【ユースフル・イディオット】《useful idiot》
(政治用語としての)役に立つ馬鹿。
自らが利用されていることに気づかず、他者の利益のために奔走する者。
* * *
ヒーロー仮免許取得試験、当日。
試験会場、国立
バスから降りた雄英高校1-A一同は、その多くが緊張と不安で一杯になっていた。
「緊張してきたァ」
「
「試験って何やるんだろう……ハー、仮免取れっかなァ」
「峰田。取れるかじゃない、取ってこい」
「おっもっ、モチロンだぜ!」
わざわざ前屈みになり、峰田と目線を合わせて相澤先生がそう言った。
発言だけでなくちゃんと目線を合わせた事もあり、1-A生徒の全員に気合いが入った。
「っしゃあ!」
「いつもの一発決めて行こーぜ!」
「せーのっ」
「
このタイミングで、塚内空が自分の耳を塞いだ。
「「
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
通りすがりの
「東の雄英、西の士傑……」
「一度言ってみたかったッス、プルスウルトラ! 自分雄英高校大好きッス! 雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みッス、よろしくお願いします!」
嵐のようにやってきて、嵐のように去って行く
相澤先生が、補足説明のように皆へ説明する。
「昨年度、つまりお前等の年の推薦入試。トップの成績で合格したにも拘わらず、なぜか入学を辞退した男だ」
「えっ、じゃぁ一年!? ていうか推薦トップの成績って……」
驚きながら、緑谷が
轟は、興味無さそうに周囲を見ていた。
「雄英大好きとか言ってたわりに、入学は蹴るってよくわかんねぇな」
「イレイザー!? イレイザーじゃないか! 直で会うのは久しぶりだな!」
頭にスカーフを巻き、袖無しのタンクトップとショートパンツを着こなした女性が現れた。
その衣服ゆえに胸や生足が強調され、微妙にエロい。
傑物学園二年二組担当、
「不倫しようぜ!」
「しない」
イレイザーヘッドへの初手の挨拶が、これであった。
流石の
「しないのかよ! ウケる!」
「相変わらず絡みづらいな、ジョーク」
げんなりと返事をする相澤消太(ブリティッシュスタイルのオーダースーツモード)。
だが、女子生徒達は感覚でわかってしまう。
……
「私と不倫したら、子供の絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ!」
「……先週、妻が二人目を妊娠したと判明したんだが」
「ブハ!」
「この際相思相愛じゃなくていい、一人でこっそり育てる、半年に一度の面会を……!」
「一夜の
わりと洒落になってない会話の応酬に、雄英の生徒達の顔が引き攣る。
「おっ、本物の雄英じゃないか!」
「すごいよすごいよ、TVで見た人ばっかり!」
傑物学園二年二組の面々も集まってきた。
その中でも、ファンタジーRPGの主人公のような爽やかイケメンが雄英陣に話しかける。
「俺は
男女問わずで握手をしながら、真堂は挨拶をしていく。
そして、塚内空の手を握りながらこう言った。
「神野事件を中心で経験した塚内さん、今日は胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ!」
「……あー、それなんですけど……」
申し訳なさそうに、塚内空が語る。
「無個性の私は、試験が別にあるようでして。残念ながら、皆さんと戦えそうにありません」
「えっ、そうなの?」
真堂のみならず、その場にいた全員が驚く。
だが皆の疑問は、教師の一喝で吹き飛んでしまった。
「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ、時間を無駄にするな」
「「はい!」」
塚内空の試験が別だということは相澤も聞いていたが、詳細は公安から通達されなかった。
一抹の嫌な予感が脳裏をよぎるも、現状では何も出来ない。
「何かあったら言えよ、塚内。一応、お前は姪でもあるのだから」
「……はい」
寂しそうな微笑みで返す姪に、相澤はそれ以上何も出来なかった。
* * *
「えー、ではアレ、仮免のヤツを、やります。あー……僕、ヒーロー公安委員会の
大勢のヒーローの卵達が文字通り寿司詰め状態となっている会場の一室。
壇上の
「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン自殺以降、ヒーローの
ヒーローとは見返りを求めてはならない。
自己犠牲の果てに得る称号でなければならない。
「まぁ、一個人としては……彼にそう思わせてしまった書籍の存在も罪深いとは思うワケですが」
ここで一旦、目良は舞台脇に視線をやった。
目良にしかわからないが、そこにはスーツ姿の塚内空が隠れるように控えている。
「とにかく……自分を活かして頑張ってください」
彼がそう言った途端に、部屋だと皆が思っていた、その壁が倒れていく。
実は室内ではなく、国立
ムダに大掛かりなギミックで全ての壁が倒れると、そこには青空の下、USJのようにビルや山、森、工業地帯など、様々な地形が用意された空間となっていた。
* * *
いま、仮免試験用のボールが1540人に六個ずつ配られている。
部屋の入室時に配れば良いものを、説明後に配りはじめたから時間がかかって当然だ。
『全員にボールが行き渡ってから一分後にスタート』という名目にはなっているが、暫く時間が空くことに変わりは無い。
競技場内にある、会議室。
試験前の空白の時間に、塚内空は公安から聴取を受けていた。
テーブルを挟み椅子に座り、一対一で目良善見と相対している。
「……ふむ。
「このまま行けば、まず間違いなくそうなると思います。ですがヴィランのボスがタルタロス送りになった以上、どちらもヴィランとしてトップに立ちたがっているので、正直仲は悪いというか……破裂しそうな風船の関係といったところです」
目良善見への、直接の事情説明。
なお
いずれ出会うというか、少なくとも彼らが出会うことは『事実となる』ので問題は無い。
塚内空は、にこりと笑みを浮かべて解説していく。
「ですから、両者の間にあえて不和を仕込みます。適当に仲違いさせて、関係がギスギスしたところで一気に
「貴女は
「そういうことになります。私に対する事情聴取の件で、公安と警察がちょっとした行き違いとなってしまったのも打ち消しになるのでは? ザ・スカイクロウラー事務所だけだと手が足りない恐れもあるので、必要最小限のチームアップぐらいはするかもしれませんが、何にせよ三方ヨシではなく四方ヨシとなる見込みです」
えへ、えへへ、と塚内空が目良善見の機嫌をとるように笑う。
公安委員長曰く『塚内空はヒーロー免許に腰を振る売女』だそうだが、ただでさえ公安は人手不足なのだから、手駒として何も問題は無いと目良善見は考える。
「貴女のケータイに盗聴器がアレされていて、
「ありません。ケータイの使い分けをしたりせず、私物のケータイを平然と使い続けるからこそ、信用が増すと考えます……これは公安の皆さんに対しても、同じ事が言えます。作戦の一部としてならともかく、この手の
これは、私のケータイに変な真似すんじゃねぇぞという遠回しな脅しが含まれている。
たかが女子高生の必死な虚勢に、目良善見は内心で苦笑した。
そもそもホークスの羽根を駆使すれば、盗聴の類はどうとでもできる。
「公安の手は、貴女の首にかかっています。その気になればいつでもアレできます」
「信用してくださいって言ったばかりじゃないですかぁ……あはっ、ヤダなぁ」
「信用していますとも。このまま順調にアレしてくれれば、本免もアレできます」
原作には仮免の情報しかなく、本免の情報が何もないが、そこはふんわりと処理をする。
No.6がヒーロー免許を取得できていたので、公安の本人審査はガバガバだ。
ヒーロー公安委員会は、オクロック
目良善見は、公安のガバガバさに気づかないまま、テーブルの上に一枚のカードをのせた。
そのまま、滑らせるように塚内空の方にカードを押し出す。
「ご希望のアレです。どうぞ」
そのカードには『ヒーロー活動許可仮免許証』と書かれ、塚内空の名前や顔写真、ヒーローネーム・リーチなどの情報も書かれていた。
一次と二次をすっとばし、仮免取得RTAに成功した塚内空は、自嘲の笑みを浮かべてからカードを懐にしまいこんだ。
「ありがとうございます」
そう言いながら立ち上がり、会議室を去っていこうとした塚内空だったが。
突然彼女は振り向いて、両手を胸に当て、目良善見に向けてこう告げた。
「今後とも、よろしく」
過去は消えないポーズで、塚内空は微笑んだ。
* * *
一方その頃、観客席。
「イレイザー、チャック開いてる」
「開いてねぇよ。開けようとすんじゃねぇ」
強めのアイアンクローをされ、
「うぎぎ……照れんなよダッセェなァ! 浮気しよう!」
「黙れ」
時間が経てば経つ程に、自分が本気で彼に恋していたと自覚してしまった。
しかしもう、どうにもならない。
会う度に結婚しようと告白していたのに、何が駄目だったのか。
事務所も近所で、フラグはバッチリ。二人の結末は、結婚しかなかったはず。
なお生徒達の方角を見つめただけであって、生徒達を見てはいなかった。
なんかもう、色々とダメダメだった。
* * *
塚内空は、先生達と話す気になれず、目立たない場所から試験を見学していた。
そろそろ
目的は
そこだけは、履き違えてはならない。
彼のことを思い出すのに、時間もかかってしまった。
エンデヴァーを否定することに必死になりすぎて周囲が見えていなかった自分を反省し、過去も血も忘れたままではいられないと前を向き直した。
「えー、ただ今をもちまして。これにて仮免試験全工程、終了となります」
目良善見のアナウンスが、会場中に響き渡る。
結論から言うと、青山が不在な分は
試験そっちのけで喧嘩していた
「そして……えー。不合格となってしまった方々。しょげてる暇はありません」
目良善見は、視界の端、観客席に一人座っている塚内空を見て、内心で苦笑しながら説明する。
「君たちにもまだチャンスは残っています。三ヶ月の特別講習を受講の
平和の象徴が不在となった今、ヒーロー免許の価値もまた変化した。
より質の高いヒーローが、なるべく多く欲しい。
その為、仮免発行の
試験に落ちても特別講習と追加試験で合格できるのだから、大盤振る舞いと言える。
塚内空が今回入手した仮免は、とどのつまりその程度の価値でしかない。
ヒーロー免許に腰を振る売女、塚内空。
AFOの関係者というネタをチラつかせるだけで、彼女は扱いやすい手駒となる。
『頭がいい』のと『賢い』のは別なのだと、ヒーロー公安委員会は含み笑いを浮かべていた。
無個性だった自分が、本当のヒーローに手が届くところまで、後もう少し。
ヒーロー公安委員会の思惑など関係無く、彼は純粋に嬉しかった。
「デクくん、泣いとらん?」
「いやァなんかね、こうね……色んな人に助けられてきて、色んな人に迷惑かけてきたから……だから、なんて言うんだろ。成長してるな! って
「うん、そだね」
嬉しそうなデクの姿に、お茶子もニカリと微笑んだ。
* * *
さて、肝心の
ヒーローが弱体化したとみなされ、各所で犯罪発生率があがっていた。
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
コンビニ強盗が、カウンターごとレジを抱えて持ち逃げしようとしていた。
そこを組員達と共に襲撃して、あがりを
燃えさかる車の中で、炎に苦しむコンビニ強盗達を見ながら、治崎廻は呟く。
「
小さなコンビニのレジを盗んだ強盗のあがりを掠め取った男は、続けて言った。
「変だと思う……普通これだけ集まればもう少し、大きな目的を持つと思う……」
一般的な感性を持つ者が聞けば、首を傾げる台詞を真顔で呟いている。
「病気だよおまえら、病気は治さなきゃあ……」
彼は毎日のように六歳の幼女を切り刻み、何度も殺しては蘇生させている。
「病人ばっかりだ、どいつもこいつも」
塚内空に『原作のように生かしておく理由がない』と思われている男は、ドヤ顔でキメた。
* * *
タルタロスのAFOと面会し、オールマイトは疲れていた。
塚内警部が車で送り届けをしてくれているので、甘えて助手席に座っている。
「どうだった?」
「情報の
「まァ簡単にはいかないさ、長丁場になりそうだ」
そんな会話をしていた時、二人のケータイが同時に鳴った。
「ちょっと失礼」
オールマイトがそう言いながらケータイを見ると、緑谷少年と塚内少女から、似たような構図で『ヒーロー活動許可仮免許証』を撮影した写真が送られてきていた。
緑谷少年の「おかげさまで一歩前進しました!」のメッセージに、胸がほっこりとする。
最大の問題は、運転手であるはずの塚内警部も、娘から同じ内容のメッセージを受け取ってほっこりしていたことだろうか。
運転中の携帯電話使用は、6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金、違反点数3点。事故を起こすとさらに重い罰則が待っているので、仮にも警察がやって良いことではない。
「空……良かったなぁ……本当に良かった……」
「ま、前っ! 前見てよ、塚内くん!」
前見てよの危険度が、原作とは段違いでヤバかった。
* * *
忘れる前にケータイで電話をすると、すぐに相手は出てくれた。
「やっとかよ。久しぶりだな、諸葛亮」
「呂布は最後に縛り首ですよ、いいんですか?」
「なんだ、
貂蝉は、小説『三国志演義』に登場する架空の女性。
実在の人物ではないのに、古代中国四大美人の一人に数えられている。
なお勘違いされやすいが、呂布の妾であって正妻ではない。
三国志に詳しくない人のために説明しておくと、呂布は貂蝉に惚れてしまったがために、支配者・
「その理論だと、
「……痛ッ! 蜂の管理しとけっつっただろノワール!」
「どたばたしてるなぁ……」
そう言って、私は苦笑した。
電話の向こうでも、
「それで? こっちに合流はできそうなのか?」
AFOの逮捕以降、彼らは一気に貧乏になってしまう。
原作よりも人数が減っているから、それもあって寂しいのかもしれない。
「学校が無い時なら大丈夫。手土産の情報っていうか、身の程知らずのネタがあって。弔くんの先生がタルタロス送りになったからって、
「……はぁ? ウチの先生が、誰か知ってて言ってんのか?」
「頭の中身が空っぽの相手だから、日本語は通じても話は通じないと思う。問題は、単純に向こうの人数の方が多い上に、相手のボスの個性が弔くんの上位互換と言える強さだと推測できること。これは残念だけど事実だから、皆にも伝えておいて。頭にきたからって安易に襲いかかっちゃ駄目だって、徹底させて」
私の言葉に、弔君が舌打ちしたのがわかる。
「彼らは組織を急拡大させるために、大金が必要。だから麻薬とか、相手の個性を消すような銃弾を開発して売りさばこうとしてる。ブローカーの
「個性を消す銃弾だぁ? にしても、そんなブローカーと一体どこで繫がったんだよ、我らが軍師様はよォ?」
「……成り行き?」
ヴィジランテに登場していたので、いけるかなって思ったらいけました。
「で、どうすりゃいい? もう考えてあんだろ?」
「ヤクザだけあって忠誠心が高すぎるから、部下の引き抜きは難しい。相性も悪いから、
私がそう伝えると、ひとしきり笑ってから弔君は答えた。
「いいぜ、乗った。奪えるものは全部奪うってのが最高だ」
「じゃあ、そんな段取りで」
そういえば、デク君はインターンでどこに行くんだろう。
そんな事を考えながら、私は電話を切った。
挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)+友人加筆