もうしませんから」

 

 えへ、えへへ、と卑屈に笑う。

 

 すると、ドアが開く音がして、誰かが入室してきた。

 歩き方、体重、音の反響から推測できる体格。

 ……目良(めら)善見(よくみる)、かな。

 

「では、塚内空さん。アレです。(ヴィラン)連合に取り入ってください。闇組織を根絶する為に多くの情報をアレしなければなりません。特にあの改造人間、オール・フォー・ワンの力だけでアレできるのかは重要です。連合に関する全てを丸裸にしてください。そうすれば、貴方のヒーロー免許に関しては、アレしておきます」

 

 そう言いながら、目良(めら)善見(よくみる)は目隠しを外してくれた。

 合わせて、手枷足枷的なものも解除してくれる。

 

「わかりました、ありがとうございます……へへ、やったぁ……」

「取り入る間、(ヴィラン)連合が出す被害には目を瞑ってください。当然ですが、貴女が犯罪をした証拠が出るとアレしないといけないのでお忘れ無く」

「はい、わかりました」

 

 ようやく解放された私は、手や脚をぷらぷらさせて血流が少しでも良くなるよう努力した。

 

「えーと、じゃあ俺の後輩ってことか。どう呼べばいい?」

「後輩で構いません」

「じゃぁ……後輩ちゃんで」

 

 貴方に私の名前を呼ばれたくないので、それでいいです。

 

「対外的には、無個性を装う感じでいいですか? 使い処のわからない個性ですし」

「ええ、構いません。よくわからないアレな個性ですし」

 

 そんな会話を彼らと交わした、まさにそんな時。

 爆音と衝撃波が、霞ヶ関のヒーロー公安委員会ビルを直撃した。

 

 

 * * *

 

 

 起きた出来事を書き連ねていくと、以下のようになる。

 

 

 ぐるりと回ったコンパス・キッドが、ヒーロー公安委員会ビルの一角を指さした。

 

 ザ・スカイクロウラーが、目標地点へと一直線に、ビルの壁を何枚も破壊しながら突入した。

 

 飛行音だけで、塚内空は誰が近づいてきたのかを刹那で把握した。

 

 ホークスの風切羽が一瞬で刀型に変形し、不意の侵入者に向けて突きとなって放たれた。

 

 二人の間に割り込んだ塚内空の右手が、ホークスの刀を受け止めた。

 

 彼女の右手を勢いよく刀が貫通し、根元たる刀の(つか)を握るホークスの右手へと接した。

 

 塚内空の右手の指が全力の抓力(そうりょく)を発揮し、ホークスの親指と人差し指と中指、右手甲(中指中手骨)を全てへし折った。(※ホークスの刀には鍔が無い)

 

 塚内空の右手から吹き出た血が、ザ・スカイクロウラーの頬に何滴か撥ねた。

 

 

 * * *

 

 

「……師匠ッ!」

 

 ザ・スカイクロウラーが叫び、ホークスに向けて拳を握りしめた。

 彼の拳頭が、4つの光を放ち始める。

 ザ・スカイクロウラー、KNUCKLE(ナックル) STYLE(スタイル)

 

 しかし、塚内空は諦め顔で制止する。

 

「駄目、航一(こういち)さん。ヒーロー免許を、剥奪されてしまう」

「このっ、馬鹿力が……ッ!」

 

 右手を破壊されたホークスが、悪態をついた。

 凄まじい跳躍力で併走してきたサー・ナイトアイが、入室するなり印鑑を構えながら言う。

 

「そもそもが違法な取り調べだろう。公務執行妨害と言い張ってみるか?」

「双方そこまで。何か、不幸なすれ違いがあったようですね」

 

 公安委員会会長が、姿を現した。

 

「彼女の嫌疑は晴れ、協力関係を得ることも出来ました。それだけの話です。……彼女の為に、救急車を呼びましょう。ビルの破壊に関しては、保険適用できるよう特別手配をします」

「いえ、いいえ、公安委員会会長殿。救急車は不要です……彼に、ザ・スカイクロウラーに送ってもらいます」

 

 一刻も早くここから離れたい、そう彼女の顔に書いてある。

 公安委員会会長は、ヒーロー免許に腰を振る売女だと塚内空を見ているので、ため息をついてからイヤそうな顔で返事をした。

 

「わかりました。誤解は解けたということで、よろしいですか」

「はい」

 

 ガツンッ!

 

 ホークスのバイザーと、ザ・スカイクロウラーのバイザーが激しくぶつかり合う音がした。

 どちらも笑っているのは口だけで、目は笑っていない。

 

 以前、灰廻(はいまわり)航一(こういち)は172cmだと説明したが、実はホークスも同じ172cm。

 身長が同じなので、目線も等しい。

 

「なんスか? スカイなんとかさん。ビルボードチャート11位以下の人はよく覚えてなくて」

「オールマイトに憧れ続けるだけで済んでいた、夢の終わりの日が来たっていうのは俺でもわかるよ。俺は昔から空気が読めないから、一年以内にビルボードチャートの一位を獲りに行く。そうすれば、俺のこと忘れないで済むでしょ、ホークスさん」

 

 オールマイト好き好き度は、緑谷出久も灰廻航一も変わりない。

 だからこそ、マイトタワーのオールマイト事務所まで受け継いだ自分が何をしなければいけないのか、神野事件の結末を知った灰廻航一はさらなる覚醒を迎えつつあった。

 

 

 結果だけを述べるなら、ヒーロー公安委員会のやらかしは無かったことになった。

 ヒーロー公安委員会への報復を、塚内空が押しとどめたから、というのもある。

 

 原作でホークスが自由になったのは31巻、公安委員長が死んで公安が機能停止してから。

 彼が原点のエンデヴァーに会いに行き、OFAのことを知り、オールマイトから全てを聞き、デクの戦いを見て、そこではじめて世界を放り投げるには時期尚早だったと希望を見る。

 言い換えれば、公安が機能停止しなければ、ホークスは公安の思考と生き様のままだ。

 

 ヒーロー免許を餌に、塚内空を意のままにできると公安は考えてしまった。

 彼女が意図したゲスい三下(さんした)路線は、相手がゲスい三下(さんした)だからこそ、ハマってしまった。

 

 ヒーロー公安委員会の暴走は、致命的なまでに『やってはいけないこと』だった。

 やってはいけないことをやってしまったのだから、因果はいずれ必ず巡ってくる。

 

 神野事件において平和の象徴が消え失せ、ヒーローも国民もヴィランも改革を迫られた。

 灰廻航一ですら覚醒を迫られたぐらいには、あらゆるものが変わろうとしていた。

 

 

 * * *

 

 

 死柄木(しがらき)(とむら)は、憎悪と悔恨を胸に、前を睨みつけた。

 諸葛亮は元気にしているだろうかと、再会を願った。

 

 緑谷(みどりや)出久(いずく)は、出し切ってしまったオールマイトを胸に、前を見据えた。

 塚内さんは救助後に入院したらしいので、お見舞いに行こうと考えた。

 

 灰廻(はいまわり)航一(こういち)は、オールマイトへの憧れを胸にしまいこみ、前に進むと決意した。

 師匠が悩み事を抱えているのはわかるが、話してくれるのを待つしかないと歯がみした。

 

 

 * * *

 

 

 ついでに言うと、麗日(うららか)お茶子は病室の塚内空を見た瞬間にダイビングハグをした。

 

 八百万(やおよろず)(もも)は、いまだに人工呼吸のことが忘れられず、唇に指先で触れる癖がついてしまった。

 

 塚内直正警部は「もう(公安を)殺すしかなくなっちゃったよ」の顔をしていた。

 SPAS-15、もとい『れみんとんM870』は何故か返却されていない。

 NPO法人の黒岩さん(ナックルダスター)は「S&W M500(※大型リボルバー拳銃)と350grジャケッテッド・ホローポイント弾(※ヤバイ専用弾)を落としてしまったら、是非塚内警部に拾って欲しい」と笑顔で発言し、塚内警部は「返却時に『にゅーなんぶM60』と落書きがされているかもしれないが許して欲しい」と固い握手を交わした。

 

 

 * * *

 

 

 (ヴィラン)連合に拉致られ、救出され、入院した塚内空のところには、多くの見舞客が訪れた。

 このあたりは、No.6戦後と大体同じだ。

 悲しげに右手の傷跡を見つめる塚内空の姿は、見舞客の心に大ダメージを与えたという。

 

 もっとも、塚内空の悲しげな顔に関して、当人と見舞客ではだいぶすれ違いが発生していた。

 見舞客は、(ヴィラン)連合に右手を刀で貫かれる拷問を受けた塚内空の心中を思い。

 塚内空は、直線の刀傷のはずが、治療後の傷跡が丸くなった事にガチへこみしていた。

 

 これじゃアホ(AFO)お爺さま(グランパ)の特徴と完全一致じゃないですか、やだー!(AFOは手の平側だけなので、正確には完全一致ではない)

 死ねよホークス!

 

 余談だが、見舞いに来てくれた緑谷出久からオールマイトの根付(ねつけ)を貰ってしまった。

 これはクリスマスでお茶子ちゃんが貰う奴では、と塚内空の脳内が大混乱した。

 

 

 * * *

 

 

 そして、正式にオールマイトの活動引退が発表され。

 ベストジーニストの長期活動休止が発表され。

 ラグドールの活動見合わせも発表され。

 

 神野の悪夢の余波を受け、家庭訪問が終わり、そして。

 

 ――校舎から徒歩五分のハイツアライアンス(築:麗日建設)での新生活が、はじまる。

 

 




前話は沢山の感想をありがとうございました。
案の定、低評価も増えてしまいましたが、二次創作で自分を曲げて書いても意味が無いので、キチンと完結させることで読者の皆さんに報いたいと考えています。

信じて頂けるのかどうかはわかりませんが、自分はハピエン厨だと申し添えておきます。
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